決算の見出し数字が「過去最高」であるほど、翌日の株価も上向くと考えたくなる。だが7月30日、Appleの決算はその期待を裏切った。売上高1,094億1,700万ドル、EPS2.02ドルはいずれも第3四半期として過去最高を更新し、事前のアナリスト予想も上回ったにもかかわらず、株価は時間外取引で下落した。理由はServicesと中国売上の予想未達に加え、粗利益率50.1%の内訳に潜むメモリ半導体価格の急騰にある。しかもこの決算は、Tim Cook氏が15年間務めたCEOとして臨む最後の決算発表でもあり、9月1日付で就任するJohn Ternus氏は好調な数字の裏にある構造課題を引き継ぐことになる。
予想超えの決算でも株価が沈んだ本当の理由
Appleが発表した2026年度第3四半期(4〜6月期)決算は、売上高1,094億1,700万ドル(前年比16%増)、希薄化後EPS(1株当たり利益)2.02ドル(前年比29%増)で、いずれも同四半期として過去最高となった。純利益は297億8,900万ドル(前年比27%増)だった。決算前のアナリストコンセンサス予想(売上高平均1,088億6,000万ドル前後、EPS平均1.89ドル)をどちらも上回り、数字だけを見れば非の打ちどころのない決算だった。円換算では総売上高は1ドル=160円前後(2026年7月30日時点、当日は163円台から159円台まで大きく変動)で約17兆5,000億円、純利益は約4兆7,700億円に相当する規模になる。
Cook氏は決算電話会見で「われわれの最強の6月四半期を報告できることを誇りに思う。iPhone、Mac、サービスの各部門、そしてすべての地域セグメントで2桁の増収を達成した」と述べた。最高財務責任者(CFO)のKevan Parekh氏も「われわれの設置ベース(アクティブデバイス数)は、主要製品カテゴリーおよび地理的セグメントの全てで過去最高を更新した」と付け加えた。経営陣の言葉どおり、成長の裾野の広さそのものは今回の決算で疑いようがない。
それでも株価は時間外取引で下げた。下落幅は測定タイミングによって報道間で幅があり、日本経済新聞は一時8%安と伝え、TradingKeyと株探はともに時間外で4%超の下落と報じた。売られた材料はServicesと中国の数字だ。Services売上は307億3,900万ドル(前年比12%増)にとどまり、集計元により差はあるもののアナリスト予想(312億ドル前後)に届かなかった。Greater China売上も188億1,600万ドル(前年比22%増)と大きく伸びたが、予想(195億ドル前後)には数億ドル規模で未達だった。
製品別ではiPhoneが542億5,200万ドル(前年比22%増)、Macが103億5,200万ドル(前年比29%増)で、いずれも事前予想を上回る伸びを見せた。一方でiPadは61億9,100万ドル(前年比6%減)と数少ない減収セグメントになり、Wearables・Home・Accessoriesは78億8,300万ドル(前年比6%増)にとどまった。ハードウェア全体では明暗が分かれ、伸び率で最も目立ったのはiPhoneではなくMacだった。
Zacks Investment Researchのストラテジスト、Ethan Feller氏は「数字自体は本当に素晴らしいものだった」としながらも、「弱点はServicesで、予想を下回ったことは、より高利益率で構造的に評価されてきた事業だけに注目に値する」と指摘した。市場が動揺したのは、iPhoneやMacの好調さより、Appleの収益性を支えてきたServicesの成長カーブに変化の兆しが見えたためだ。時間外の下落幅が報道によって4%台から8%台まで分かれたこと自体、ServicesとGreater China双方の未達が重なった複合的な売り材料であることを示している。
粗利益率を蝕むメモリ価格高騰の正体
Cook氏は決算電話会見で、メモリ半導体の価格急騰を「100年に一度の洪水」規模と表現した。AI向けサーバーで使う広帯域メモリ(HBM)の需要が想定を超えて膨らんだ結果、メモリメーカーは生産能力をAI向け高付加価値品にシフトさせ、スマートフォンやパソコンの主記憶に使うDRAM、記録用のNAND型フラッシュメモリの供給が細った。価格は主要品目で急激に上昇し、Appleのようにメモリを大量に調達する側のコストを押し上げ、50.1%という粗利益率の内訳にも見過ごせない影響を及ぼしている。
