Appleが2026年11月2日に発表した7〜9月期決算は、売上高が前年同期比12%増の1,144億7,700万ドルとなり、9月期として過去最高を記録した。しかし、注目すべきは続く10〜12月期の業績見通しだ。売上高は前年同期比7〜10%増を見込む一方、粗利益率は9月期の47.9%から45〜46%へ低下する見通しとなっている。この予想を前年同期の実績に当てはめると、売上総利益の増加率はほぼゼロから約5%にとどまる計算だ。これまで値上がり前に確保した部品在庫や製品価格の引き上げで吸収してきたメモリ価格高騰の影響が、利益の伸びを圧迫する局面に入りつつあると考えられる。
売上高は7〜10%増でも、売上総利益の伸びは最大5%にとどまる可能性
7〜9月期の粗利益率47.9%には、関税還付による約1ポイントの押し上げ効果が含まれている。続く10〜12月期について、CFOのKevan Parekh氏は決算説明会で、売上高が前年同期比7〜10%増、粗利益率が45〜46%、営業費用が204億〜208億ドルになるとの見通しを示した。この売上予想には供給制約の影響も織り込まれているが、それでもApple史上最高の四半期売上高を記録する見込みだという。
これらの数値を、前年同期に当たる2025年12月27日終了四半期の実績と比較する。前年同期の売上高は1,437億5,600万ドル、売上総利益は692億3,100万ドルだった。今回の売上成長率7〜10%を適用すると、2026年12月期の売上高は約1,538億〜1,581億ドルとなる。さらに、粗利益率の下限45%と上限46%をそれぞれ掛け合わせると、売上総利益は約692億〜727億ドルとなり、前年同期からの増加率はほぼゼロから約5%にとどまる。
| 項目 | 前年同期(2025年12月期) | 2026年12月期の見通しに基づく試算 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,438億ドル | 1,538億〜1,581億ドル |
| 粗利益率 | 48.2% | 45〜46% |
| 売上総利益 | 692億ドル | 692億〜727億ドル |
| 営業費用 | 184億ドル | 204億〜208億ドル |
| 営業利益 | 509億ドル | 484億〜523億ドル |
営業費用は前年同期比で約11〜13%増える見通しだ。売上総利益の下限692億ドルから営業費用の上限208億ドルを差し引くと、営業利益は約484億ドルとなる。反対に、売上総利益の上限727億ドルから営業費用の下限204億ドルを差し引いた場合、営業利益は約523億ドルだ。前年同期の509億ドルと比較すると、約5%の減少から約3%の増加までの幅となり、売上高が7〜10%伸びても営業利益が前年を下回る組み合わせが含まれている。
直近の7〜9月期と比較すると、利益成長の鈍化はさらに明確になる。同四半期の売上総利益は548億2,000万ドルで、前年同期の483億4,100万ドルから13.4%増加した。これに対し、12月期の売上総利益が今回の試算どおりになれば、増加率は0〜5%程度と、9月期の半分以下に低下する。ただし、これらはAppleが示した予想範囲の下限同士、上限同士を機械的に組み合わせた試算であり、同社自身が売上総利益や営業利益の具体的な予想額として公表したものではない。また、Appleの業績見通しは、関税率や通商政策が決算説明会時点から変わらないことを前提としている。
メモリ価格高騰で粗利益率が低下、先行確保した在庫の効果も縮小へ
Parekh氏によると、関税還付の影響を除いた7〜9月期の粗利益率は、前四半期の4〜6月期から約1ポイント低下した。全社ベースと製品部門の双方で同程度の低下が生じており、その要因はメモリコストの上昇だけだったという。実際には、メモリ価格高騰による押し下げ効果は1ポイントを超えていたが、値上がり前に調達した部品在庫の活用、メモリ以外の部品のコスト削減、製品価格の引き上げなどによって一部を相殺できたと説明している。
12月期の見通しは、こうしたメモリ価格上昇の影響がさらに強まることを示唆している。関税還付による約1ポイントの押し上げ効果を除くと、9月期の実質的な粗利益率は約46.9%となる。これに対して12月期の予想中央値は45.5%であり、約1.4ポイントの低下となる計算だ。予想範囲の45〜46%で比較すれば、低下幅は約0.9〜1.9ポイントに相当する。アナリストからこの規模の低下について質問されたParekh氏は、中央値で見れば同程度の低下になると認め、その大半がメモリコストの上昇によるものだと説明した。加えて、SiriのAI機能に関連する立ち上げ費用も、粗利益率を押し下げる要因として挙げている。
ただし、メモリ価格の上昇だけで粗利益率の低下をすべて説明できるわけではない。会社側がメモリコストの影響を主因として挙げているのは、関税還付を除いた9月期の約46.9%から、12月期の予想中央値45.5%までの約1.4ポイントの低下についてだ。前年同期の48.2%と比較した場合、12月期の粗利益率は2.2〜3.2ポイント低くなるが、この差のすべてをメモリ価格の高騰に帰することはできない。
