台湾の経済誌『今周刊』は2026年10月28日、NVIDIAがGPU間を高速接続するNVLinkのスイッチ基板に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を絶縁材料として採用することを検討していると報じた。PTFEは不粘着コーティングにも使われる樹脂で、電気信号の伝送損失を抑えられる材料として注目されている。同誌が取材した匿名のプリント基板業者は、将来のRubin Ultra向けスイッチ基板や、基板同士を直交配置で接続する次世代ミッドプレーンを採用候補に挙げた。ただし、いずれも業者側の分析であり、NVIDIAが最終的な基板仕様やPTFEの採用を確認したわけではない。PTFEを使った多層基板自体はすでに存在しており、焦点となるのは、AIシステム向けの基板構成で低損失と安定した量産品質を両立できるかどうかだ。

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なぜNVLink基板の絶縁材料を変えるのか

AIシステムでは、複数のGPUが大量のデータをやり取りするため、GPU間の接続帯域が重要になる。NVIDIAが2026年1月に発表したVera Rubinプラットフォームでは、NVLink 6の帯域幅がGPU当たり3.6TB/s、Vera Rubin NVL72のラック全体では260TB/sに達するとしている。前者はGPU単位、後者はラック全体の数値であり、集計対象が異なる。また、これらはRubinの公表仕様であり、Rubin Ultraに採用される基板材料を示すものではない。

『今周刊』によると、NVIDIAが10月のOCPイベントで披露したNVLinkスイッチ基板について、PTFEの使用が検討されているという。NVIDIAのイベント案内によれば、OCP Global Summit 2026の開催期間は10月12〜15日だった。報道で挙げられた候補構成には、長い配線を通じて高速信号を伝送する際の減衰を抑えたいという狙いがある。

基板上で信号を伝えるのは銅配線だが、伝送損失は銅の特性だけで決まるわけではない。基板材料の一つである銅張積層板は、絶縁材料に銅箔を貼り合わせたもので、信号に伴う電磁界は銅配線の周囲にある絶縁材料にも広がる。その際、絶縁材料の内部で生じるエネルギー損失を「誘電損失」と呼ぶ。PTFEが注目されるのは、この誘電損失を小さくできるためだ。

ただし、誘電損失の小さい材料を選べば、伝送経路全体の損失が必ず小さくなるわけではない。基板材料メーカーRogersは、ミリ波伝送線に関する技術解説で、信号の損失を放射損失、導体損失、誘電損失に分けて説明している。誘電損失の小さい材料は信号の減衰を抑えるうえで有利だが、銅の表面が粗いと導体損失が増加する。これはミリ波回路に関する一般的な技術解説であり、NVLink基板でPTFEによってどの程度の損失低減が得られるかを実測した結果ではない。材料の優劣を判断するには、周波数や配線構造などの条件をそろえて比較する必要がある。

PTFE多層基板の製造で課題となる接合とめっき

PTFEを使った回路基板は、今回初めて考案されたものではない。RogersのRO3000/RO3200シリーズの加工指針には、充填材を加えたPTFE複合材や、ガラス織布で補強した材料が紹介されており、両面回路と多層回路の加工方法も示されている。一方、これらの材料は一般的な硬質基板よりも軟らかく、取り扱い中に損傷しやすいことも指摘されている。

多層基板を製造するには、配線を形成した複数の層を重ね、層同士を接合する必要がある。その際に使われる材料の一つが、樹脂を含浸させた半硬化状態の接着用材料「プリプレグ」だ。接着フィルムも層間接合に使われており、RogersはPTFE基材の多層回路向けに、CTFE系の熱可塑性共重合体を使った接着フィルム「CuClad 6700」を製品化している。同社の加工指針にも、熱硬化性や熱可塑性のさまざまな接着材料が挙げられている。

