Elon Musk氏が、Micronの将来のメモリ価格に対する姿勢を評価する一方、他の供給元の価格設定を批判した。米メディアBenzingaが2026年10月14日に報じたもので、Musk氏はMicronの対応について、長期的な顧客関係を築くうえで賢明な判断だと考えているという。メモリ不足が続く中、購入企業にとって重要なのは現在の単価だけではない。数年先まで必要な供給量を確保でき、調達費用を予測できるかどうかも大きな問題だ。Micronが9月末に公表した長期契約の条件からは、価格の上限を設ける代わりに、顧客がどのような義務を負うのかが見えてくる。
Micronの将来の価格設定を評価したMusk氏
Benzingaが引用したXへの投稿によると、Musk氏はMicronについて「将来のメモリ価格に関して妥当な対応をしてきた」と評価する一方、他社の価格設定は法外だと批判したという。また、顧客はこうした対応を忘れないとも述べている。目先の需給状況だけでなく、将来の取引関係まで考慮すべきだという指摘と受け取れる。
ただし、引用された発言では、批判の対象となった企業名や製品ごとの価格は明らかにされていない。Samsung ElectronicsやSK hynixを名指しで批判したと判断する根拠はなく、Micronの価格が競合他社よりどれほど安いのかを比較できる具体的な数字も示されていない。
また、価格設定を「妥当」と評価したからといって、Micronが値下げを発表したわけではない。将来の価格に納得できることと、現在の市場価格より安いことは別の問題だ。契約期間中にどこまで価格が上がる可能性があるのか、必要な数量を安定して確保できるのか。こうした条件が明確になれば、購入企業は中長期的な事業計画を立てやすくなる。
価格の上限と下限を定め、購入義務を課す長期契約
Micronは9月30日の決算説明で、戦略的顧客契約(SCA)を26件締結したことを明らかにした。同社は、これらの契約が2030年までの売上高の35%超を占めると見込んでいる。顧客が数年にわたってメモリの供給を確保できる一方、契約した数量の製品を引き取るか、引き取らない場合でも対価を支払う義務を負う仕組みだ。
ただし、価格の決め方は契約によって異なる。SCAによる見込み売上高の約4分の3については、あらかじめ価格を決める仕組みが設けられており、その大部分には上限価格と下限価格が設定されている。残る約4分の1については、市場価格の動向に応じて定期的に価格を交渉するという。なお、この「4分の3」は契約件数やMicron全体の生産数量の割合ではなく、SCAによる見込み売上高に占める割合を示している。
価格に上限があれば、顧客は契約対象の製品について、調達費用が最大でどこまで上昇するかを予測できる。一方、下限価格と購入義務は、需要が落ち込んだ場合でもMicronが一定の収入を確保するための条件となる。供給不足の局面では購入企業に安定した供給を約束し、その後の市況変動に伴うリスクは双方で分担する。公表された契約内容からは、こうした仕組みが読み取れる。
もっとも、価格に上限と下限が設定されていても、契約期間中の単価が固定されるわけではない。一定の範囲内で価格が変動する契約と、定期的に価格を交渉する契約では、顧客が得られる価格の予見可能性も異なる。Micron自身、新たなSCAの価格交渉では、市場環境や今後の見通しを踏まえて、従来より高い価格を提示していると説明している。
したがって、Musk氏によるMicronへの称賛と、同社が高い価格で契約交渉を進めていることは、必ずしも矛盾しない。安定供給や価格の予見可能性に十分な価値があれば、購入企業が高めの価格設定を受け入れる可能性はある。ただし、Micronが公表したSCA全体の条件から、Tesla向けの具体的な価格や購入義務を特定することはできない。Musk氏がどのような契約条件を評価したのかも明らかになっていない。
320億ドルを「契約総額」と解釈できない理由
Micronが9月30日に公表した320億ドルという数字は、顧客による資金面での約束額を示している。約1500億ドルの残存履行義務(RPO)や、四半期末時点で保有していた127億ドルの顧客預り金とは意味が異なる。
