AI技術の爆発的な進化に伴い、世界はかつてないほどの電力飢餓に直面している。データセンターの消費電力急増や、脱炭素社会への移行という巨大な圧力の中で、一つの「解」として熱い視線が注がれているのが、次世代の原子力技術だ。

2025年末、この分野におけるゲームチェンジャーとなり得るスタートアップ、Radiant Nuclearが、シリーズDラウンドにおいて3億ドル(約450億円規模)という巨額の資金調達を完了したと発表した。彼らが開発するのは、トレーラーで輸送可能な1メガワット(MW)級のポータブル超小型原子炉「Kaleidos」である。

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ポータブル原子炉「Kaleidos」:ディーゼル発電機の終焉とクリーンエネルギーの自律化

Radiant Nuclearが目指すのは、単なる発電所の建設ではない。彼らが開発する「Kaleidos」は、従来の大規模な原子力発電所とは根本的に異なる設計思想に基づいている。それは、輸送用コンテナに収まるサイズで完全に工場生産され、燃料を装填した状態で出荷され、現地に到着してすぐに発電を開始できる「製品」としての原子炉だ。

TRISO燃料とヘリウム冷却:物理法則による安全性の担保

原子力の利用において最大の懸念事項は常に安全性、特に炉心溶融(メルトダウン)のリスクである。しかし、Kaleidosはその構造上、メルトダウンが物理的に発生し得ない設計となっている。その核心にあるのが「TRISO燃料」だ。

TRISO燃料は、ウランの微粒子を炭化ケイ素や熱分解炭素などのセラミック層で三重にコーティングした直径1ミリメートルにも満たない粒子である。このセラミック被覆は極めて耐熱性が高く、核分裂反応で生じる熱が融点を超えることはない。つまり、燃料そのものが堅牢な「格納容器」として機能するため、冷却材喪失事故が起きても放射性物質が外部に漏れ出すリスクが極めて低いのだ。

さらに、Kaleidosは冷却材として水ではなくヘリウムガスを使用する。水は高温で沸騰し高圧になるリスクがあるが、ヘリウムは不活性ガスであり、化学的に安定しているため、腐食や爆発の危険性を劇的に低減させる。このTRISO燃料とヘリウム冷却の組み合わせにより、Radiantは従来の原子炉に必要だった巨大な安全設備(緊急避難区域など)を不要にし、都市部やデータセンター近接地域での設置を現実的なものとしている。

5年間の連続稼働とデジタルツインによる遠隔制御

Kaleidosは1台あたり1MWの電力と、1.9MWの熱エネルギーを供給する能力を持つ。一度設置されれば、燃料交換なしで5年間の連続稼働が可能だ。燃料が尽きた後は、原子炉全体を回収し、工場で燃料補給を行うリサイクルモデルを採用している。

特筆すべきは、全ユニットに「デジタルツイン」技術が実装されている点だ。物理的な原子炉の状態をリアルタイムで仮想空間上に再現し、出力調整や温度分布の監視、異常予知を遠隔で行うことができる。これにより、変動する電力需要(例えばAIの学習負荷の増減)に即座に応答する柔軟な運用が可能となる。これは、一定出力での運転を基本とする従来の原子力発電にはない画期的な特徴である。

オークリッジの歴史を継ぐ「R-50」工場:原子力は「建設」から「製造」へ

今回の3億ドルの資金調達、そして累計調達額が5億ドル(約750億円)を超えた背景には、明確な「量産化」へのロードマップが存在する。Draper AssociatesやBoost VCなどが主導した今回のラウンドにより、Radiantは2026年にテネシー州オークリッジでの工場建設に着手する。

「R-50」プロジェクトの歴史的文脈

オークリッジという立地には深い意味がある。ここは第二次世界大戦中、マンハッタン計画の一環としてウラン濃縮が行われた場所であり、当時の計画名は「S-50」であった。Radiantはこれに敬意を表し、自社の量産工場計画を「R-50」と名付けている。しかし、その目的は破壊ではなく、クリーンエネルギーの創造にある。

「R-50」工場が稼働すれば、年間50基のKaleidosを生産する体制が整う。これは原子力産業におけるパラダイムシフトを意味する。これまでの原子力発電所は、現地で長期間かけて「建設」される巨大インフラプロジェクトであったが、Radiantは原子炉を自動車や航空機のように工場で「製造」し、品質管理された製品として出荷するモデルへと転換しようとしているのだ。

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AIデータセンターと国防総省:高まる「オフグリッド」需要

Radiantの技術が市場から熱狂的に受け入れられている理由は、現代社会が抱える具体的な課題への解決策を提示しているからに他ならない。

AI時代の電力危機への回答

生成AIの普及により、データセンターの電力消費量は爆発的に増加している。TechCrunchなどの報道によれば、Radiantはすでに世界的なデータセンター事業者であるEquinixと提携し、将来的に数十基の原子炉を供給する契約を結んでいる。

太陽光や風力といった再生可能エネルギーは天候に左右されるため、24時間365日稼働し続けるデータセンターのベースロード電源としては不安定さが残る。一方で、ディーゼル発電機はCO2排出と燃料補給の手間が課題となる。Kaleidosのようなマイクロリアクターは、カーボンフリーでありながら安定した電力を供給でき、かつ送電網(グリッド)の制約を受けずに設置できるため、テック企業にとって理想的な電源となり得る。

軍事および災害対応での活用

また、Radiantは米国防総省の国防イノベーションユニット(DIU)とも契約を結んでおり、2028年には軍事基地への配備が予定されている。遠隔地の基地や紛争地域において、燃料輸送のリスクを伴うディーゼル発電機を代替することは、兵站(ロジスティクス)上の極めて大きな優位性となる。同様に、送電網が破壊された災害被災地への緊急電源としての活用も期待されている。

2026年の臨界へ:アイダホ国立研究所での実証実験

Radiantのロードマップにおける次の最重要マイルストーンは、アイダホ国立研究所(INL)内の「DOME(Demonstration of Microreactor Experiments)」施設での実証実験である。

同社は2026年にこの施設でKaleidosの実機テストを行い、米国内で50年以上ぶりとなる「新規設計の商用原子炉による臨界(自律的な核分裂連鎖反応の維持)」を目指している。この実験では、高純度低濃縮ウラン(HALEU)燃料を使用した実際の稼働データが取得される予定だ。

米国エネルギー省(DOE)のプログラムの下、Radiantを含む複数の企業が2026年7月4日までの臨界達成を目指してしのぎを削っている。Last EnergyやX-energyといった競合他社も巨額の資金を調達しており、まさに「マイクロリアクター開発競争」の様相を呈しているが、Radiantは完全なポータビリティと量産化への明確な道筋において独自のポジションを築いている。

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エネルギーの分散化と脱炭素化の結節点

Radiant Nuclearの3億ドルの調達と量産化計画は、エネルギー産業が「集中型」から「分散型」へと移行する歴史的な転換点を示唆している。

これまでの電力が「巨大な発電所から長い送電線を通じて送られるもの」であったのに対し、Kaleidosが提示する未来は「必要な場所で、必要な時に、クリーンなエネルギーを生成する」という分散型のモデルだ。これは、AIデータセンターの持続可能な運用を可能にするだけでなく、島嶼部やへき地のエネルギー貧困の解消、そして災害に強いレジリエントな社会インフラの構築に寄与する可能性を秘めている。

2028年の商用出荷開始に向け、技術的なハードルや規制当局(NRC)の認可プロセスなど課題は残されているものの、Radiant Nuclearの挑戦は、人類が原子の火をより安全に、より身近に使いこなすための重要な一歩となることは間違いない。


Sources