Googleは2026年9月30日、よく使う指示を保存して再利用できる「Skills」を、Geminiの通常チャットやGoogle Workspaceへ展開すると発表した。
専用のAIアシスタントを作成する「Gems」は、個人向けGoogleアカウントでは11月にSkillsへ移行する予定だ。
Skillsでは、同じ会話の中で複数の指示を組み合わせて使えるほか、他のAIサービスでも採用が進むオープンな SKILL.md 形式に対応する。
ただし、指示を同じ形式で移せることと、これまでの作業をそのまま再現できることは別だ。Gemsで利用していたツールや自動化までどこまで引き継げるかが、移行後の実用性を左右する。
同じチャットで複数の「仕事の手順」を組み合わせる
Skillsは、Geminiの入力欄で「/」に続けて名前を指定すると呼び出せる。
ユーザーが明示的に指定しなくても、Geminiが依頼内容に適していると判断したSkillを自動的に適用することもできる。
Gemsのように専用のチャット画面へ移る必要がなく、進行中の会話に必要な指示を追加できる点が大きな違いだ。
例えば文章を書く場合、個人の文体を指定するSkillと、企業のブランドガイドラインを指定するSkillを同時に使える。Google自身が紹介している利用例だ。
文体とブランド基準を一つの長いプロンプトにまとめる方法と比べれば、それぞれを独立して修正し、用途に応じて組み合わせを変えやすい。
用途ごとに別々の専用チャットボットを使い分けるのではなく、一つの会話に必要な指示を組み合わせる方向への変化といえる。
Skillsは、SKILL.md を自分で編集しなくても作成できる。
Geminiとのチャットで「この指示をSkillにして」と頼んで保存し、その後も会話形式で内容を修正できる。
参考資料としてテキスト文書やPDF、画像なども追加できるため、単に「自分らしく書いて」と指示するだけでなく、実際の文章や社内基準などを添えて具体的な手順を与えられる。
公式ヘルプによると、GeminiのチャットでSkillsを利用するだけならGoogle AIの有料契約は不要だ。
個人向けでは現在、18歳以上で個人Googleアカウントにログインし、「アクティビティの保存」を有効にしていることが利用条件となる。提供は段階的に進められている。
一方、Gemini Sparkでタスクを自動実行したり、スケジュールを設定したりする機能には別の利用条件がある。Skillsそのものの利用条件と、タスクやスケジュール機能の条件は分けて考える必要がある。
また、Skillsの共有機能やGoogle Drive上のファイル追加、Gemini Notebookとの連携については、発表時点では今後数週間で追加される予定だった。
ローカルのファイルを直接アップロードできることと、クラウド上に保存した資料をそのまま参照できることには、現時点では違いがある。
SKILL.mdで共通化されるのは「仕事の手順」
GoogleはWorkspace向けの発表で、Skillsがオープンな SKILL.md 標準に基づいていると説明している。
他のプラットフォームで作成したSkillを、GeminiアプリやWorkspaceへ取り込める。この点は、単にGemsの名称や画面を変更しただけではない。
Agent Skillsは、Anthropicが2025年10月16日に発表し、同年12月18日にオープン標準として公開した仕組みだ。
同社の技術解説では、AIに仕事の進め方を教えるため、指示、スクリプト、参考資料などを一つのフォルダにまとめる設計を紹介している。
中心となる SKILL.md はテキストファイルで、先頭に名前や説明などの情報を記述し、その後にMarkdown形式で具体的な手順を書く。
標準仕様では、説明欄に「何をするSkillなのか」だけでなく、「どのような場合に使うのか」も記載することを推奨している。
これは人間向けの説明であると同時に、AIがそのSkillを使うべき場面を判断するための情報にもなる。
もう一つの特徴が、必要な情報だけを段階的に読み込む考え方だ。
標準仕様では、まず各Skillの名前と説明を読み、必要だと判断した段階で SKILL.md に書かれた詳しい指示を読み込む。さらに参考資料やスクリプトは、実際の作業で必要になったときに参照する。
大量の社内マニュアルを最初からすべてAIへ渡すのではなく、概要から必要な手順や資料へ進む構成だ。
