A20 Proは、液体窒素で冷却してもGeekbench 6のスコアがほとんど伸びなかった。技術検証チャンネルGeekerwanが公開した比較図では、常温からの上昇幅はシングルコアで0.76%、マルチコアで2.49%にとどまる。前世代のA19 Proや競合チップより小さな差であり、通常の冷却状態で高いCPU性能を引き出せていることをうかがわせる結果だ。ただし、これを「液体窒素並みに冷えるiPhone」と読むと、実験が示す意味を取り違える。A20 Proの進歩は、強く冷やした前世代との比較、メモリと演算器の改良、そしてベンチマーク自体の設計を重ねると、より具体的に見えてくる。
液体窒素で増えたのは、マルチでも2.49%
GeekerwanのiPhone 18 Pro性能分析は2026年9月16日に公開された。その比較図(転載画像)には、常温と液体窒素冷却という二つの条件で測ったGeekbench 6のCPUスコアが並ぶ。A20 Proのシングルコアは4,732から4,768へ、マルチコアは12,727から13,044へ上がっている。
| チップ | シングル:常温→液体窒素 | 上昇率 | マルチ:常温→液体窒素 | 上昇率 |
|---|---|---|---|---|
| A20 Pro | 4,732→4,768 | 0.76% | 12,727→13,044 | 2.49% |
| A19 Pro | 3,866→4,089 | 5.77% | 10,095→11,111 | 10.06% |
| Snapdragon 8 Elite Gen 5 | 3,613→3,795 | 5.04% | 10,711→12,063 | 12.62% |
| Dimensity 9500 | 3,359→3,666 | 9.14% | 9,776→11,014 | 12.66% |
スコアの単位はポイント。Geekerwanの図に掲載された値から、上昇率を「(液体窒素冷却時÷常温時−1)×100」で計算し、小数第2位に丸めた。図には端末の具体的な型番やOS、Geekbenchの細かな版が記載されていない。室温と冷却温度、反復回数や測定のばらつきも分からないため、製品全体の平均値や統計的な差を示すものではない。
他の3チップでは、マルチコアが強い冷却によって約10〜13%上がる。A20 Proは同じ図の中で、冷却による伸びが最も小さい。逆から計算すると、常温のマルチコアスコアは液体窒素冷却時の97.57%に達する。A19 Proは90.86%だ。いずれも「常温時÷冷却時×100」という掲載値の比であり、冷却装置の効率を測った数字ではない。
A20 Proは、このCPUテストでは追加冷却によって取り戻せるスコアが小さい。 高い性能を得るために極端な冷却へ頼る度合いが低い、という読み方ができる。一方、周波数や消費電力のログはこの図にないため、差が小さい理由を放熱性能だけに確定することはできない。
冷やしたA19 Proと比べても残る世代差
Geekerwanの図では、A20 ProのマルチコアはA19 Proより常温で26.07%、液体窒素冷却時にも17.40%高い。常温では12,727対10,095、冷却時では13,044対11,111という比較である。
この世代差は、前節の冷却による上昇率とは分母が違う。同じ冷却条件のA19 Proを基準に「(A20 Pro÷A19 Pro−1)×100」で求めた。2026年9月16日公開のGeekerwanの比較図から再計算できるが、電力設定や試験端末の違いまで統一されたことを意味しない。
A19 Proも強く冷やすと差は縮まる。それでも逆転しない。少なくとも掲載された結果は、A20 Proの高いスコアを「前世代よりよく冷えるから」だけで説明する見方には収まらない。冷却時にも残る世代差と、常温でもその性能に近づける変化の両方がある。
ここで26.07%から17.40%を引き、その差を冷却設計の貢献分とするのは早計だ。二つの世代では演算回路やメモリ系が違い、冷却によって動作周波数や電力の制御も変わり得る。液体窒素冷却時の差も、同じ周波数で処理できる命令数を表すIPCの向上率ではない。比較図は世代差の残り方を示すが、各改良の寄与を切り分ける実験ではないのである。
熱の通り道を変えたパッケージ
AppleはA20 Proで、シリコンダイとメモリを横に並べる独自のパッケージを採用した。公式発表によれば、MシリーズのAppleシリコンから着想を得た設計で、メモリをチップの放熱経路から外し、A20 Proを次世代ベイパーチャンバーへ直接接合する。
チップが生む熱は、最終的には端末の外へ逃がす必要がある。その途中に熱を通しにくい箇所があれば、大きな冷却部品を付けても熱を十分に渡せない。今回の横並び配置は、発熱源と冷却部品の間を見直す変更だ。単に放熱部品を大きくする話とは役割が異なる。
