電子部品の中でも地味な存在だったMLCC(積層セラミックコンデンサ)が、AIインフラ投資の足元で値動きの激しい部品に変わっている。TrendForceは6月25日、深圳・華強北の電子部品市場でMLCCの見積もりが非常に短い間隔で更新されていると報じた。発端はスポット市場の過熱だが、背景にあるのは投機的な買いだけではない。AIアクセラレータの基板設計が、高容量で小型、かつ高温に耐えるMLCCを以前より多く必要とする方向へ動いている。
この変化は、メモリやGPUの不足とは違う形でAIサーバーの部材調達に表れる。MLCCは一つひとつの単価が小さく、完成品価格の主役になりにくい。だがサーバー基板や電源まわりで必要な個数が増え、特定の高容量品へ注文が集中すると、供給余力は一気に細くなる。小さな受動部品が、AIサーバーの量産タイミングを左右する部材の一つになり始めた。
華強北の値動きはスポット市場の逼迫を映す
第一財経(YiCai)は、華強北の複数のMLCC販売業者を取材し、人気品番の欠品と頻繁な価格更新を伝えている。現地業者は、MLCC価格がこの3カ月ほど上昇し、直近1カ月の上げ方が特に大きいと説明した。価格が「30分ごと」に見積もられる、あるいは数時間前の価格が参考にならないという販売現場の声も紹介されている。
品番レベルで見ると、逼迫はより具体的だ。第一財経が村田製作所の1206サイズ、47uF、10V、X5RのMLCCについて5業者に問い合わせたところ、4業者が在庫なしと答えた。入手可能とした業者の提示価格は1個0.65元で、以前の0.2元未満から大きく上がっていた。別の業者は、同等仕様の太陽誘電品はあるが在庫量が限られると説明している。
価格上昇は高容量品だけに閉じていない。第一財経によると、Samsung製品を主に扱う業者は、5月以降に扱うMLCCの価格が急上昇し、100元台だったリールが400〜500元まで上がったと述べた。中国メーカー品でも、風華高科の一部製品は輸入品に近い価格帯になり、通常3〜6週間だった中国国内品の納期は、高級仕様で20週間超、標準品でも12週間超に伸びているという。
華強北のスポット価格をそのまま世界の契約価格と見なすのは危うい。スポット市場は在庫の薄さ、販売業者の先回り買い、短期の品番偏りを強く反映する。今回見るべきは、スポット価格そのものではなく、なぜ高容量MLCCが短期間に「取り合い」の対象になったのかである。
AI基板はMLCCを「数」ではなく「仕様」で吸い上げる
MLCCは、電源の安定化、ノイズ除去、バイパス、デカップリングなどに使われる受動部品だ。AIサーバーでは、GPUやASIC、電源変換回路の近くで瞬間的な電流変動を吸収し、電圧を安定させる役割が大きくなる。AIアクセラレータの消費電力と実装密度が上がるほど、基板上で必要になるコンデンサの性能と配置は厳しくなる。
TrendForceの6月17日のMLCC調査は、この変化を基板1枚あたりの個数として示している。同社によると、AMDのMI450プラットフォームでは検証段階でBOM上のアルミ電解コンデンサとタンタルコンデンサがMLCCへ置き換えられ、47uF、2.5V、X6S、0402サイズのMLCC使用数が1,440個から10,544個へ増えた。増加率は632%である。NVIDIAのVera Rubinプラットフォームでも、100uF、4V、X6S、0805サイズのMLCC需要が基板1枚あたり320個から500個へ増えたとされる。
ここで発生しているのは、MLCC需要の単純な総量増ではない。小型で高容量、温度特性も満たす部品へ注文が寄っている。一般的な低容量品を作る能力が残っていても、そのまま高容量品の不足を埋められるとは限らない。高容量MLCCは薄い誘電体層を重ね、品質を保ったまま容量を稼ぐ必要があり、量産では歩留まりと設備の制約が表に出やすい。
TrendForceは、2026年後半にGoogle TPU V8t/i、AWS Trainium4、Meta MTIA 400/450などのASICプラットフォームが量産段階へ進むと見ている。これらのプラットフォームが一斉に高容量MLCCを必要とすれば、先に長期供給契約を結んだクラウド事業者と、スポットや短期発注に頼るODM・システムベンダーの間で、調達条件に差が出る。
公式資料にもデータセンター向け需要の強さが出ている
部品メーカーの公式資料も、MLCC需要がデータセンター側へ引っ張られていることを示している。村田製作所の2025年度決算では、売上高が前年比5.0%増の1兆8,308億5,600万円となり、コンデンサ部門の売上は12.6%増の9,364億1,800万円だった。同社はコンデンサ部門にMLCCが含まれると説明し、MLCC売上はサーバーを中心に幅広い用途で増えたとしている。
