米Everbloomが、羽毛などの廃棄物から回収したタンパク質と高分子を組み合わせた衣料用繊維「Renoa」を開発した。カシミヤやウールに近い柔らかさと扱いやすさを目指し、既存の紡績設備や繊維供給網で扱えるよう設計されている。同社は複数のアパレルブランドを通じて、2027年に製品を市場投入する計画だ。11月1日付のTechCrunchの記事では、試作された混紡生地の肌触りがカシミヤに近いと評価された。ただし、実際の商品化に向けては、量産時にも一定の風合いを保ち、紡績から衣料生産までの各工程に安定して供給できるかが課題となる。
羽毛のタンパク質から新しい衣料用繊維を製造
Renoaの原料となるケラチンは、毛や羽毛に含まれるタンパク質の一種だ。Everbloomは、羽毛などの廃棄物からタンパク質を抽出・精製し、新しい繊維の製造に利用すると説明している。廃棄された衣料をほぐし、回収した繊維を再び紡ぐ従来の機械的リサイクルとは異なり、回収したタンパク質を高分子材料と組み合わせ、新たな繊維として成形する方式を採用している。
同社が米連邦取引委員会(FTC)に提出した繊維の一般名称に関する申請書によると、製造工程では、廃棄物由来のタンパク質と添加剤を、生分解性を持つ担体高分子に組み込む。その複合材料を加熱して溶融させ、押し出して繊維状に成形する「溶融紡糸」を用いる。得られた繊維は、さらに切断や捲縮(縮れを付ける加工)を施し、紡績に適した短繊維へと加工される。つまり、タンパク質だけを繊維状に引き伸ばすのではなく、高分子との複合材料として成形する仕組みだ。
Renoaはタンパク質と高分子を組み合わせた複合繊維だが、その配合割合や担体となる樹脂の種類は、公開された申請書では伏せられている。また、担体高分子が生分解性を持つとしても、それだけでRenoaや混紡した完成衣料がどのような環境で、どの程度の期間をかけて分解するかは判断できない。素材を構成する成分の性質と、完成品全体の環境中での挙動は区別する必要がある。
Everbloomは、米国内で調達した原料を使用し、既存の紡績設備や繊維供給網に対応できると説明している。短繊維を製造した後には、糸に加工する紡績工程や、生地・衣料に仕立てる工程が続く。新しい繊維を実験室で製造できることと、既存の工場で安定して加工できることは別の課題であり、後者の達成が商業生産を左右する。
AIで素材の性質と製造条件を予測
Everbloomは、繊維開発にAIを活用する独自システム「Braid AI」も開発している。同社の技術説明によると、温度、含水率、分子量などの条件によってタンパク質の性質がどう変化するかを統計モデルで分析する仕組みだ。繊維の柔らかさや強度を予測するほか、質感や染色性も考慮しながら製造条件を調整する。材料の特性と製造条件の関係をモデル化することで、狙った風合いに適した条件を効率的に探し出すことを目指している。
同社は、Braid AIの導入によって、従来2か月を要していた実験室での試験期間を2週間に短縮したと説明している。ただし、公開資料にはモデルの詳しい構造や予測誤差、外部の手法との比較結果は示されていない。また、この期間短縮は実験室での試験に関する同社の説明であり、量産時の製造速度や歩留まりが同じ割合で改善することを意味するものではない。
AIによる予測を使って有望な製造条件を絞り込み、実際の材料で検証する作業を繰り返せば、試行錯誤に必要な時間を短縮できる可能性がある。一方、実験室で得られた条件を大規模な製造設備に適用した際にも、同じ品質を維持できるとは限らない。製造規模の拡大に伴う品質のばらつきをどこまで抑えられるかは、今後の量産工程で検証する必要がある。
「25年ぶりの新繊維承認」は正式な認可ではない
Everbloomは、9月15日に公表した発表資料(Textile World掲載)で、Renoaが2002年のポリ乳酸(PLA)以来、約25年ぶりとなる新しい衣料用繊維分類の承認を受けたと説明している。しかし、FTCが2026年8月27日に付与したのは「EB001」という暫定指定であり、繊維の一般名称が正式に承認されたわけではない。FTCが発行した書簡では、最終判断が下されるまでEB001を使用できるとする一方、この指定は一般名称の採用や却下を意味するものではなく、申請内容が完全であることを認定するものでもないと明記している。
| 出所・日付 | 確認できる内容 | 確認できないこと |
|---|---|---|
| Everbloomの発表・9月15日 | 新しい繊維分類の承認を得たという同社の説明 | 一般名称の正式採用 |
| FTCの書簡・8月27日 | 最終判断まで「EB001」の使用を認める暫定指定 | 一般名称の採用・却下、申請内容の完全性 |
| 現行の繊維表示規則第303.8条・10月29日時点 | 審査中の暫定指定と一般名称の正式な採用・却下を区別 | 暫定指定を根拠とする正式承認 |
