NVIDIAは10月12日、次世代AI基盤「Vera Rubin」の主要なラック・計算トレイ設計を、Open Compute Project(OCP)へ提供したと発表した。GPUを高性能にしても、それを収める筐体や液冷設備を大量に作り、電源につなぎ、稼働させる工程が追いつかなければ計算能力は増やせない。今回のMGX 1.2仕様は、最大250kWに対応するラック設計と、挿し込み式の液冷接続を共通仕様にそろえる。AIサーバーを作る企業と導入する企業が、どこまで同じ設計を使い、どこから個別に検証するのかが見えてくる。
Blackwellから続く設計公開がVera Rubinへ
NVIDIAの今回の発表は、同社のモジュール式アーキテクチャ「MGX」を通じ、Vera Rubinのラックと計算トレイの主要設計をOCPへ提供したと説明する。計算トレイとは、CPUやGPUを載せてラックへ挿し込む筐体だ。OCPへの提供は、こうした機器を作るメーカーが共通設計を使えるようにする取り組みである。
設計公開の経緯を振り返ると、今回の新しさをつかみやすい。NVIDIAはBlackwell世代ですでにラック周辺の設計をOCPへ提供し、昨年にはVera Rubin向けの改良も予告していた。
| NVIDIAの発表日 | 対象とした設計 | 発表で示した段階 |
|---|---|---|
| 2024年10月15日 | GB200 NVL72のラック構造、トレイの機構、液冷・熱条件など | 電気・機構設計の主要部分をOCPへ提供 |
| 2025年10月13日 | Vera Rubin向けの改良ラックと計算トレイ | OCPへの設計提供を予告 |
| 2026年10月12日 | Vera Rubinの主要ラック・計算トレイ設計 | MGXを通じてOCPへ提供したと発表 |
今回の変化はMGXの初公開ではなく、2025年に予告したVera Rubin向けラック・トレイ設計のOCP提供である。表は各年の発表について、対象世代と提供の段階を比べたもので、OCPでの審査完了日や全設計ファイルの公開日時を示すものではない。
MGX 1.2では、給電と冷却の接続仕様を標準化し、構成を選べる入出力ベイや19インチ機器への対応も加えた。共通仕様のもとで機器の構成を変えられれば、メーカーは筐体や接続部を顧客ごとに作り直す手間を減らしやすくなる。
ただし、今回示された公開対象はラックとトレイの主要設計だ。Rubin GPUの内部回路や半導体の製造技術を公開する発表ではない。共通仕様による相互運用を目指すことと、異なるメーカーのあらゆる部品を無条件に交換できることも別である。
ホースとファンを外せるのは、液冷を接続方式から作り直すため
DGX Vera Rubin NVL72のユーザーガイドでは、ラックに18台の計算トレイを収め、各トレイに2基のVera CPUと4基のRubin GPUを搭載する。合計72基のGPUを結ぶのは、9台のNVLinkスイッチトレイだ。この規模になると、トレイ一台を組み立て、交換する際の手順が、ラック全体の製造や保守にも響く。
NVIDIAの技術解説によると、Vera Rubinの計算トレイは、内部の部品をつなぐ中間基板を使うことで、ケーブルとホース、ファンを省く構造へ作り直された。液冷をやめたわけではない。CPUやGPUに取り付ける冷却板には、ラック側の配管から冷却液を流す。
今回のMGX 1.2が加えるのは、トレイを所定位置へ挿し込むと接続できる液冷方式だ。NVIDIAは関連する液冷技術としてMQDとMQDBも挙げている。冷却部品の接続を共通設計に含め、組み立てと現場での交換を簡単にする狙いがある。
配線やホースを一つずつ取り回す代わりに、基板と決められた接続部で組み合わせる。工程の変化はここにある。手作業を減らせる一方、挿し込み位置の精度や接続品質、必要な量の冷却液が流れるかという検証は残る。組み立てやすさは、接続部とラック側の設計を合わせることで得られる。
「ケーブルもファンもない」という説明の対象には注意したい。NVLinkでトレイ同士を結ぶ銅配線はラック背面のカートリッジに残り、ユーザーガイドの電源棚には空冷の電源ユニットも記載されている。省かれるのは計算トレイ内部の配線やファンであって、ラック全体が無配線・無送風になるという意味ではない。
給電部も液冷の対象になる。MGX 1.2には、5,000Aの電流に対応する液冷式バスバーが含まれる。バスバーは、大きな電流を流すための帯状の導体だ。GPUへ大量の電力を送るには、チップから出る熱に加え、その電力を運ぶ導体の発熱にも対処する必要がある。
250kWのラックと800Vの配電を分けて読む
MGX 1.2についてNVIDIAが示す「最大250kW」は、アーキテクチャが対応するラック導入の電力範囲である。すべてのVera Rubin NVL72製品が常時250kWを使うという測定結果ではない。5,000Aや800Vと並ぶと、一つの電源仕様のように見えるが、それぞれの数字は異なる対象を表している。
