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Googleの「AIによる概要」で激減するWebサイトへの流入:UX調査が示す恐るべき現実

Y Kobayashi

2025年5月18日

Googleが検索結果ページに導入した「AIによる概要(AI Overview: AIO)」。このAIによる要約機能が、Webサイトへのトラフィックを劇的に減少させているという衝撃的なユーザーエクスペリエンス(UX)調査結果が明らかになった。ユーザーはAIO内で答えを得て満足し、もはや従来のようにWebサイトへのリンクをクリックしなくなる未来が訪れるのだろうか。

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UX調査によりAIによる概要がWebサイトへの訪問者を奪う現実が明らかに

「答えはリンクの先に」という検索の常識が、今、AIによって覆されようとしている。Kevin Indig氏らが実施したUX調査は、GoogleのAIOがユーザー行動に与える影響を生々しく描き出した。

調査によると、AIOが検索結果に表示された場合、デスクトップではWebサイトへの外部リンクへのクリックスルー率(CTR)が3分の2も減少し、モバイルでも約半減するという驚くべき結果が示された。これは、多くのユーザーがAIOによって提示された情報だけで満足し、さらなる情報を求めて個別のWebサイトを訪れる必要性を感じなくなっている可能性を示唆する。

さらに深刻なのは、AIO内に表示される情報源へのリンク(サイテーションリンク)ですら、ほとんどクリックされていないという事実だ。AIO内の情報源リンクへのクリック率は、デスクトップでわずか7.4%、モバイルでも19%に留まった。つまり、たとえ自社の情報がAIOに引用されたとしても、それが直接的なトラフィック増に結びつくとは限らないのだ。Webサイト運営者にとっては、まさに悪夢のようなシナリオと言えるだろう。

なお、今回のKevin Indig氏とEric van Buskirk氏による調査は、その手法においても注目に値する。この調査は、米国の英語話者69名(モバイルユーザー42名、デスクトップユーザー27名)を対象に実施された。参加者は、Google検索で8つの実際のタスク(そのうち6つがAIOを表示するクエリ)を実行するよう指示された。

調査にはUXtweakというツールが用いられ、参加者のスクリーン上の操作、スクロールの深さ、マウスクリック、そして思考プロセスを声に出して説明する「思考発話プロトコル」が詳細に記録された。収集された500以上のビデオ記録は、3人の専門アナリストによってフレームごとに丁寧にレビュー・分析され、AIO接触時のユーザー行動に関する貴重なデータが得られた。このような厳密な手法により、本調査結果の信頼性は高いものと考えられる。

なぜユーザーは「クリックしない」のか?AIOが満たす情報ニーズの罠

では、なぜユーザーはこれほどまでにクリックしなくなったのだろうか。調査は、その背景にあるユーザー心理とAIOの特性を浮き彫りにしている。

多くのユーザーは、AIOを「検索クエリに対する完全な答え」と見なしているようだ。情報を探す際のユーザー行動は、まず「その情報源は信頼できるか?」という点を確認し、次に「その内容は自分の意図に合致しているか?」という2段階のフィルタリングを経ることが一般的である。調査では、AIO内に政府機関(.gov)や教育機関(.edu)のドメイン、あるいは広く認知されたブランド名が表示されると、ユーザーは初期の信頼を寄せやすい傾向が見られた。

しかし、AIO内の情報消費行動に目を向けると、さらなる課題が見えてくる。AIOが表示された際、ユーザーのスクロール深度の中央値はわずか30%であった。これは、大半のユーザーがAIOの冒頭部分、つまり上から3分の1程度しか目を通していないことを意味する。たとえAIOが展開されて多くの情報が表示されたとしても(実際、88%のユーザーが「もっと見る」をタップしてAIOを展開した)、その全てが読まれるわけではないのだ。コンテンツ提供者にとっては、いかにAIOの冒頭部分に重要な情報を集約させ、引用されるかが死活問題となりつつある。

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検索意図で変わるAIOへの依存度:高リスク情報と若年層の動向

ただし、AIOへのユーザーの反応は一様ではない。検索する情報の性質やユーザー層によって、AIOとの向き合い方には違いが見られる。

例えば、健康や金融といった、誤った情報が生活に深刻な影響を与えかねない「YMYL(Your Money or Your Life)」領域の検索では、ユーザーはより慎重な姿勢を示す。これらの高リスクなクエリの場合、AIOのスクロール深度は平均で50%を超え、約38%のユーザーがAIOに表示された情報を検証するために、他の情報源(従来のオーガニック検索結果や特定のウェブサイトなど)を参照する傾向が見られた。これは、専門性の高い情報を提供するパブリッシャーにとっては、依然としてユーザーにリーチする機会が残されていることを示唆する。

一方で、クーポンコードの検索のような比較的リスクの低い情報探索では、ユーザーはAIOの回答に満足しやすいようだ。

また、ユーザーの年齢層やデジタルリテラシーもAIOへの態度に影響を与える。特に25歳から34歳の比較的若いユーザー層や、デジタルリテラシーが高いとされる層は、AIOを最終的な回答と見なす傾向が強く、約半数がAIOの提示する情報だけで検索行動を終えてしまうという。

商業的な検索クエリ(例えば、特定の商品比較や購入推奨など)においては、AIOは参考にされるものの、Amazonのような大手Eコマースプラットフォームや、ユーザーレビュー、星評価といった視覚的で信頼性の高い情報が依然として重視される傾向にあった。この領域では、AIOが直接的な購買行動を大きく左右するまでには至っていないようだ。

