AlibabaのQwenチームは9月18日、音声と動画をまとめて理解するAIモデル「Qwen3.8-Omni-Flash」を発表した。国際向けAPIの入力料金は100万トークン当たり0.15ドルで、Gemini 3.8 Flashの現行標準料金を80%下回る。Qwenは音声・動画の評価でGeminiに近い性能をうたうが、公開された比較表には、動画の読み方を変えると両モデルの順位が逆転する例もある。長い録画から必要な場面を探し、仕事を進める用途では、単価とともに「どれだけ読み込んで答えにたどり着くか」が効いてくる。

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音声・動画を理解し、ツールで仕事を進める

Qwen3.8-Omni-Flashは、テキストや画像に加えて音声・動画を入力でき、100万トークンのコンテキストウィンドウを備える。長い資料を会話の文脈に収めながら、内容を調べたり、必要なツールを呼び出したりすることが可能なマルチモーダルモデルだ。Qwenは前世代のQwen3.5-Omni-Plusから、動画編集や会議後の作業など、複数の手順を踏む用途を強化したとしている。

ただし、通常版のAPIが出力するのはテキストである。動画や音楽を直接生成するモデルと考えると、用途を見誤る。映像の内容を理解して編集方針を立て、生成サービスや編集ツールを動かすことで、完成物へつなげる構成だ。APIはChat CompletionsとResponsesに対応し、東京を含む複数のリージョンで提供される。

リアルタイムの音声・映像会話には、別モデル名の「Qwen3.8-Omni-Flash-Realtime」がある。公式発表はその接続例と、継続的な対話を支えるオープンソースのQwen-Live Harnessを公開している。通常版のテキスト出力APIと、音声応答を行うRealtime版は分けて捉える必要がある。以下の料金も通常版のもので、Realtime版へそのまま当てはめることはできない。

入力は100万トークン0.15ドル、時間単価には条件がある

Alibaba Cloudの国際料金表QwenCloudのモデルページは、入力0.15ドル、出力0.47ドルという同じ単価を示す。Gemini 3.8 Flashと比べると、入力にも出力にも大きな開きがある。

通常APIの料金 Qwen3.8-Omni-Flash(国際向け) Gemini 3.8 Flash(標準有料枠)
入力100万トークン 0.15ドル 0.75ドル
出力100万トークン 0.47ドル 3.75ドル

2026年9月時点。キャッシュ割引やバッチ処理を含めない比較で、Googleの出力料金には思考トークンを含む。Googleの料金表では、上記のGemini料金は2026年12月31日まで。2027年1月1日から入力1.50ドル、出力7.50ドルとなる予定だ。

同じ100万トークン単位なら、Qwenの入力は80%、出力は約87.5%安い。計算はそれぞれ「1−0.15÷0.75」「1−0.47÷3.75」である。ただし、同じ動画が両モデルで同じトークン数になるとは限らない。単価の比率を、そのまま処理費用の削減率にすることはできない。

Qwenは素材の長さに換算した試算も公表した。発表内の比較図のドル表示では、音声入力は1時間当たり0.01ドル未満、音声付き動画は約0.20ドル。Gemini 3.8 Flashはそれぞれ0.09ドル0.84ドルとされる。前世代のQwen3.5-Omni-Plusは0.28ドル3.27ドルで、発表が強調する音声98%超、音声付き動画93%超の値下げは、この前世代との比較だ。

この時間単価は、2分間の素材の入力費を30倍した推計である。動画は720pを毎秒1フレームで読み込み、Geminiは解像度設定をhigh、その他のAPI設定は既定値としている。1時間の映像を高いフレームレートで詳しく調べる費用でも、回答や動画制作まで含めた総額でもない。低価格が効く場面を判断するには、素材をどの細かさで読むかまで揃える必要がある。

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動画を一括で読むか、必要な場面を探すか

Qwenは、入力をそのまま解釈する一括処理と、エージェント実行環境のQwen Codeを使う処理を比較している。後者は質問を起点に、見る場所や聞く場所を選び、段階的に手掛かりを集める方式だ。長い動画の答えが短い区間にしかないなら、全体を同じ細かさで読み続ける必要はない。