もう一つの重要な工程が、基板の層間を電気的に接続する穴の形成とめっきだ。多層基板では穴を開けた後、その内壁に導電性の下地を形成し、めっきを施して層間の電気的接続を確保する。RO3000/RO3200の加工指針では、下地を形成する前に穴壁を活性化する処理が必要とされている。この処理が不十分だと金属が密着しにくくなり、めっき不良につながる可能性が高い。具体的な処理方法として、ナトリウム処理とプラズマ処理が紹介されている。

穴を開ける工程にも適切な加工条件が求められる。同指針は、ドリルの寿命を評価する際に、接着材料や内層の銅の厚さ、基板全体の厚さを考慮し、加工した穴の断面を確認するよう推奨している。つまり、層間接合と穴壁のめっきを個別に成立させるだけでは不十分であり、積層する材料や基板の厚さを含め、製造工程全体を適切に設計しなければならない。

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PTFEの低損失特性だけでは採用を判断できない

PTFEの採用を判断するうえでは、材料の電気特性、多層基板の接合技術、穴加工とめっきの品質、量産歩留まりをそれぞれ評価する必要がある。PTFEを使った多層基板の製造技術がすでに存在するからといって、AIシステム向けの大規模量産に対応できることが証明されたわけではない。『今周刊』の報道とRogersの技術資料を基に、材料から完成基板までの各段階で確認できることと、NVIDIA向けの採用について未確認の事項を整理すると、次のようになる。

確認する段階 既存資料で確認できること NVIDIA向けで未確認のこと
材料の電気特性 Rogersのミリ波回路に関する解説では、誘電損失に加え、銅表面の粗さによる導体損失が説明されている 候補材料を使った完成伝送経路の、同一条件での損失
層間接合 PTFE基材の多層回路向け接着フィルムが製品化されている 候補となる基板構成で使用する接着材料と接合条件
穴加工・めっき RO3000/RO3200の加工指針では、穴壁の活性化やめっき前処理の方法が示されている 候補構成における穴加工とめっきの品質
完成基板の量産 『今周刊』は匿名業者による総合歩留まりの推定値を報じている 最終的な製品構成、検査条件、量産時の合格率

この表は異なる製品の性能値を直接比較したものではなく、技術的に確認できている事項と未確認の事項を区別したものだ。PTFEの低い誘電損失が材料選定の理由になっても、実際の基板では積層構造や穴の品質が伝送特性と製造品質に影響するため、完成品での評価が欠かせない。Rogersの技術資料はPTFE多層基板の加工方法が確立されていることを裏付けるが、NVIDIAが同社の製品を採用した証拠ではない。

「歩留まり5%未満」はNVIDIA製品の実測値ではない

『今周刊』は、匿名の銅張積層板業者の話として、PTFEの総合歩留まりは現時点で5%未満と業界で推定されていると報じた。総合歩留まりとは、複数の製造工程を経て最終的に良品となる製品の割合を指す。ただし、報道では推定の対象となった製品構成や工場、評価対象の数量、検査条件が明らかにされていない。したがって、この数字をすべてのPTFE基板に当てはめたり、NVIDIAが公表した実測値として扱ったりすることはできない。

材料メーカー各社の開発動向についても、NVIDIAによる採用が確定したかどうかとは分けて考える必要がある。『今周刊』によると、台湾の台光電は自社のプリプレグと台虹のPTFE材料を組み合わせた試作を進めている。また、台燿は既存の銅張積層板製品を継続しながら、PTFE製品の開発にも取り組む計画だ。同誌は中国の生益科技や勝宏科技による投資にも言及しているが、これらは取材に基づく開発・投資動向であり、具体的な受注量や最終的な採用先を示すものではない。

今後の焦点は、NVIDIAが最終的にどのような基板構成を採用するかにある。構成が確定したうえで、同一条件で測定した伝送損失と、検査条件を明示した量産時の合格率が明らかになれば、PTFEの低損失特性を実際の高速接続システムに生かせるかどうかを評価できる。材料としての優位性だけでなく、必要な品質と数量を安定して確保できるかが、本格採用を左右することになる。