Googleは2026年11月3日、K-12の生徒アカウントについて、Gemini、Gemini Notebook、Gemini in Classroom、Google検索を、学校管理者が明示的に許可するまで無効にする方針を発表した。8月10日にGoogle Classroom内のGeminiタブを既定で有効化する展開を始めてから、わずか85日後の方針転換となる。ただし、Googleの教育部門バイスプレジデントであるChris Phillipsは、検索とAIが深く統合されているため、AIの利用を全面的に禁止する学校ではGoogle検索も利用できなくなると説明している。今回の変更によって学校側の管理権限は強化されるものの、Google検索については、AI機能を受け入れるか検索自体を使わないかという二者択一に近い状況が残る可能性がある。
Geminiの既定オンから85日後、Googleが方針転換
Googleは2026年8月4日、Google Workspace Updatesで、8月10日からGemini in ClassroomをK-12と高等教育の全年齢の生徒に拡大すると発表した。対象となったのは、管理者がすでにGemini in Classroomへのアクセスを許可し、さらにGeminiまたはGemini Notebookの利用を認めていた生徒だ。Classroom内のGeminiタブは既定でオンになる一方、管理者がGemini in Classroomを無効にしていた場合は、18歳未満を含むすべての生徒で引き続き利用できない仕組みだった。つまり、すべての学校でGeminiが自動的に有効化されたわけではなく、すでに関連サービスを許可していた学校で新しい機能が既定で表示される設計だった。
この変更に対して、学校管理者や子どもの安全を重視する団体から批判が上がった。Common Sense MediaのYouth AI Safety Instituteは8月17日の記事で、ニューヨーク・タイムズの8月14日付報道を引用し、複数の学校管理者が変更を実施後に知ったと伝えた。同団体は以前からGemini K-12の安全性を「High Risk(高リスク)」と評価しており、管理者の積極的な同意なしにAI機能が追加される仕組みを問題視していた。ただし、このリスク評価はCommon Sense Media独自の判断であり、Googleの見解ではない。
こうした批判を受け、Googleは11月3日、K-12の生徒アカウントで対象サービスを既定で無効化し、管理者が明示的に有効化する方式へ変更すると発表した。8月10日の展開開始から85日後だが、これは方針発表までの期間であり、新しい設定が実際に適用されるまでの期間ではない。Googleは具体的な変更内容を今後数か月以内に学校へ案内するとしており、適用開始日は公表していない。
Google検索とAIを分離できなければ、学校の選択肢は限られる
Google Workspaceの管理者は、組織部門やグループごとに各サービスの利用を許可・禁止できる。8月の更新でも、18歳未満の生徒だけを集めた組織部門を作成し、Gemini in Classroomを無効にする方法が案内されていた。ただし、既定で有効になる機能については、管理者が変更に気づいて設定を切り替えるまで生徒が利用できる可能性がある。Common Sense Mediaが問題視したのも、この仕組みだった。
11月に発表された新方針は、この順序を逆転させるものだ。管理者が明示的に許可するまで対象サービスを無効のままにするため、少なくともGeminiアプリやClassroom内のGeminiについては、学校側が導入を判断しやすくなる。一方、Google検索には別の問題が残る。検索サービスそのものにAI機能が組み込まれており、AIだけを切り離して利用できるかが明らかになっていないためだ。
TechCrunchの報道によると、Phillipsはニューヨーク・タイムズに対し、検索とAIは深く統合されていると説明した。学校がAIの利用を全面的に制限した場合、生徒はGoogle検索を利用できなくなり、学校側が利用を認めていないことを伝えるメッセージが表示されるという。この説明どおりなら、AIの利用を認めない学校は、従来のWeb検索機能まで失うことになる。各AI製品を個別に有効化できたとしても、Google検索に組み込まれたAI機能だけを無効にできなければ、学校が選べる範囲は限られる。
Common Sense Mediaも、Google検索に組み込まれたAI OverviewとAI Modeについて、保護者、学校管理者、生徒のいずれも無効化できないと指摘している。同団体は2026年7月、これらの機能を独自の評価基準で最低ランクの「Unacceptable Risk(許容できないリスク)」と判定した。ただし、これは同団体の安全性評価に基づく主張であり、AI機能が教育現場で必ず有害な結果をもたらすことを意味するものではない。今回確認した資料では、検索内のAI機能を学校管理者が個別に無効化できないという指摘に対する、Googleの具体的な反論は確認できなかった。
この問題は日本の学校にとっても無関係ではない。PISA 2025の調査結果では、日本の学校内におけるデジタル機器の利用頻度は、調査対象となったOECD加盟24か国中5位だった。授業でデジタル機器を日常的に利用する学校では、アカウントの既定設定が変わるだけでも運用への影響が生じかねない。ただし、今回のGoogleの発表では対象地域が明示されておらず、日本の学校にも同じ方針が適用されるかは確認できていない。
AIを無効にしたまま検索を使える設定が導入される可能性は?
今回の方針については、Googleが学校向けの管理機能を見直している途中である点も考慮する必要がある。公式ブログでは、具体的な変更内容を今後数か月以内に学校へ通知するとしており、検索に組み込まれたAI機能を個別に制御できる設定が追加される可能性までは否定されていない。現時点で公表されているのは基本方針であり、管理コンソールの最終的な仕様ではない。
また、Googleは教育向けAIの機能改善も進めている。11月3日には、学習内容に沿って生徒を段階的に支援する「Guided Learning」をGoogle Classroomで世界的に提供開始した。Google検索にも同様の機能を組み込み、11月後半から米国の一部の学校で試験する予定だ。生徒に答えを直接提示するのではなく、問題の理解や解決過程を支援する設計を目指しており、Googleはこうした機能によって教育現場でのAI活用を促進しようとしている。
学習効果についても、Googleは一定の根拠を示している。同社が2026年5月に公表した研究では、シエラレオネの7・8年生約1,800人を対象に8週間のランダム化比較試験を実施し、Guided Learningを利用した生徒の数学の成績が、外部で妥当性を検証された評価テストで0.26標準偏差分改善したと報告した。ただし、この研究はGoogleが協力して実施したものであり、結果を他国の学校や異なる教育環境にそのまま当てはめることはできない。また、学習効果の有無と、学校が検索内のAI機能を無効化できるかという管理上の問題は別の論点である。
今回の発表を評価するうえで注意したいのは、Googleの公式ブログが無効化の対象として「Google Search」を明記している一方、それが検索サービス全体を指すのか、検索内のAI機能を含む管理設定を指すのかについて、十分な説明がないことだ。AIを禁止した学校ではGoogle検索も利用できなくなるという解釈は、主にPhillipsの発言を伝えた報道に基づいている。Google自身も検索とAIの密接な統合を認めているとされ、Common Sense Mediaも検索内のAI機能を個別に無効化できないと指摘しているが、これらは将来の管理機能の仕様まで確定させるものではない。
今後の焦点は、Googleが学校管理者にどこまで細かな制御を認めるかだ。AI OverviewやAI Modeを無効にしたまま通常のGoogle検索を利用できる設定が追加されれば、「AIを受け入れるか、検索を諦めるか」という二者択一は解消される。 一方、AI機能とGoogle検索を切り離せないまま新方針が実施されれば、学校はAIの全面禁止と検索サービスの継続利用を両立できないことになる。11月後半に米国で始まるGuided Learningの試験に加え、今後数か月以内に公表される管理機能の仕様が、その判断材料となる。



