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Huawei、PC市場に”独自路線”で殴り込みか? 新型MateBook Proに自社製Kirin X90チップとHarmonyOS 5搭載でWintelに対抗

Y Kobayashi

2025年5月10日

長年Intel製CPUとMicrosoftのWindows OSに支えられてきたPC市場の勢力図が、ついに大きく塗り替わる日が来るのかもしれない。スマートフォンで独自路線を突き進む中国Huaweiが、自社開発のArmベースプロセッサ「Kirin X90」と独自オペレーティングシステム「HarmonyOS 5」を搭載した新型ノートPC「MateBook Pro」を発表する可能性が濃厚になってきたのだ。これは米国の厳しい制裁下で独自の技術エコシステム構築を悲願としてきたHuaweiにとって、PC業界におけるAppleの成功モデルを追随する野心的な一手と言えるだろう。

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Huawei、PC戦略の大転換か – 独自OS・チップ搭載の「MateBook Pro」登場の衝撃

HuaweiがPC市場で大きな賭けに出ようとしている。同社が近く発表すると見られる新型ノートPC「MateBook Pro」は、その心臓部であるプロセッサと、ユーザーが直接触れるオペレーティングシステム(OS)の両方において、長年業界標準であったIntelやMicrosoftの技術から袂を分かつ可能性が報じられているのだ。

デザインに見る「決別」の意思 – HarmonyOSキーとAIアシスタントキー

リーク情報によれば、新型MateBook Proのデザインは、2024年モデルの「MateBook X Pro」を踏襲しつつも、決定的な違いが見られるという。それはキーボードのレイアウトだ。従来のWindowsキーの代わりにHarmonyOSのロゴがあしらわれたキーが配置され、さらに右側のAltキーの隣には、HarmonyOSに統合されたAIアシスタントを起動するための専用ボタンが搭載されるとのこと。これは、Microsoftが推進する「Copilot+ PC」への対抗意識の表れとも見て取れる。まさに、ハードウェアレベルでの「脱Windows」を象徴する変更と言えるだろう。

Windows・macOSに並ぶ第三の道「HarmonyOS 5」とは?

この新型MateBook Proで稼働するとされるのが、Huaweiが独自に開発を進めてきた「HarmonyOS 5」だ。スマートフォンやタブレット、ウェアラブルデバイス向けに展開されてきたHarmonyOSが、ついに本格的なPC向けOSとしてその姿を現すことになる。Huaweiは、WindowsとmacOSが支配する既存のPC市場に、第三の選択肢を提示しようとしているのだ。同社はこのOSについて、「LinuxやAndroidから独立したもの」と説明しており、その独自性を強調している。 もしこれが言葉通りのものであれば、その技術的野心は相当なものだ。

ベールを脱ぐ国産頭脳「Kirin X90」– その実力と野望

そして、このHarmonyOS 5を動かす頭脳となるのが、Huawei傘下のHiSiliconが設計したとされる新型ArmベースSoC(System-on-a-Chip)「Kirin X90」だ。米国の制裁により、外部からの先端半導体調達が著しく困難になったHuaweiにとって、この自社製チップはまさに生命線であり、技術的独立への強い意志の表れと言える。

10コア/20スレッドの野心的構成 – 「Taishan Vシリーズ」アーキテクチャの可能性

著名なリーカーデジタルチャットステーション氏などの情報によると、Kirin X90は10個のCPUコアを搭載し、ハイパースレッディングにより合計20スレッドの処理が可能になるという。 その構成は「4+4+2」とされ、4つのプライムコアにHuawei独自の「Taishan V121」アーキテクチャ、4つのパフォーマンスコアに「Taishan V120」、そして2つの効率コアにはArmの標準的な「Cortex-A510」が採用される可能性がある。 Taishan V120アーキテクチャは、サーバー向けチップ(Kunpeng 930など)において、シングルコア性能でAMDのZen 3に匹敵するとも報じられており、PC向けとしてのポテンシャルに期待が集まる。

「Charlotte Pro」が示唆する、スマホ用SoCからの進化

Kirin X90のコードネームは「Charlotte Pro」とされ、Huaweiの最新スマートフォン「Pura 70」シリーズに搭載されているKirin 9010(コードネーム「Charlotte」)の発展形であることが示唆されている。 スマートフォン用チップで培った技術をベースに、PC向けのパフォーマンス向上を図った設計であると考えられる。まさに、AppleがiPhone用のAシリーズチップからMac用のMシリーズチップを生み出した戦略を彷彿とさせる動きだ。

GPU「Maleoon 920」、高速メモリ、潤沢なストレージ – リーク情報から見える全貌

グラフィックス処理を担うGPUについては、Kirin 9010に搭載されているMaleoon 910から強化された「Maleoon 920」が採用されるとの噂がある。 さらに、最大32GBのLPDDR5-6400 RAM、2TBの内蔵ストレージ、100GB/sの帯域幅、そして3つのUSB-4ポートをサポートする可能性も報じられており、もし実現すれば、ハイエンドノートPCとして十分なスペックを備えることになる。また、中国独自の暗号化基準であるSM3およびSM4に対応している点も特徴的で、セキュリティ面での配慮も伺える。

製造プロセスの壁 – SMIC 7nmは足かせとなるか?

