2026年1月22日に行われたIntelの2025年第4四半期決算説明会は、同社にとって極めて重要な転換点を示唆するものとなった。Lip-Bu Tan CEOとDavid Zinsner CFOが語った内容には、かつての「拡大路線」から、規律ある「実行と収益性」へと舵を切った、新生Intelの冷徹なリアリズムと新たな勝算が明確に刻まれていたからだ。
特に注目すべきは、次世代プロセス「Intel 18A」「Intel 14A」の具体的な進捗と、顧客獲得に向けたタイムライン、そしてシリコン製造(前工程)をも凌ぐ勢いで成長する「先進パッケージング(後工程)」の爆発的な需要である。
14A/18Aプロセスの現在地:空想から「製品」へ
長らくロードマップ上の存在であった次世代プロセスが、ついに物理的な実体として市場に投入され、あるいは顧客の手元で検証され始めている。
Intel 18A:Panther Lakeの出荷と歩留まりの現実
最大のトピックは、Intel 18Aプロセスで製造されたクライアント向け製品「Core Ultra Series 3(コードネーム:Panther Lake)」がついに出荷を開始したことだ。Lip-Bu Tan CEOは、これが「米国本土で開発・製造された最先端の半導体プロセス」であり、ゲート・オール・アラウンド(GAA)トランジスタと裏面電源供給技術(PowerVia)を採用した世界初の商用製品であることを強調した。
しかし、ここで注目すべきは、Tan CEOが歩留まり(Yield)に関して極めて率直な発言をした点である。「歩留まりは社内計画通りだが、私が望むレベルにはまだ達していない」としつつも、「月次で7〜8%の歩留まり改善が見られている」と具体的な数値を挙げた。これは、量産立ち上げ初期特有の苦しみを味わいつつも、エンジニアリングチームが着実に問題を解決していることを示唆している。
Intel 14A:顧客コミットメントは「2026年後半」が勝負
さらに先の世代となる「Intel 14A」に関しては、現在2社の潜在的な外部顧客がテストチップの設計を行っていることが明らかになった。
- PDKの進捗: 2026年第1四半期中に「PDK(Process Design Kit)0.5」がリリースされる予定。これは顧客が本格的な設計検証を行うための重要なマイルストーンである。
- High-NA EUVの導入: 14AではASMLの次世代露光装置「High-NA EUV」が導入されることが確認された。
- コミットメントの時期: 外部顧客からの確定受注は、2026年後半から2027年前半にかけて行われる見通しだ。
- 量産時期: 本格的な量産(Volume Production)は2028年をターゲットとしている。
ここで重要なのは、Intelの設備投資(CapEx)戦略の劇的な変化だ。
戦略的大転換:「顧客なき投資」の凍結
過去のIntelは「作れば売れる」という前提のもと、先行して巨大な製造キャパシティを構築する傾向があった。しかし、Zinsner CFOの発言は、この方針が完全に撤回されたことを示している。
14Aへの設備投資は「受注後」に限定
Zinsner CFOは、「顧客が確保されるまでは、14Aの量産キャパシティに対する設備投資を行わない」と明言した。現在は研究開発(R&D)や技術開発(TD)への投資に留め、実際に工場の床を埋める高額な製造装置の購入は、顧客からの確約(サイン)を得てから「ロックを解除する」というアプローチを採用している。
この「鶏が先か、卵が先か」の問題において、Intelは明確に「顧客(卵)が先」と定義した。これは財務的な健全性を守るための防衛策であると同時に、ファウンドリビジネスにおいて「TSMCのような受託製造モデル」に真剣に適応しようとする姿勢の表れである。2026年の設備投資計画が「横ばいから微減」とされた背景には、この厳格な規律がある。
「トロイの木馬」としての先進パッケージング
最先端プロセスの立ち上がりが時間を要する一方で、即戦力として収益に貢献し始めているのが「先進パッケージング」分野だ。実は、こここそがIntel Foundryの隠れた成長エンジンとなっている。
顧客が「前払い」するほどの供給不足
