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トランプ大統領が「原子力ルネサンス」を宣言:規制緩和に大胆メスか

Y Kobayashi

2025年5月24日4:04PM

Trump大統領は金曜日、米国の原子力発電能力を劇的に拡大し、規制プロセスを刷新するための一連の野心的な大統領令に署名した。人工知能(AI)革命が牽引する爆発的な電力需要の増加と、エネルギー安全保障の強化という国家戦略を背景に、「アメリカ原子力ルネサンス」の到来を高らかに宣言した形である。

しかし、その柱となるNuclear Regulatory Commission (NRC)の抜本的改革、連邦用地での建設推進、そして国内核燃料供給網の再構築といった具体策は、あまりにも野心的であり、その実現可能性や安全性について専門家からは早くも強い懸念の声が上がっている。果たしてアメリカは、原子力の「失われた数十年」を取り戻し、新たなエネルギー覇権を確立できるのであろうか。

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AIが火をつけた「原子力再興」熱:電力危機と国家戦略の交差点

今回のTrump政権による原子力推進策の背後には、無視できない二つの大きな要因が存在する。一つは、AI技術の急速な進化に伴う、データセンターの爆発的な電力消費量の増加である。もう一つは、ロシアや中国といった国々へのエネルギー依存からの脱却を目指す、国家安全保障上の要請である。

「電力なければAIなし」 データセンターが生む未曾有の需要

「AIの進化は、いわば電力という名の燃料を大量に消費するエンジンだ」と語るのは、あるシリコンバレーの技術者である。実際に、AIモデルの学習や運用には膨大な計算能力が必要とされ、それに伴いデータセンターの電力需要はかつてない規模で膨れ上がっている。ホワイトハウス科学技術局Michael Kratsios局長も、「AIやその他の新興技術における米国の継続的な優位性にとって、これらの(原子力推進の)行動は不可欠だ」と強調しており、政権がこの問題をいかに深刻に捉えているかがうかがえる。

エネルギー省のChris Wright氏に至っては、AIに必要な電力源とデータセンターを開発する競争を「マンハッタン・プロジェクト2.0」と表現し、国家的な総力戦の様相を呈していることを示唆している。この「電力飢餓」とも言える状況が、かつて斜陽産業と見なされかけていた原子力に、再びスポットライトを当てる主要な原動力となっているのである。

エネルギー自給と「アメリカ・ファースト」再び:ロシア・中国依存からの脱却なるか

もう一つの側面は、地政学的な思惑である。Trump大統領はかねてより「アメリカ・ファースト」のエネルギー政策を掲げ、国内資源の最大限の活用とエネルギー自立を訴えてきた。特に、ウラン濃縮や核燃料加工の分野でロシアや中国への依存度が高い現状は、政権にとって看過できない安全保障上の脆弱性と映っている。

一部報道によれば、大統領令の草案段階では、この海外依存を国家非常事態と宣言し、冷戦時代の国防生産法を発動する可能性も検討されていたという。これは、国内の原子力産業基盤を再構築し、核燃料サイクル全体を米国の管理下に置こうという強い意志の表れと言える。内務長官のDoug Burgum氏は、「エネルギー需要が急増し続ける中、既存の原子力発電所を拡大し、先進的な原子力技術に投資することで、家庭への電力供給、Trump大統領の製造業革命のための燃料、そしてより強力な電力網を確保する」と述べ、エネルギー自給と経済安全保障の連携を強調した。

大統領令で何が変わる? 「原子力ルネサンス」具体策を徹底解剖

今回署名された大統領令は、主に「原子力産業基盤の再活性化」「エネルギー省 (DOE)における原子炉試験の改革」「原子力規制委員会 (NRC)の改革命令」の三つから構成されると報じられている。これらを通じて、Trump政権は米国の原子力発電能力を2050年までに現在の約100ギガワットから400ギガワットへと4倍に増強するという壮大な目標を掲げている。具体的には、既存炉の5ギガワットの出力増強、そして2030年までに設計が完了した10基の大型新設炉の建設着工を目指すという。