メモリ価格上昇の影響を抑えてきた要因の一つが、値上がり前に確保した部品の持ち越し在庫(carry-in inventory)だ。こうした在庫を使って製造している間は、現在の市場価格で新たに部品を調達する場合よりも、製品の売上原価を低く抑えられる。CEOのJohn Ternus氏によると、12月期にも持ち越し在庫によるコスト抑制効果は残るという。しかし、12月期以降もメモリの購入価格は上昇を続けると見込まれ、先行確保した在庫による効果は時間とともに小さくなると説明している。
実際、Appleの棚卸資産は大幅に増加している。9月末時点の棚卸資産は145億4,100万ドルで、前年同期の57億1,800万ドルから約2.5倍に膨らんだ。棚卸資産を四半期の売上原価で割り、91日を掛けて在庫日数を試算すると、前年同期の9.6日から22.2日へと大きく伸びている。ただし、この数字は部品や完成品を含む棚卸資産全体から算出したものであり、メモリ単独の在庫量や在庫日数を示すものではない。Appleはメモリ在庫の内訳を開示していない。
製造に関連する購入義務も、6月期から9月期にかけて330億ドル増加した。ただし、決算説明会では、このうちメモリの調達に相当する金額は明らかにされていない。Appleは年次報告書(Form 10-K)を決算説明会の翌日に提出する予定だと説明しており、調達に関する追加情報が開示されるかも注目される。
重要なのは、12月期の粗利益率45〜46%という見通しが、持ち越し在庫によるコスト抑制効果がまだ残っている段階で示されたことだ。Apple自身が、今後もメモリの購入価格は上昇し、先行確保した在庫の効果は徐々に薄れると説明している。したがって、12月期以降も現在の粗利益率を維持できるかどうかは、次の四半期の業績見通しを確認する必要がある。
Appleの業績予想は保守的か、焦点は12月期の粗利益率
今回の見立てに対する有力な反論は、Appleの業績予想が実際の業績よりも控えめに設定されている可能性だ。7月に発表した9月期の見通しでは、売上高を前年同期比9〜11%増、粗利益率を47〜48%と予想していた。しかし、実際の売上成長率は12%となり、会社予想の上限を上回った。粗利益率も47.9%と、予想範囲の上限に近い水準で着地している。12月期にも同様の上振れが起きる可能性は十分に考えられる。
もっとも、売上が予想を上回ったとしても、粗利益率が低下すれば売上総利益の成長は抑えられる。仮に12月期の売上成長率が9月期と同じ12%に達したとしても、粗利益率が会社予想の上限46%にとどまれば、売上総利益は約741億ドルとなる。これは前年同期比で約7%の増加に相当し、売上高の伸び率12%を下回る。つまり、売上が予想以上に伸びたとしても、粗利益率の低下が利益成長を圧迫する構図は変わらない。
一方、製品部門の粗利益率が改善している点は、Appleの収益力を評価するうえで見逃せない。9月期の製品粗利益率は37.2%で、前年同期の決算数値から計算した36.2%を上回っている。ただし、今回の37.2%には関税還付による約1ポイントの押し上げ効果が含まれるため、それを除けば前年同期とほぼ同水準となる。この結果は、メモリ価格上昇の影響を製品価格の引き上げや先行確保した在庫などで吸収してきたという会社側の説明とも整合する。
今後の決算によって、この見立てが覆る可能性もある。具体的には、12月期の実績で粗利益率が会社予想の上限46%を超え、さらに続く3月期の見通しでも46%以上を維持できるようなら、メモリ価格高騰が利益の伸びを圧迫し始めたという見方は弱まる。前年の12月期決算は1月29日に発表されており、例年どおりであれば、2027年1月下旬ごろに最初の検証機会が訪れる。
日本市場の動向も注目点の一つだ。7〜9月期の日本地域(Japan)の売上高は65億4,000万ドルで、前年同期の66億3,600万ドルから1.4%減少した。Appleが開示する5つの地域のうち、減収となったのは日本だけだった。一方、中華圏(Greater China)は21.0%増、その他のアジア太平洋地域(Rest of Asia Pacific)は15.0%増と大きく伸びている。これらはドル建ての売上高であり、決算資料や説明会の逐語録では日本の減収理由について具体的な説明は確認できない。12月期に日本市場が前年同期比で増収へ転じるかどうかも、次回決算の確認事項となる。
Appleは、供給状況を改善するために製造関連の購入義務を330億ドル積み増したと説明している。この調達によって供給制約が緩和され、販売機会の損失を減らせれば、売上総利益が今回の試算上限を超える可能性もある。一方、粗利益率が予想下限の45%に近づくようなら、メモリ価格高騰による収益圧迫が強まっているとの見方を裏付けることになる。今後は売上高の成長率だけでなく、粗利益率の推移と在庫によるコスト抑制効果がどこまで持続するかが、Appleの収益力を見極める重要な指標となる。



