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Rapidus、最先端2nmプロセスチップの試験生産4月開始、2027年量産へ

Y Kobayashi

2025年4月2日

日本政府が支援する半導体メーカーRapidus(ラピダス)が、最先端となる2nm(ナノメートル、1nmは10億分の1メートル)プロセスを用いた半導体の試作ラインを2024年4月中に稼働させる見通しとなった。北海道千歳市に建設中の新工場「IIM(Innovative Integration for Manufacturing)」で試験生産を開始し、7月末までに顧客へのサンプル出荷を予定しており、2027年に計画する量産開始に向けた重要な一歩を踏み出す。

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試作ライン稼働へ、2nm世代のGAAトランジスタ開発に着手

Rapidusは4月1日、同社の2025年度(2024年4月~2025年3月)の事業計画および予算が、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によって承認されたと発表した。これを受け、同社は4月よりIIMのフロントエンド工程エリアに導入済みの製造装置を用いて、パイロットライン(試作ライン)を正式に稼働させる。

このパイロットラインでは、300mmウェハー上に、次世代トランジスタ構造であるGAA(Gate-All-Around)を採用した2nm世代のトランジスタを試作開発する計画である。GAAは、現在主流のFinFET構造よりも電力効率や性能に優れるとされ、2nm世代以降の先端プロセスで採用が見込まれる基幹技術だ。

Rapidusの小池淳義社長兼CEOは、「IIMの建設は順調に進捗し、昨年度末までにパイロットライン稼働に必要な半導体製造装置の導入を完了しました。NEDOの事業計画・予算の承認を受け、4月からパイロットラインを立ち上げ、2027年に目標とする量産開始へ着実につなげていきます」とコメントしている。

すでにRapidusは、最先端の半導体製造に不可欠なEUV(極端紫外線)露光装置を含む主要な製造設備の搬入を終え、クリーンルームも稼働させている。小池社長は4月1日の記者会見で、「試作ライン稼働に向けた準備はすべて整った。4月末までには最初のバッチ(ウェハー群)の生産を開始できるでしょう」と述べ、設備の最終調整を進めていることを明らかにした。

最初の試作品(サンプル)については、7月中旬から下旬にかけて顧客への提供を目指すとしている。また、試作ラインの稼働と並行して、初期の顧客が設計を開始できるよう、PDK(プロセスデザインキット)と呼ばれる設計ツールの提供準備も進める。これにより、顧客は早期にRapidusの2nmプロセスを用いたチップのプロトタイピング(試作)に着手できるようになる。

政府主導で設立、巨額投資と国際連携で最先端目指す

Rapidusは、日本の半導体産業の復権を目指し、2022年に設立された。トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、SoftBank、キオクシアホールディングス、三菱UFJ銀行の国内主要企業8社が出資し、日本政府もNEDOを通じて巨額の資金援助を行っている。

今回承認されたNEDOのプロジェクトは、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の一環であり、Rapidusが受託する「日米連携に基づく2nm世代半導体集積化技術及び短TAT(ターンアラウンドタイム:製造期間)製造技術の研究開発」と「2nm世代半導体向けチップレット、パッケージ設計・製造技術開発」の2つが含まれる。経済産業省は3月末、Rapidusに対して最大8,025億円の追加支援を決定しており、これまでの支援と合わせると、政府からの援助規模は約2兆円に迫る見込みである。

Rapidusは、設立当初から米IBMと戦略的パートナーシップを結び、IBMが開発した2nmノード技術のライセンス供与を受けている。Rapidusのエンジニアは米ニューヨーク州にあるIBMの研究開発拠点に派遣され、量産技術の共同開発を進めてきた。

さらに、Rapidusは製造の前工程(ウェハープロセス)だけでなく、後工程(パッケージング)においても最先端技術の開発を目指している点が特徴だ。2024年3月には、より高性能で電力効率の高いチップレット(小さな半導体チップを組み合わせる技術)パッケージの開発を目的としたプロジェクトを開始。この分野では、IBMに加え、ドイツのフラウンホーファー研究機構、シンガポールのA*STAR IMEとも国際的な連携を進めている。

後工程の研究開発拠点として、IIMに隣接するセイコーエプソン千歳事業所内に「Rapidus Chiplet Solutions (RCS)」を開設する準備も進んでおり、2024年4月からRCSにも製造装置の導入を開始する。RCSでは、RDL(再配線層)インターポーザ技術や3Dパッケージング技術、先進後工程向けADK(アセンブリデザインキット)、KGD(Known Good Die:良品であることが保証されたチップ)テストフローを含む品質管理手法などの開発を進め、後工程技術のパイロットラインを構築する計画だ。

将来的には、IIMの同一工場内で前工程から後工程までを一貫して行うことで、設計から製品出荷までの期間を大幅に短縮することを目指しており、これは既存のファウンドリ(半導体受託製造企業)にはないRapidus独自の強みとなる可能性がある。

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2027年量産へ、顧客獲得と技術確立が今後の焦点

Rapidusが掲げる2027年の2nmプロセス量産開始は、極めて野心的な目標である。現在、世界の半導体受託製造市場は台湾のTSMCが圧倒的なシェアを誇り、韓国Samsung、米Intelも2nm世代の量産化で激しい競争を繰り広げている。

Rapidusは、こうした巨大企業が先行する市場に後発として挑むことになる。パイロットラインの稼働は大きな前進だが、今後、歩留まり(良品率)の向上や安定した量産技術の確立、そして何よりも、最先端プロセスを必要とする有力な顧客を獲得できるかが成功の鍵を握る。

小池社長は、「今年末までには堅実な顧客リストを提示できる」と自信を見せており、民間からも1000億円規模の追加投資を募っている状況だ。また、2023年末には、著名なチップ設計者Jim Keller氏が率いるAI半導体スタートアップ、Tenstorrentとの提携も発表しており、将来的な顧客候補との連携も進めている。

日本の半導体戦略において中核的な役割を担うRapidusの挑戦は、まだ始まったばかりである。4月からのパイロットライン稼働は、その成否を占う上で重要な試金石となるだろう。


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