米国の繊維表示規則第303.8条では、新しい繊維の一般名称について、申請手続き、審査中の暫定指定、最終的な採用・却下をそれぞれ定めている。今回確認したFTCの公開資料と10月29日時点の現行規則では、Renoaの一般名称が正式に採用されたことは確認できない。したがって、暫定指定の付与と新しい繊維分類の正式承認を同一視することはできない。
繊維の一般名称は、衣料品の品質表示にも直接関係する。FTCの繊維表示規則では、製品を構成する繊維の一般名称と重量比、原産国などの表示を義務付けている。今回の手続きは、Renoaをどのような名称で表示できるかに関するものであり、肌触りや耐久性、環境性能を保証するものではない。なお、天然タンパク質を再生して製造する繊維には、既存の一般名称として「アズロン」も存在する。
洗濯性能と環境負荷、従来素材との比較には課題も
Everbloomが想定する用途の一つが、家庭で洗濯できるカシミヤやウールとの混紡製品だ。高級天然繊維に近い柔らかさを保ちながら、日常的な手入れを容易にすることを目指している。ただし、Renoa自体の特性が、そのまま完成衣料の洗濯性能を決めるわけではない。水洗いや乾燥機の使用に対応できるかは、組み合わせる繊維の種類や混紡率、製品の構造によって変わるため、実際の製品に付けられる洗濯表示で確認する必要がある。
機械的な性能については、FTCへの申請書に、細番手ウールとの比較として強度、破断伸び、繊度などの項目が設けられており、熱収縮率も比較対象に含まれている。しかし、公開版では具体的な数値が伏せられているため、従来素材との性能差を定量的に評価することはできない。試作品の肌触りが良好だったとしても、引張強度や伸縮性、熱による収縮などの性能については、別途測定結果を確認する必要がある。
環境負荷については、Everbloomの公式サイトが、Boundless Impact Research & Analyticsによる評価に基づく数値を掲載している。それによると、Renoaはカシミヤと比較して水使用量を50%、温室効果ガス排出量を62%削減できるという。また、ウールとの比較では温室効果ガス排出量を76%削減するとしている。
ただし、評価の詳細報告書は確認できておらず、比較に用いた単位や、原料調達から製造までのどの工程を計算に含めたのかは明らかになっていない。完成衣料の使用期間や耐久性を同じ条件にそろえた比較なのかも不明だ。そのため、これらの数値は同社が示す素材段階での比較値として扱う必要があり、Renoaを使用した衣料品全体の環境負荷が同じ割合で減少するとまでは言えない。市販品の環境性能を評価する際には、混紡率や洗濯条件に加え、比較対象となる製品の単位や評価対象工程が明示されているかが重要になる。
2027年に製品投入へ、価格は高級ウールとの競争を目指す
Everbloomは、複数のアパレルブランドを通じて2027年にRenoaを使用した製品を発売する計画だ。HGIが10月27日に公開したインタビューで、同社CEOのSimardev Gulati氏が明らかにした。ただし、提携するブランドの具体名は公表されておらず、現段階では発売計画が示されているにとどまる。
Gulati氏は、今後の課題として、品質を維持しながら生産量を増やし、繊維製造から紡績、衣料生産までの各工程の生産能力を確保することを挙げている。Renoaを製造する設備だけを増強しても、後工程の紡績や衣料生産が追いつかなければ、製品の供給量は増やせない。既存の繊維供給網に対応した設計は商業化に有利と考えられるものの、供給網全体で必要な生産能力と品質を確保することは、依然として大きな課題となる。
価格については、カシミヤより手頃で、高級ウールと競争できる水準を目標としている。さらに長期的には、一般的な合成繊維に近い価格帯まで引き下げることを目指す。ただし、現時点で量産時の製造原価や供給量、完成衣料の実売価格は確認できていない。廃棄物を原料として利用する場合でも、タンパク質の抽出・精製から繊維製造、紡績、衣料生産までの費用を含めて、目標価格に収める必要がある。
Renoaの商業化を左右するのは、廃棄物由来の原料に生じる品質のばらつきを管理し、一定の風合いと性能を備えた繊維を継続的に生産できるかどうかだ。Braid AIによる製造条件の最適化は、その課題に取り組むための手段となるが、実際の量産工程でどこまで効果を発揮するかは今後の検証を待つ必要がある。2027年に予定される最初の製品投入では、採用ブランドや販売価格に加え、混紡率、洗濯表示、供給の安定性が重要な判断材料となる。これらの条件が明らかになれば、Renoaが試作品としての魅力を超え、日常的に使用できる衣料用繊維として普及する可能性を、より具体的に評価できるだろう。



