EU司法裁判所は2026年7月2日、Googleと親会社AlphabetによるAndroid競争法事件の上訴を全面的に退けた。これにより、欧州委員会が2018年に科した制裁のうち、EU一般裁判所が2022年に修正した41億2500万ユーロの罰金が最終的に確定した。争点は、Androidそのものが無料で公開されているかではなく、スマートフォンメーカーがGoogle Playを使うための契約条件を通じて、Google SearchとChrome、さらにAndroid派生版の開発余地がどう扱われたかにある。
この判決で確定したのは、スマートフォンの初期画面や標準アプリをめぐる設計が、検索広告市場の競争に直接つながるというEU側の見方だ。Googleは2005年にAndroidを開発していた企業を買収し、モバイルインターネットの拡大に備えた。2018年時点で、欧州委員会は欧州と世界のスマートモバイル端末のおよそ80%がAndroidを搭載していたとみていた。端末メーカーにとってGoogle Playはアプリ入手の中心であり、その利用条件にSearchやChrome、Android派生版への制約が結びつけば、検索サービスやブラウザの競争は端末販売前の契約段階で大きく左右される。
Play Storeの入口がSearchとChromeの配布条件になった
欧州委員会が2018年決定で問題にした契約は、大きく三つの束に分けられる。第一に、端末メーカーがPlay Storeのライセンスを得る条件としてGoogle Searchアプリのプリインストールを求める契約である。第二に、Play StoreとGoogle Searchを使う条件としてChromeのプリインストールを求める契約である。第三に、Google製アプリを搭載したいメーカーに対し、Googleが承認しないAndroid派生版を搭載した端末を販売しないよう求める反フラグメンテーション契約である。
この構造で意味を持つのは、Androidのオープンソース部分とGoogleの専有アプリ・サービスが分かれていた点だ。Androidの基本コードは公開され、第三者はそこから派生OSを作れる。しかし、Google Play、Google Search、Chromeなどの主要なGoogleサービスは別の契約に従う。端末メーカーが消費者にとって実用的なAndroid端末を販売するには、Play Storeへのアクセスが大きな意味を持つ。Play Storeの条件にSearchやChromeを結びつけると、競合検索エンジンや競合ブラウザは、利用者が端末を初めて手に取る時点で不利な位置から始めることになる。
EU司法裁判所は、Google SearchとChromeがAndroid端末上のインターネット検索への二つの主要な入口だったという下級審の評価を退けなかった。判決は、SearchとChromeの双方がプリインストール条件の対象になったことで、Googleが競争相手には相殺しにくい優位を得たという判断を維持した。裁判所が重視したのは、利用者が後から競合アプリを入れられるという形式的な選択肢より、最初から入っているアプリ、標準的な導線、端末メーカーの配布インセンティブが検索行動を動かす仕組みである。
2022年に一部は取り消され、それでも罰金は41億ユーロ台に残った
Google側は2018年決定をEU一般裁判所で争い、2022年9月の判決で一部の主張が認められた。一般裁判所は、特定の端末群に競合する一般検索サービスをプリインストールしないことを条件に、Googleが端末メーカーや通信事業者へ広告収入の一部を支払ったとされるポートフォリオ型収益分配契約について、欧州委員会の判断を取り消した。
そのため、2018年決定の罰金43億4286万5000ユーロは、そのまま残ったわけではない。一般裁判所は罰金を41億2500万ユーロへ減額し、Alphabetが連帯して責任を負う額も15億2060万5895ユーロに修正した。今回のEU司法裁判所判決は、この2022年時点の修正後の金額と、残った違反認定を最終的に確定させた。
減額後も罰金が大きく残った理由は、収益分配契約の一部が落ちても、Play Store、Search、Chrome、Android派生版をめぐる残りの契約制約が、単一かつ継続的な違反として評価されたためである。EU司法裁判所は、一般裁判所が罰金額を見直す際に、違反の期間や強度を考慮したことも認めた。Google側は、ポートフォリオ型収益分配契約が取り消された以上、罰金は少なくとも3分の1減るべきだと主張したが、裁判所はその根拠が示されていないとして退けている。