Qwenが発表した評価表を、同じ方式同士で比較すると次のようになる。数値は高いほど良い。すべて開発元の評価であり、独立した追試結果ではない。

動画の評価項目 Qwen(一括処理) Gemini(一括処理) Qwen+Qwen Code Gemini+Qwen Code
OmniVideoBench 63.4 65.2 67.8 70.1
Video-MME-v2 65.0 71.0 71.3 72.7
LVOmniBench 63.3 70.7 73.6 70.7

表のQwenはQwen3.8-Omni-Flash、GeminiはGemini 3.8 Flashを指す。LVOmniBenchでは、QwenがGeminiを7.4ポイント下回る一括処理の結果から、両モデルにQwen Codeを使うと2.9ポイント上回る結果へ変わった。差はそれぞれ「63.3−70.7」「73.6−70.7」で算出した。

長尺動画を推論するこの課題では、モデルに渡す素材をどう探すかが、順位を変えるほど効いている。一方、残る二つの評価では、Qwen Codeを使ってもGeminiが上回る。Qwenのツール利用時の値と、Geminiの一括処理の値だけを並べると、この違いは見えなくなる。「Gemini並み」という総括より、実際に使う処理方式を揃えた比較のほうが役に立つ。

読み込む量にも差が出た。Qwenの別の比較では、OmniVideoBenchの精度が63.4から67.8へ上がる一方、質問当たりのトークン消費は145,736から79,117へ減った。減少分を元の145,736で割ると、削減率は約45.71%になる。会話の文脈をターン間で保持する設定での結果だ。

低い入力単価に加え、必要な場面を絞れるなら、録画を繰り返し調べる負担は小さくなり得る。ただし、このトークン削減率は処理時間や最終請求額の削減率ではない。ツールの実行や追加の回答生成まで含め、どこに費用が生じたかを見る必要がある。

会議の話者分離は改善、文字起こしには弱点も

Qwenが示した改善の一つは、複数人の会議で誰がいつ話したかを区別する話者分離だ。AliMeetingの評価では、話者分離誤り率(DER)が前世代の88.11から3.35へ下がった。映像と音声を合わせて扱えるため、発言と人物を対応付け、議事録や作業項目を作る用途を想定している。

音声に関する成績が一様に上がったわけではない。日本語を含む60言語を集計したFLEURSの文字起こし評価では、低いほど良い単語誤り率がQwen3.5-Omni-Plusの7.2に対し、Qwen3.8-Omni-Flashは9.3だった。Gemini 3.8 Flashの7.9も上回り、この指標では劣る。音声翻訳のBLEUも、前世代32.2に対して31.8、Geminiは33.0という結果だ。

話者を区別できることと、発言を正確に書き起こせることは別の能力である。会議録に使うなら、話者名が合っていても、専門用語や決定事項を取り違えていないかを確かめたい。113言語・方言への入力対応は広いが、FLEURSの集計値から日本語だけの品質は判断できない。日本語の会議で採用するには、その場の音響や話し方に近い録音での評価が残る。

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動画制作の総費用は、モデル料金だけでは決まらない

Qwen-MM-Pluginsの公開リポジトリは、動画制作の仕組みを具体的に示している。音楽から映像を作ったり、映画の解説や動画の翻訳を行ったりするomni-chatcutは、生成・音声動画理解のサービスと、FFmpegなどの編集ソフトを利用する。翻訳音声には外部の吹き替えサービスを使う場合もある。モデルの入力料金だけで完成動画の制作費を表せないのは、このためだ。

同じプラグイン群には、解説動画から画面キャプチャー付きのPDFノートを作る機能や、長い動画の登場人物・会話・音を記録して再利用する機能もある。動画全体を毎回読み直す運用から、必要な内容を取り出して使い回す運用へ移せる余地がある。公開リポジトリも、多くのエージェント実行環境は主モデルへ音声を直接渡せず、現状はAPIを通じて扱うと説明している。既存ツールとの接続まで含めて設計する必要がある。

採用を左右するのは、同じ録画から同じ品質の成果物を作れたとき、出力や外部サービスを含む費用がどこまで下がるかだ。日本語の会議録や教材作りでその条件を満たせれば、長い音声・動画を日常的に調べ直す使い方が現実的になる。