OpenAIは、AIチャットボットChatGPTのWeb検索機能に、オンラインショッピング体験を向上させる新機能を追加した。パーソナライズされた商品推薦や比較が可能となり、全ユーザーが利用できるという。これは、検索の巨人Googleに対するOpenAIの挑戦を加速させる動きと言えるだろう。
何ができる?ChatGPTショッピング機能の全貌
OpenAIは2024年4月28日(現地時間)、ChatGPTのWeb検索機能に大幅なアップデートを加え、ショッピング機能を統合したことを発表した。これにより、ユーザーはChatGPTとの対話を通じて、よりスムーズかつ効率的に商品を探し、比較検討できるようになった。展開は順次行われるようで、記事執筆時点では筆者のChatGPTにはまだショッピング機能は提供されていない。
Shopping
— OpenAI (@OpenAI) April 28, 2025
We’re experimenting with making shopping simpler and faster to find, compare, and buy products in ChatGPT.
✅ Improved product results
✅ Visual product details, pricing, and reviews
✅ Direct links to buy
Product results are chosen independently and are not ads.… pic.twitter.com/PkZwsTxJUj
具体的には、ユーザーが特定の商品について質問したり、購入を検討しているアイテムの種類を伝えたりすると、ChatGPTは以下のような情報を提供する。
- パーソナライズされた商品推薦: ユーザーの質問の意図を汲み取り、関連性の高い商品をいくつか推薦する。
- 豊富な商品情報: 商品画像、価格、レビュー(星評価など)、簡単な説明を、見やすいカード形式で表示する。
- 直接購入リンク: 気に入った商品があれば、その商品を購入できる販売サイトへの直接リンクが提供される。ただし、購入プロセス自体はChatGPT内では完結せず、ユーザーは販売元のWebサイトにリダイレクトされる。
この機能はまず、ファッション、美容、家庭用品、電化製品といったカテゴリから導入される。OpenAIは、今後さらにカテゴリを拡大していく方針を示している。
特筆すべきは、この新機能がChatGPTの全ユーザーに提供される点だ。有料プランの「Plus」「Pro」ユーザーだけでなく、無料ユーザー、さらにはアカウントにログインしていないユーザーも利用できる。この機能は、OpenAIの最新AIモデルであるGPT-4oを通じて提供される。
The VergeによるOpenAIのChatGPT検索プロダクトリード、Adam Fry氏へのインタビューでは、デモの様子が紹介されている。例えば、「ラテを作るのに適していて、小さなカウンタースペースに合う200ドル以下のベストなエスプレッソマシン」といった具体的な質問に対し、ChatGPTは3つのトップピックを商品カードで提示。各カードの下には、なぜそれを選んだのかという詳細な説明が表示されたという。
商品カードをクリックすると、Google ショッピングに似たサイドバーが現れ、その商品を購入できる場所(例:Amazon, Best Buy)や、様々なサイト(Amazon, Best Buy, Redditなど)から集められたユーザーレビューに基づく詳細情報が表示される。さらに、「この商品について尋ねる (Ask about this)」ボタンを使えば、特定の製品に関する追加の質問をChatGPTに投げかけることも可能だ。
パーソナライズと仕組みの裏側
ChatGPTのショッピング機能は、単に商品をリストアップするだけに留まらず、よりそれぞれのユーザーのニーズに合った体験を提供するための工夫が凝らされている。
その核となるのがパーソナライズだ。Adam Fry氏はWiredのインタビューで、このショッピング体験はキーワード検索中心ではなく、よりパーソナルで会話的なものになるだろうと語っている。ChatGPTは、「人々がその製品をどうレビューしているか、どう語っているか、長所と短所は何か」を理解しようと試みるという。
このパーソナライズを実現するため、OpenAIは近くメモリ機能をショッピング体験に統合する予定だという。これにより、ChatGPTは過去のユーザーとの会話内容を記憶し、それを踏まえた上で、よりユーザーの好みや状況に合った商品を推薦できるようになる。例えば、「特定のブランドの黒い服しか買わない」とユーザーが過去に伝えていれば、次にシャツの購入相談をした際に、その好みを反映した提案を行うといった具合だ。ただし、このメモリ機能はプライバシー規制のため、EU、英国、スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインのユーザーは利用できない。
では、ChatGPTはどのようにしてこれらの商品情報やレビューを集めているのだろうか? OpenAIによると、ショッピング結果は第三者の構造化メタデータに基づいているという。これには、価格、商品説明、レビューなどが含まれる。
レビューに関しては、Wiredのような編集された出版社のコンテンツと、Redditのようなユーザー生成コンテンツ(UGC)フォーラムの両方から情報を引き出すようだ。ユーザーは、ChatGPTに対してどのタイプのレビューを優先してほしいか指示することも可能になるという。
価格情報の最新性を保つため、OpenAIは特定のパートナーと協力しているとのことだが、具体的なパートナー名は明らかにされていない。
Google Shoppingとの違いと注意点
ChatGPTのショッピング機能は、必然的にGoogle ショッピングと比較されることになるだろう。両者にはいくつかの重要な違いがある。
最大の相違点は、広告の有無だ。現状、ChatGPTのショッピング結果は完全にオーガニック(非広告)であり、特定の商品が優先的に表示されるような広告枠は存在しない。OpenAIは、表示される商品からアフィリエイト収入(紹介手数料)を得ることもないと明言している。
