PCやスマートフォン、ゲーム機が今年に入って相次いで値上がりしている実感がある人は多いだろう。その根本的な要因として今、世界のDRAM(動的ランダムアクセスメモリ)市場の約90%を握る3社が連邦集団訴訟の被告席に立つことになった。2026年6月25日、法律事務所Hagens BermanはSamsung ElectronicsSK hynixMicron Technologyを相手取り、カリフォルニア州連邦地裁(北カリフォルニア地区)に訴状を提出した。3社が共謀してコモディティDRAMの生産を人為的に絞り、過去4年間でメモリ価格を暴騰させたという主張だ。この現象は「RAMpocalypse(メモリの黙示録的破局)」と呼ばれ、Apple・Microsoft・Lenovoといった大手メーカーも消費者への価格転嫁を余儀なくされている。同一の法律事務所から3回目の集団訴訟が、DRAMシェア約90%を握る3社に叩きつけられた。

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訴訟の概要と「RAMpocalypse」の中身

「RAMpocalypse」とは「RAM」と「apocalypse(黙示録的破局)」を合わせた造語で、消費者がスマートフォンからPCまであらゆる電子機器に使われるメモリを適正価格で買えなくなっている現状を表す。2026年6月25日(木)、カリフォルニア州連邦地裁(北カリフォルニア地区)に提出された訴状は、この言葉を中心概念として据え、DRAMメモリ市場が機能不全に陥っていることを訴えた。

訴状の核心的主張は、Samsung Electronics・SK hynix・Micron Technologyの3社が共謀してDDR3・DDR4などコモディティDRAMの生産を人工的に抑制し、過去4年間でメモリ価格を約700%引き上げたというものだ。この700%という数字は原告側の主張であり、独立した公的統計による完全な裏付けは現時点では確認されていない。ただし業界ユーザーからも「個別部品で最大700%の上昇」という体感的な証言が多数寄せられており、現場レベルでは否定しがたい実感として共有されている。

訴訟を起こしたのは法律事務所Hagens Bermanで、原告はDRAMを使用した製品を購入した個人・法人消費者を代表するクラス(集団)として構成されている。米国における「集団訴訟(クラスアクション)」とは、同種の被害を受けた多数の消費者が一体として権利を主張できる法的手続きで、原告が証拠の確保と訴訟費用の分散を同時に実現できる仕組みだ。根拠となる法律はSherman反トラスト法で、損害賠償額の具体的な数字は訴状の段階では提示されていないが、過去に同事務所が成立させた和解の規模を踏まえれば、数百億円規模の補償が生じる可能性がある。

DRAMは現代の電子機器に不可欠なコンポーネントだ。スマートフォン、PC、サーバー、ゲーム機、IoT機器、車載システムに至るまで、事実上あらゆるコンピューティングデバイスにDRAMが組み込まれている。その価格が組織的に操作されているとすれば、被害は文字通り「全ての消費者」に及ぶ。これが今回の訴訟が社会的関心を集める最大の理由だ。

なぜ3社はDRAMの価格を好きなように動かせるのか

なぜDRAM業界では価格操作が成立しやすいのか。一般的な競争市場では、一社が価格を引き上げると他社がシェアを奪うために値下げや増産に動く。しかしDRAM市場ではその抑制機能が事実上働かない。競争者が3社しかおらず、3社がそろって供給を絞れば代替先が存在しないからだ。答えは市場の極端な寡占構造と、製造プロセスの特殊性にある。

Counterpoint Researchの2026年Q1データによれば、世界のDRAM市場シェアはSamsungが38.6%、SK hynixが28.8%、Micronが22.4%で合計約90%に達する。残りの10%程度が中国メーカーなど他社で占められるが、品質・技術力で上位3社に並ぶ存在は現時点では存在しない。これほどの寡占度は他の主要半導体カテゴリでも珍しく、事実上「3社が決めたことが市場価格になる」構造が成立している。

