AMDは2026年9月18日、第6世代サーバーCPU「EPYC 9006」の性能資料を公開した。最上位のEPYC 9996は、Intel Xeon 6980Pに対し、Redisで2.9倍、NGINXで3.7倍、MongoDBで3.5倍の処理量を記録したという。NVIDIA Veraに対しては、整数系の並列処理量を測るSPECrate 2026 Integerで2ソケット当たり2.24倍、1コア当たり1.2倍とした。
数字は大きいが、すべてが同じ種類の証拠ではない。Xeonとの企業・クラウド処理はAMDの実機測定である一方、VeraのSPEC値はAMDによる推定だ。100kWラックの比較は、物理ラックを並べた実測ではなく、ノード性能と搭載可能台数を組み合わせたモデルである。さらにEPYCとXeonでは、コア数とメモリが違い、使用するコンパイラと電力条件もそろっていない。今回の資料が示すのはCPU単体の一律な速さではなく、用途ごとに組んだプラットフォームの処理量だ。
最大3.7倍は256対128コアのプラットフォーム比較
企業・クラウド処理では、1ソケットのEPYC 9996とXeon 6980Pを比べている。EPYCは256コア、同時マルチスレッディングを有効にした512仮想CPU、Xeonは128コア、256仮想CPUだ。メモリはEPYCが全チャネルをDDR5-8000で、XeonがDDR5-6400で構成する。OSはUbuntu、仮想化にはKVMを使うが、サーバー本体やBIOSも異なる。
| 処理 | EPYC 9996 | Xeon 6980P | AMD公表の倍率 |
|---|---|---|---|
| Redis | 124,130,835.50 | 42,636,320 | 2.9倍 |
| NGINX | 38,451,232 | 10,526,326 | 3.7倍 |
| MongoDB | 6,195,941 | 1,794,003 | 3.5倍 |
出典:AMD、2026年7月時点の社内測定。Redisは8仮想CPUごとに1サーバーを置いたSET/GET要求、NGINXは1KBファイルをWRKで要求、MongoDBはAMDの処理量試験。単位は各処理内での比較用で、処理どうしの絶対値は比較できない。
この表の読みどころは、EPYCが同じ1ソケットへ2倍のコアと仮想CPUを載せ、その並列性を使える処理で大きく伸びたことだ。NGINXやRedisは、8仮想CPU単位のサーバーを多数動かして合計する。多数のエージェントが同時にWeb要求、キャッシュ、データベース処理を発生させる環境には近い。ただし、単一要求の応答時間が3.7分の1になるという意味ではない。コア単位で課金されるソフトウェアの費用や、600WのAMDの消費電力基準「Default CPU Power」を含むサーバー全体の電力も、この倍率だけでは判断できない。
MySQLの試験も注意が要る。AMDが使ったTPROC-CはTPC-Cを基にしたオープンソース処理だが、TPC-C標準に準拠した公開結果とは比較できない。AMDは2.6倍としているものの、正式なTPC-C記録へ読み替えることはできない。
Veraの2.24倍は推定値同士
Veraとの比較では、問いに応じて別のVenice構成が使われた。1コア当たりの性能は96コア高クロック品で、2ソケットの推定スコア1210を合計コア数で割った6.3。Veraは2ソケット、各88コアの推定925を176コアで割った5.3で、AMDは約1.2倍とする。
プラットフォーム全体の処理量では、256コアのEPYC 9996を2基使った推定2070と、Veraの推定925を比べる。2070を925で割ると約2.24になる。コンパイラは双方GCC 15.2でそろえたとAMDは説明するが、AMD自身が両値を「内部推定」「予備的な工学投影」と位置付けている。市販された2種類のサーバーを第三者が同じ環境で測った結果ではない。
NVIDIAの公称仕様では、Veraは88基のOlympusコア、176スレッド、最大1.2TB/sのLPDDR5X、250〜450Wである。Veraは1コア当たりの性能とメモリ帯域を重視し、EPYC 9996は256コアの密度を生かす。2.24倍は後者の並列処理量を示すが、1スレッドの応答やメモリ帯域を強く使う処理まで同じ差になるとは限らない。NVIDIA自身もVeraの仕様を暫定値としている。
