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NVIDIA、NVLink Fusionを発表:他社製CPU等を柔軟に組み合わせる事が可能に

Y Kobayashi

2025年5月19日1:29PM

NVIDIAは本日、台湾で開催中のCOMPUTEX 2025にて、同社の強力なインターコネクト技術「NVLink」を基盤とした新プログラム「NVLink Fusion」を発表した。これにより、顧客やパートナー企業は、NVIDIA製GPUと自社開発のカスタムCPUやAIアクセラレータを、NVIDIAのラック規模アーキテクチャ内で緊密に連携させることが可能になる。この動きは、AIデータセンターの設計に新たな柔軟性をもたらし、特定用途に最適化された高性能AIインフラ構築の可能性を大きく広げるものとして注目される。

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NVLink Fusionとは何か? – AIインフラの常識を覆す新技術の全貌

NVLink Fusionは、NVIDIAが長年培ってきた高速インターコネクト技術NVLinkの最新の進化形であり、そのエコシステムを外部のカスタムシリコンにも開放するものだ。従来、NVIDIAのNVLink技術は主に同社製GPU間、あるいはNVIDIA製CPUとGPU間の接続に用いられ、その圧倒的な帯域幅と低遅延によってAIワークロードにおけるスケーラビリティと電力効率の向上に貢献してきた。これは、標準的なPCIeインターフェースと比較して最大14倍もの帯域幅アドバンテージを持つとされる。

NVIDIAは2022年に、チップレット間の接続技術であるC2C (Chip-to-Chip)を発表し、他社製シリコンとの連携の門戸を一部開いていたが、今回のNVLink Fusionはこれをさらに推し進め、ラック規模での大規模なスケールアウトおよびスケールアップアプリケーションに対応する、より包括的なプログラムと言えるだろう。

この新プログラムの核心は、NVIDIA以外のCPUやカスタムAIアクセラレータ(ASICなど)が、NVLinkの高速な「コンピューティングファブリック」に直接接続できるようになる点にある。これにより、システム設計者は、特定のワークロードや要件に合わせて、最適なコンポーネントを組み合わせた「セミカスタムAIインフラ」を構築できるようになる。

NVIDIAの創業者兼CEOであるJensen Huang氏は、「AIがあらゆるコンピューティングプラットフォームに融合する中で、データセンターは根本的な再設計を迫られています。NVLink Fusionは、NVIDIAのAIプラットフォームと豊富なエコシステムをパートナーに開放し、特化したAIインフラの構築を可能にするものです」と述べている。

なぜ今NVLink Fusionなのか? – NVIDIAの戦略と市場のニーズ

AIモデルの巨大化と、それに伴う学習・推論処理の要求性能は指数関数的に増大している。このような背景の中、データセンターの設計においては、より高い処理能力、スケーラビリティ、そして電力効率が求められている。

NVIDIAはこれまで、自社製品を中心としたエコシステムでAI市場をリードしてきたが、NVLink Fusionの発表は、よりオープンな協調体制へと舵を切る意思表示と捉えることができる。市場の多様なニーズに応えるためには、画一的なソリューションだけでは限界があり、顧客やパートナーが持つ独自の技術やアイデアを活かせる柔軟なプラットフォームを提供することが不可欠であるとの判断が働いたのではないだろうか。

また、この動きは、AMDやIntel、Broadcomなどが参加するオープンなインターコネクト標準規格「Ultra Accelerator Link (UALink)」コンソーシアムの動きを牽制する狙いもあると考えられる。UALinkがNVLinkに対抗するオープンスタンダードを目指す中、NVIDIAは自社の実績ある技術を一部開放することで、エコシステムの主導権を維持しつつ、さらなる拡大を図ろうとしているのかもしれない。

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NVLink Fusionがもたらす具体的なメリットと可能性

NVLink Fusionの登場は、AIインフラの構築に関わる様々なプレイヤーに恩恵をもたらすと考えられる。

  • データセンター事業者(ハイパースケーラーなど): NVIDIAのラック規模ソリューションとNVLink Fusionを活用することで、自社の既存インフラやカスタムシリコンとシームレスに統合し、数百万GPU規模へのAIファクトリー拡張が容易になる。
  • AIソリューション開発企業: 特定のAIモデルやアプリケーションに最適化されたハードウェア構成を選択できるようになり、開発期間の短縮やコスト効率の向上が期待できる。
  • カスタムシリコン開発企業: NVIDIAの強力なGPUエコシステムと連携することで、自社製品の付加価値を高め、新たな市場機会を捉えることができる。

例えば、特定の自然言語処理に特化したCPUとNVIDIAの最新GPUをNVLink Fusionで接続し、極めて効率的な大規模言語モデル(LLM)学習・推論クラスターを構築する、といったユースケースが考えられる。あるいは、科学技術計算向けの特殊なアクセラレータをNVIDIA GPUと組み合わせ、創薬や気象シミュレーションなどの分野でブレークスルーを生み出すことも期待される。