価格操作の具体的なメカニズムを理解するためには、DRAMの製造プロセスを知る必要がある。DRAMはシリコンウェハー上にナノメートル単位の微細な回路を焼き付けて製造される。最先端のDRAM工場(ファブ)を建設するには1兆円単位の投資が必要で、稼働開始まで3〜5年かかる。つまり供給量は短期間では増やせない構造になっている。この「供給の硬直性」が価格操作を容易にする最初の条件だ。

訴状が指摘するのは、この3社がHBM(High Bandwidth Memory)への「協調的ピボット(生産転換)」を口実として、コモディティDRAMの生産を意図的に削減したという点だ。HBMはAIデータセンターのGPUに使われる高付加価値品で、利益率は通常DRAMの5〜10倍ともいわれる。SK hynixはすでにNVIDIAの次世代HBM4受注の約3分の2を確保しており、2025年には純利益でSamsungを上回り世界最大のメモリ利益企業となった。HBMは現在、DRAMウェハー生産能力の約23%を占有しているとされる。3社がウェハー生産能力をHBMに振り向けるほど、コモディティDRAMの供給は絞られる。

「HBMシフト自体は技術合理性がある」という点が問題を複雑にする。AIブームでHBM需要が急増した以上、メーカーが生産能力をHBMに振り向けるのは自然な行動だ。しかし訴状が問題視するのは、その「シフト量」が市場の自然な需要調整を超えており、3社が「協調して」同じタイミングで同じ方向に動いた点だ。競争市場であれば、一社が供給を絞った隙に別の会社がシェアを奪うために増産するはずだ。しかし実際には3社が足並みを揃えて供給を絞り、誰も埋め合わせをしなかった。これが偶然の「平行行動」なのか、明示的または暗黙の合意による「共謀」なのかが、法廷での中心的争点となる。

こうした極度の寡占状態は1980〜90年代から続く市場集約の結果だ。大規模な設備投資と技術開発コストの急増によって中小メーカーが次々と脱落し、現在の3強体制が固まった。在庫が2025年末時点で8週分(通常12〜16週分)にまで縮小したことも、3社による供給管理の痕跡として訴状は指摘している。

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繰り返す犯行:過去の刑事訴追と懲りない3社

今回の訴訟を理解する上で欠かせないのが、3社のうち2社がほぼ同一の行為で既に刑事訴追を受けた歴史だ。

米国司法省(DOJ)は1998〜2002年の期間を対象に、DRAMメモリの価格カルテルを刑事訴追した。当時の調査では、各社の幹部が競合他社と秘密裡に会合を重ね、生産量と価格水準を事前に調整していたことが明らかになった。各社の有罪答弁と制裁内容は以下の通りだ。

  • Samsung: 有罪答弁、罰金3億ドル(2005年10月)
  • SK hynix(当時Hynix Semiconductor): 有罪答弁、罰金1億8,500万ドル(2005年5月)
  • Infineon(独): 罰金1億6,000万ドル
  • Elpida(日): 罰金8,400万ドル
  • 業界全体の刑事制裁金合計: 7億3,000万ドル超

単なる罰金に終わらなかったのが、当時の訴追の特徴だ。Samsung役員は7〜14ヶ月の収監、Hynix(現SK hynix)役員も5〜8ヶ月の収監を経験している。法人としての罰金だけでなく、個人として米国の刑務所に入ることになった事実は、この価格カルテルが組織的かつ意図的な共謀であったことを明確に示している。

一方でMicronは刑事訴追を免れた。DOJへの協力・通報(リニエンシー)制度を活用したためで、情報提供の代わりに刑事制裁を免除された。リニエンシーは「最初に自白した者が免責を得る」制度で、カルテル参加企業の内部告発を促す効果がある。Micronがこの制度を使ったということは、当時「共謀の存在」を内側から知る立場にあったことを意味する。この事実は今回の訴訟においても重要な示唆を持つが、リニエンシーの恩恵は刑事訴追にのみ及び、今回の民事損害賠償訴訟ではMicronも被告として名を連ねている。

