Microsoftは、同社のAIアシスタント「Copilot」にメモリ機能、タスク実行機能、カメラ映像分析機能など、多数の新機能を追加する大幅なアップデートを発表した。これにより、Copilotはよりパーソナルで実用的な「AIコンパニオン」へと進化することを目指す。
よりパーソナルなAIへ:「メモリ」機能とパーソナライゼーション
今回のアップデートで最も注目される機能の一つが「メモリ」である。これは、ユーザーとの対話を通じて、Copilotが個人の好みや重要な情報を記憶する能力だ。
記憶する情報とその活用
Microsoftによると、Copilotはユーザーの許可を得た上で、「好きな食べ物」「好みの映画ジャンル」「甥の誕生日とその興味」といった個人的な詳細情報を記憶する。蓄積された情報はユーザープロファイルとして構築され、Copilotはこれをもとに、よりパーソナライズされた提案や、状況に応じた能動的な支援、タイムリーなリマインダーを提供できるようになる。例えば、過去の会話で言及した「職場の厄介なプロジェクト」や「新しい運動習慣を続けるモチベーション」などを記憶し、関連するサポートを行うことが想定される。
ユーザーコントロールとプライバシー
個人情報の記憶という性質上、プライバシーとセキュリティへの配慮が強調されている。ユーザーは専用のダッシュボードを通じて、Copilotが何を記憶しているかを確認し、個別に情報を削除したり、記憶させる情報の種類を選択したりできる。また、メモリ機能自体を完全にオプトアウトすることも可能であり、「ユーザーが常にコントロールを維持する」ことがMicrosoftの核となる約束であるとされている。
外見のカスタマイズ(実験的)
さらにMicrosoftは、Copilotの外見をユーザーがカスタマイズできる機能も実験していることを明らかにした。まだ初期段階であるが、将来的にはアバターなどを用いて、ユーザーが自分だけのCopilotの「見た目」を形成できるようになる可能性がある。これにより、AIとの対話がより楽しく、愛着の湧くものになることが期待される。
Webサイトでのタスク代行:「アクション」機能
Copilotがユーザーに代わって具体的なタスクを実行する「アクション」機能も導入された。これは、AIが単なる情報提供者から、実世界での行動を支援するエージェントへと進化することを示す重要な一歩だ。
アクション機能の概要と連携パートナー
ユーザーが「イベントのチケットを予約して」「夕食のレストランを予約して」「友人にプレゼントを送って」といった簡単なチャットプロンプトを入力すると、Copilotがバックグラウンドでこれらのタスクを実行しようとする。Microsoftによれば、この機能は「ほとんどのWebサイト」で動作するように設計されているとのことだ。
発表時点での主要な提携パートナーとして、1-800-Flowers.com、Booking.com、Expedia、Kayak、OpenTable、Priceline、Tripadvisor、Skyscanner、Viator、Vrboなどが挙げられている。
競合との比較と潜在的な課題
このアクション機能は、OpenAIが開発中とされる「Operator」のような、いわゆる「AIエージェント」の機能に類似したものと言えるだろう。
ただし、この機能がどの程度確実にタスクを実行できるのか、エラーが発生した場合の対処法、人間による介入の必要性など、詳細についてはまだ不明な点が多い。また、Webサイト運営者側がCopilotによる自動操作をブロックする可能性も考えられる(例えば、広告収益への影響を懸念する場合など)。
現実世界とPC画面を認識:「Copilot Vision」
従来、Web版Copilotで提供されていた画像分析機能「Vision」が、モバイルアプリ(iOS/Android)とWindowsに拡張された。これにより、Copilotはテキストだけでなく、視覚情報も理解して対話できるようになる。

モバイルでの活用
スマートフォンのCopilotアプリでは、デバイスのカメラを通じてリアルタイムで周囲の状況を分析したり、カメラロール内の写真を解析したりできる。Microsoftは、植物の健康状態を改善するためにCopilotに植物を見せてアドバイスを求めたり、オフィスの写真をスキャンさせて装飾のヒントを得たりする例を挙げている。発表イベントではMicrosoft AI CEOのMustafa Suleyman氏が恐竜のおもちゃにスマホを向けて情報を尋ねるデモを行っている。これにより、現実世界とデジタル情報の間のインタラクションがよりシームレスになることが期待される。
Windowsでの統合
Windowsにおいては、新しいネイティブアプリを通じて、CopilotがPCの画面に表示されている内容を認識し、操作できるようになる。複数のアプリケーション、ブラウザタブ、ファイルにまたがって情報を検索したり、設定を変更したり、ファイルを整理したり、プロジェクトで共同作業したりといった操作を、アプリを切り替えることなくCopilotに指示できるようになる。Appleが「Apple Intelligence」で発表したものの提供が延期されているSiriの画面認識・操作機能に先んじて、Microsoftが同様の機能を提供する形となる。
Windows版のVision機能は、まずWindows Insiderプログラムの参加者向けに来週から提供が開始され、その後、より広範囲に展開される予定だ。
