GoogleのTPUは、AIモデルを速く動かす専用アクセラレータとして進化してきた。その次の世代で、CPUの役割までパッケージ内部へ引き寄せる構想が検討されている可能性が出てきた。SemiAnalysisは顧客向けノートで、市場観測としてGoogleがAMDと「TPU v10」世代のプロジェクトで協業している可能性を伝えた。
同ノートが理由として挙げたのは、強化学習(RL)でCPU処理の比重が増すことと、AMDのCPU IP、先進パッケージングの経験である。もっとも、GoogleもAMDもTPU v10や共同設計を発表していない。AMDがCPU IPを提供するのか、パッケージ開発に関わるのか、あるいは別の役割なのかも公表されていない。
AMDが関わるとすれば、その狙いを読み解く材料はすでにある。Googleは現行TPUでCPUとアクセラレータの仕事を分け始め、AMDは両者を一つのパッケージに載せた実績を持つ。両社の公表資料を重ねると、協業説が指す技術上の接点が見えてくる。
SemiAnalysisが伝えたのは「市場観測」にとどまる
SemiAnalysisは、GoogleとAMDがTPU v10のプロジェクトで協業しているとの「market chatter」があると記した。ノートの公開抜粋によると、Googleと顧客は強化学習向けにCPUコアを同一パッケージへ統合したTPUを求めており、AMDのCPU IPが魅力になり得るという。先進パッケージングの経験も、AMDを候補にする理由として触れられている。
しかし、この文言は契約締結や設計採用を意味しない。テープアウトから製造委託、発注量まで、開発の進行を示す情報はない。提供時期や商用顧客、取引額も確認されていない。「TPU v10」自体もGoogleが公表した製品名ではなく、SemiAnalysisが用いた呼称である。
Googleが公表済みなのは、第8世代TPUのTPU 8tとTPU 8iだ。2026年4月のGoogle Cloud Nextで発表した8tは事前学習向け、8iはサンプリング、推論、ポストトレーニング向けに分けた。今回の観測は、その先の設計を巡る話として扱う必要がある。
AMDの名前が出たからといって、GoogleがTPUを丸ごと外部へ委ねるという意味にもならない。現段階で確認できるのは、SemiAnalysisがCPU IPとパッケージングを可能性として挙げたことまでである。
強化学習で近づくCPUとTPU、それでも仕事は同じではない
GoogleはTPU 8iを、推論と強化学習向けに設計したと説明している。8iは384MBのオンチップSRAM、288GBのHBM、19.2Tb/sのICI帯域幅を備え、Googleの条件下では前世代比でオンチップ集合通信のレイテンシを最大5分の1に抑え、推論の性能当たりコストを80%改善したという。モデルを動かす計算に加え、推論を何度も回す工程が製品設計へ入っている。
一方、GoogleはCPUサービスがTPUやGPUを補完すると明記する。複雑なロジック、ツール呼び出し、モデルの周囲にあるフィードバックループをCPUへ割り振り、具体例にRLの報酬計算、エージェントのオーケストレーション、入れ子の可視化を挙げた。強化学習では、テンソル演算に向くモデル計算と、条件分岐や外部ツールを扱う汎用処理が同居する。CPU処理が増えるという話は、RLの学習全体がCPU中心になるという意味ではない。
現行の結び付き方も、CPUをTPUパッケージ内へ入れた設計とは異なる。GoogleのTPU 8t/8iの技術解説には、ArmベースのGoogle Axion CPUを置く「CPU header」が両システムに示され、データ前処理とオーケストレーションに余力を与えるとされる。
つまり、GoogleはすでにシステムとしてCPUとTPUを組み合わせている。SemiAnalysisがいうオンパッケージCPUは、その距離をさらに縮める案になる。ただし、TPU 8のCPU headerはCPUコアをTPUと同じパッケージに統合したという説明ではない。公開済みの設計と、次世代で検討されている可能性がある設計を混同してはならない。
Google CloudとAMDのCPU取引自体は新しくない。Googleは第4世代Compute Engine VMにAMDとIntelの最新x86プロセッサを採用し、報酬計算を含む幅広い強化学習タスクに最適化したと説明している。ただし、これはクラウド向けCPUの供給関係であり、TPU共同設計の裏付けにはならない。
MI300Aの実績と、AMDが担えるかもしれない範囲
AMDはMI300Aで、24基のZen 4 x86 CPUコア、228基のCDNA 3 GPUコンピュートユニット、128GBの統合HBM3を一つのパッケージに集積している。ピークメモリ帯域幅は5.3TB/sである。CPUと大規模アクセラレータ、共有メモリを近接させたデータセンター向け製品を、AMDが実際に設計してきたことは確認できる。
この経験は、GoogleのTPUへMI300Aの設計を流用する根拠にはならない。TPUはGoogleの独自アクセラレータであり、MI300AはAMD Instinct製品だ。CPUアーキテクチャやコア数、メモリ構成は今回の市場観測からは分からない。チップレットの接続方法や、どの処理を同一パッケージへ載せるかも不明である。
それでも、AMDの候補性には具体的な背景がある。同社は2025年11月、Embedded事業でセミカスタムシリコンへ拡大し、戦略顧客と共同開発プログラムを進める方針を示した。幅広いIPと先進パッケージングを活用すると説明したが、GoogleやTPUには言及していない。確認済みなのは、AMDがセミカスタム案件を拡大する方針と、異種計算を一つのパッケージへ集積した製品実績までだ。
Broadcomとの長期契約が残す、協業の余白
Googleには、次世代TPUを巡る別の公表済みパートナーがいる。Broadcomが2026年4月に米証券取引委員会へ提出した8-Kによると、両社は将来世代のカスタムTPUをBroadcomが開発・供給する長期契約を結んだ。別の供給保証契約では、Broadcomが次世代AIラック向けにネットワークその他の部品を最長2031年まで供給する。
同じ開示では、Broadcom、Google、Anthropicが協業を拡大し、Anthropicが2027年から約3.5GWの次世代TPUベース計算資源へアクセスする計画も示された。ただし、これはAnthropicの継続的な商業的成功を条件としている。GoogleのTPU供給計画がすでに大規模な計算資源の調達と結び付いていることは分かるが、AMDに関する市場観測の規模や用途を裏付ける材料にはならない。
したがって、AMD協業説をBroadcomの交代と読むのは早い。BroadcomがTPUやネットワーク部品を担いながら、AMDがCPU IP、パッケージ、別の製品群、または別の工程で関わる余地は論理上あり得る。反対に、SemiAnalysisが言及した協業が製品化へ進まない可能性も残る。公表資料は、両社の役割分担をまだ示していない。
判断を更新する最初の材料は、GoogleかAMDによる契約発表である。次にAMDの担当がCPU IPなのか設計支援なのか、採用するCPUアーキテクチャとパッケージの接続構成は何かが続く。さらにテープアウトか提供開始が確認されれば、TPUがシステム外部のCPU連携を深めるのか、アクセラレータの内部へCPUを取り込むのかを区別できる。



