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米国、NVIDIAチップの対中密輸阻止へマレーシアに監視強化要請

Y Kobayashi

2025年3月25日

米国政府がマレーシアに対し、NVIDIA社の高性能AIチップの流れを厳格に監視するよう要請したことが明らかになった。この動きは、人工知能開発の要となる先端半導体が第三国を経由して中国に密輸されている懸念への対応策である。

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マレーシア政府、NVIDIAチップの全出荷監視タスクフォースを設立

マレーシアのZafrul Abdul Aziz投資貿易産業大臣はFinancial Times紙の取材に対し、「米国はマレーシアに入るNVIDIAチップを含むすべての出荷を監視するよう求めている」と明かした。同大臣は「サーバーが本来設置されるべきデータセンターに確実に届き、別の船に転送されないようにすることを米国は望んでいる」と説明している。

この要請を受け、マレーシア政府はGobind Singh Deo デジタル大臣を含む合同タスクフォースを発足させた。このタスクフォースは急成長を遂げる国内のデータセンター産業への監督を強化する方針だ。データセンターとは、AIの演算処理や大規模なデータ処理を行うために、多数のサーバーコンピュータを集約した施設を指す。

マレーシアは過去1年半で、NVIDIA、Microsoft、ByteDanceなどの大手テクノロジー企業から250億ドル(約3.8兆円)以上の投資を集め、特にジョホール州でデータセンター産業が急速に拡大している。同国当局は以前、NVIDIAのAIチップに関連する不正行為の証拠は見つかっていないと述べていたが、今後も米国やシンガポールと協力して先端技術の取引に関する懸念に対処する姿勢を示している。

シンガポールで摘発された3億9000万ドル規模の不正取引とDeepSeekとの関連性

米国のマレーシアへの監視強化要請は、シンガポールで進行中の大規模調査と連動している。シンガポール当局は、Dell TechnologiesとSuper Micro Computerから調達したサーバーの最終利用者について虚偽の情報を提供したとして、3人の男性を詐欺の罪で起訴した

これらのサーバーには、中国への販売が禁止されているNVIDIAの高性能グラフィック処理ユニット(GPU)が搭載されていた可能性がある。GPUは従来はゲームやグラフィック処理用に設計されたチップだが、現在は大規模AI開発に不可欠な並列計算能力を持つことから規制対象となっている。この不正取引の総額は約3億9000万ドル(約590億円)に達するとされる。

シンガポールのメディアは、この事件を中国のAI企業DeepSeekへのNVIDIAチップ不正流出と関連付けている。DeepSeekは2025年1月に発表したAIモデルの性能が技術業界に衝撃を与え、その技術力の源泉に疑問の目が向けられていた。Trump政権の関係者は実際に、DeepSeekが禁輸対象のNVIDIAチップをシンガポールの第三者を通じて入手していた可能性を調査していると報じられている。

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シンガポールのNVIDIA収益シェア急増が示す「抜け穴」の存在

注目すべきは、シンガポールがNVIDIAのグローバル収益において急速に重要性を増していることだ。2025会計年度には同社の収益の18.14%をシンガポールが占めるに至っており、これは中国向けAI GPU販売制限が初めて導入された2024会計年度の8.5%から倍以上に増加している。

この急増は、米国の規制に「抜け穴」が存在する可能性を示唆するものとして米国議員から懸念が表明されている。シンガポールへの物理的な出荷量は比較的少ないにもかかわらず収益貢献度が高いという矛盾に、規制回避の痕跡を見る見方もある。

これに対しシンガポールとNVIDIA関係者は、多くのNVIDIA顧客が同国を一元的な請求場所として使用しているに過ぎず、物理的なNVIDIA製品の配送は少数だと説明している。しかし、米国議員からはこの説明に疑問が呈されている。

