イングランド、ウェールズ、スコットランドの雇用審判所は、AIの使用をうかがわせる「暫定救済」の申立てが急増したことを受け、審理方法を定めた共同指針を2026年6月22日に施行した。対象は北アイルランドを除くグレートブリテンで、以前は全体で年に約20件だったが、いまでは多くの地域事務所が同程度を毎月受けている。指針に法的拘束力はないものの、審判所は判断時に考慮する必要がある。緊急に扱う申立ての書面が膨らむほど別の事件が後回しになる一方で、単独請求全体の増加をAIの影響と断定できる統計はない。

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年20件から、各地で月20件へ

暫定救済は、解雇の効力を最終審理まで止める緊急措置である。対象は内部告発を理由とする解雇など、法律が定める一部の不当解雇に限られる。認められれば、審判所は復職や同等職への再雇用を命じられる。働かない期間も給与と給付を継続させる命令を出せる。

効果が大きい分、申立人が越えるべき基準は高い。最終審理で勝つ「かなり高い見込み」を示す必要があり、勝つ可能性が五分を超えるだけでは足りない。共同指針も、申立ての大半は認められないとしている。

それでも件数は急増した。Susan Walker判事とBarry Clarke判事による共同指針は、申立てが主に内部告発事件で増え、AIの使用をうかがわせる例が多いと記す。全国年約20件から「多くの事務所で月約20件」への変化は大きい。ただし事務所数は示されておらず、全国合計を何倍と算出することはできない。

3時間の審理に収まらない書類

暫定救済は受理後できるだけ早く判断しなければならず、当事者への通知期間も最低7日しかない。延期には特別な事情が必要だ。通常事件の順番を入れ替えて緊急枠を確保するため、成功率の低い申立てが増えると、別の利用者の審理が遅れる。

共同指針は、標準の審理を原則としてビデオで3時間以内とした。内訳は裁判官の資料確認に1時間、双方の主張に各30分、判断と短い口頭判決に1時間であり、延長は例外的な場合に限る。裁判官は裁量で書類のページ数や陳述書の語数を制限できる。時間内に読めない量が提出された場合は、当事者が選ぶ重要書類だけを検討する。

AIの利用自体は禁止されていない。ただし指針は、AIが作った法的主張は長く複雑になりやすく、無関係な内容を含み、事件の要点を外すことが多いと指摘した。提出者には、簡潔で関連性があり、正確な内容に整える責任が残る。提出者がAIで文書を増やしても、読む側の時間は変わらない。

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64,000件の滞留をAIだけで説明できない

英国司法省の2025/26年度統計では、単独請求の受理は前年度比39%増の50,000件だった。処理は12%減の26,000件にとどまり、2026年3月末の未処理件数は55%増の64,000件へ膨らんだ。ただし、システム移行後のデータ品質を確認中で、単独請求と代表複数請求の未処理件数には約3%の過大計上が残る可能性がある。

処理を重くしているのは件数に加えて事件の中身である。3月の全国利用者会議で示された2025/26年度の単独請求50,095件のうち、差別や内部告発など審理が長い「オープントラック」は30,374件、61%を占めた。15〜20年前の比率は約20〜25%で、現在はロンドンでは7割近くに達する。

会議議事録は、AIを複雑化の「少なくとも一部の原因」とみる裁判官の見方を、統計ではなく経験に基づく判断として記録している。AIは再検討や暫定救済の申立て、損害額の過大な算定にも使われているという。したがって、39%という受理増と64,000件の滞留は制度全体の容量を示す数字であり、そのままAI由来の件数として扱えない。

無料の入口と、失われる選別

AIが使われる背景には、専門家へ相談できない申立人の増加がある。支援団体Work Rights Centreの調査によると、雇用問題は2013年に法律扶助の対象から外れた。それ以前は本人申立てが20%未満だったのに対し、2023/24年度には31%へ上昇し、さらに6.4%が弁護士や労働組合など主要な支援者以外を代理人としていた。

同団体が聞き取った実務家は、AIが労働者に権利を知らせ、主張する手掛かりを与える効用を認めている。その反面、チャットボットが勝訴や賠償額への期待を膨らませ、関連性の薄い法令や判例を重ねた申立てを作るとも述べた。相談の入口が広がっても、事件を選別し、主張を絞る作業が欠ければ、申立人自身の審理も遅くなる。

共同指針の狙いは、AI利用者を排除することではなく、限られた時間で裁判官が判断できる形へ提出物を戻すことにある。書類量を制限し、成功基準を具体的に示すことで、緊急措置が必要な事件を優先できるかが試される。

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2027年1月、制度拡大が次の圧力に

2027年1月1日にはEmployment Rights Act 2025の主要変更が控える。通常の不当解雇を申し立てるための勤続要件は2年から6カ月へ短縮され、成功時の補償額上限も撤廃される。差別や自動的に不当とされる解雇に対する既存の初日からの保護は変わらないが、通常の不当解雇を申し立てられる労働者の範囲は広がる。

制度変更が実際の申立てをどれだけ増やすかは、施行後の統計を待つ必要がある。6月の共同指針と四半期統計には、AI利用別の件数が示されていない。指針の効果は施行後の暫定救済申立て数と提出書類の量で測られ、制度拡大の影響は2027年以降の受理件数、処理件数、待ち時間で測ることになる。両者を分けて追うことで、アクセスを保ちながら処理能力を回復できたかが分かる。