衝撃のNRC「解体的改革」:許認可18ヶ月、人員削減も? 独立性は守られるのか

最も大胆かつ論議を呼びそうなのが、原子力規制委員会 (NRC)の改革である。原子力規制委員会は、米国の原子力施設の安全性を監督する独立機関だが、その許認可プロセスは煩雑で時間がかかりすぎると、業界からは長年批判の声が上がっていた。Trump政権の命令は、この原子力規制委員会を「全面的かつ完全に改革」し、原子炉の新規ライセンス申請に対する決定を、申請受理から最長18ヶ月以内に行うよう義務付けるという。

一部報道によれば、この改革は原子力規制委員会のスタッフ削減につながる可能性も示唆されており、ホワイトハウス高官は「人員の入れ替わりや役割の変更があるだろう」「現時点ではスタッフの総削減数は未定だが、大統領令は原子力規制委員会の大幅な再編を求めている」と語ったとされる。これまで安全規制の「番人」として機能してきた原子力規制委員会の独立性や専門性が、この改革によって損なわれるのではないかという懸念は根強い。

一部報道は、この改革がエネルギー長官に先進的な原子炉設計やプロジェクトの承認権限を与えるものであり、事実上、原子力規制委員会から権限を移譲するものだと報じている。これは、安全規制のあり方を根本から揺るがしかねない大きな変更点である。

連邦用地を原発に:エネルギー省・国防総省主導で建設加速、国家安全保障を盾に

大統領令はまた、エネルギー省 (DOE)と国防総省に対し、連邦政府が所有する土地や施設の中から、原子力発電所の建設に適した場所を特定し、建設プロセスを合理化するよう指示している。特に、重要な国防施設やAIデータセンターへの電力供給を目的として、これらの省庁が国家安全保障上の権限を行使して原子炉建設を承認する枠組みも作られるという。これは、従来の原子力規制委員会による厳格な安全審査プロセスを一部バイパスする可能性も示唆しており、注目される。

「メイド・イン・アメリカ」の核燃料:ウラン採掘から再処理まで、国内供給網強化へ国防生産法も視野

エネルギー自立の観点から、国内の核燃料供給網の強化も重要な柱である。大統領令は、米国内でのウラン採掘の再開や濃縮能力の拡大を目指すとともに、使用済み核燃料の管理や再処理に関する国家政策の策定を求めている。特に、余剰プルトニウムを希釈して処分する従来の方針を転換し、先進的な原子炉の燃料として利用可能な形に加工するプログラムを確立するよう指示している点は、核燃料サイクルのあり方に大きな影響を与える可能性がある。

野心的な数値目標:「2050年4倍増」「2030年大型炉10基着工」その現実味は?

2050年までに原子力発電容量を4倍の400ギガワットへ、という目標は極めて野心的である。米国では過去約50年間で新規に建設された大型原子炉はジョージア州のPlant Vogtleの2基のみであり、これらも計画より大幅に遅延し、予算も170億ドル以上超過したという苦い経験がある。このような過去の事例を踏まえると、掲げられた目標の達成には多くの困難が伴うと予想される。

次世代炉開発もブースト:DOE主導で試験炉3基、2026年臨界目指す

大統領令は、小型モジュール炉(SMR)や第4世代炉といった次世代の先進的原子炉の開発も加速させる方針である。エネルギー省の国立研究所における原子炉設計の試験プロセスを大幅に迅速化し、適格な試験炉については申請から2年以内に運転開始を可能にすることを目指す。さらに、国立研究所外での原子炉建設・運転のパイロットプログラムを立ち上げ、2026年7月4日までに3基の試験炉が臨界に達することを目標としている。

