Linuxカーネル7.3の最初のリリース候補版、Linux 7.3-rc1が2026年8月30日に公開された。2週間のマージ期間には、Btrfsの性能修正、CPUとGPUメモリの配分変更、次世代SoCへの対応、古いコードの撤去が同時に入った。ただし、これは安定版ではない。大量の変更を一つの「高速化」として数えるより、どの利用者に、何を追加すれば、いつ効くのかを分けた方が実像へ近づける。
パッチの3分の1を除くと、規模は平常に戻る
7.3-rc1は、コミット数では歴代でも大きい部類に入る。だが最大ではない。Linux 7.3-rc1のパッチのおよそ3分の1はAMD DCN6のレジスターヘッダーと次世代向けコードが占め、Linus Torvaldsはその部分を除けばマージ期間は通常と大きく変わらなかったと説明した。
レジスターヘッダーは、ハードウェアの多数の制御項目をC言語の定義として並べる。新世代GPUを動かす準備には必要だが、追加行数と利用者が触れる機能の数は一致しない。巨大な変更量という事実は保守負担を示しても、カーネル全体が同じ割合で複雑になったことや、同じ割合で速くなったことを意味しない。
しかも7.3-rc1は、機能取り込みを終えて試験へ移る境目である。ここから不具合を直し、回帰を洗い出す。運用環境でLinux 7.2から更新する判断は、機能一覧の長さではなく、自分の負荷と機器で安定版を検証してからになる。
Btrfsの大幅改善は、効く経路がはっきりしている
Btrfsの変更には、派手な数字と明確な適用条件が並ぶ。従来は、整列条件などを満たせないダイレクトI/OでバッファードI/Oへ戻り、正しさを保つ代わりに性能を落とす場面があった。7.3ではiomapの中継バッファ(bounce buffer)を使い、ページキャッシュへ戻らず処理する。メンテナーの取り込み依頼によれば、対象経路は理論上限の約50%から約95%へ上がった。
ほかにも、利用を抑止したエクステントバッファーの追跡をXArrayからローカルLRUリストへ変えた処理で約3倍、複数のログ処理が動く非SSDモードと、穴のない多数エクステントファイルのfsyncで約5倍というサンプル負荷が報告された。後者のfsyncはマイクロ秒単位の処理である。いずれも、遅かった内部経路を狙い撃ちした結果だ。
実アプリケーションでは結果が割れる。PhoronixがLinux 7.2と8月23日時点の7.3開発版を、Xeon 678X、2TBのPCIe 4.0 SSD、既定マウント設定で比べたところ、金融取引データベースのTigerBeetleではBtrfsが最下位から首位へ上がった。一方、MariaDBでは回帰があり、コピーオンライトを有効にした既定設定の総合性能はEXT4、F2FS、XFSを概して下回った。約5倍という数字は、ファイルシステム選びの万能な結論にはならない。
この差は矛盾ではない。カーネルの変更は特定の待ち時間やロック競合を消すが、アプリケーションは別のI/Oパターン、同期頻度、データ配置を持つ。Btrfs利用者が確認すべきなのは平均の伸び率より、仮想マシン、データベース、複数クライアントなど、自分の負荷が改善経路を実際に通るかどうかである。
スケジューラーとVRAM管理は、資源を誰へ渡すかを変える
CPU側では、cgroup階層をまたぐタスク選択が組み替えられた。従来の階層的な選択は、実行可能なタスクを中間階層が覆い隠し、nice値を変更したタスクの扱いや遅延に問題を起こすことがあった。7.3はタスクを一つの実行待ちキューへ集め、階層の重みを動的に反映する。既定の重み配分方式concurは最も精密で、その分だけ計算コストも高いとメンテナーは説明している。