業界全体で7億3,000万ドルを超える制裁金を課され、役員が収監されてもなお、20年後に同種の疑惑で訴えられるという事実は何を示すか。制裁が十分な抑止力を持たなかったのか、それとも市場構造そのものが価格協調を促す誘因を内包しているのか。この問いは今回の訴訟の本質に直結している。

訴訟の法的勝算と先例:2018年棄却が残した教訓

今回の訴訟はHagens Bermanによる3回目の試みだ。過去の訴訟の経緯は以下の通りだ。

訴訟 提訴年 結果
第1次 2002年 2006年に3億4,500万ドルで和解
第2次 2018年 2020年に連邦地裁が棄却→2022年に第9巡回控訴裁判所が棄却を支持
第3次(今回) 2026年6月25日 係争中

第1次訴訟は2006年に3億4,500万ドルという大型和解で消費者側の勝利に終わった。これは当時の大手メーカー各社の刑事有罪答弁という強力な証拠が後押しした結果で、民事訴訟においても証拠を集めやすい環境だった。

しかし第2次訴訟は異なる結果をたどった。2020年に連邦地裁は棄却判決を下し、2022年には第9巡回控訴裁判所もその棄却を支持した。判決の最大の根拠は「Sherman反トラスト法上の十分な共謀証拠がない」という点だ。Sherman法における「平行行動(parallel conduct)」は違法ではない。競合他社が独立して同じビジネス判断を下すことは自由競争の結果としてあり得るため、裁判所は「各社が自然な市場反応として同じ方向に動いた」という解釈を採用した。2018年訴訟で原告側が提示した証拠は、業界会議での接触記録や市場データの同期性程度にとどまり、明示的な価格固定合意を示す「プラスファクター(plus factors)」を十分に積み上げられなかったとされる。その結果、各社の行動が「平行行動」の範囲を超えて「共謀」に至っていることを立証できなかった。

この先例は今回の訴訟にとっても高いハードルを示している。反トラスト法上の集団訴訟で原告が勝訴するためには、単に「各社が同じ方向に動いた」だけでは不十分で、「価格固定の合意(明示的または暗黙のもの)」を示す具体的証拠が必要だ。

今回の訴状が2018年訴訟と差別化できる点は何か。一つは「HBMへの協調的ピボット」という行動の同時性と一致性の高さだ。各社がほぼ同じタイミングでDDR3・DDR4の生産削減を発表し、その結果として価格が急騰した事実は、単なる偶然の一致と言い難い。もう一つは、Apple・Lenovo等の大手ユーザーが公に「メモリ不足」「価格高騰」を確認していることで、消費者への損害を定量化しやすくなっている点だ。

ただし法曹界では「2022年の先例が明確に存在する以上、証拠の質が大きく変わらなければ同じ壁にぶつかる可能性がある」との慎重な見方も根強い。訴訟の長期化は避けられず、勝訴は容易ではない。

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AppleがMacBookを値上げした「その日」に提訴した意味

2026年6月25日という提訴日付は偶然ではない。同日にAppleが主要製品ラインを一斉に値上げしたからだ。

Appleの発表した値上げ幅は以下の通りで、日本でも同日に同様の改定が実施された。

機種 米国:値上げ前→後 日本:値上げ前→後 日本での値上げ幅
MacBook Air 13インチ 1,099→1,299ドル(+200ドル 184,800→224,800円 +40,000円
MacBook Air 15インチ 219,800→264,800円 +45,000円
MacBook Pro 14インチ 279,800→339,800円 +60,000円
MacBook Pro 16インチ 1,699→1,999ドル(+300ドル 449,800→519,800円 +70,000円
iPad Air 11インチ 599→749ドル(+150ドル 98,800→129,800円 +31,000円
iPad Air 13インチ 128,800→169,800円 +41,000円
iPad Pro 11インチ 999→1,199ドル(+200ドル 168,800→209,800円 +41,000円
iPad Pro 13インチ 218,800→269,800円 +51,000円
iPad / iPad mini 58,800→74,800円 / 78,800→99,800円 +16,000円 / +21,000円

