ソニーグループ台湾積体電路製造(TSMC)が、熊本県で次世代イメージセンサーを量産する計画の輪郭を固めた。日本経済新聞は2026年8月10日、両社が総額約1兆円を投じ、2029年にも生産を始めると報じた。合弁会社への出資比率はソニー側が約60%、TSMCが約40%で、2026年度内の設立を目指すという。5月の基本合意では伏せられていた金額と日程がそろい、ソニーが掲げる「ファブライト」が設備と資本の設計へ踏み込む段階に来た。

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1兆円と2029年が埋めた、5月合意の空白

5月8日に両社が発表したのは、法的拘束力を伴わない基本合意書だった。公式文書で確定していたのは、ソニーが合弁会社の過半数を握ること、熊本県合志市に新設したソニーの工場へ開発・生産ラインを構築すること、その投資を需要に応じて段階的に進めることまでである。合弁会社の設立には、法的拘束力のある最終契約と一般的なクロージング条件の充足が必要だとも明記された。

今回の日経報道は、その空欄に約60対40の出資比率、約1兆円の投資、2026年度内の会社設立、2029年の量産開始を入れた。報道どおりなら、ソニーは支配権を保ちながら、TSMCを少数出資の製造パートナーとして深く組み込む。両社が近く量産投資で合意するとの内容だが、8月10日時点で両社はこれらの数字を正式発表していない。約1兆円の負担内訳や投資の段階、政府支援の規模もなお不明である。

合志市の工場は、この計画のために突然浮上した建物ではない。ソニーは2024年のI&SS事業説明資料ですでに新工場を示し、将来需要を見ながら設備投資を決めるとしていた。建屋を先に用意し、装置を入れる判断を保留していた場所にTSMCとの共同ラインを置く。今回の計画は、新工場の使途と投資判断を一つに結ぶものになる。

JASMとは支配関係が逆になる

熊本には、TSMCが支配するJapan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)がすでにある。TSMCが2024年に示した出資比率は同社86.5%、ソニー6.0%、デンソー5.5%、トヨタ2.0%だった。第1・第2工場を合わせた投資は200億ドル超、月産能力は12インチウエハー10万枚超を計画する。生産技術は車載や産業、民生、高性能計算向けに展開する構想である。

新しいセンサー合弁はJASMの増設ではない。拠点はソニーの合志市工場で、支配株主もソニーになる。JASMではTSMCが86.5%を握り、新会社ではソニー側が約60%を出資すると日経は報じている。両社は既存事業と新事業で支配関係を入れ替え、次世代センサーではソニーが事業の主導権を保ちながらTSMCの製造技術と資本を取り込む計画だ。

この逆転は、知的財産と顧客関係を抱えるソニーにとって意味が大きい。画素設計やセンサーの商品企画を手放さず、製造工程の一部を共同運営へ移せるからだ。ただし、どの工程を新会社が担い、既存のソニー工場やJASMとどう分担するかは公表されていない。支配権がソニーにあることと、製造を従来どおり自社だけで完結することは同義ではない。

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画素層とロジック層を分ける積層センサー

協業の技術的な接点は、積層型CMOSイメージセンサーの構造にある。受光して電気信号へ変える画素チップの下に、信号処理回路を載せたロジックチップを重ねる。ソニーの公式技術解説によれば、画素とロジックを別のチップに分けることで、それぞれを独立に最適化しながら、小型化と高機能化を進められる。

ソニーは5月の決算説明会で、これまで画素を自社で扱い、ロジックをTSMCが製造してきたと説明した。次の合弁では、TSMCのプロセス技術を画素側も含む製造へどう生かすかが中心になる。スマートフォン向けでは、微細化で平面方向の回路密度を上げ、積層で垂直方向にも機能を増やすのがソニーの方針だ。車載やロボットでは、光を撮る性能に加え、認識に必要な信号を低遅延・低消費電力で処理する回路の比重が増す。

もっとも、「次世代」が具体的にどの製造プロセスや製品を指すかはまだ示されていない。月産能力も顧客も未公表だ。2029年までに両社がどの仕様と生産規模を固めるかは、正式発表を待つ必要がある。

ファブライトは投資負担と粗利率を交換する

ソニーがTSMCとの合弁を急ぐ背景には、好調なセンサー事業ほど大きな設備投資を要求するという問題がある。2025年度のI&SS事業は売上高2兆1515億円、営業利益3573億円で過去最高を更新した。一方、ソニーは研究開発から製造までを抱える垂直統合型で成長してきたため、供給量が自社工場の能力に縛られてきたと認めている。

同社は今回の合弁をファブライト戦略の第一歩と呼ぶ。TSMCと設備・製造リスクを分ければ、ソニー単独の投資額と装置調達費を抑え、将来の需要増へ対応しやすくなる。ソニーは年次報告書で、キャッシュフローと投下資本、収益性の改善を見込む。ただし決算説明会では、共同運営で費用の変動部分が増えれば利益率を押し下げ得るとも説明した。負担を軽くする代わりに製造コストの一部を外部化するためだ。

公式の基本合意は、日本政府の支援を前提に投資を検討するとしている。したがって、約1兆円という総額だけでは計画の採算を判断できない。2026年度内に最終契約が締結された後は、まず出資額と補助金が判断材料になる。さらに生産能力と製造工程が開示されれば、ソニーが支配権と利益率を保ったまま供給制約を緩められるかを測れる。2029年の量産へ向けた最初の関門は、工場の着工ではなく、この四つの数字がそろうことである。