米国による3階層ライセンスシステムと対中半導体輸出規制の全容

米国政府は中国へのAIチップ流出を防ぐため、緻密な輸出管理体制を構築している。その中核となるのが、AIチップ輸出のための3階層ライセンスシステムだ。このシステムでは、ドイツや日本など18の密接な同盟国には優遇措置を与え、その他約120カ国には厳格な数量制限を課している。中国は、ロシア、イラン、北朝鮮と同じカテゴリーに分類され、完全な輸出禁止措置の対象となっている。

トランプ政権はさらに規制強化を計画している。東京エレクトロンやASMLといった半導体製造装置メーカーによる中国のチップ工場でのメンテナンス作業の制限や、ChangXin Memory TechnologiesやSMIC(中芯国際集成電路製造)などの中国企業に対する制裁強化も視野に入れている。

クラウド事業者に対しても特別な規制が設けられている。MicrosoftやGoogle、Amazonなどの大手クラウドプロバイダーは、米国外のAI計算能力を総容量の50%に制限されている。さらに、最も信頼される同盟国以外の国々では、一カ国あたりの計算能力は全体の7%までに制限され、それを超える場合は特別許可の申請が必要となる。

NVIDIAの反発と業界への影響

これらの規制強化に対し、NVIDIAは強い反対姿勢を示している。同社はこれらの措置を「広範囲にわたる介入」と表現し、AI開発における米国のリーダーシップを脅かす可能性があると警告している。NVIDIAのH100やA100などの高性能GPUは、大規模言語モデル(LLM)の学習に不可欠とされ、世界中のAI研究開発競争の鍵を握っている。

業界では、「貿易の抜け穴」が塞がれれば、NVIDIAのデータセンター事業収益に打撃を与える可能性があるとの見方が出ている。シンガポールやマレーシアなど東南アジア諸国はNVIDIAのグローバル展開において重要な役割を担っており、規制強化は同社の業績に少なからぬ影響を与えるだろう。

規制強化が東南アジアのハイテク産業に与える影響

マレーシアの監視強化とシンガポールの調査は、急成長する東南アジア地域のデータセンター産業と半導体取引に広範な影響を及ぼす可能性がある。特にマレーシアでは、AIとデータセンターへの投資ブームが本格化しており、規制強化はこの勢いに水を差す恐れがある。

マレーシアの大臣は「中国へのチップ販売で非難されているが、これを裏付ける証拠はない」と反論している。同国自体がAI分野に多額の投資を行っており、正当な理由でNVIDIAのAIチップに高い需要を持っていると主張しているのだ。

米中技術覇権競争と半導体規制の展望

米国政府によるマレーシアへの監視強化要請は、AI開発をめぐる米中の技術覇権競争の激化を如実に物語っている。米国は中国がAI技術で優位に立つことを阻止するため、半導体サプライチェーンの脆弱な部分を特定し、あらゆる「抜け穴」を塞ぐ取り組みを強化している。

特に高性能GPUは最新のAIモデル開発に不可欠な要素であり、これらのチップへのアクセスを制限することで、中国のAI進化速度を鈍化させる戦略が取られている。米国政府は、こうした先端技術が中国の軍事能力強化につながる可能性を特に懸念している。

しかし、グローバル化が進んだ現代の半導体産業では、完全な輸出管理は困難を極める。シンガポールやマレーシアなど東南アジアのハイテク産業ハブを通じた「迂回ルート」の存在は、規制の実効性に疑問を投げかけている。

今後、米国はより精緻な監視体制と国際協力を通じて規制の網を狭めていくと予想される。一方で、こうした動きがグローバルなサプライチェーンと貿易パターンに与える影響、そして世界のAI開発競争にどのような変化をもたらすかは注視すべき課題である。


Sources

Meta Description

米国が中国へのNVIDIA AI半導体密輸阻止のためマレーシアに全出荷監視を要請。シンガポールの3億9000万ドル不正取引調査と連動し、3階層規制システムを強化。東南アジアのデータセンター産業と半導体貿易に大きな影響も。

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