ただし、Copilot+ PCのリリース時に大きく宣伝された物の、その後に物議を醸し大幅な変更を余儀なくされた「Recall」機能の先例もあり、プライベートなファイルへのアクセスや、意図しないシステム変更のリスクに対する懸念も示唆しており、適切な安全対策が講じられているかどうかが注目される。
高度な調査・分析:「Deep Research」と「Copilot Search」
Copilotの調査能力を強化する新機能として、「Deep Research」と「Copilot Search」が導入された。これらは、複雑な情報収集や分析作業の効率化を目的としている。
Deep Research:複数ソースからの情報統合
Deep Researchは、複数のWebサイトや大量のドキュメント、画像など、様々な情報源から情報を検索、分析、統合し、複雑な調査タスクを実行する機能だ。この機能は完了までに数分かかる場合もあるが、Web上の生きた情報に基づいてレポートを生成するため、一般的に精度が高いとされる。既にChatGPTやGoogle Geminiにも類似の機能が存在するが、Copilotにもついにこれが登場する。
Copilot Search:Bing検索との融合
Copilot Searchは、従来のWeb検索と生成AIをBing上で統合する機能だ。複数のWebサイトの情報を横断的にチェックし、引用元を明記した詳細で包括的な回答をBingの検索結果ページに直接表示する。これにより、ユーザーは迅速かつ信頼性の高い情報を得られるとされる。これはGoogle検索やPerplexity、ChatGPTの検索機能などに対抗する動きと言えるだろう。
コンテンツ作成・整理支援:「Pages」と「Podcasts」
情報整理とコンテンツ消費のための新しいツールとして、「Pages」と「Podcasts」が追加された。
Pages:アイデアと情報の整理キャンバス
Pagesは、散在するメモ、コンテンツ、調査結果などをデジタルキャンバス上に集約し、整理・単純化を支援するツールだ。Copilotが下書き作成から最終編集までをサポートする。既にリリースされている他社の類似の機能としては、Google Workspace、ChatGPT CanvasやAnthropicのClaude Artifactsがある。ただし、様々な情報を統合して草稿を作成する点で、より踏み込んだ機能になる可能性がある。
Podcasts:AI生成によるパーソナルオーディオコンテンツ

Podcasts機能は、ユーザーの興味に基づいてパーソナライズされたAI生成のオーディオコンテンツ(ポッドキャスト)を作成・配信する機能だ。休暇の計画や住宅購入の比較検討、特定の研究論文やWebサイトの内容解説など、様々なトピックについてCopilotがポッドキャストを生成する。GoogleのNotebookLMにあるAudio Overviewsがイメージとしては近いかもしれない。リスナーは再生中もCopilotと対話し、さらに深く学んだり議論を続けたりできる。これにより、情報消費の新しい形が提供されるが、これらの音声システムも誤情報を含む可能性(ハルシネーション)から免れない点には注意が必要だ。
日常をサポート:ショッピング機能
Copilotに新たにショッピングアシスタント機能が追加された。
機能概要
ユーザーに代わって商品をリサーチし、比較検討を行い、アドバイスを提供する。価格の下落やセール情報を通知し、アプリ内から直接商品を購入することも可能になる。価格追跡機能自体は既存のサービス(例:camelcamelcamel.com)でも提供されているが、CopilotではAIがエージェントとして機能し、店舗を介さずに直接購入できる点が新しいと指摘している。これにより、ユーザーはより効率的かつ情報に基づいた購買決定ができるようになることが期待される。
提供開始時期と今後の展望
Microsoftによると、これらの新機能の初期バージョンは本日から順次展開が開始されているという。ただし、正式なロードマップは公開されておらず、プラットフォーム、市場、言語によって利用可能になる時期は異なるとのことだ。筆者も試してみたが、記事執筆時点ではまだ利用が出来ていない。Windows版Visionのように、一部機能はまずテスター向け(Windows Insider)に提供される。Microsoftは、今後もユーザーからのフィードバックを収集し、これらの機能の調整と改善を継続していく方針を示している。
今回のCopilotの大幅アップデートは、Microsoftが目指す「すべての人にとってのAIコンパニオン」の実現に向けた重要なマイルストーンである。記憶、行動、視覚といった人間的な能力を取り込むことで、AIアシスタントはより深く我々の生活や仕事に統合され、これまでにないレベルのパーソナライズされたサポートを提供する可能性を秘めている。競合であるChatGPTやGoogle Geminiとの機能競争が激化する中、MicrosoftがCopilotをどのように進化させ、ユーザー体験を向上させていくのか、今後の展開が注目される。
Sources
- Microsoft: Your AI Companion
Meta Description
Microsoft Copilotが記憶、行動代行(Actions)、視覚認識(Vision)、高度な調査(Deep Research)など多数の新機能で大幅刷新。よりパーソナルなAIコンパニオンへ進化。各機能の詳細を解説。