3.4倍は物理ラックの実測ではない
AMDは9月の本文で、EPYC 9996が100kWラック当たりでVeraの推定3.4倍の処理量を持つと述べた。この比較は、すべてを2ソケットノードとし、ノード性能に100kW内へ置けるノード数を掛ける。対象はSPEC整数処理とJavaに加え、NGINX、Redis、Memcached、TPROC-Cの6種類である。Veraのノード性能も、既存データを基にAMDが推定した。
AMDの公開資料で、同じ100kWラック比較は9月の本文が3.4倍、6月の方法文書に基づく説明が3.30倍と一致していない。
| AMD公開資料 | VeniceのVera比 | 確認できる方法 |
|---|---|---|
| 2026年6月のラック比較 | 3.30倍 | 6処理の幾何平均、2ソケット、100kW、ノード数を正規化 |
| 2026年9月のNewsroom本文 | 3.4倍 | 脚注は6月の方法文書へ案内 |
3.30を小数第1位へ丸めれば3.3であり、3.4にはならない。9月版で入力を更新したのか、処理の組み合わせを変えたのか、本文の表記に問題があるのかは、取得できた公開資料から確定できなかった。したがって3.4倍は、再現可能な物理ラック実測ではなく、差の理由も未解消なAMDのモデル値として扱う必要がある。
100kWという共通枠を置く発想自体は、データセンターの制約に近い。だが必要なのはCPUの定格だけではない。ノード電力にはメモリや基板、冷却、ネットワークが関わり、負荷時に維持できる性能とともにラック当たりの台数を決める。AMDも、モデル結果が実際の配備性能を反映しない可能性を明記している。
MRDIMMの効果は処理ごとに異なる
HPCでは、EPYC 9996を2基、合計512コアで使い、Xeon 6980Pは合計256コアとした。両者とも同時マルチスレッディングを無効にし、結果は3回の平均である。EPYC側は2,048GiB、Xeon側は1,536GiBのメモリを積む。コンパイラはAMDがAOCCとAOCL、IntelがIntelコンパイラとMKLであり、CPUだけを同条件で比べた試験ではない。
AMDのMRDIMM構成はXeon比で、分子動力学のGROMACSが3.13倍、NAMDが3.08倍、材料計算のQuantum ESPRESSOが1.80倍、気象計算のWRFが2.90倍に相当する。ここでも処理量、所要時間、平均時間が混在するため、同じ向きへ換算して読む必要がある。
同じEPYC 9996でメモリだけを見ると、GROMACSはDDR5-8000のRDIMMで8.249ns/day、高速なMRDIMMで9.195ns/dayとなり、11.5%向上した。一方、NAMDは1.72から1.71ns/dayへ0.6%下がった。測定のばらつきは示されていないが、少なくとも公表値は、帯域を増やせば全処理が同じ割合で速くなるという説明を支持しない。
エージェント全体ではなくCPU周辺層の評価
AMDは、エージェント型AIが検索や計画を行い、ツールやデータベースを呼び出すほど、GPUの周囲でCPUが担う仕事が増えると説明する。今回のRedis、NGINX、暗号、データベースは、その周辺層を構成する個別処理である。高い並列性を使える環境なら、EPYC 9996のコア密度は有力な選択肢になる。
ただし、AMD自身の評価はGPUで行う推論を対象外とする。モデルが考える時間やCPUとのデータ移動、外部API、ストレージの待ち時間を含む、エージェントの仕事全体を測った結果ではない。どのCPUが適するかは、同時実行する環境の数と1スレッドの遅延をまず見る。メモリ帯域、ソフトウェアの並列化、コア課金の有無も判断を変える。
次の判断材料は、OEMが提供する市販サーバーでの独立測定だ。同じ電力上限と価格帯で、コンパイラとメモリ容量もそろえ、処理量に加えて負荷が高いときの応答時間を見る。さらにGPUを含むエージェント処理の開始から完了までを測れれば、Veniceのコア密度が実際のサービス容量へどこまで変わるかを判断できる。最大3.7倍という数字より、利用する処理がその条件を再現できるかが調達の分かれ目になる。