ただし、これはAgent Skillsの標準仕様として示されている仕組みであり、Gemini内部でもまったく同じ順序や方法で情報を読み込んでいると確認されたわけではない。
Googleが明示しているのは共通ファイル形式への対応であり、各社のAIが内部で同じように動作することまで保証するものではない。
それでも、この形式を使えば、文体、審査基準、業務手順などを特定サービスの設定画面だけに閉じ込めず、ファイルとして保存できる。
関連する参考資料も一緒に管理できるため、別のAIサービスへ移す際にも内容を確認しやすい。
長い指示を一から書き直す手間は減らせるが、同じ SKILL.md を使えばどのAIでも同じ結果になるとは限らない。最終的な動作は、利用するモデルや利用可能なツールにも左右される。
同じ SKILL.md でも、同じ作業を再現できるとは限らない
GeminiのSkillsでは、.py や .sh といったスクリプトを含むファイルもアップロードできる。
ただし、インターネット接続を必要とするスクリプトには対応していない。
アップロード要件では、Skillに含めたスクリプトから外部Webサイトへリクエストを送ったり、操作したりすることはできないと明記している。
つまり、外部サービスを操作するPythonスクリプトをSkillのフォルダに入れただけで、Geminiからそのサービスを利用できるようになるわけではない。
Agent Skillsの標準仕様にも、対応する製品、必要なソフトウェア、ネットワークアクセスなどの実行条件を記述する項目が用意されている。
利用できるスクリプト言語も、Skillを実行するAIサービス側の実装によって異なる。
共通化されるのは、主に「仕事の手順を記述し、AIへ渡す形式」であり、その手順を実行するための環境まで自動的に共通化されるわけではない。
参考ファイルにも制限がある。
GeminiへアップロードできるSkillは、すべてのファイルを合わせて100MB以下で、フォルダの最上位に SKILL.md が必要になる。
PDFや画像には対応する一方、.docx や .xlsx などのバイナリ形式は、Skillsのアップロード対象には含まれない。
100MBという数字はあくまでアップロードできるファイルサイズの上限であり、その内容すべてが一度にAIのコンテキストへ読み込まれるという意味ではない。
さらに移行用ヘルプによると、現時点でSkillsはCanvasやDeep Researchには対応していない。
Gemsで利用できた既定ツールのうち、動画作成、音楽作成、Canvas、Deep Research、ガイド付き学習なども、現時点ではSkillsから利用できない。
一方、Connected Appsとの併用には対応している。
そのため「Skill内のスクリプトから外部インターネットへアクセスできない」という制限を、「Geminiから外部アプリを一切利用できない」という意味に捉えるのは誤りだ。
例えば「企業について調査し、決められた形式で報告書を書く」という手順自体をSkillとして保存できても、そのSkillからDeep Researchを実行できるとは限らない。
既存のGemを業務で利用している場合には、「指示が正しく移行したか」と「その仕事に必要なツールが移行後も利用できるか」を分けて確認する必要がある。
Gemsから自動移行されるもの、されないもの
2026年10月1日時点のGoogleの案内では、通常のGemsはSkillsへの自動移行対象となる。
一方、Google LabsのOpalで作成したワークフローは自動移行されず、Geminiアプリで作成したSkillsとWorkspace側のSkillsも現在は同期しない。
GoogleのGemini移行ヘルプ、Workspace発表、管理者向け移行案内、OpalのFAQを整理すると次のようになる。
| 対象 | 引き継がれるもの | 利用を続ける際の条件 |
|---|---|---|
| 個人アカウントの通常Gems | Gemsと対応する参考ファイルをSkillsへ自動移行 | Skillsで未対応の既定ツールがある。GitHubファイルは現時点でSkillsに未対応 |
| WorkspaceアカウントでGeminiアプリに作成したGems | 名前、説明、指示、対応する知識ファイルなどをSkillsへ移行 | 移行後は無効状態の下書きとなり、作成者による確認と有効化が必要。Workspaceアプリで利用するSkillは別途作成が必要 |