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期待と不安の協奏曲:産業界の歓迎と専門家の厳しい視線

この一連の発表に対し、原子力産業界からは概ね歓迎の声が上がっている。

産業界の声:「規制のボトルネック解消を」 Constellation CEOも期待

原子力発電所運営最大手Constellation社のCEOであるJoe Dominguez氏は、大統領令署名式に出席し、「我々は許認可に時間を浪費しすぎている。重要な問題ではなく、ばかげた質問に答えている」と述べ、規制プロセスの迅速化に期待感を示した。原子力エネルギー協会 (NEI)も、「既存の原子力発電所を維持し、次世代原子力の展開を導くための政権の継続的な行動に感謝する」との声明を発表している。

「安全神話」への回帰か? 専門家が鳴らす警鐘(UCS Lyman氏、元NRC Jaczko氏の批判)

一方で、専門家からは安全性や規制の独立性に対する深刻な懸念が表明されている。憂慮する科学者同盟 (UCS)の核電力安全担当ディレクターであるEdwin Lymanは、「原子力規制委員会の独立性を損なったり、完全に迂回することを奨励したりすることは、機関を弱体化させ、規制の効果を低下させる可能性がある」「簡単に言えば、安全が優先されなければ、米国の原子力産業は失敗するだろう」と警鐘を鳴らしている。

さらに、Obama政権下で原子力規制委員会委員長を務めたGregory Jaczko氏は、今回の大統領令を「国の原子力安全システムへのギロチン」と厳しく批判。「国をより危険にし、産業の信頼性を低下させ、気候危機をさらに深刻化させるだろう」と述べている。

過去の教訓:Plant Vogtleの悪夢は繰り返されるのか?

前述のPlant Vogtle建設の大幅な遅延と予算超過は、米国内での新規原発建設がいかに困難であるかを如実に物語っている。今回の野心的な計画が、同様の轍を踏むことなく進められるのか、多くの関係者が固唾を飲んで見守っている。

同時署名「ゴールドスタンダード科学」とは何か?

なお、Trump大統領は同日、「ゴールドスタンダード科学」を実施し、国民の科学への信頼を再構築するための大統領令にも署名した。これは、再現性、透明性、反証可能性、公平な査読などを重視する科学のベストプラクティスを連邦政府の研究機関に求めるものである。原子力政策とは直接的な関連は薄いものの、政権の科学技術に対する基本姿勢を示すものとして注目される。

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Trump流「原子力ドクトリン」の光と影:壮大なビジョンと克服すべき課題

今回のTrump政権による一連の大統領令は、米国のエネルギー政策における歴史的な転換点となる可能性を秘めている。AIという現代の最先端技術が、半世紀以上にわたり複雑な評価にさらされてきた原子力エネルギーの再評価を促しているという構図は、非常に興味深い。

確かに、気候変動対策とエネルギー安全保障という二つの大きな課題に直面する現代において、ベースロード電源としての原子力の価値が見直されること自体は理解できる。特に、膨大な電力を安定的に必要とするAIデータセンターの出現は、これまでのエネルギー需給の前提を覆しかねないインパクトを持っている。

しかしながら、今回示された手法、とりわけ原子力規制委員会の独立性を揺るがしかねない「解体的改革」や、拙速とも取れる許認可期限の設定、そして野心的すぎる建設計画は、多くの疑問符を投げかける。安全性の確保は原子力利用の大前提であり、いかなる理由があろうともこれが軽視されることがあってはならない。過去の事故の教訓を忘れ、経済性や迅速性のみを追求するならば、それは「原子力ルネサンス」ではなく、「原子力リスクの再来」を招きかねない。

また、4倍増という目標設定の現実味も慎重に検証されるべきである。核燃料サイクルの確立、高度な技術を持つ人材育成、そして何よりも国民の理解と合意形成には、長い時間と地道な努力が必要となる。

今回のTrump氏の決断は、良くも悪くも米国の未来に大きな影響を与えるだろう。この壮大なビジョンが、持続可能で安全なエネルギー供給体制の確立につながるのか、それとも新たな課題を生み出すのか。その行方を、我々は厳しい視点で見守り続ける必要がある。一つ確かなことは、この「原子力ルネサンス」が、今後の世界のエネルギー地図を塗り替える可能性を秘めた、大きな賭けであるということだ。


Sources

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