Intelの最新CPU「Arrow Lake」(Core Ultra 200Sシリーズ)を搭載した環境で、最新規格であるPCIe 5.0対応のSSDが、本来持つべき性能を十分に発揮できないという衝撃的なテスト結果が明らかになった。最大で約14%にも達するシーケンシャルリード速度の低下は、一体なぜ発生しているのだろうか?
最新CPUに潜むボトルネック:Arrow Lake環境でSSD速度が最大14%低下の衝撃
この問題が最初に明るみに出たのは、ストレージ専門メディア「The SSD Review」による詳細な検証テストによってである。 同メディアは、Samsung 9100 ProやMicron 4600といったPCIe 5.0対応の高性能SSDを、Intelの最新チップセットZ890を搭載したマザーボード(Arrow Lake CPU対応)と、従来のZ790チップセット搭載マザーボード(Raptor Lake CPU対応)とで比較テストを実施した。
その結果は驚くべきものであった。Z790環境では、これらのSSDが公称値に近い14GB/s超のシーケンシャルリード性能を叩き出したのに対し、Z890環境では12GB/s程度まで速度が低下するという現象が確認されたのだ。 これは、パーセンテージにして約14%もの性能ダウンであり、最新プラットフォームに期待を寄せるユーザーにとっては看過できない数値と言える。
The SSD Reviewは、この問題が特定のSSDやマザーボードメーカーに限定されたものではないことも明らかにしている。複数のZ890マザーボードで同様の結果が得られ、他のレビュアーやユーザーからも同様の報告が上がっていると言うのだ。
さらに、The SSD Reviewは、マザーボード上のM.2スロットだけでなく、PCIeアドインカード経由でSSDを接続した場合でも、ランダムアクセス性能の低下が見られることを報告している。 これは、問題の根源がCPU側のPCIeレーン制御にある可能性を強く示唆する物と言えるだろう。
原因はCPUの「I/Oタイル」?Intelとマザーボードメーカーの見解
この不可解なパフォーマンス低下の原因について、The SSD ReviewがマザーボードメーカーであるASUSとASRockに問い合わせたところ、両社とも社内テストで同様の現象を再現できたと言う。そして、その原因として指摘されたのが、Intel Core Ultra 200シリーズCPUに採用されている「I/Oタイル(IOE Tile / I/O Extender)」のレイテンシ(遅延)の大きさであった。 具体的には、CPUのM.2スロットに接続されるPCIeレーンは、このI/Oタイルを経由しており、SoCタイルから直接供給されるPCIeレーン(主にグラフィックボード用)と比較してレイテンシが大きいことが影響しているとのことだ。
Intel自身も、The SSD Reviewの問い合わせに対し、この問題を事実上認めるコメントを発表した。Intelによると、「Intel Core Ultra 200SシリーズプロセッサのPCIeレーン21から24(Gen5ルートポート)は、PCIeレーン1から16(Gen5ルートポート)と比較して、より長いdie-to-dieデータパスに起因するレイテンシ増加を示す可能性がある」とのことである。
IntelはMeteor Lakeから、従来のモノリシックなCPU設計から、複数の小さなチップ(タイル)を組み合わせる「タイルベース(チップレット)設計」へと大きく舵を切った。Arrow Lakeもこの設計思想を踏襲している。このタイルベース設計は、製造効率の向上や機能ごとの最適化といったメリットがある一方で、タイル間の通信にはどうしても一定の遅延が生じる。今回のSSDパフォーマンス低下は、まさにこのタイル間通信のレイテンシが、特に高速なデータ転送を要求するPCIe 5.0 SSDにおいてボトルネックとなってしまっているようだ。
ユーザーと市場への影響は計り知れない
最大14%というSSDの性能低下は、特に最新・最速の環境を求めるエンスージアスト層にとっては大きな失望と言える。 彼らは、高価なPCIe 5.0 SSDと最新のArrow Lakeプラットフォームに投資することで、最高のパフォーマンスを期待している。しかし、現状ではその投資が十分に報われない可能性があるのだ。The SSD Reviewは、「14GB/sを実現できるGen 5 SSDが、新しいIntel Core Ultra 200シリーズマザーボードでその速度に達しないために返品されたケースがどれほどあるのだろうか」と懸念を示している。
この問題は、Intelのブランドイメージにも影響を与えかねない。そもそも、Arrow Lake CPUが前世代のRaptor Lakeと比較して総合的な性能で劣るケースがあることや、AMDのCPU販売が好調であることにもあり、Intelは既に厳しい状況に置かれている。今回のSSDパフォーマンス問題は、そうしたIntelへの逆風をさらに強める要因となるかもしれない。
PCWorldは、PCIe 5.0 SSDはまだ高価であり、コストパフォーマンスを考えればPCIe 4.0 SSDが依然として魅力的であるとしつつも、最新技術をサポートするPCでのみ意味を成すPCIe 5.0 SSDの性能がスポイルされる現状は、特に性能を追い求めるエンスージアストからすればは看過できない問題だろう。
ファームウェアで解決可能か?Intelの次の一手は
現時点で、Intelからこの問題に対する具体的な修正策や、ファームウェアアップデートによる改善の見通しは示されていない。だが、そもそもの原因が原因なだけに、CPUデザインの大幅な再調整なしに、この高速ストレージドライブの問題を修正できるとも思えない。
もし根本的な解決が困難であるとすれば、ユーザーはArrow LakeプラットフォームでPCIe 5.0 SSDの性能を最大限に引き出すことを諦めるか、あるいは競合プラットフォームへの移行を検討する必要があるだろう。
Intelは、Meteor LakeやArrow Lakeで採用したタイルベース設計によって、CPUアーキテクチャの新たな地平を切り開こうとしている。しかし、その野心的な試みは、今回のような予期せぬ課題を生み出す可能性もはらんでいる。重要なのは、これらの課題に迅速かつ誠実に対応し、ユーザーの信頼を回復することであろう。
技術革新の陰に潜む課題と、ユーザーが賢明な選択をするために
Intel Arrow Lake環境下におけるPCIe 5.0 SSDの性能低下問題は、最先端技術の導入がいかに複雑で、困難を伴うものであるかを改めて浮き彫りにした。チップレットという革新的な設計思想は、将来的なCPUの可能性を大きく広げる一方で、現状では特定の条件下でパフォーマンスのボトルネックを生み出すという皮肉な結果を招いている。
この問題は、単に「SSDが少し遅くなる」という話に留まらない。最新技術への投資、メーカーへの信頼、そして今後のPCパーツ選びの基準にも影響を与える可能性がある。我々ユーザーは、こうした情報を多角的に吟味し、自身のニーズや予算と照らし合わせながら、賢明な製品選択を行う必要がありそうだ。
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