Lenovoの携帯ゲーミングPC「Legion Go S」において、搭載OSによる性能差が大きな注目を集めている。人気YouTuberのDave Lee氏(Dave2D)が実施した詳細な比較テストにより、Valve社のLinuxベースOS「SteamOS」を搭載したモデルが、Microsoft社のWindows 11を搭載したモデルと比較して、多くのゲームで顕著なパフォーマンス向上とバッテリー持続時間の大幅な改善を示すことが明らかになった。これは、携帯ゲーミングPC市場におけるOSの選択が、ハードウェアのポテンシャルを最大限に引き出す上で極めて重要であることを示唆しており、Microsoftにとっては大きな課題を突きつけられた形だ。
同一ハードウェアでOS比較:Legion Go SのSteamOS版とWindows版
Lenovoは今年1月のCES 2025で、Legion Go SのWindows版とSteamOS版という2つのモデルを発表した。Windows版は2月に発売されたが、ほぼ同一のハードウェア構成を持つSteamOS版は最近になってようやく出荷が開始された。このSteamOS版は、Valveとの公式パートナーシップによって実現したものであり、Steam Deck以外のデバイスでネイティブにSteamOSが動作する初の公式な事例の一つとして注目されていた。
Dave2Dは、これら同一ハードウェア上で異なるOSを搭載した2台のLegion Go Sを用い、ゲーミング性能とバッテリー持続時間について詳細な比較テストを実施。その結果は、多くのゲーマーにとって衝撃的なものとなった。
衝撃の性能差:Dave2Dによる徹底比較レビュー
Dave2Dの比較レビューは、携帯ゲーミングPCにおけるOSの重要性を浮き彫りにした。以下にその主なテスト結果を示す。
フレームレート比較:多くのAAAタイトルでSteamOSがWindowsを凌駕
Dave2Dのテストによると、Legion Go SでSteamOSを実行した場合、Windows 11と比較して多くの人気ゲームタイトルでフレームレートが向上した。特にその差が顕著だったのは以下のタイトルだ(いずれも低~中程度のグラフィック設定)。
ゲームタイトル | Legion Go S (SteamOS) | Legion Go S (Windows) | 向上率 (概算) |
---|---|---|---|
Cyberpunk 2077 | 59 FPS | 46 FPS | 約28%向上 |
Doom Eternal | 75 FPS | 66 FPS | 約14%向上 |
Witcher 3 | 76 FPS | 66 FPS | 約15%向上 |
Helldivers 2 | 70 FPS | 65 FPS | 約8%向上 |
Spider Man 2 | 63 FPS | 64 FPS | 約2%低下 |
ご覧の通り、『Cyberpunk 2077』ではSteamOS版がWindows版を約28%も上回るフレームレートを記録。他の多くのタイトルでもSteamOSの優位性が見られた。唯一の例外は『Spider Man 2』で、これはSteamOS版がわずかにフレームレートを落とす結果となったが、全体としてはSteamOSのパフォーマンスの高さが際立っている。
この性能差の背景には、SteamOSのベースとなっているLinuxの軽量性や、Valveによるゲーム用途への最適化、そしてWindowsゲームをLinux上で動作させる互換レイヤー「Proton」の成熟があると考えられる。Windows 11は汎用OSであるがゆえに、バックグラウンドで動作するタスクやテレメトリ(情報収集機能)が多く、これらがゲームパフォーマンスに影響を与えている可能性がある。
バッテリー持続時間:SteamOSの圧勝、特に軽量ゲームで顕著な差
パフォーマンスだけでなく、バッテリー寿命においてもSteamOSはWindows 11を圧倒した。両モデルは同じ55Whのバッテリーを搭載しているにも関わらず、SteamOS版は特にグラフィック負荷の低い2Dゲームやインディーゲームにおいて、驚異的な持続時間を示した。
