Palantir TechnologiesのAlex Karp CEOが、2026年7月1日のCNBCインタビューでAI業界への不満を噴出させた。Karp氏は、企業が高額なトークン利用料を払っても十分な価値を得られず、同時に自社の知的財産や競争上の優位をAIラボへ渡す構図になっていると痛烈に批判。さらに、国家安全保障に関わるAIまでシリコンバレーの合意形成に委ねるのか、と語気を強めた。
言葉だけを切り取れば、派手なテレビ発言で終わる。だが、Karp氏の怒りはPalantirの営業上の主張と重なるものだ。同社はArtificial Intelligence Platform(AIP)やOntologyを、生成AIモデルを現実の業務、権限、データ、意思決定に結びつける層として売っている。Karp氏が攻撃したのは、OpenAIやAnthropicのようなモデル企業そのものというより、企業がモデル利用量を増やすことをAI導入の進展と見なす買い方である。
この論点は、企業のAI投資が次の段階へ進んだことを示している。モデルの賢さを比べるだけなら、APIの性能表やベンチマークで議論できる。実務導入では、誰のデータで、どの権限で、どの業務を動かし、失敗したときに誰が止めるのかを決めなければならない。Karp氏の発言は、その設計をモデル提供者に預けるのか、企業や政府機関の運用層に残すのかを問うものだ。
トークンの消費量は成果の指標にならない
Karp氏が最も強く批判したのは、トークン利用をAI導入の中心に置く発想だ。OpenAIのAPI価格表は、主要モデルについて入力、キャッシュ済み入力、出力を100万トークン単位で示している。AnthropicのClaude Platformも、MTokを100万トークンとして扱い、入力、出力、プロンプトキャッシュ、ツール利用、Web検索、管理エージェントのセッション実行時間などを料金体系に組み込んでいる。
この課金方式自体は、クラウドサービスとして不自然ではない。モデルは入力と出力を処理し、計算資源を使う。したがって、使った量に応じて請求されることは不合理ではない。問題は、企業が払うトークン量と、現場で生まれる価値が同じ方向に動くとは限らない点にある。
たとえば、AIエージェントが何度も長い推論を行い、ツールを呼び出し、失敗した手順をやり直せば、トークン消費は増える。だが、それが請求書の処理時間を短縮したのか、工場の停止時間を減らしたのか、営業担当者の成約率を上げたのかは別の測定になる。企業の経営者が見たいのは、モデルが何トークンを吐いたかではなく、業務上の損失や待ち時間、在庫、リスク、人的作業がどれだけ減ったかである。
Karp氏の「トークンに金を払っても価値がない」という批判は、誇張を含む営業トークでもある。しかし、公式価格表を見るだけでも、企業がAI費用を管理するには、モデル単価、入力量、出力量、キャッシュ、ツール呼び出し、優先処理、地域処理など、複数の変数を追う必要がある。AIを広範な業務に埋め込むほど、費用管理はアプリケーション設計と切り離せなくなる。
Palantirが売るのはモデルではなく業務の接続層だ
Palantirの反論は、モデルそのものを作ることではなく、モデルを業務の中で使える形へつなぐことにある。同社のAIPページは、AIを「チャット」を超えて、AIアプリ、行動ロジック、オートメーションに変えると説明している。AIがアラートを確認して解決案を提案し、人間の担当者が承認し、ルールと履歴を見られるという構図だ。
ここで中核になるのがOntologyである。PalantirはQ1 2026の株主向け書簡で、Ontologyは現実に基づき、現場の事実、組織内の知識、改善を結びつけるものだと位置づけた。Q4 2025の書簡では、大規模言語モデルが生成する文字列は、企業のデータ、業務、人員の複雑さと効率よく相互作用するためのソフトウェア構造を必要とし、モデルを現実世界のオブジェクトへ結びつける必要があると述べている。
Palantirが問題視しているのは、モデルを企業の中核データや判断に接続する際、どの層が業務ルールを持ち、どの層が監査ログを持ち、どの層が人間の承認を挟むのかである。モデルが汎用的な推論や生成を担うとしても、企業固有の在庫、顧客、部品、契約、設備、権限を扱う層は別に必要になる。
PalantirのOntology SDK(OSDK)文書も、この設計思想を開発者向けに示している。OSDKは、開発環境からOntologyへアクセスし、Foundryをバックエンドとして使い、高スケールのクエリ、書き戻し、細かなガバナンス制御を利用できると説明している。これは、モデルに質問を投げるだけの導入ではなく、業務データを型や権限と結びつけ、アプリケーションとして運用する導入である。
国家安全保障では「誰が止められるか」が前に出る
