英スコットランドのSingular Photonicsは2026年9月10日、単一光子アバランシェダイオード(SPAD)を使う画像センサー「Litavis」を発表した。256×256画素で光子数を連続して数えながら、64×64の単位では光子が届いた時刻も記録する。同社は、画像、タイミング、ヒストグラム、光子統計を画素内処理で一つのチップに統合した製品として「世界初」を掲げる。ただし、SPADや画素内の時間デジタル変換器(TDC)そのものは以前から存在する。何が“新しいのか”を判断するには、二つの画素配列が何を同時に出せるのかを分けて見る必要がある。

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65,536個を4,096の時間計測単位へ束ねる

Litavisの受光面には、10.17µm間隔で256×256個のSPADが並ぶ。各SPADは降伏電圧を超える逆バイアスで動き、一つの光子が生む電荷を雪崩のように増幅してデジタルパルスへ変える。一定時間に数えたパルスが光の強さを表し、パルスが届いた時刻は距離や蛍光寿命の推定に使える。

時間を測る側では、隣り合う4×4個のSPADを一つのマクロ画素にまとめる。256×256のSPADは65,536個、64×64のマクロ画素は4,096個で、1マクロ画素あたり16個のSPADをまとめる構成である。これはデータシートの配列寸法から求められる。したがって、強度画像は256×256で得られるが、到達時刻から作る深度像や寿命像の格子は64×64になる。時間情報まで同じ解像度で出るわけではない。

それでも、65,536個のSPADによる連続的な光子計数と、4,096個のマクロ画素による低レートの時刻付きイベントを並行して出せる点には実用上の意味がある。従来なら測定条件に応じて検出器や読み出し系を替える場面で、同じ受光面から強度と時刻の両方を取り出せるからだ。3.5mm角のセンサーは65nm40nmのCMOS工程を組み合わせた3D積層の裏面照射型で、受光層と処理層を分けている。受光面積とデジタル回路が同じ平面を奪い合う問題を和らげる設計だが、層ごとの工程や歩留まり、製造費は明らかにされていない。

37psはカメラ全体の精度ではない

データシートが示す約37psは、TDCが時間を区切る一目盛りの幅である。1psは1兆分の1秒なので細かな数字に見えるが、これをLiDARの距離精度や蛍光寿命測定の精度へそのまま置き換えることはできない。光源のパルス幅、検出器の揺らぎ、読み出し回路などを含めた応答は、別の指標で確かめる必要がある。

37psはTDCの時間ビン幅であり、センサー全体の応答幅ではない。データシートの平均IRF(半値全幅)は640nmで224ps、450nmで1145psとされる。IRFは短い光パルスを入れたときに観測される時間応答の広がりである。ただし同資料は、測定光源、バイアス、温度、統計処理の詳細を示しておらず、二つの掲載値の差を波長だけに帰すことはできない。つまり37psという刻みは時間軸を細かく記録する能力を示すが、個々の光子の到着を37psの幅で再現できるという保証ではない。

この区別は先行研究にも表れている。Singular Photonicsの共同創業者Robert Henderson氏らが2019年にIEEE Journal of Solid-State Circuitsで発表した192×128画素のSPADセンサーは、画素内12bit TDCを33〜120ps刻みで動かした一方、平均IRFは219psだった。画素内TDCや数十psの時間刻みは今回初めて登場した技術ではない。Litavisの「世界初」は、複数の計測方式を同時に一チップへまとめたという同社の限定付き主張として読むべきである。

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単一光子感度にも明るさの適正範囲がある

Litavisの光子検出効率(PDE)は、785nm、基板バイアス21V、20℃という条件で47%とされる。PDEは入射光子のうち検出パルスになった割合であり、全波長や全動作条件で47%という意味ではない。マイクロレンズ使用時のフィルファクター100%も、画素表面で光を有効な受光部へ導く幾何学上の仕様だ。入った光子を100%検出することを示してはいない。

SPADは一度反応すると、雪崩を止めて再び電圧をかけるまで次の光子を受けられない。Litavisのデッドタイムは4.3nsである。暗すぎる場面では光子数が足りず信号対雑音比が下がり、明るすぎる場面では休止中の光子を数え落とす。時刻ヒストグラムでは早く届いた光子が過大に記録される「パイルアップ」も起きうる。単一光子まで見えることと、暗所から強光まで直線的に測れることは同義ではない。

光がなくても生じる暗計数率(DCR)は、18.8V、20℃で約60counts/sと記載されている。しかし、平均か中央値か、SPAD単位か別の集計単位かはデータシートから判別できない。このため、異なる条件で測った他のセンサーとの性能順位には使えない。クロストーク、アフターパルス、画素間のばらつきも未公表であり、微弱光を長時間積算する用途では評価が残る。

一台をLiDARから顕微鏡へ変えるソフトウェア設計

Litavisは光子計数、HDR、時間相関単一光子計数(TCSPC)、複数イベント・ヒストグラム、時間ゲートをソフトウェアで切り替える。TCSPCはパルス光を何度も照射し、光子の到着時刻を積み上げてヒストグラムを作る方法だ。LiDARなら往復時間を距離へ、蛍光寿命イメージング(FLIM)なら発光の減衰を寿命へ変換する。時間ゲートは特定の時間帯だけを選び、時間分解ラマン分光などで遅れて届く蛍光背景を抑える。

TCSPCの計測範囲は約1µsで15bit、複数イベント・ヒストグラムは画素ごとに8または16ビンを持つ。後者のビン幅は300psから614.4ns、Timing Rangeは最大9.8msと別々に記載される。データシートはビン数、ビン幅、最大範囲の関係を説明していないため、9.8msを16ビンと614.4nsの積から導いた値としては扱えない。通常の光子計数は256×256画素、14bitだが、HDRは128×256画素、28bitとなり、水平方向の解像度を半分にして計数範囲を広げる。

画素内で計数やヒストグラムを作れば、すべての光子イベントを外部へ流す必要がなくなり、データ量を抑えられる可能性がある。同社はGUIに加え、C言語の外部関数インターフェースを通じた汎用APIとPython用SDKを用意する。研究者が一台を複数の実験へ組み替えやすくする狙いが見える。ただし、外部転送量、処理遅延、最大フレームレート、最大イベントレート、消費電力の比較値は公開されておらず、帯域や処理負荷の削減効果はまだ検証できない。

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製品発表後も採用判断に足りない数字

完成カメラは102×145×85.25mmで、12V電源、USB-C、工場設定可能な4個のSMA同期端子を備える。Singular Photonicsは企業と研究機関から「相当量」の予約注文を得たと説明するが、台数、顧客名、価格、一般出荷日は示していない。製品を発表したことと、誰でも納期を見積もって購入できる状態は分けて考える必要がある。

商用化を進める材料はある。同社はエディンバラ大学発の企業で、2026年8月に215万ドルを調達した。2026年の年初来売上は2025年通年の2倍に達したとも発表している。ただし絶対額はなく、Litavisが売上に占める割合も分からない。予約注文と増収は顧客接点の存在を示す一方、量産能力や採算性を証明する数字ではない。

Litavisが専用センサーを置き換える共通基盤になれるかは、用途名の多さでは決まらない。LiDARなら距離誤差と測距範囲、FLIMなら寿命推定の再現性、分光なら背景除去後の信号対雑音比を、照度、波長、積算時間とともに示す必要がある。価格、出荷時期、速度、電力、温度範囲、クロストークまで公開され、第三者が用途別に再現できたとき、一台をソフトウェアで使い分ける価値を導入費用と並べて判断できるようになる。