この点は、今回の判決を読むうえで見落としやすい。最終判断は「2018年の欧州委員会決定が何も変わらず残った」という話ではない。2022年に一部の法的構成は削られた。それでも、Googleがモバイル検索の入口を守るために契約条件を組み合わせたという中心部分は維持され、41億2500万ユーロというEU競争法上でも突出した罰金が確定した。
アプリ同梱が検索広告の入口を守る仕組みになった
Android事件の技術的な焦点は、アプリの同梱が検索広告の収益構造とどう結びついたかにある。欧州委員会の整理では、Googleは2011年以降、ライセンス可能なスマートモバイルOS、Android向けアプリストア、欧州経済領域内の各国一般検索市場で支配的地位を持っていた。そこにPlay Storeの必要性、SearchとChromeの初期配置、Android派生版への制約が重なると、競合検索サービスは端末メーカーとの契約段階で露出機会を奪われやすい。
検索エンジンは、利用者の問い合わせが集まるほど広告収入とデータが増え、広告収入とデータが次のサービス改善や配布条件を支える。判決文は、Googleの事業モデルが、無料または低価格で提供されるインターネット関連サービスと、そこから得られるオンライン広告収入の相互作用に立っていることを確認している。Google Searchの利用者数を増やすことは、アプリ利用率を押し上げる施策であると同時に、検索広告を販売する力を強める施策でもある。
反フラグメンテーション契約も、この文脈で意味を持つ。GoogleはAndroidの基本コードを公開していたが、Googleの専有APIやGoogle Playを含むサービス群は別である。メーカーがGoogleアプリを使うには、Googleが承認しないAndroid派生版を販売しない義務を受け入れる必要があった。欧州委員会と裁判所は、この条件がAndroid派生版の発展を妨げ、検索市場でGoogleの地位を維持・強化する働きを持ったと評価した。
EU司法裁判所は、消費者の利益を、価格に加えて情報への入口の多様性として捉えている。判決は、Google側の行為が、プライバシー保護や欧州経済領域内の特定言語機能を重視する検索サービスなど、複数の情報源を利用できるという消費者の利益を損なったという一般裁判所の評価を踏まえている。Android端末上で別のアプリを後から入れられるとしても、初期配置と契約条件が競合サービスの成長機会を狭めれば、選択肢の実質は薄くなる。
競争法の長期戦からDMAの事前ルールへ
今回の判決は、EUのデジタル規制がなぜ競争法の事後摘発だけに依存しなくなったのかも映している。Android事件では、FairSearchが2013年3月に欧州委員会へ苦情を出し、委員会が2015年4月に手続きを開始し、2018年7月に制裁を決定し、2022年に一般裁判所が修正し、2026年にEU司法裁判所が最終判断を出した。モバイル市場の実務が数年単位で変わることを考えると、競争法の厳密な審査は強力だが遅い。
Digital Markets Actは、この弱点を補う制度として位置づけられている。DMAの前文は、Article 101と102による執行が市場支配や反競争行為を個別に立証する事後型であり、複雑な事実調査を要することを明記している。一方でDMAは、ゲートキーパーが存在する市場を競争可能で公正に保つため、特定の中核プラットフォームサービスに事前の義務を課す。対象となるサービスには、検索エンジン、オンライン仲介サービス、OS、ブラウザ、オンライン広告サービスが含まれる。
Android事件で争われた要素は、DMAが想定する中核プラットフォームサービスと重なる。Play Storeはアプリ配布の入口であり、Google Searchは検索エンジン、Chromeはブラウザ、AndroidはOSである。EU司法裁判所が今回確認したのは2018年決定の適法性だが、判決の実務的な意味は、これらの入口をまたいで優位を移す契約設計に、EU法が長期的にどう向き合うかを示した点にある。
Googleにとって、罰金の支払いだけで問題が終わるわけではない。裁判で確定したのは過去の契約制約への判断だが、今後の焦点は、アプリストア、OS、検索、ブラウザをまたぐ条件が、メーカー、開発者、利用者にどの程度の選択余地を残すかへ移る。EU側にとっても、8年以上を要したAndroid事件は、巨大プラットフォームの配布条件を後から解くことの難しさを示した。次の争点は、同じ構造が新しい契約や設計変更の形で戻ってこないよう、事前ルールと個別の競争法執行をどう使い分けるかである。