AIチップの巨大化・複雑化に伴い、複数のチップを繋ぎ合わせるパッケージング技術(CoWoSやEMIBなど)がボトルネックとなっている。Intelの独自技術である「EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)」およびその上位版「EMIB-T」に対し、顧客からの需要が殺到している。
驚くべきは、「供給不足を懸念した顧客が、生産枠を確保するために前払いを行っている」という事実だ。Zinsner CFOは、パッケージング単体での収益機会が「10億ドル(約1500億円)を大きく超える」規模になりつつあると語った。
ファウンドリビジネスへの入り口
これは単なるパッケージングの売上以上の意味を持つ。先進パッケージングでIntelのエコシステムに入った顧客は、将来的にチップそのもの(前工程)の製造をIntel 18Aや14Aに委託する可能性が高まるからだ。パッケージングは、信頼関係を構築し、Intelの製造能力を証明するための「トロイの木馬」として機能している。
供給制約と「サーバー優先」の冷徹な判断
足元の業績に目を向けると、2025年第4四半期の売上高は137億ドルとガイダンスを上回ったものの、2026年第1四半期に向けては深刻な供給制約に直面していることが浮き彫りになった。
在庫バッファの枯渇
Intelはこれまで、社内在庫を取り崩すことで需要に対応してきたが、Zinsner CFOによれば「バッファ在庫は枯渇した」状態にある。特に完成品在庫はピーク時の40%まで減少しており、文字通り「自転車操業」での供給管理を余儀なくされている。
クライアント(PC)よりデータセンターを優先
この制約下で、Intelは明確な優先順位を打ち出した。収益性が高く、AIインフラ需要で急成長している「データセンター向け(DCAI)」へのウェハー割り当てを優先し、PC向け(CCG)の供給を絞るという判断だ。
この結果、2026年第1四半期のCCG売上はDCAIよりも大きな減少が見込まれる。しかし、これは「売れるものを売る」のではなく「利益が出るものを売る」という、株主価値を最大化するための戦略的なリソース配分であると評価できる。
Lip-Bu Tan体制がもたらした「エンジニアリングと経営の融合」
今回の決算発表から読み取れる最大の変化は、Lip-Bu Tan CEOの影響力である。Cadence Design SystemsのCEOとしてEDA(電子設計自動化)業界を率い、半導体設計と製造の架け橋となってきた彼の経験が、Intelの体質改善に直結している。
「希望的観測」の排除
前任者の時代に見られたような「野心的な目標を掲げ、後から辻褄を合わせる」スタイルは影を潜めた。代わりに、「歩留まりの改善率」「PDKのバージョン」「顧客のコミットメント時期」といった、エンジニアリングの現場に即した具体的なKPIが経営の言語として語られている。
14Aの勝算とリスク
14Aプロセスが成功するか否かは、2026年後半の顧客獲得にかかっている。IntelはPDKの標準化やIPポートフォリオの拡充を進めているが、競合他社(TSMC)も2nm、1.6nmへと微細化を進めている。Intelの勝機は、High-NA EUVによる微細化の先行メリットを、コスト競争力のある形で提供できるかにかかっている。
もし2026年後半に主要顧客(NVIDIAやAppleなど)からのコミットメントが得られなければ、14Aへの投資凍結が続き、ファウンドリ事業の縮小を余儀なくされるリスクも残る。しかし、無謀な投資でキャッシュを燃やすリスクを回避している点において、現在のIntelは極めて理性的だ。
2026年は「忍耐と準備」の年
Intelの2026年は、派手なV字回復の年ではなく、2027年以降の飛躍に向けた「地固め」の年となるだろう。
- 供給制約の解消: 第2四半期以降、徐々に改善する見込み。
- 18Aの量産拡大: Panther Lakeの立ち上げと歩留まり向上が最優先。
- 14Aの顧客獲得: 年後半の「契約獲得」が最大の株価カタリストとなる。
投資家や業界関係者は、表面的な売上の増減よりも、「先進パッケージングの売上比率」と「14Aに関する外部顧客のアナウンス」を注視すべきである。新生Intelは、かつての巨人としてのプライドを捨て、実利を取る「普通の、しかし極めて強力な」半導体メーカーへと脱皮しようとしている。
Sources
- The Motley Fool: Intel (INTC) Q4 2025 Earnings Call Transcript