Karp氏の発言が強く聞こえるのは、企業AIの費用対効果に加え、軍事や情報機関のAI利用に話が及ぶためだ。PalantirのGothamページは、自社ソフトウェアを「Global Decision Making」のためのオペレーティングシステムと呼び、AIを使ったキルチェーン、センサーのタスク割り当て、AIルールと手動入力を組み合わせた人間関与型の制御を前面に出している。
この領域では、モデルの性能や価格よりも、運用上の責任分界が問題になる。AIが候補を出し、誰が承認し、どのデータを見てよく、どの操作ログが残り、どの環境で動くのか。国家安全保障の文脈で「モデル提供者の判断」に依存する範囲が広がれば、政府機関は調達、認可、データ保護、任務遂行の各段階で外部企業の制約を受ける。
Palantirはこの点でも、自社の立ち位置をはっきり作っている。FedStartは、政府向けにソフトウェアを提供したい企業が、Palantirの認可済み環境内で製品を動かせるSaaS offeringだと説明されている。FedRAMP、CMMC、Impact Level 5または6といった認可対応を、Palantirは既存の政府向け環境に乗せて短期間で進める経路として売っている。
つまり、Karp氏の「戦場をシリコンバレーの合意に外注するのか」という主張は、政治的な挑発に見える一方で、Palantirの製品構成と一致している。同社は、モデルを使う企業や政府機関に対し、モデル企業のAPIを直接消費するのではなく、認可済みの運用環境、権限管理、監査、業務オブジェクト、承認フローを持つ層を間に置くべきだと訴えている。
業績の伸びが、この批判に事業上の説得力を与える
Palantirがこの議論を強く押し出せるのは、同社の足元の数字が伸びているからでもある。Q1 2026の株主向け書簡によれば、同社の四半期売上高は16億ドルで、前年同期比85%増となった。利益は8億7,100万ドルで、前年同期の4倍超に達した。米国事業だけで13億ドルを売り上げ、前年同期比104%増となっている。
内訳を見ると、Karp氏の主張がどこに向いているかが分かる。米国商業顧客からの売上高は5億9,500万ドルで、前年同期比133%増だった。米国政府顧客からの売上高は6億8,700万ドルで、前年同期比84%増だった。企業向けと政府向けの両方が伸びているため、Palantirは「実務で価値を出すAI」という言葉を、理念ではなく事業成長と結びつけて語れる。
ただし、この数字はPalantirの主張がすべて正しいことを証明するものではない。Karp氏が語る「企業は皆怒っている」という感触は、同氏の見方であり、独立して検証された市場全体の統計ではない。さらに、Palantir自身もAIブームの受益者であり、モデル企業への不満が強まるほど、自社の運用層や政府向け基盤を売りやすくなる立場にある。
それでも、今回の発言が注目される理由は、AI導入の買い方が変わり始めているからだ。企業は、最も高性能なモデルを契約すれば成果が出るという段階を過ぎ、部門ごとのデータ、権限、業務指標、費用、監査をそろえて考えるようになっている。モデル企業の請求単位がトークンである以上、企業側はその消費量を、どの業務成果に対応させるのかを問わざるを得ない。
次の競争はモデルをどこまで交換可能にできるかだ
Karp氏の発言を一段引いて見ると、企業AIの次の競争軸は「どのモデルが勝つか」から広がる。企業が複数のモデルを使い分け、価格や性能、安全方針が変わったときに切り替えられるか。社内データや業務ロジックを、特定のモデル提供者へ過度に寄せずに保てるか。AIの出力を、現場が承認し、監査できる業務手順へ落とし込めるかである。
この競争では、モデル企業にも利点がある。最先端モデルの開発には巨大な計算資源、研究者、データ、評価基盤が必要であり、企業がそれを自前で再現するのは難しい。OpenAIやAnthropicのAPI価格表が細かく整備されているのは、モデルをクラウド部品として広く使わせるための仕組みでもある。
一方で、Palantirのような企業は、その部品をどこに組み込み、どの権限で動かし、どの数字で成果を測るかを握ろうとしている。Karp氏が強い言葉で攻撃した「トークン支出」は、その主導権争いの表面に出た症状だ。企業がAIの利用量を増やしても、業務成果、データ保護、監査、費用管理を同時に説明できなければ、導入は経営陣の不信を招く。
今後見るべき点は、企業と政府機関がモデルをどれだけ交換可能な部品として扱えるかである。モデルの能力は今後も上がるが、買い手が求めるのは、請求書に並ぶトークン数ではなく、業務のどこが短くなり、どの判断が速くなり、どのリスクが下がったかを示す数字だ。Karp氏の発言は過激だったが、企業AIの支払い方を「利用量」から「成果」へ戻す圧力は、しばらく弱まりそうにない。