NVIDIAは、2026年10月12日から米国サンノゼで開催されたOCP Global Summitで、576基のGPUを光接続によって束ねる「Vera Rubin Ultra NVL576 CPO」の構成を明らかにした。Ian Buck氏の講演資料では、GPU間を高速に接続するNVLink 7に対応したCPOスイッチトレイが紹介され、10兆を超えるパラメーターを持つAIモデルを対象に、電力当たりの性能を重視した設計であることが示された。
576基のGPUを一つのNVLinkドメインにまとめる構想自体は、NVIDIAが3月に公開した技術解説ですでに明らかになっていた。今回の発表で具体的に示されたのは、複数のラックにまたがるGPU群を高速に接続するための光接続装置だ。8ラックに分散した576基のGPUを一つの大規模な計算資源として扱う構成だが、接続できるGPUの数と、実際のAI処理で得られる性能は区別して評価する必要がある。
576基のGPUを8ラックに集約するNVLink構成
NVIDIAが3月16日に公開した技術解説によると、Vera Rubin Ultra NVL576は、72基のRubin Ultra GPUを搭載したMGX NVLラックを8台組み合わせる構成だ。72基×8ラックで合計576基となり、2層の全対全接続トポロジーを用いて、すべてのGPUを一つのNVLinkドメインにまとめる計画となっている。GPU間の接続には銅配線と直接光接続を併用し、ラック内外にまたがる高速なデータ通信を支える。
NVLinkドメインとは、複数のGPUがNVLinkを介して高速にデータをやり取りできる範囲を指す。大規模なAIモデルの処理を多数のGPUに分散する場合、個々のGPUの演算能力だけでなく、GPU間でデータをどれだけ効率よく転送できるかが性能を左右する。NVL576は、こうした密接な連携が可能な範囲を単一ラックから複数ラックへ拡張し、576基のGPUを一体的に利用できるようにする設計だ。
今回のOCP講演資料の18ページには、Rubin Ultraの計算トレイとともに、「NVLink 7 CPO Switch Tray」が掲載されている。CPO(Co-Packaged Optics)は、電気信号と光信号を変換する光エンジンを、スイッチなどの半導体チップと同じパッケージ内に配置する技術だ。従来の構成よりも電気配線を短くできるため、高速通信に伴う電力消費や信号伝送上の制約を軽減する手法として注目されている。NVL576では、この技術を複数ラックにまたがるGPUの接続に活用する構想が示された。ただし、576基のGPUが物理的に一つのチップへ統合されるわけではなく、独立したGPU同士を高速なネットワークで結ぶ仕組みである。
なお、NVIDIAが3月の技術解説で紹介した試作システム「Polyphe」と、Rubin Ultraを搭載する量産版NVL576は区別する必要がある。同社はPolypheについて、GB200を使用した動作可能なマルチラックNVL576試作機と説明していた。つまり、576基のGPUを接続する構成を検証する試作機の存在は、Rubin Ultraを搭載した量産システムの完成を意味しない。また、1ラックに144基のGPUを収める「Kyber NVL144」は別のラック設計であり、NVL576も1ラックに576基を搭載する製品ではない。NVL576の576基という数字は、8ラックにまたがるGPUの総数を示している。
576基のNVLink接続と最大512K GPUのEthernet接続は何が違うのか
今回のOCP講演資料には、GPUの接続規模を示す複数の数字が登場する。NVL576の「576」は一つのNVLinkドメインに属するGPUの数を表す一方、「512K」はEthernetネットワークで接続するAIファクトリー全体のGPU規模を指す。また、「10T+」はNVL576が対象とするAIモデルのパラメーター数であり、GPUの搭載数や接続数ではない。これらはいずれもシステムの大規模化に関わる数字だが、測っている対象は異なる。
NVIDIAは同じ講演で、「Spectrum-X Photonics Multiplane Ethernet」を利用した大規模ネットワークの構成も紹介している。こちらは、より広い範囲の計算設備をEthernetで結ぶスケールアウト型のネットワークだ。一方、NVL576はNVLinkを使ってGPU同士を密接に連携させるスケールアップ型の構成である。どちらも光通信技術を活用するが、ネットワーク内で担う役割と接続する範囲が異なる。
講演資料に示された主な数値を整理すると、以下のようになる。
| 資料中の数値 | 対象技術・システム | 示している規模 | 講演資料のページ |
|---|---|---|---|
| 576 GPU | Vera Rubin Ultra NVL576 CPO | 一つのNVLinkドメインに接続するGPU数 | 18 |
| 最大512K GPU | Spectrum-X Photonics Multiplane Ethernet | フラットな2層ネットワークで接続するAIファクトリーのGPU規模 | 14 |
| 10T+ | Vera Rubin Ultra NVL576が想定するAIモデル | 10兆を超えるモデルパラメーター数 | 18 |