いずれも長期契約に関連する数字だが、それぞれ顧客による資金面での約束、今後履行する契約の価値、実際に受け取って保有している現金を表している。Micronの2026会計年度第4四半期決算説明資料の3ページ「Strategic customer agreements update」、6ページ「RPO」、8〜9ページ「Total cash/debt」に基づいて整理すると、次のようになる。
| 金額 | 内容 | 対象・時点 |
|---|---|---|
| 320億ドル | 顧客による資金面での約束額。大部分は現金の預け入れ | 9月30日時点で締結済みの26件のSCAと契約延長分 |
| 約1500億ドル | 残存履行義務(RPO)。残りの契約数量と最低価格に基づく契約価値 | 価格の決定方法があらかじめ定められたSCAのみ。9月30日時点の説明値 |
| 127億ドル | 貸借対照表に計上された顧客からの現金預り金 | 2026会計年度第4四半期末の残高 |
金額は原文の「billion」を10億ドルとして日本円の数値表記に合わせたものだ。各数字は対象や算出方法、時点が異なるため、単純に足し引きして受注総額や未回収額を算出することはできない。
約1500億ドルのRPOについても、そのまま将来の売上高予測と捉えるべきではない。この数字は契約で定められた最低価格を基に算出されており、Micronは契約期間中の実際の売上高がこれを大幅に上回ると予想している。また、算出対象は価格の決定方法があらかじめ定められた契約に限られており、26件すべてのSCAを同じ条件で評価したものでもない。
さらに、顧客から預かった現金には返還条件が付いている。Micronによると、顧客が最低購入条件を満たした場合、契約期間の後半に段階的に返還する仕組みだ。受け取った現金の使途に制限はなく、キャッシュフロー計算書では財務活動によるキャッシュフローに計上される。そのため、同社のフリーキャッシュフローには影響しないという。320億ドルをすでに確定した売上高や返還不要の現金と解釈すると、契約の実態を見誤ることになる。
顧客が将来の供給について一定の見通しを得られるのは、こうした購入義務や資金面での約束があるからだ。一方、Micronにとっても将来の需要を予測しやすくなり、設備投資を判断する材料となる。メモリ価格の妥当性を評価するには、単価だけでなく、顧客が負う義務や資金負担も含めて考える必要がある。
増産までの時間を長期契約で乗り切る
Micronは、2027年と2028年のメモリ需給が2026年よりもさらに逼迫すると予測している。米アイダホ州ではID1工場が2027年半ば、ID2工場が2028年末にウェハの生産を開始する計画で、ニューヨーク州の新工場では2030年に初期生産を始める予定だ。ただし、新工場は最初の製品を生産してから数四半期かけて生産能力を引き上げる必要がある。工場の建設計画が進んでいても、現在の供給不足をすぐに解消できるわけではない。
こうした増産までの時間差があるからこそ、数年先を見据えた長期契約には、現在の価格以上の意味がある。顧客は必要なメモリを確保する見通しを得られ、Micronは契約によって裏付けられた需要を基に設備投資を進められる。ただし、メモリの需給がいつ均衡を取り戻すかについては、Micron自身も予測できていないと説明している。
Benzingaが紹介したFuturum EquitiesのShay Boloor氏も、こうした契約が将来の顧客関係に与える影響に注目している。同氏は、Musk氏が示したようなMicronへの好意的な評価が、供給不足の緩和後にも長期契約の獲得や市場シェアの拡大につながる可能性があるとみている。ただし、これは今後の展開についての見解であり、顧客維持やシェア拡大につながることが実証されたわけではない。
Musk氏の評価が実際に長期的な取引の拡大につながるかどうかは、今後の増産と契約更新の局面で明らかになるだろう。新たな価格交渉でも顧客が納得できる価格上限や供給条件を提示し、顧客側も購入義務を履行できるのであれば、Micronは生産能力の拡大が本格的な成果につながるまで、安定した取引関係を維持できる可能性がある。