iPhoneやMacの販売価格は、発売してからの製品サイクルの途中で簡単には変えられない。一方でDRAMやNAND型フラッシュメモリは各製品の原価に組み込まれた部材であり、仕入れ価格が上がれば売上原価がそのまま膨らむ。今回の50.1%という粗利益率には、関税還付による約2ポイントの一時的な押し上げが含まれており、これを除いた実力ベースの水準はおよそ48.1%まで下がる。
Q4ガイダンスの粗利益率47〜48%にも、関税還付による約1ポイントの恩恵しか織り込まれていない。半導体の仕入れ価格は四半期単位の契約で決まることが多く、今回のような急騰局面では現物価格に加えて契約価格そのものが切り上がるため、水準が落ち着くまでには新規生産能力が稼働するまでの時間差が生じやすい。関税分を除いた実力ベースの圧縮幅がどれだけ広がるかは、業界の中でも明暗が分かれ始めている供給構造と切り離せない。この構造がどこまで各社の収益を左右するかは、同じ4〜6月期に決算を発表したSamsungとの対比で具体的に見えてくる。
Samsungとの対比が映すメモリ不足の非対称な明暗
Appleとほぼ同じ4〜6月期に決算を発表したSamsungの数字は、メモリ半導体の供給不足が業界全体に一様な打撃を与えているわけではないことを映す。売り手であるメモリメーカーと、買い手であるデバイスメーカーとでは、同じ価格高騰がまったく逆の方向に効いているからだ。
Samsungが発表した2026年4〜6月期決算は、売上高が約1,166億ドル、営業利益が約609億ドルでともに過去最高になったと報じられている。この記録的な利益を牽引したのは半導体部門で、AI向けメモリの特需を追い風に部門として過去最高益を計上したとみられる。一方でモバイル(MX、Mobile eXperience)部門は、メモリや部材のコスト増加を受けて四半期として初の営業赤字(約7,000億ウォン)に転落したと伝えられている。同じメモリ高騰という一つの現象が、Samsung社内で正反対の結果を生んだことになる。
メモリ価格高騰の勝者はSamsungやSK hynixのような供給側のメーカーであり、敗者はApple、そしてSamsung自身のモバイル部門を含む調達側のデバイスメーカーだ。同じ会社の中に勝者と敗者が同居しているSamsungの決算は、この非対称性が業界全体に広がる構造的な構図であることを示す一例になる。
メモリメーカーにとっては、供給が細った品目ほど値上げが通りやすく、出荷数量が横ばいでも単価上昇だけで売上と利益を押し上げられる。デバイスメーカーにとっては逆に、需要が旺盛でも仕入れコストの上昇分を販売価格にすぐ転嫁できず、利益率が先に痛む。この非対称なメカニズムは、AppleとSamsungの間はもちろん、Samsung社内のモバイル部門と半導体部門の間でも同時に働いている。
第3四半期の粗利益率50.1%から関税還付による押し上げ分の約2ポイントを差し引くと、実力ベースはおよそ48.1%になる。Q4ガイダンスの粗利益率47〜48%(中央値47.5%)に含まれる関税還付の恩恵は約1ポイントにとどまるため、同様に差し引くと実力ベースはおよそ46.5%まで下がる計算だ。関税還付という一時要因を除いたこの実力ベースの数字が、圧迫幅を測る手がかりになる。
関税還付という一時要因を揃えて比較すると、Appleの実力ベースの粗利益率は四半期をまたいでおよそ1.6ポイント圧縮する見通しになる。この幅を第3四半期の売上規模(1,094億ドル)にそのまま当てはめると、17億5,000万ドル前後の粗利益が目減りする計算に相当する。この金額はあくまで売上規模を仮に一定とした場合の試算であり、Apple自身が開示した数字ではない。残差には製品ミックスや為替変動など他の要因も含まれうるが、Cook氏が会見でメモリ価格急騰を「100年に一度の洪水」と名指ししている点を踏まえた概算値だ。