熱を受け取る側も変わった。Appleは新しいベイパーチャンバーに新素材を使い、表面積をiPhone 17 Proの3倍に広げたと説明している。チップから熱を渡す経路と、その熱を広げる部品を同時に改めたことになる。常温での高いスコアは、この設計方針と整合する。
ただし、表面積3倍を冷却能力3倍と読み替えることはできない。さらにAppleがうたう前世代比「最大40%」は持続性能の改善であり、今回のGeekbenchで得た2.49%は同じA20 Proを追加冷却したときの伸びだ。比較相手も、測っている変化も違う。2.49%という小さな数字は、Appleの40%という主張を否定も実証もしない。
2nmとメモリ帯域は、それぞれ何を変えるか
A20 Proは2nmプロセスで作られ、6コアCPUにはNeural Acceleratorが統合されている。Appleはメモリ帯域をA19 Proより50%広げたとも説明する。放熱の改善と合わせて考えたいのは、同じCPUコア数でも、処理を進める速さとデータの受け渡しを変えられる点だ。
製造技術の側では、TSMCが2nm世代のN2に関する研究抄録で、GAAナノシート型トランジスタによる電力効率の改善を説明している。GAAは電流が流れる通路をゲートで取り囲む構造で、トランジスタの電流を制御する方式の進化にあたる。これは2nm世代を理解する技術的な背景であり、TSMCのプロセス単体の性能目標をA20 Proの速度や電池持ちへそのまま掛け算できるわけではない。Appleの発表が明記する製造プロセスは2nmである。
冷却が発生した熱を逃がすのに対し、製造工程や回路設計の改善は、どれだけの電力で処理を進められるかに関わる。同じ処理を少ない電力で済ませる方向にも、許容できる電力の範囲で速度を上げる方向にも使える。A20 Proの常温スコアを見る際には、熱を逃がす側と、熱を生む演算側を分けて考える必要がある。
メモリ帯域の50%増も、CPUの動作周波数とは別の改良だ。帯域は一定時間に運べるデータ量を表し、メモリ容量の大きさとは異なる。演算器が速くなっても必要なデータを待つ時間が長ければ、アプリの処理は速くならない。帯域拡大はその待ち時間を減らす余地を広げるが、読み書きが制約になっていない処理まで一律に50%速くするものではない。
Geekbench 6も、この影響を受ける。Primate Labsの技術資料は、CPUテストの性能がプロセッサとメモリの各部分に依存すると説明している。マルチコアは各コアが独立した仕事を並べる方式ではなく、一つの仕事を分担する設計で、コア間の通信や協調も必要になる。したがって、マルチコアの点差をコア数やクロックだけで説明することは難しい。
GPUとAI用回路も別に評価したい。Appleによれば、7コアGPUはA19 Proより最大40%高速で、デュアル16コア、計32コアのNeural Engineは2倍のAI処理能力を持つ。ここでのGPUの40%は、前節の持続性能40%とは別の指標だ。CPUのGeekbenchスコアだけでは、どちらの主張も検証できない。
実際のAIアプリでは、Core MLがCPU、GPU、Neural Engineを利用し、メモリ使用量と消費電力を抑えながら処理を最適化する。Neural Engineが強化されても、アプリの全処理がその回路で走るわけではない。端末上のAIがどれだけ速くなるかは、同じモデルと入力を使い、実行先をそろえた測定で確かめる必要がある。
Geekbenchが挟む休止と、実使用への距離
Geekbench 6は、そもそも熱の影響を小さくするため、個々の処理の間に休止を挟む。公式の内部仕様書のRuntime節によると、既定の休止時間は6.0で2秒、6.1以降で5秒だ。開発元は6.1の変更説明でも、休止の延長によって熱による性能抑制と実行ごとのばらつきを減らすと述べている。
今回の比較図から細かな版は確定できないため、全端末が5秒ずつ休んだとは断定できない。それでも、Geekbench 6が休止を含むCPUテストであることは、結果を読むうえで欠かせない条件だ。熱がたまり続けるゲームや、長時間の処理を切れ目なく実行する試験とは負荷のかかり方が異なる。
つまり、常温と極低温のスコアが近いことは、このテストで通常の冷却が性能を大きく妨げていないという見方を支える。筐体が液体窒素と同じ温度になるわけでも、長時間ずっと最高性能を維持する証明でもない。短時間のCPU性能を十分に出せることと、その性能を使い続けられることは別に測る必要がある。
A20 Pro搭載機をゲームや端末内AIのために選ぶなら、同じ室温とアプリ設定で、処理時間の変化と消費電力を合わせて見るのが有用だ。小型のiPhone 18 Proと大型のPro Maxも、それぞれで確かめたい。日常に近い条件でも高い性能が繰り返し得られ、連続処理での低下が小さければ、極端に冷やして作った最高記録よりも、利用者が実際に使える速さとして評価できる。