なお、iPhoneとAirPodsは今回の値上げ対象外とされた。

Appleは複数の大手メディアを通じて声明を発表した。「AIデータセンターの急拡大がメモリ需要に未曾有の急増をもたらした。これほど急速なコンポーネント価格上昇は見たことがない」という内容だ。Microsoftも同時期に値上げを実施したと報じられており(CBC News)、メモリ価格高騰が業界横断的に最終消費者へ転嫁されつつあることが確認できる。Lenovoをはじめとする大手PCメーカーも「高止まりしたメモリ価格が新常態になりつつある」と警告を発している。

Hagens Bermanの訴状はAppleのこの声明を「訴訟の引き金(casus belli)」として明示的に引用した。世界で最も購買力があり、最も強力なサプライヤー交渉力を持つはずのAppleが「これほど急速な価格上昇は見たことがない」と述べ、その負担を消費者に転嫁せざるを得なかった。この事実は、DRAM3社の価格設定力が競争的な水準を超えていることを示す有力な状況証拠となる。反トラスト法の損害立証においては「市場支配力(market power)の存在」が核心的な要件の一つだ。年間数億個単位のDRAMを調達するAppleほどのバイヤーが代替調達先を持てず、コスト増を製品価格に上乗せするしかなかった事実は、3社が価格受容を強いる支配的地位にあったことを裏付ける証拠として裁判所に提示される見通しだ。

MacBook Proが300ドル(約4万5,000円相当)値上がりしたことの消費者への影響は直接的だ。「メモリ搭載コスト上昇→デバイス価格転嫁」という経路で損害が具体化しており、これは反トラスト法違反訴訟における「損害の具体性」を立証する材料となる。日本市場においても同様の価格転嫁が生じる可能性があり、PCやスマートフォンを購入した全ての消費者が潜在的な被害者として訴訟の対象となる。

DRAM価格の動向を見ると、2026年Q1に前四半期比で約90%上昇したとのデータがある。Jefferiesのアナリストは2026年Q3に前四半期比40〜50%、Q4に同30〜40%、2027年には前年比40〜45%の上昇が続くと予測しており、本格的な価格緩和は2028年まで見込みにくいとしている。

消費者は何を期待できるのか

集団訴訟が実際に消費者へ補償をもたらすまでには、通常5〜10年かかる。しかも必ずしも和解に至るとは限らない。2018年訴訟の棄却が示すように、反トラスト法上の証拠立証は極めて困難だ。

それでも今回の訴訟が持つ意義は複数ある。第一に、訴訟提起そのものが市場への警告信号として機能する。2002年の第1次訴訟は最終的に3億4,500万ドルの和解をもたらし、消費者への実際の補償につながった実績がある。

第二に、DOJや連邦取引委員会(FTC)が訴訟の進展に注目し、独自の調査を開始するケースがある。民事訴訟から刑事捜査に発展した過去の例は少なくなく、DRAM業界で実際に2005年の刑事有罪という前例が存在する以上、今回の訴状は規制当局の目を引く可能性がある。DOJが独自に動けば、民事訴訟よりも強力な証拠収集権限を持つ捜査が始まり、訴訟の行方を大きく変え得る。

第三に、CXMT(ChangXin Memory Technologies)など中国メーカーの台頭が2027〜2028年にかけて実質的な競争圧力をもたらす可能性がある。ただしアナリストの多くはCXMTの技術力が依然として3〜4世代遅れており、短期的な市場救済には限界があると指摘している。

短期的には、在庫が8週分(通常12〜16週分を大幅に下回る水準)にまで縮小した市場で消費者が価格上昇から逃れる手段は少ない。PCやスマートフォン、AI周辺機器の価格高止まりはしばらく続く見通しだ。

Samsung・SK hynix・Micronの3社が市場の約90%を握る現状が続く限り、価格を協調させることへの誘因は構造的に消えない。2002年の第1次訴訟からすでに24年、刑事訴追からも20年が経過した今、訴訟の勝敗にかかわらず、立法または規制当局による抜本的な市場介入なしにこのサイクルを断ち切ることができるかどうかは、依然として不透明だ。