主要パートナー企業とその役割 – エコシステム拡大への強力な布陣

NVIDIAはNVLink Fusionの発表と同時に、多数の主要パートナー企業との協業を明らかにした。これは、同社が本気でエコシステム拡大に取り組んでいる証左と言えるだろう。

CPUパートナー:

  • Qualcomm Technologies: 近年データセンター向けカスタムCPU市場への再参入を表明しており、NVLink Fusionを通じてNVIDIAのAIエコシステムとの連携を強化することで、その取り組みを加速させる狙いだ。同社のCristiano Amon社長兼CEOは、「我々のカスタムプロセッサをNVIDIAのラック規模アーキテクチャに接続できることで、高性能かつエネルギー効率の高いコンピューティングをデータセンターにもたらすという我々のビジョンを前進させる」とコメントしている。
  • Fujitsu: 次世代プロセッサ「FUJITSU-MONAKA」は2nmプロセスを採用したArmベースCPUで、極めて高い電力効率を目指している。同社のVivek Mahajan CTOは、「我々の技術をNVIDIAのアーキテクチャに直接接続することは、世界をリードするコンピューティング技術を通じてAIの進化を推進するという我々のビジョンにおける記念碑的な一歩であり、スケーラブルで、主権を持ち、持続可能な新しいクラスのAIシステムへの道を開くものだ」と述べている。

カスタムAIシリコンパートナー:

  • MediaTek: ASIC設計サービスと高速インターコネクトの専門知識を活かし、NVIDIAと協力して次世代AIインフラを構築する。
  • Marvell: NVLink Fusionを用いたカスタムシリコンにより、次世代の数兆パラメータAIモデルに必要な帯域幅、信頼性、俊敏性を提供することを目指す。
  • Alchip Technologies: 設計・製造エコシステムを通じてNVLink Fusionの採用をサポートする。

デザイン・IP・インターコネクトソリューションパートナー:

  • Astera Labs: NVLink Fusionエコシステムに対応する専用接続ソリューションを提供する。
  • Synopsys: 業界をリードするAIチップ設計ソリューションと標準ベースのインターフェースIPを提供する。
  • Cadence: 設計IP、チップレットインフラ、サブシステムなど、包括的なIPポートフォリオでNVIDIA NVLinkエコシステムを補完する。

これらのパートナー企業との連携により、NVLink Fusionは設計から製造、実装に至るまでの広範なサポート体制を構築し、多様なニーズに応えるセミカスタムAIインフラの迅速な市場投入を後押しすることになるだろう。

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NVLinkの進化と周辺技術の連携

NVLink Fusionは、NVIDIAが誇る第5世代NVLinkプラットフォームを基盤とする。これには、NVIDIA GB200 NVL72やGB300 NVL72といった高密度コンピュートラックが含まれ、GPUあたり1.8TB/sという驚異的な総帯域幅を実現する。これはPCIe Gen5と比較して14倍高速であり、AIワークロードにおけるボトルネック解消に大きく貢献する。

さらに、NVLink Fusionで接続されたAIファクトリーの運用とオーケストレーションを効率化するため、NVIDIAは新たなソフトウェアプラットフォーム「NVIDIA Mission Control」も提供する。これにより、インフラの構成、検証、ミッションクリティカルなワークロードの調整といった複雑な管理タスクが自動化され、企業は最先端モデルをより迅速に稼働させることが可能になる。

ネットワーク面では、最大800Gb/sのスループットを誇るNVIDIA ConnectX-8 SuperNIC、NVIDIA Spectrum-X Ethernet、そしてNVIDIA Quantum-X800 InfiniBandスイッチ(近々Co-Packaged Opticsも提供予定)といったNVIDIAのエンドツーエンドネットワーキングプラットフォームとの連携もサポートされ、AIファクトリー全体のスループットとパフォーマンスを最大化する。

オープン化への潮流か、新たなエコシステム戦略か?

NVIDIAによるNVLink Fusionの発表は、AI半導体市場における同社の影響力をさらに強固なものにする可能性がある。一方で、これはNVIDIAがこれまでの比較的クローズドな戦略から、よりオープンな協調へと軸足を移しつつある兆候とも読み取れる。

UALinkのようなオープンスタンダードを目指す動きとは異なるアプローチだが、NVIDIAが自社の強力な技術基盤を一定の条件下で開放することにより、業界全体のイノベーションを加速させる触媒となることは間違いないだろう。顧客にとっては選択肢が増え、より柔軟なシステム構築が可能になるというメリットがある。

この動きが、真のオープン化への第一歩となるのか、あるいはNVIDIAを中心としたより強固なエコシステムの新たな形成戦略なのか、その評価は今後の展開を見守る必要がある。しかし、AI技術が社会の隅々にまで浸透しようとしている現在、このような高性能かつ柔軟なAIインフラ構築を可能にする技術の登場は、間違いなく歓迎すべき進展と言えるのではないだろうか。NVLink Fusionが切り拓くAIの未来に、大きな期待が寄せられる。


Sources

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