Sonyは2025年5月16日、多くのオーディオファンが待ち望んでいたワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホンのフラッグシップモデル「WH-1000XM6」を正式に発表した。最大の注目点は、ユーザーからの熱い要望に応えた折りたたみ機構の復活だろう。加えて、新開発のプロセッサーによる圧倒的なノイズキャンセリング性能の向上、プロの耳と共同で磨き上げられたスタジオレベルのサウンド、そして細部にまでこだわった快適性の追求。まさに「全部入り」とも言える内容で、プレミアムヘッドホン市場の盟主としての地位を盤石にする構えだ。
デザイン刷新:待望の折りたたみ復活と洗練された快適性
まず、多くのユーザーが歓喜するであろう変更点が、折りたたみデザインの採用だ。WH-1000XM5では一体型となり、携帯性に課題を感じる声も少なくなかった。しかしWH-1000XM6では、ヒンジ部分が改良され、イヤーカップを内側に折りたたむことが可能になった。これにより、付属のキャリングケースも大幅にコンパクト化。さらにケースは従来のジッパー式からマグネット開閉式へと変更され、片手での出し入れもスムーズになった。日常的な持ち運びやすさが格段に向上したと言えるだろう。

装着感も改善されており、ヘッドバンドはより幅広になり、頭頂部への圧力を軽減。イヤーパッドには伸縮性のあるソフトフィットな合成皮革素材が採用され、長時間の利用でも快適さが持続するよう配慮されている。ボタン配置も見直され、電源ボタンとNC/アンビエントサウンド切り替えボタンの形状を変えることで、触っただけで識別しやすくなった。細かい点だが、日常的な使い勝手を大きく左右する改良だ。
さらに、イヤーパッドは取り外し可能となり、交換が容易になった点もユーザーにとっては朗報だろう。長期間愛用する上で、メンテナンス性の向上は歓迎すべきポイントだ。
新プロセッサー「QN3」と12マイクにより実現したノイズキャンセリング性能の更なる向上

Sonyの1000Xシリーズといえば、その卓越したノイズキャンセリング性能が代名詞だ。WH-1000XM6は、その期待を軽々と超えてくるかもしれない。
核となるのは、新開発の「HDノイズキャンセリングプロセッサー QN3」だ。Sonyによれば、このプロセッサーはWH-1000XM5に搭載されていたものの7倍の処理能力を誇るという。この強力な頭脳と連携するのが、合計12個のマイク(XM5は8個)。内外のノイズをより緻密に捉え、リアルタイムで最適な逆位相の音を生成する。
加えて、「アダプティブNCオプティマイザー」が周囲の環境や気圧の変化に合わせてノイズキャンセリング特性を自動で最適化。これにより、飛行機内、騒がしい街中、静かなオフィスなど、あらゆるシーンで「業界最高クラス」とSonyが謳う、かつてないレベルの静寂空間を提供するとしている。海外の先行レビューでも、その進化は明確に感じ取れるという声が多く、特に騒音下での音楽への没入感は格別なようだ。
周囲の音を取り込む「アンビエントサウンドモード(外音取り込み)」も、より自然な聞こえ方に進化。アプリで取り込みレベルの調整も可能だ。
音質の極致へ:プロが認めたサウンドと多彩な高音質技術

ノイズキャンセリング性能だけでなく、音質へのこだわりもSonyならではだ。WH-1000XM6では、新設計の30mmドライバーユニットを採用。高剛性のカーボンファイバー複合材ドームと独自開発のボイスコイル構造により、微細な音のニュアンスから力強い低域まで、よりクリアでバランスの取れたサウンドを実現するという。
特筆すべきは、そのチューニングプロセスだ。Sonyは、Sterling Sound、Battery Studios、Coast Masteringといった世界的に著名なマスタリングスタジオのエンジニアたちと共同でサウンドを磨き上げた。これにより、アーティストが意図した音を忠実に再現する、まさに「スタジオレベルの精度」を目指したという。
もちろん、Sonyが誇る高音質技術も満載だ。
- ハイレゾオーディオ/ハイレゾオーディオワイヤレス(LDACコーデック対応)
- 圧縮音源をハイレゾ相当にアップスケーリングするDSEE Extreme
- ゲーム向けに最適化されたGame EQ(INZONEヘッドホンの知見を活用)
- ステレオ音源を立体音響化する360 Reality Audio Upmix for Cinema
- 低遅延・高音質なLE Audio(AuraCast対応)
これらの技術により、あらゆる音源を最高のクオリティで楽しむことができるだろう。ただし、一部レビューでは空間オーディオのアップミックス機能については「ギミック的」との辛口な評価も見られた。
通話品質も抜かりなし:AIがクリアな声を届ける
リモートワークの普及に伴い、ヘッドホンの通話品質も重要な選択基準となっている。WH-1000XM6は、この点でも進化を遂げている。XM5の4マイクから6マイクAIビームフォーミングへと強化され、AIによるノイズリダクション技術と組み合わせることで、騒がしい環境下でも自分の声をよりクリアに相手に届けることができるという。先行レビューでも、その通話品質の高さは評価されている。
スタミナは健在、利便性も向上したバッテリー性能
これだけの機能向上を果たしながらも、バッテリー持続時間はANCオンで最大30時間、ANCオフで最大40時間と、WH-1000XM5と同等のスタミナを維持している。長時間のフライトや移動でも安心だ。
急速充電にも対応しており、わずか3分間の充電で約3時間の再生が可能。うっかり充電を忘れても、短時間でリカバリーできるのは心強い。
そして、地味ながら非常に重要な改善点として、充電中のヘッドホン使用がついに可能になった。ただし、注意点もある。USB-Cポート経由でのデジタルオーディオ入力には対応しておらず、充電しながら有線で聴く場合は、充電用のUSB-Cケーブルと音声入力用の3.5mmステレオミニケーブルの2本を接続する必要があるようだ。これは少し残念なポイントかもしれない。
接続性とインテリジェント機能

