TSMCが、大型AIチップを組み立てるCoWoSの難所を一つ越えた。2026年8月11日のOCP APAC Summitで、同社の先進封装技術・サービス担当副社長Jun He(何軍)は、5.5倍レチクル品が複数のAI顧客製品で安定して98%を超える歩留まりに達し、一部では99%に届いたと説明した。だが、高い歩留まりはAIアクセラレーターを必要な数だけ出荷できることを意味しない。TSMCが同じ講演でメモリとABF載板の不足、材料のばらつき、システム級の信頼性を挙げたことで、供給の難所がCoWoS工程の内側から周囲の部材と検証へ移りつつあることがはっきりした。

99%という数字には範囲がある。経済日報の会場報道によると、複数製品に共通する基準は「安定して98%超」であり、99%は一部製品の到達値だ。TSMCは歩留まりの分母や、どの工程までを測った数字なのかを公表していない。完成したAIシステム全体の良品率と読み替えることはできないが、2026年5月の公式発表では示されなかった量産の成熟度を伝える新しい材料ではある。

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5.5倍レチクルは約4,565平方ミリメートル

レチクルは露光装置が一度に転写できる最大領域を指す。TSMCは1レチクルを約830平方ミリメートルとしており、5.5倍ならインターポーザー相当の面積は単純計算で約4,565平方ミリメートルになる。これは外装を含むパッケージ寸法ではない。それでも、先端ロジックの単一ダイをはるかに超える領域に演算ダイと高帯域メモリ(HBM)を並べ、短い配線で結ぶ規模を表す。

拡大を支えたのがCoWoS-Lである。従来のCoWoS-Sが大きなシリコンインターポーザーを使うのに対し、CoWoS-Lは再配線層(RDL)に局所シリコンインターコネクト(LSI)を埋め込み、微細配線が必要な場所へシリコンを配置する。TSMCの年次報告書では、3.5倍レチクルのCoWoS-Lが2024年に量産へ入った。2年で5.5倍まで広げ、複数製品で98%超を維持した点に今回の進歩がある。

TSMCの計画・実績 パッケージ側の変化
2024年 3.5倍CoWoS-Lが量産入り RDLとLSIで大型化
2026年 5.5倍品を量産、複数製品で歩留まり98% 面積は約4,565平方ミリメートル相当
2028年 14倍品を量産予定 大型演算ダイ約10個とHBM 20個を統合
2029年 14倍超へ拡大、40倍相当のSoW-Xも予定 パッケージからウェハー級システムへ

この表の読みどころは、面積の記録更新ではない。2024年から2028年までの4年間で、CoWoSに載せる演算ダイとメモリの数が増え、材料から電力、放熱、検査までの相互依存が急速に強まることだ。5.5倍品の高い歩留まりは、その次の大型化へ進むための必要条件に当たる。

歩留まりが上がると、供給制約は外側へ動く

CoWoSの工程歩留まりは、投入した部材をパッケージとして仕上げられる割合を左右する。一方、出荷台数は良品の演算ダイ、必要数のHBM、大型ABF載板が同じ時期にそろうかでも決まる。CoWoS工程が98%超で安定しても、HBMが届かなければ組み立ては始まらない。大きなABF載板が不足しても同じだ。

メモリ側では、逼迫がHBMに限られない。Micronは2026年6月の決算説明で、DRAMとNANDの需給が2027年を過ぎても引き締まった状態で続くと見込んだ。同社はHBMを含むDRAMとNANDを複数年にわたって顧客へ割り当てる供給契約を結んでいる。顧客が数世代先のメモリを早期に確保している事実は、CoWoSの増産分が自動的にAIチップの増産へ変わらない理由を示している。