| Opal/Gems by Google Labs | 保存済みのワークフローファイルはGoogle Driveに残る | Skillsへは自動移行されず、Opal上での実行は2026年11月17日に終了 |
通常のGemsでは、保存してきた指示や対応ファイルが自動移行されるため、すべてを一から作り直す必要はない。
ただし、Workspaceアカウントでは移行されたSkillが下書きとして作成され、利用前に確認と有効化が必要になる。
また、GeminiアプリとWorkspaceアプリのSkillsは現在同期されないため、両方で同じ業務手順を使いたい場合には別途用意する必要がある。
Opalは事情が異なる。
保存済みのワークフローファイル自体はGoogle Driveの「Opal」フォルダに残るが、Skillsへ自動変換されるわけではない。
Opalサービスと「Gems made by Labs」は2026年11月17日に終了し、それ以降は保存済みワークフローをOpal上で実行できなくなる。
つまり、データが保存されていることと、そのまま動かし続けられることは別である。
日程も、個人と組織では異なる。
個人向けGemsは2026年11月にSkillsへ移行する予定だ。
Workspaceでは11月17日にGemsがGeminiアプリの設定画面へ移るが、その時点では引き続き作成、編集、利用ができる。
BusinessとEnterpriseでは早くても2027年3月1日、Educationでは早くても6月1日にGemsの提供が終了する予定であり、すべてのアカウントで11月に一斉終了するわけではない。
Workspace向けSkillsは、即時リリースの組織では10月5日、計画的リリースの組織では10月19日から展開が始まる。
GeminiアプリでのWorkspaceユーザー向け展開は10月13日に始まり、11月中旬までの完了が予定されている。
Geminiアプリで作成したSkillとWorkspace側のSkillが同期しないため、同じ業務基準を両方で使うチームは、それぞれに作成したSkillの内容が一致しているか確認する必要がある。
Workspace Studioで自動化している場合は、さらに対応が必要になる。
新しいフローにはすでに「Ask a Gem」ステップを追加できず、既存フローに含まれる「Ask a Gem」もGemsの提供終了時に動作しなくなる予定だ。
GemsがSkillsへ自動移行されるのを待つだけでは、既存の業務フローまで自動的に置き換わるわけではない。
OpenAIもcustom GPTから「手順+ツール」の構成へ
OpenAIも、custom GPTをPluginsへ移行する計画を示している。
公式FAQによると、custom GPTの標準的な終了予定日は2026年12月11日で、延期が承認された一部のEnterpriseワークスペースでは2027年2月11日となる。
移行時には、GPTに設定していた指示が新しいPlugin内のSkillとなり、Knowledgeに登録していたファイルは参考資料としてコピーされる。
一方、外部サービスを操作するcustom actionsは自動移行されない。
必要な機能を提供するアプリや別の接続方法を用意し、移行後の利用者がそれらへアクセスする権限を持っているかも確認する必要がある。
GoogleとOpenAIでは移行の仕組みや提供形態は異なる。
それでも、「AIへの指示を移すこと」と、「その指示が必要とするツールや外部サービスへの接続を移すこと」が別の作業になる点は共通している。
AnthropicがAgent Skillsで示した、汎用的なAIエージェントに必要な業務手順をその都度与える考え方へ、GoogleやOpenAIのカスタマイズ機能も近づいている。
用途ごとに専用のAIボットを作るだけでなく、同じ会話の中で必要な手順を組み合わせて利用する方式が広がりつつある。
この変化が進めば、企業や個人が蓄積した業務知識を特定のボットから切り離し、複数のAIサービスで再利用しやすくなる。
ただし、移行が成功したかどうかを判断する基準は、同じ名前のSkillが作成されたかではない。
普段使っている依頼で適切なSkillが選ばれるか、必要な参考資料を正しく参照するか、さらに必要なツールや外部サービスまで利用できるかを実際に確認する必要がある。
文章作成のSkillなら、移行前後で同じ依頼を与えて出力を比較する。自動化を含むSkillなら、外部サービスへの接続や権限まで含めて試す。
指示と実行環境の両方がそろって初めて、これまで蓄積してきた仕事の手順を、新しいAI環境でも引き続き利用できる。