同じ取り込みには、短い時間幅で動くタスクの遅延を減らす変更や、性能の異なるCPUコアを持つシステムで負荷分散を直す変更も含まれる。古いPCでのゲーム性能や新しいハイブリッドCPUへの効果が期待される理由はここにある。ただし、ゲーム全般のフレームレートを保証する変更ではない。cgroupを使う環境や、短時間タスク、非対称なコア構成で生じていた選択ミスを減らす変更である。
GPUメモリでも、配分の優先順位が変わる。7.3へ入ったデバイスメモリ用cgroupは、前面のゲームが使うVRAMを保護し、必要なら背景アプリのデータを先にシステムメモリへ移すためのカーネル機構を提供する。低容量VRAMのディスクリートGPUでは、無差別な追い出しが引き起こす停止やフレーム時間の乱れを抑えられる可能性がある。
ただし、カーネルはどのアプリが前面にあるかを自動では決めない。現段階ではdmemcg-boosterがcgroup階層で機能を有効にし、KDEの支援機能か新しいGamescopeが保護対象を指定する。systemdの正式なインターフェースも未整備だ。Linux 7.3への更新だけで低VRAM対策が完成するわけではなく、ディストリビューションとデスクトップ側の実装が要る。
「入った」という言葉には4つの導入状態がある
Linux 7.3に「入った」変更は、特定条件ですぐ効く性能修正、利用者空間の支援が必要なカーネル機構、起動の足場となる初期ハード対応、削除または非推奨化という4つの導入状態に分かれる。この分類は相互排他的な仕様区分ではない。複数の状態にまたがる変更は、導入時に最初に確認すべき条件へ置いた。機能名を横並びにすると、この違いが消えてしまう。
| 導入状態 | Linux 7.3の例 | 利用者が確認する条件 |
|---|---|---|
| 特定経路ですぐ効く | BtrfsのダイレクトI/O、fsync、ロック競合の修正 | 自分の負荷が対象経路を通るか、回帰がないか |
| 利用者空間との連携が必要 | デバイスメモリ用cgroup | dmemcg-booster、KDEまたはGamescope、対応GPU |
| 起動の足場となる初期対応 | Apple M3 Pro、M3 Max、M3 Ultraのデバイスツリー | GPU加速など日常利用に必要なドライバーの完成度 |
| 削除または非推奨化 | EFS、FreeVxFS、旧32ビットArmプラットフォーム | 古い媒体・機器・社内イメージが依存していないか |
Apple M3上位SoCの追加は、カーネルが機器構成を認識して起動へ進むためのデバイスツリーが中心だ。GPU加速を含む日常利用の完成とは距離がある。一方、EFSとFreeVxFS、cachefilesのオンデマンドモードは、合計約5000行に及ぶ3サブシステムが実際に削除された。旧32ビットArmプラットフォームは7.3で非推奨になるが、削除はまだ先である。
この分類から、Linuxカーネルの更新が二方向へ進む様子が分かる。次世代GPUやSoCを早い段階から受け入れる一方、保守されない古いコードと利用者の少ない形式を外す。新機能を増やす作業と、検証対象を減らす作業は同じ保守予算を取り合うため、両者は別々の話ではない。
Linux 7.3を試すなら、平均値より回帰を測る
Linux 7.3-rc1を今試す価値があるのは、改善対象と同じ負荷を再現でき、問題を報告できる利用者だ。BtrfsならダイレクトI/Oと実際のデータベース負荷を分け、ゲーム環境ならCPUスケジューリングとVRAM追い出しを別々に測る。Apple M3上位機では、起動できることと日常作業に必要なデバイスが動くことを分けなければならない。
安定版への更新を判断する利用者は、7.3の最終候補までに自分の負荷で回帰が消えたか、ディストリビューションが必要な利用者空間ツールを組み込んだか、依存する古い形式が削除対象に入っていないかを確認したい。その条件がそろえば、Linux 7.3は機能数の多いリリースとしてではなく、I/Oと資源配分の具体的な詰まりを減らす更新として効いてくる。



