OpenAIは、次世代大規模言語モデルGPT-5のリリース計画を変更し、当初GPT-5に統合予定だった推論モデルo3およびo4-miniを先行して独立リリースすることを発表した。GPT-5本体の登場は「数ヶ月以内」のリリースへと延期される見込みのようだ。
計画変更の発表:o3/o4-miniが先行リリースへ
OpenAIのCEOであるSam Altman氏は、Xへの投稿を通じて、同社のAIモデル開発ロードマップに関する重要な変更を発表した。当初の計画では、推論モデルo3は単独でのリリースが見送られ、GPT-5に統合される予定であった。しかし、Altman氏によれば、この方針を転換し、o3および次世代の推論モデルであるo4-miniを「数週間以内」にスタンドアローンシステムとしてリリースするという。
この変更に伴い、注目されていたGPT-5のリリース時期は、当初の予想よりも遅れ、「数ヶ月以内」となる見通しだ。これは、2025年初頭にAltman氏が示唆していたGPT-5の早期登場への期待とは異なる展開となる。
なぜ計画は変更されたのか? 3つの理由
Altman氏は、今回の戦略変更に至った理由として、主に3つの要因を挙げている。
- 統合の技術的課題: 当初、OpenAIはGPTシリーズの言語処理能力と、oシリーズの高度な推論能力を一つの「魔法のような統合知能(magic unified intelligence)」としてGPT-5に集約することを目指していた。しかし、Altman氏は「すべてをスムーズに統合することが、我々が考えていたよりも困難であることが判明した」と説明している。異なるアーキテクチャや特性を持つモデル群を単一プラットフォーム上で最適に連携させることには、予想以上の技術的なハードルが存在したと考えられる。
- GPT-5の潜在能力向上: 開発期間が延びたことで、GPT-5自体の性能を当初の想定以上に高められる可能性が見えてきたという。Altman氏は「GPT-5を当初考えていたよりもはるかに優れたものにできるだろう」と述べており、統合の難しさという課題に直面する一方で、モデル自体の進化に大きな手応えを感じている様子がうかがえる。具体的な改善点については言及されていないが、より高度な機能や性能向上が期待される。
- 計算リソースの確保: GPT-5に対する需要は「前例のない」レベルに達するとOpenAIは予測している。この莫大な需要に対応するため、十分なコンピューティング能力(計算リソース)を確保する必要があることも、リリース計画見直しの理由として挙げられた。「我々が期待する前例のない需要をサポートするための十分なキャパシティがあることを確認したい」とAltman氏は述べており、安定したサービス提供体制の構築を優先する姿勢を示している。
注目される推論モデル:o3とo4-mini
今回、先行リリースされるo3およびo4-miniは、「推論モデル(reasoning models)」として分類される。これらは、複雑な思考や論理的なステップを必要とするタスク、例えば高度な数学問題の解決や複雑なプログラミングコードの生成などに特化して設計されたAIモデルである。
OpenAIは2024年12月に推論モデルo3を発表し、その高度な問題解決能力で注目を集めた。さらに2025年1月下旬には、より高速かつ低コストで利用可能なo3-miniをリリース。このmini版は3つの速度モード(低、中、高)を備え、中速モードでも従来のo1モデルを速度とコスト効率で上回る性能を示した。なお、「o2」という名称が通信事業者O2との混同を避けるためにスキップされ、「o3」となった経緯がある。
Altman氏は、特にo3について「内部プレビュー以降、大幅な改善が施された」と言及し、「人々は満足するでしょう」と自信を見せている。さらに、o3には「プロモード」が搭載されることも明らかにされた。これは、より多くの計算リソースを使用することで、非常に複雑な質問に対して最高品質の回答を提供するための機能であると考えられる。
Altman氏は以前から「大規模推論モデル」の戦略的重要性を強調しており、「o3はすでに世界のトップ50プログラマーのレベルで動作する」と述べ、将来のモデルは年末までにコーディング能力で世界一に達する可能性さえ示唆していた。o3とo4-miniの先行リリースは、これらの強力な推論能力をいち早くユーザーに届け、フィードバックを得る狙いもあるのかもしれない。
GPT-5:当初の構想と提供形態
元々、GPT-5は単なる言語モデルのアップデートに留まらず、大きな進化を遂げる計画だった。GPT-4.5が従来の言語モデル路線の最終版と位置づけられ、GPT-5では自然言語処理、検索、ディープリサーチといった様々なツールや、oシリーズの推論能力を一つの統合プラットフォームに集約することが目指されていた。ユーザーが指示を与えれば、システムが自動的に最適なツールや思考プロセスを選択する、まさに「魔法のような統合知能」の実現が構想されていた。
提供形態についても、GPT-5は複数の階層が用意される計画が示唆されている。
- 無料ユーザー: 「標準インテリジェンス設定」のGPT-5に、乱用防止のための閾値はあるものの、無制限にアクセス可能。
- ChatGPT Plus加入者: 高い「インテリジェンスレベル(higher level of intelligence)」でGPT-5を利用可能。
- ChatGPT Pro加入者: さらに高度な「インテリジェンスレベル(even higher level of intelligence)」でGPT-5を利用可能。
これらの計画が、今回のリリース戦略変更によってどのように影響を受けるかは現時点では不明確だが、基本的な階層構造は維持される可能性が高い。
OpenAIの戦略と市場競争
今回の戦略変更の背景には、技術的な課題や性能向上への期待だけでなく、AI開発競争の激化も影響している可能性がある。特に、中国のAI研究所DeepSeekなどが、開発したモデルを研究コミュニティに公開し、実験や商用利用を可能にする「オープン」なアプローチを採用している点は、プロプライエタリ(非公開)な戦略を主軸としてきたOpenAIにとって無視できない動きであろう。
これに対し、OpenAIもo3、o3 pro、o4-mini、そしてGPT-5といったクローズドなモデル開発を進める一方で、GPT-2以来となる初のオープン言語モデルを数ヶ月以内にリリースする計画も明らかにしている。このオープンモデルには推論能力も含まれ、追加の安全性評価が行われる予定だという。クローズドとオープンの両輪で開発を進めることで、市場での競争力を維持・強化しようとする戦略が見て取れる。
o3/o4-miniの先行リリースは、高性能な推論モデルを早期に市場投入することで、競合に対する優位性を確保し、来るGPT-5への期待感を醸成する狙いもあると考えられる。
今後の見通し:「OpenAI GPT-5 いつ」使えるのか?
現時点での情報を整理すると、今後のリリーススケジュールは以下のようになる。
- o3 / o4-mini: 今から「数週間以内」にスタンドアローンモデルとしてリリース予定。o3にはプロモードも搭載される見込み。
- GPT-5: o3/o4-miniのリリース後、「数ヶ月以内」にリリース予定。具体的な日付は未定だが、早くとも2025年後半以降になる可能性が高い。
ユーザーはまず、数週間以内に登場するo3とo4-miniのスタンドアローン版によって、OpenAIの最新の推論能力を体験できることになる。その後、満を持して登場するGPT-5が、当初の構想通り、あるいはそれ以上の「統合知能」としてどのような能力を発揮するのか、そして無料、Plus、Proの各層でどのような体験が提供されるのか、引き続き注目が集まる。OpenAIは技術的な課題を乗り越え、高まる需要に応えつつ、AI開発の最前線を走り続けることができるか、今後の動向から目が離せない。
Source
- Sam Altman (X)