用途別でもサーバーの影響は見える。村田はコンピュータ向け売上が28.4%増の3,103億9,200万円になったとし、サーバー向けMLCCとリチウムイオン二次電池が増えたと説明した。2026年度の見通しでは、データセンター関連需要、特にコンデンサの強さを背景に、売上高を前年比7.1%増の1兆9,600億円と予想している。
投資計画も同じ方向を向く。村田は2026年度の設備投資を2,500億円とし、その中にデータセンター向けコンデンサ需要へ対応する追加生産投資約800億円のうち約400億円を含めている。さらに、小型・高容量のデータセンター向け製品の生産能力を拡大すると説明している。同社は2026年度の生産計画を前年比1,400億円増の1兆9,850億円とし、データセンター部品需要を受けてコンポーネント事業の稼働率、とくにコンデンサの稼働率が高い状態にあるとも述べた。会社全体の在庫は約250億円増やし、今後の需要成長に備えている。
村田のコンデンサ事業ページは、MLCCの市場シェアを40%、車載では50%としており、車載電装化とAI拡大による部品需要の増加を事業機会に挙げている。
TDKの2026年3月期通期説明資料も、受動部品がAIデータセンターの部材群に入っていることを示している。同社はAIエコシステム関連、とくにAIデータセンター関連の製品・技術へ投資するとし、GPUベースボード、アクセラレータ、GPUパッケージ周辺にMLCCやポリマーMLCC、インダクタなどを配置した用途図を示した。AIサーバー需要がGPUやHBMにとどまらず、電源・受動部品の設計にも広がっていることが裏づけられる。
増産しても高容量品の不足はすぐ消えない
供給側の難しさは、投資額だけでは解けない。TrendForceによると、村田は47uF、2.5V、X6S、0402や100uF、2.5V、X6S、0603などの先端MLCCを2025年末に量産開始し、Samsung Electro-Mechanicsも2026年3月に量産へ入った。太陽誘電と京セラも生産を拡大している。ただし、これらの仕様は製造難度が高く、業界全体で歩留まりが課題だと同社は指摘する。
リードタイムにもすでに緊張が出ている。TrendForceは、一部の高容量X6S製品の納期が8週間から最長20週間へ伸びたとする。村田の新しい出雲工場についても、本格的に生産能力を発揮するのは2027年とされ、2026年後半の需要ピークにすぐ余力を作る材料にはなりにくい。
この構図では、メーカーが増産を進めていても、調達現場では短期的な不足感が続きやすい。高容量品の生産に設備と工程を振り向ければ、標準品側の余力も薄くなる。低在庫で運用していた流通業者や最終顧客が一斉に補充へ動けば、実需以上にスポット市場の価格が先に跳ねる。華強北の激しい値動きは、その連鎖が流通側に現れたものと読める。
次の焦点は長期契約と仕様の固定だ
2026年後半のMLCC需給を見るうえで、焦点は三つある。第一に、クラウド事業者や大手サーバー顧客がどこまで長期供給契約を押さえているかだ。TrendForceは、長期契約を結んだ大手CSPが優先配分を受ける一方、供給コミットメントを確保していないODMやシステムベンダーはスポット価格の上乗せと出荷遅延に直面しやすいと見ている。
第二に、AIアクセラレータ基板の仕様がどこで固定されるかである。検証終盤でコンデンサ構成が変わると、必要なMLCCの容量、サイズ、温度特性、数量が一気に動く。TrendForceが示したMI450の例のように、BOMの置き換えが起きると、部品メーカーの需要予測は短期間で大きく変わる。量産直前の設計変更は、MLCCのような小型部品でもサプライチェーン全体へ波及する。
第三に、価格上昇がどこまで標準品へ広がるかだ。第一財経の取材では、サーバー向け高容量品だけでなくスマートフォンやウェアラブル向けの一部MLCCにも値上がりが見られる。とはいえ、高容量AIサーバー品と一般的な民生品では、必要な仕様も顧客の購買力も異なる。低容量品まで同じ強さで上がり続けるかは、在庫補充が一巡した後の実需で判断する必要がある。
MLCCは「電子工業の米」と呼ばれるほど広く使われる部品だが、今回の相場は、あらゆるMLCCが同じ理由で不足しているという話ではない。AIサーバーが必要とする電源安定化の条件が厳しくなり、狭い仕様帯の部品へ需要が集まった。その結果、先に需給の細さが出たのが高容量MLCCであり、華強北の30分ごとの見積もりは、その圧力が流通市場まで届いたことを示している。
2026年後半に見るべきは、スポット価格の最高値ではない。AI基板の設計が固まり、村田やSamsung Electro-Mechanics、太陽誘電などの増産がどのタイミングで歩留まりを伴って立ち上がるかである。そこが追いつかなければ、MLCCはGPUやHBMほど目立たないまま、AIサーバーの調達表で外せない制約として残る。