一方で懸念材料もある。Kirin X90の製造は、中国の半導体ファウンドリSMICが担うと見られているが、そのプロセスは依然として7nm世代に留まる可能性が高い。 TSMCやSamsungが3nmプロセスの量産を進める中、製造プロセスの微細化で後れを取っている点は、性能や消費電力効率の面で不利に働く可能性がある。この技術的制約の中で、Huaweiがどこまで性能を引き出せるかが注目される。

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なぜHuaweiは「完全自社製PC」という困難な道を選ぶのか?

IntelやMicrosoftという巨大なエコシステムから離れ、独自のOSとチップでPCを開発するという道は、決して平坦ではない。それでもHuaweiがこの茨の道を選んだ背景には、複雑な事情と明確な戦略が存在する。

米国による制裁が生んだ「必然」と「覚悟」

最大の要因は、2019年以降続く米国による厳しい輸出規制だ。これにより、Huaweiは米国の技術を用いた先端半導体の調達や、GoogleのAndroid OS(GMS付き)の利用が大幅に制限された。当初はスマートフォン事業が大きな打撃を受けたが、この逆境が、結果的にHuaweiの技術的自立への渇望を加速させたと言えるだろう。もはや他国の技術に依存するのではなく、自らの手で未来を切り拓くという「覚悟」が、この大胆なPC戦略の根底にある。

「Appleシリコン」の成功モデルを追う – 垂直統合の光と影

ソフトウェアとハ​​ードウェアを自社で統合開発する「垂直統合」モデルは、AppleがiPhoneやMacで大きな成功を収めている。OSとチップを最適化することで、高いパフォーマンスと電力効率、そして独自のユーザー体験を提供できるメリットは大きい。Huaweiもまた、この「Appleシリコン」の成功に倣い、自社製品群全体でのシームレスな連携とエコシステムの強化を目指していると考えられる。 しかし、その道は容易ではなく、長年Windowsエコシステムに慣れ親しんだユーザーや開発者を惹きつけるだけの魅力を示せるかが鍵となる。

中国市場でのアドバンテージと、グローバル展開へのハードル

中国国内においては、「国産技術」への期待感や政府からの後押しもあり、HarmonyOS搭載PCはある程度の市場シェアを獲得できる可能性がある。特に政府機関や国営企業などでは、セキュリティの観点から国産技術へのシフトが進むことも考えられるだろう。しかし、グローバル市場で成功を収めるには、多くの課題をクリアする必要がある。

「HarmonyOSエコシステム」成功への道筋 – アプリ互換性の壁をどう越えるか

どんなに優れたハードウェアとOSを用意しても、ユーザーが求めるアプリケーションが動作しなければ、その魅力は半減してしまう。HarmonyOS搭載PCが直面する最大の課題は、まさにこのソフトウェア・エコシステムの構築だ。

最大の課題はソフトウェア – 既存アプリの移植は進むか?

長年Windows向けに開発されてきた膨大な数のアプリケーション資産を、HarmonyOS上でどのように利用可能にするのか。これが最大の焦点となる。互換レイヤー(エミュレーターのようなもの)を用意することで、ある程度のWindowsアプリを実行できる可能性はあるが、ネイティブ動作に比べてパフォーマンスが低下したり、互換性の問題が発生したりするリスクは避けられない。

開発者支援と独自アプリの充実が鍵

真に魅力的なプラットフォームとなるためには、開発者が積極的にHarmonyOS向けのアプリケーションを開発するよう促す必要がある。そのためには、開発ツールの提供、技術サポート、そして収益化の仕組みなど、開発者コミュニティへの手厚い支援が不可欠だ。また、中国国内で人気の高いアプリケーションを中心に、HarmonyOSネイティブアプリを充実させていくことも重要となるだろう。Huaweiがどこまで本気でこのエコシステム構築に取り組むのか、その手腕が問われる。

Huaweiの挑戦はPC市場のゲームチェンジャーとなるか – 5月19日、その第一歩が示される

Huaweiが5月19日にも開催すると噂されるイベントで、この新型MateBook ProとKirin X90、そしてHarmonyOS 5に関する詳細が明らかになる可能性がある。 もし本当にIntelとMicrosoftへの依存を断ち切った「完全自社製PC」が登場するとなれば、それは単なる新製品発表以上の意味を持つ。

米国の制裁という逆境をバネに、独自の技術で活路を見出そうとするHuaweiの意地。そして、PC市場の既存秩序に風穴を開けようとする野心的な試み。この挑戦が、Appleに続く第二の「垂直統合型PCメーカー」の成功例となるのか、あるいは壮大な実験に終わるのか。その答えが出るまでにはまだ時間がかかるだろう。しかし、確かなことは、HuaweiがPC市場に新たな競争と選択肢をもたらそうとしているという事実だ。その第一歩が、間もなく示されようとしているのだ。


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