SEOの終焉か、進化か?「クリック数」から「AIO内での存在感」への大転換

AIOの台頭は、検索エンジン最適化(SEO)とデジタルマーケティングのあり方に根本的な変革を迫っている。従来のウェブサイトへのクリック数や検索順位といった指標だけでは、もはやマーケティングの成果を正しく評価できない時代が到来しつつあるのかもしれない。

これからのSEOでは、AIO内で自社ブランドや関連情報がどれだけ「言及」され、「引用」されるか、といった「ビジビリティ(可視性)」シェア・オブ・ボイス(SOV)が新たな重要業績評価指標(KPI)となる可能性がある。検索結果ページでの「ランキング争い」から、AIOという新たなステージでの「存在感の戦い」へと、競争の焦点がシフトしているのである。

この変化は、特に広告収入やアフィリエイトモデルに依存するパブリッシャーにとっては深刻な脅威である。Googleは「AI Mode」と呼ばれる、さらに進化したAI検索機能の開発も進めており、ユーザーを自社のエコシステム内に可能な限り留めようとする戦略は今後も続くと考えられる。これは、Google、Meta、そして将来的にはAppleといった巨大プラットフォームへのさらなるパワー集中を招く可能性も否定できない。

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AIO時代を生き抜くSEO新戦略

この大きな変化の波を前に、Webサイト運営者やマーケターは座して死を待つしかないのだろうか。決してそうではないだろう。AIO時代を生き抜くための具体的な戦略として、以下に提言する。

  1. AIOファーストのコンテンツ設計を意識する
    AIOは、情報を簡潔かつ要点を絞って提示する傾向がある。このAIの特性を理解し、コンテンツを作成する際には、最も重要な情報を冒頭部分に凝縮し、明確かつ簡潔に記述することが求められるだろう。「何が(What)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」といったユーザーの問いに直接的に、そして分かりやすく答えるQ&A形式のコンテンツや、要点を整理した箇条書き、簡潔な定義などは、AIOに引用されやすいと考えられる。冗長な表現を避け、AIが「答え」として抽出しやすい形を意識することが重要である。
  2. E-E-A-Tの徹底強化とブランドオーソリティの確立
    今回のUX調査でも明らかになったように、ユーザーは検索結果に対してまず「信頼性」を求める。Googleがコンテンツ評価の重要な指針としているE-E-A-T(Experience:経験、Expertise:専門性、Authoritativeness:権威性、Trustworthiness:信頼性)をこれまで以上に高め、自社が発信する情報が特定の分野において揺るぎないオーソリティを持つことを示す必要がある。AIO内でブランド名やサイト名が言及された際、ユーザーが「ああ、この情報源なら信頼できる」と即座に認識できるようなブランド力を構築することが、間接的にAIO内での優位性につながる可能性がある。日々の質の高い情報発信の積み重ねが、AI時代においてこそ真価を発揮するのだ。
  3. 構造化データのフル活用でAIとの対話を円滑に
    AIがWebページのコンテンツを正確に理解し、必要な情報を効率的に抽出できるようにするためには、構造化データマークアップの重要性がますます高まる。FAQPageスキーマ、HowToスキーマ、Articleスキーマ、あるいは商品情報であればProductスキーマなど、コンテンツの種類に応じた適切な構造化データを実装することで、AIにとって「理解しやすい」情報提供を心がけるべきである。これは、AIOだけでなく、Googleの他のリッチリザルト(強調スニペットなど)に表示される可能性も高める、一石二鳥の施策と言えるだろう。
  4. 「検証ソース」としての価値提供とコミュニティプラットフォームとの連携
    ユーザーはAIOの情報だけでは確信が持てない場合や、より多様な意見を求める際に、RedditやYouTube、専門フォーラムといったコミュニティプラットフォームで「生の声」や「実際の使用例」を探す傾向が調査で示された。自社Webサイトが直接AIOに引用されなくても、これらのプラットフォーム上で信頼できる情報源として認知され、ユーザーが情報を検証する過程で参照されるという道もある。自社コンテンツの質を高めることはもちろん、これらのコミュニティとの良好な関係構築や、そこでの積極的な情報発信も、間接的なトラフィック獲得やブランド認知向上に貢献するだろう。

変化への適応こそが、ウェブの未来を拓く鍵

GoogleのAIによる概要の登場は、検索という行為、そしてWeb全体の情報流通のあり方を根本から変容させる可能性を秘めている。これは一部のWebサイト運営者にとっては危機であると同時に、新たな価値創造の機会であるとも捉えられる。

重要なのは、この変化を恐れるのではなく、ユーザーが本質的に何を求めているのかを常に問い続け、そのニーズに応え続けることである。そして、AIという新たなテクノロジーとどのように共存し、その力をどう活用していくのかを模索すること。それが、不確実性が増すこれからのウェブの世界で、私たちが進むべき道と言えるのではないだろうか。

AIOの進化はまだ緒に就いたばかりである。今後、さらに高度なパーソナライゼーションが進んだり、テキストだけでなく画像や動画を組み合わせたマルチモーダルな情報提示へと発展することも十分に考えられる。Webサイト運営者やマーケターは、この大きな変化の潮流を常に注視し、柔軟かつ迅速に対応戦略を練り、実行し続ける必要がある。今回のUX調査が明確に示したように、ユーザーの行動は、すでに静かに、しかし確実に変わり始めているのだから。


Sources

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