Bluetoothの接続性も最新仕様となっている。特に注目されるのがBluetooth LE Audioへの対応で、Google Pixel端末(Android 16以降)など一部の対応機種では、デフォルトでLE Audio接続が有効になるという。これは、GoogleがWH-1000XM6をLE Audioの「アローリスト(許可リスト)」に追加したためで、ユーザーが手動で設定を変更することなく、より低遅延・高音質な接続の恩恵を受けられる可能性がある。
もちろん、2台のデバイスに同時接続できるマルチポイント接続や、Androidデバイスとのペアリングを容易にするGoogle Fast Pairにも対応している。
Sony独自のインテリジェント機能も健在だ。
- Speak-to-Chat: 会話を開始すると自動で音楽を一時停止し、外音取り込みモードに切り替わる。
- アダプティブサウンドコントロール: ユーザーの行動や場所に合わせて、ノイズキャンセリングや外音取り込みの設定を自動で調整。
- Sony | Headphones Connectアプリ: EQ設定や各種機能のカスタマイズが可能。
これらの機能により、ユーザーはよりシームレスでパーソナルなリスニング体験を享受できる。
WH-1000XM5からの進化点、そして競合との比較
改めてWH-1000XM5と比較すると、WH-1000XM6の主な進化点は以下の通りだ。
特徴 | WH-1000XM6 | WH-1000XM5 |
デザイン | 折りたたみ式、マグネットケース、幅広ヘッドバンド、交換可能イヤーパッド | 一体型、ジッパーケース |
NCプロセッサー | QN3 (XM5比7倍高速) | QN1 |
マイク数 (NC用) | 12個 | 8個 |
ドライバー | 新設計30mmドライバー | 30mmドライバー |
チューニング | プロスタジオ共同 | |
通話用マイク | 6マイクAIビームフォーミング | 4マイクAIビームフォーミング |
充電中利用 | 可能 (USB-C充電 + 3.5mm音声) | 不可 |
LE Audio | 対応 (Pixel等でデフォルト有効の可能性) | 対応 |
価格 (米国) | $449.99 | $399.99 |
競合製品としては、Bose QuietComfort Ultra HeadphonesやApple AirPods Maxが挙げられるだろう。WH-1000XM6は、これらの強力なライバルに対して、さらに磨きのかかったノイズキャンセリング性能、プロが認めた音質、そしてユーザーフレンドリーなデザイン改善でアドバンテージを主張する。
特に、AirPods Maxと比較すると、WH-1000XM6はより軽量で長時間の快適性に優れ、価格も抑えられている。音質やノイズキャンセリング性能は甲乙つけがたいレベルに達しており、エコシステムへの親和性でAirPods Maxが有利な場面もあるが、純粋なヘッドホンとしての完成度はWH-1000XM6も引けを取らない。
Bose QuietComfort Ultraとの比較では、デザインの好みや細かな音質の味付け、操作性などが選択のポイントとなりそうだ。WH-1000XM6のより進化したノイズキャンセリングと、プロによるサウンドチューニングがどこまでアドバンテージとなるか注目される。
王者の帰還、しかし価格に見合う価値はあるか?

Sony WH-1000XM6は、前モデルの強みを継承しつつ、ユーザーの声を真摯に受け止め、デザイン、ノイズキャンセリング、音質、使い勝手の全てにおいて着実な進化を遂げた、まさに「王者の帰還」と呼ぶにふさわしい製品だ。
特に折りたたみ機構の復活とケースの小型化は、多くのユーザーにとって最大の朗報だろう。新プロセッサーQN3によるノイズキャンセリング性能の向上は、さらなる静寂の高みへと誘い、プロの耳と共同で作り上げられたサウンドは、音楽をより深く楽しむための最高の環境を提供してくれるはずだ。
一方で、449.99ドルという価格は、前モデルから50ドルの値上げとなり、決して手軽に購入できるものではない。USB-Cポートでのオーディオ入力が依然としてサポートされていない点や、空間オーディオのアップミックス機能の評価など、細かな不満点も皆無ではない。
では、WH-1000XM6は「買い」なのか?
もしあなたが、最高のノイズキャンセリング性能と高音質を妥協なく追求し、日常的にヘッドホンを持ち運ぶアクティブなユーザーであれば、WH-1000XM6はその価格に見合う、あるいはそれ以上の満足感を与えてくれる可能性が高い。特に、WH-1000XM4以前のモデルからの買い替えであれば、その進化の大きさに驚くことだろう。
WH-1000XM5のユーザーにとっては、劇的な変化とまでは言えないかもしれない。しかし、折りたたみ機構やさらなる静寂性、音質の向上に魅力を感じるのであれば、アップグレードを検討する価値は十分にある。
Sony WH-1000XM6は、ブラック、プラチナシルバー、ミッドナイトブルーの3色展開で、すでにAmazonなどの主要な販売店で注文が可能となっている。この新たなフラッグシップモデルは、再びワイヤレスヘッドホン市場のスタンダードを塗り替えるだろうか?
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