ABF載板では、面積と層数が需要を押し上げる。ABF(Ajinomoto Build-up Film)は、演算ダイやHBMを載せたインターポーザーとサーバー基板を結ぶ有機載板の微細配線層に使われる。味の素は2026年6月の事業説明で、高性能半導体の大型化と多層化に伴い、パッケージ1個当たりのABF使用量が増えると説明した。同社は2030年に向けて群馬工場などで段階的に供給能力を増やし、2030年以降の需要に備えて群馬工場と同等能力を持つ第3拠点も計画する。

載板を製造するイビデンの計画は、時間差をさらに具体化する。同社は大型・多層載板向けのSAP(セミアディティブ法)処理需要が業界の供給能力を上回ると予測し、2024年を1とする能力指数を2026年に1.8、2028年に2.5へ引き上げる。岐阜県の河間工場と大野事業場へ計5,000億円を投じるが、新設備の量産開始は2027年度から順次である。需要は現在進んでおり、大きな増産効果が出るまでには少なくとも年度をまたぐ。

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多源化が狭めるCoWoSの工程窓

供給不足に対する自然な対応は、同じ部材を複数社から買うことだ。ところが、大型CoWoSでは供給元を増やすほど製造条件が複雑になる。Jun Heによれば、ABF載板はメーカーごとに熱的・機械的特性が異なり、その差がCoWoSの工程窓、つまり良品を安定して作れる熱的・機械的条件の許容範囲を狭める。最終組み立て時には、接続面を同じ高さに保つ共平面性も悪化しやすい。

原因はパッケージの大きさにある。シリコンやRDLと、有機載板やプリント基板では、加熱と冷却に対する伸び縮みの割合が異なる。面積が広がるほど熱膨張率の差による応力と反りが増え、蓋や熱界面材料(TIM)、受動部品の配置まで相互に影響する。調達上は代替可能に見える載板でも、既存の温度条件や治具へそのまま流せるとは限らない。

会場で示された事例は、この問題を部品単体の試験で捕まえにくいことを物語る。同じチップを異なるシステムへ組み込んだところ、部品試験では現れなかったダイ端部の損傷が生じ、TSMCと顧客はプリント基板や受動部品の配置、製造工程を調整したという。逆に、部品段階で見つかった応力が基板への実装後に消える場合もあった。実機の拘束と冷却に加え、プリント基板やシステム構造の影響を含めなければ、故障の条件を再現できない。

そのためTSMCは、システム技術協調最適化(STCO)を量産前へ持ち込む。大型AIシステムの故障率を許容範囲へ収めるには、個々の封装部材に車載品を上回る品質が必要になるとの説明もあった。98%超という工程歩留まりの次に測るべき数字は、材料を替えた際の工程能力と、実システムでの長期信頼性である。

部品試験より先に、システム境界条件

TSMCは量産の6四半期前、すなわち約18カ月前にシステムの境界条件を公表し、顧客や業界から意見を集める方針だ。技術、製造、顧客の各チームが順番に作業する開発では、年次更新されるAI製品へ間に合わない。材料メーカー、装置メーカー、システムインテグレーターが同時に試作と検証を進め、温度と荷重に加えて反りや冷却などの実機条件を製造工程へ戻す必要がある。

この開発方式は供給問題とも結び付く。代替のABF載板を採用するには、材料仕様を照合するだけでは足りず、その載板を使ったパッケージを実際の基板と冷却構造で検証しなければならない。供給元を増やせば数量リスクは下がるが、認定する組み合わせは増える。多源化の効果は、調達先の社数ではなく、量産条件を共有できる認定済み部材の量で決まる。

2028年の14倍CoWoSは約10個の大型演算ダイと20個のHBMを一つに統合する計画である。そこで確認すべきなのは、最大歩留まりが99%へ届くかではない。複数製品で98%超を維持できる範囲がどこまで広がるか、2027年度からの載板増産が認定を伴って立ち上がるか、メモリの複数年契約が次世代HBMの必要量を満たすかである。この三つがそろって初めて、巨大化したCoWoSはロードマップ上の面積から、出荷できるAI計算資源へ変わる。