Samsungの半導体部門が過去最高益を記録した裏側で、Appleは同じ四半期にこの規模の圧迫を抱え込むことになる。メモリという一つの部材の価格が、売り手と買い手の間でこれほど大きな明暗を生んでいる。
Cook氏最後の決算に映るServices減速の裏側
Tim Cook氏はこの決算電話会見で、自身にとって最後の決算発表になることを明かした。2026年4月20日に公式発表された経営体制では、John Ternus氏が9月1日付で新CEO(最高経営責任者)に就任し、Cook氏は取締役会会長(Executive Chairman)に転じる。2011年8月24日にSteve Jobs氏がCEOを辞任しCook氏(当時COO)を後継に推薦した際は、決算発表とは無関係のタイミングでの電撃的な発表だった。今回はCook氏が決算電話会見という業績報告の場で自ら区切りを明かしており、15年前とは対照的に、あらかじめ計画された移行として進められている。
Services売上は307億3,900万ドルで前年比12%増を確保したものの、これは全社売上の伸び率16%増を下回る水準であり、CFOのKevan Parekh氏はモバイルゲーム市況の軟化と、一部の国や地域におけるApp Storeのビジネスモデル変更を要因に挙げた。この成長鈍化が、Cook氏にとって最後の決算の足元をやや不安定にした。Servicesは粗利益率がハードウェアより高く、Appleの収益構造を支える柱として市場から評価されてきた事業であり、その鈍化はメモリコスト増による粗利益率圧迫と並んで、次のCEOが引き継ぐ課題の一つになる。
地域別では日本売上が65億5,400万ドルで前年比13%増となり、11%増のAmericasを上回る一方、22%増のEuropeやGreater China、16%増のRest of Asia Pacificには届かなかった。Servicesの成長にばらつきが出ている中、日本市場の関連数値がどう動くかは今後の決算で確認できる一つの指標になる。
Ternus新CEOが最初に向き合う四半期の数字
AppleがQ4(7〜9月期)に示したガイダンスは、売上成長率9〜11%(iPhoneはmid-teens、10%台半ばの成長を見込む)、粗利益率47〜48%(関税還付による約1ポイントの恩恵を含む)、営業費用191億〜194億ドル、実効税率約16.5%となっている。Q3の売上成長率16%増と比べると、Q4ガイダンスの9〜11%は伸びの鈍化を織り込んだ水準だ。為替は成長率に対して約2.5ポイントの逆風になる見通しで、メモリコストの重みは前四半期からさらに増す計算になる。この数字をそのまま引き継ぐのが、9月1日付で就任するJohn Ternus氏になる。
株主還元では、当四半期に258億ドルの自社株買いを実施したほか、1株0.27ドルの配当を2026年8月13日に支払う。いずれもCook体制の最終盤として発表された内容であり、資本政策の面では大きな路線変更なく新体制に引き継がれる。業績の数字と同様、資本政策も静かなバトンタッチとして設計されている。
Cook氏はこの会見で、刷新したSiriを「極めて有能で、個人的で、当社プラットフォーム全体にシームレスに統合されている(原文: "profoundly capable, deeply personal, and integrated seamlessly")」と表現した。開発者やレビュアーからの反応は「圧倒的に好意的」、数週間前に始めた公開ベータでも「本当に素晴らしい」フィードバックが続いているという。オンデバイス処理を競争力の軸に据えるこの製品戦略が実際に稼ぐ力に変わるかどうかは、Ternus氏が迎える最初の本格的な試験台になる。メモリ価格が業界の需給調整でどこまで落ち着くか、Servicesの成長率が反転するかどうかは、例年の発表時期を踏まえると10月末から11月にかけて見込まれる次回決算で最初の答えが見え始める。その焦点の先で、刷新したSiriを軸とするApple Intelligenceの本格運用が広がれば、iPhone買い替えの後押しに加えてServices収益への新たな寄与も生まれる可能性があり、Ternus新体制が数字の逆風を相殺する具体的な道筋の一つになる。