これに対し、Google ショッピングでは、検索結果の一部に広告(有料掲載)が含まれることが一般的だ。Googleの検索結果における広告の存在は、時にユーザー体験の質の低下を招いているとの指摘もある。OpenAIはこの点を意識し、よりユーザー中心で広告に左右されない情報提供を目指しているようだ。
情報源の透明性にも違いが見られるかもしれない。ChatGPTは第三者の構造化データやレビューを基にしていると説明しているが、Googleのランキングアルゴリズムはより複雑で不透明な部分が多い。
パーソナライズのアプローチも異なる。ChatGPTは会話履歴(メモリ機能)を活用するのに対し、Googleは主に検索履歴や閲覧履歴、位置情報など、より広範なユーザーデータをパーソナライズに利用している。
一方で、ChatGPTのショッピング機能を利用する上での注意点も存在する。AIによる情報生成には、常に不確実性が伴う。The Vergeが行ったテストでは、まだ発売されていない「Nintendo Switch 2」の予約情報を尋ねたところ、ChatGPTは誤った情報(まだ予約を開始していない任天堂公式ストアが品切れである、など)や、信頼性の低い第三者販売サイトへのリンクを提示してしまったという。生成AI全般に言えることだが、ChatGPTが提示する情報を鵜呑みにせず、特に価格や在庫、レビューの真偽については、最終的にユーザー自身で再確認することが不可欠だ。
また、前述の通り、購入自体はChatGPT内では完了せず、外部の販売サイトへ移動する必要がある点も留意しておきたい。
OpenAIの狙いと検索市場への影響
このタイミングでOpenAIがショッピング機能を強化する背景には、いくつかの戦略的な意図が見え隠れする。
最も明白なのは、検索市場の巨人Googleへの挑戦だ。Googleは長らく検索市場を支配しており、Statcounterによればその市場シェアは89.74%にも上る。検索広告はGoogleにとって莫大な収益源であり、昨年だけで1980億ドルをもたらした。
2022年末のChatGPT登場以降、AIチャットボットに情報検索を頼るユーザーが増加している。OpenAIによると、ChatGPTにおけるWeb検索数は、発表前の1週間だけで10億件を超えたという。週間のアクティブユーザー数も5億人に達している。これはGoogleの1日あたり約140億検索にはまだ遠く及ばないものの、無視できない規模に成長していることは確かだ。
OpenAIは、従来のキーワード検索とは異なる、より会話的でパーソナライズされた検索体験を提供することで、Googleからシェアを奪おうとしている。特にショッピング領域は、Googleにとっても重要な収益分野であり、ここに切り込むことで、Googleの収益基盤、さらには商品レビューでアフィリエイト収入を得ているWebサイトにも影響を与える可能性がある。
収益化については、現時点では広告もアフィリエイトもないとされているが、将来的な可能性は残されている。OpenAIのCEOであるSam Altman氏は、以前はChatGPTへの広告導入に否定的だったが、最近のインタビューでは、結果の優先順位を販売する形ではなく、ChatGPT経由での購入に対してアフィリエイト手数料を得るような「上品な」広告であれば検討の余地がある、とやや態度を変化させている。OpenAIは2029年までに1250億ドルの収益を目指すとの報道もあり、将来的にショッピング機能が収益源の一つとなる可能性は否定できない。ただし、Adam Fry氏は、現段階ではユーザー体験の向上を最優先しており、収益モデルについては今後様々な実験を行う可能性があると述べるに留めている。
AIを活用した検索サービスは、Perplexity(”Buy with Pro”機能を提供)やYou.comなど、他のプレイヤーも存在する。Google自身も、検索結果にAIによる要約を表示する「AIによる概要」を導入しているが、まだ情報の不正確さが指摘されている段階だ。
同時発表されたその他のアップデート
今回のショッピング機能強化に加え、OpenAIはChatGPTに関するいくつかのアップデートを同時に発表した。
- WhatsApp連携: WhatsAppユーザーは、アプリ内から直接ChatGPTにメッセージを送信して、最新情報を検索できるようになった。電話番号「1-800-CHATGPT」にWhatsApp経由でメッセージを送ったり、電話をかけたりすることも可能だ。これは、WhatsAppの親会社であるMetaが自身のMetaAIをアプリに統合していることを考えると、興味深い動きである。
- 引用機能の改善: 通常版のChatGPTでも、複数の情報源を引用する機能が改善された。
- トレンド検索とオートコンプリート: ユーザーが検索クエリを入力し始めると、Google検索のように、関連性の高いトレンドの検索候補やオートコンプリート(入力補完)が表示されるようになった。
これらのアップデートは、ChatGPTを単なるチャットボットから、より多機能な情報アクセスツールへと進化させる試みの一環と言えるだろう。
ChatGPTはよりパーソナルな存在へ
ChatGPTへのショッピング機能の追加は、AIによる情報検索の可能性を広げる重要な一歩である。ユーザーにとっては、より自然な言葉で商品を検索し、パーソナライズされた推薦を受け取り、複数の情報を比較検討するプロセスが効率化されるメリットがある。
一方で、この動きはGoogleを中心とする既存の検索・オンライン広告市場に大きな影響を与える可能性がある。広告に依存しない(少なくとも現時点では)情報提供は、ユーザーにとって魅力的であり、Googleや、レビュー・アフィリエイトサイトにとっては脅威となりうる。EC事業者にとっても、自社の商品がChatGPT上でどのように表示され、推薦されるかは、新たな関心事となるだろう。構造化データの重要性が増す可能性も指摘されている。
もちろん、AIによる情報生成の信頼性という課題は残る。ユーザーは提示された情報を批判的に吟味する必要がある。OpenAIも、今後ユーザーからのフィードバックを得ながら、機能改善や対応カテゴリの拡大を進めていくことになるだろう。
OpenAIが目指す「よりパーソナルで会話的な検索体験」が、今後どのように進化していくのか。そして、それが検索市場全体の勢力図をどう塗り替えていくのか興味深い所だ。
Sources