これらの数値は、NVIDIAがOCP 2026の講演資料で示した構成や拡張規模を整理したものであり、同一条件でAIモデルを実行した性能測定結果ではない。512Kという表記も講演資料に従ったもので、576基との比率を計算して処理速度の差として扱うことはできない。
また、CPOとNVLinkも異なる概念だ。NVLinkはGPU同士を高速に接続するための技術であり、CPOは通信に必要な光エンジンをどこに配置するかという実装方式を指す。今回の発表で注目すべきなのは、NVLinkの接続規模を複数ラックへ拡大するための装置として、CPOを採用したスイッチトレイが示された点にある。Ethernetで接続できるGPUの総数を、そのまま一つのNVLinkドメインに含まれるGPU数と解釈すると、各ネットワークが担う役割を見誤ることになる。
10兆パラメーター超のAIモデルで電力効率を重視
NVIDIAはNVL576の紹介スライドで、10兆を超えるパラメーターを持つAIモデルを対象に、電力当たりの性能を重視した設計であることを説明している。大規模なモデルを多数のGPUに分散して実行するには、各GPUの演算性能に加え、GPU間でやり取りするデータを効率よく転送する必要がある。CPOを利用した高速接続は、こうした通信部分の効率改善を狙うものだ。ただし、講演資料に記された「10T+」は想定するモデルの規模を示しており、実際にその規模のモデルを一定の速度で動作させたことを示す測定結果ではない。
また、NVL576を紹介するスライドには、システム全体の消費電力や、条件をそろえた性能比較の結果は掲載されていない。電力当たりの性能を評価するには、実行するAIモデルや演算精度、処理内容を統一したうえで、消費電力をどこまで含めるかを明確にする必要がある。GPU単体の電力を測るのか、NVLinkスイッチなども含めたシステム全体の電力を測るのかによって、評価結果は変わってくる。さらに、AIモデルの学習時間を比較する場合と、推論時の応答速度や生成量を比較する場合では、性能を判断する指標も異なる。
講演資料の14ページには、Spectrum-Xについて「電力効率5倍」という数値も示されている。しかし、これはEthernet側の製品に関するもので、NVL576のCPO接続によって電力効率が5倍になるという意味ではない。同ページだけでは、この数値の比較基準も十分に明らかになっていない。そのため、Spectrum-Xの数値をRubin UltraやNVL576全体の性能改善率として扱うことは適切ではない。
576基ものGPUを一つのNVLinkドメインにまとめられれば、巨大なAIモデルを複数のGPUに分散する際の構成の自由度は高まる。一方で、実際の処理速度はGPU間で転送するデータ量や、モデルの処理をどのように分割するかによって変化する。GPUを増やした割合に応じて、処理速度も同じ倍率で向上するとは限らない。NVL576が示しているのは、従来よりも大規模な計算資源を密接に連携させるための構成であり、実際の性能改善幅については、個々のAIワークロードに基づく検証が必要になる。
2027年の実用化に向け、量産と保守体制が課題に
NVIDIAは今回のOCP Global Summitで、Vera Rubinのラックや計算トレイの設計を、MGXアーキテクチャを通じて提供したことも発表している。MGX 1.2では、液冷システムと電源・冷却インターフェースの共通化を進め、製造時の組み立てや導入後の保守作業を簡素化する設計を採用している。複数ラックにまたがる光接続を利用するNVL576も、こうした電源や冷却、ラック構造などの物理的な基盤と組み合わせて運用することになる。大規模なAIシステムでは、GPUの演算性能や通信帯域だけでなく、製造・導入・保守まで含めた運用性が重要になる。
ただし、OCPでCPOスイッチトレイが紹介されたことをもって、量産製品の光部品の実装方式がすべて確定したと判断するのは早い。現地で講演や光接続に関するセッションを取材したFUNDAの10月21日付レポートによると、Ian Buck氏は翌2027年の登場を示唆した一方、NVIDIAにはNPO(Near-Packaged Optics)を検討する余地も残されているという。NPOは、光エンジンを半導体チップと同じパッケージ内ではなく、その近くの基板上に配置する方式だ。同レポートは、今回のCPO構成の提示を量産時の最終仕様が確定したものとは捉えていない。
もっとも、これはNVL576のCPO構成が撤回されたことを意味するわけではない。複数ラックを高速な光接続で結ぶという基本方針と、光エンジンをどの位置に実装して量産するかという技術的な選択は、分けて考える必要がある。また、2027年という時期も講演時点での見通しであり、具体的な発売日や出荷数量が確約されたわけではない。
実際の製品を評価する段階では、モデルや演算精度などの条件をそろえた性能測定に加え、光接続部分の保守性も重要な判断材料になる。特に、光エンジンや関連部品が故障した場合にどのような交換作業が必要になるのか、その際にシステムのどこまでを停止しなければならないのかは、大規模なAI設備の運用効率を左右する。576基のGPUを一つのNVLinkドメインにまとめる技術が、製造や保守を含めて安定的に運用できる製品として実用化されれば、開発者は従来のラック単位の制約を超えて、より大規模なAIモデルに計算資源を割り当てやすくなる。今後は、光接続の具体的な実装方式と量産体制に加え、実際のAI処理でどの程度の性能と電力効率を達成できるかが焦点となる。