| 数字 | 何を表すか | 対象とする場所・構成 |
|---|---|---|
| 最大250kW | MGX 1.2が対応するラック導入の電力範囲 | ラックの設計上の対応能力 |
| 5,000A | 液冷式バスバーが対応する電流 | ラック内の導体 |
| 54V DC | 電源棚が変換して供給する直流電圧 | DGX Vera Rubin NVL72のユーザーガイドに記載されたラック内給電 |
| 800V DC | 高密度AI設備に向けた配電電圧 | 施設内の配電経路や専用電源ラックを用いる構成 |
ラックの対応能力と導体の電流は今回のMGX発表、54VはDGXの電源棚の説明、800VはNVIDIAの配電設計の説明を基準に分けた。これらを掛け合わせても、個別製品の消費電力や保証される定格は求められない。
800V DCの狙いは、電力を施設から計算機へ運ぶ経路を変えることにある。より高い電圧で直流を配り、変換装置や配線の負担を減らす。NVIDIAは、既存の交流設備へ専用の800V DC電源ラックを加える移行方法も説明しており、建物全体を一度に直流化する構成だけを想定してはいない。
今回Visionbayが示した「K-1」も、800V DCを使うAI設備の計画だ。交流から直流への変換をクラスター単位の電源設備に集め、効果が大きい場所から段階的に導入する考え方を採る。ラックの共通設計と施設側の配電更新は関連するが、現行DGXの全構成が800V入力へ切り替わったという発表ではない。
19インチ機器への対応や共通の接続部があっても、既設の電源・冷却能力まで自動的に増えることはない。導入先で必要な電力を届け、発生する熱を運び出せるかは、設備ごとに確かめる必要がある。
共通設計の価値は、製造から稼働までつながる
Vera CPUだけを集めたラックも、第3世代MGXの設計原則を共有する。Vera Rubin NVL72が大規模な学習・推論を担うのに対し、CPU側の設備はAIエージェントによるツール呼び出しや処理の調整、隔離された環境での実行を支える。同じAIデータセンターでも役割の違う計算機を、共通の電源・冷却設計で扱えるようにするわけだ。
メーカーの仕事がどこに残るかは、LenovoのOCP 2026向け製品説明が具体的に示している。同社はVera Rubinを使う「AI Cloud Gigafactory」で、自社の設計と製造に加え、機器の統合・検証を提供すると説明する。Neptuneによる液冷の経験や、導入後の運用支援も組み合わせる。
共通設計が広がれば、メーカーは基本の接続方式を一から決める負担を減らせる。そのうえで、顧客の施設へどう収め、機器群をどう検証し、故障時にどう復旧させるかが製品とサービスの違いになる。Lenovoの説明は、この役割を引き受ける構想を示すもので、導入時間や費用の削減幅を独立した試験で確かめた結果ではない。
NVIDIAも、完成したラックを動かす工程へ範囲を広げている。今回DSX OSに追加したオープンソースの運用ソフトには、スイッチ設定をそろえるConfig Managerや、実際の負荷に近い処理でGPU群を検査するCluster Readiness Engineがある。Rack Management Serviceはラック単位の機器・ファームウェア管理を担い、物理サーバーの導入と利用者の追加を支える基盤も公開した。
筐体の設計図を配るだけでは、学習ジョブは動かない。ネットワークを設定し、機器が負荷に耐えるか確認し、運用中の状態を管理する必要がある。ハードウェアの共通化に運用ソフトを合わせる動きからは、搬入したラックを実際に使える計算設備へ仕上げる工程も共通化しようとする狙いを読み取れる。
施設側でも、NVIDIAはAMD、Google、Metaと電源・冷却・配置を扱うOpen Data Center Specification v0.7を発表した。Google、Meta、Microsoftと公表したOCP Grid Resilience Specificationは、電力系統が乱れた際の応答を扱う。ラック内部を作りやすくする設計と、施設や電力網につなぐ設計が並行して進む。
この開放は、NVIDIAのプラットフォームを採用しやすくする方向にも働く。部品メーカーが同じ仕様を目標に製品を作れれば、導入企業が選べる供給元を増やしやすい。同時に、その供給網がNVIDIAのラック設計を支えることにもなる。設計の共有と、同社の基盤を広く使ってもらう戦略は両立する。
今後の採用を評価する材料は、共通設計を使う機器が顧客の設備で検証を通り、運用ソフトとつながり、交換・復旧まで支えられるかである。そこがそろえば、Vera Rubinの計算能力を、メーカーの工場から実際にジョブが動くデータセンターへ運ぶ手順をそろえやすくなる。