Dave2Dのテストでは、『Dead Cells』のようなインディータイトルをプレイした場合、SteamOS版のLegion Go Sは約6時間強のバッテリー駆動時間を達成したのに対し、Windows版は約2時間45分と、半分以下の結果に留まった。AAAタイトルの『Cyberpunk 2077』ではその差は縮まるものの、それでもSteamOS版が1時間54分、Windows版が1時間31分と、SteamOS版が約25%長い駆動時間を示した。
ゲームタイトル | Legion Go S (SteamOS) | Legion Go S (Windows) | 備考 |
Cyberpunk 2077 | 1時間54分 | 1時間31分 | 高負荷時 |
Hades (Max FPS) | 4時間17分 | 1時間58分 | フレームレート上限なしでの比較 |
Dead Cells (60 FPS) | 6時間12分 | 2時間47分 | フレームレート60FPS固定での比較 |

この差は、SteamOS(Linux)の電力効率の良さに加え、Windows 11がバックグラウンドで消費する電力の大きさを物語っている。また、Dave2DはSteamOSの非常に優れたスリープおよびサスペンド機能も指摘。スリープからの復帰が迅速かつ確実で、ゲームを中断・再開する際の体験がWindowsに比べて格段にスムーズであることも、ユーザーエクスペリエンスの向上に寄与している。Windowsデバイスでは、スリープ復帰後に不安定になったり、意図せずバッテリーを消費したりする問題が散見されるが、SteamOSではそのようなストレスが少ないという。
なぜSteamOSはこれほど優れているのか?
SteamOSが同一ハードウェア上でWindows 11を凌駕する理由は複数考えられる。
軽量なOSと最適化されたゲーミング体験
前述の通り、LinuxベースのSteamOSは、Windowsに比べてシステム全体のオーバーヘッドが小さい。ゲーム実行に不要なプロセスが少ないため、CPUやメモリといったリソースをより効率的にゲームに割り当てることができる。さらに、ValveはSteamOSをゲーミングに特化して開発しており、ドライバーの最適化やシステムレベルでの調整が、パフォーマンス向上に繋がっているのだろう。
ユーザーエクスペリエンスの違い:コンソールライクな快適さ
SteamOSは、まさにゲームコンソールのような直感的でシンプルなユーザーインターフェースを提供する。余計なポップアップやブロートウェア(プリインストールされた不要なソフトウェア)に悩まされることも少ない。一方、Windows 11は元々デスクトップOSであり、マウス操作を前提としたUIや、複数のゲームランチャーの管理、頻繁なアップデート通知など、携帯ゲーミングデバイスで使うには煩雑な側面があることは否めない。
Dave2Dは動画内で「SteamOSは6歳の子供でも扱えるほど直感的だが、Windowsはそうではない」とコメントしており、このユーザーエクスペリエンスの差は大きいと言えるだろう。
Steam Deckとの比較:Legion Go S SteamOS版の位置づけ
Valve自身の携帯ゲーミングPCであるSteam Deckと比較した場合、Legion Go S(SteamOS版)は興味深い位置づけとなる。Legion Go SはSteam Deckよりも高いTDP(熱設計電力)で動作させることが可能で、その分、より高いフレームレートを叩き出すことができる。Dave2Dのテストでは、Legion Go S(Z2 Goチップ)は最大33W(接続時は40Wも)、Steam Deckは最大15Wだった。
しかし、より低い消費電力で効率的に動作するのはSteam Deckであり、特に2Dゲームやインディーゲームを長時間プレイしたい場合には依然としてSteam Deckが有利な場面もあるだろう。
ディスプレイ品質においては、Legion Go Sが8インチ 1920×1200 IPS液晶(120Hz VRR対応、500nits)と、Steam Deck OLEDモデル(7.4インチ 1280×800 OLED、90Hz)と比較して、より大きく高解像度で高リフレッシュレート(可変リフレッシュレート対応)というアドバンテージを持つ。ただし、OLEDパネルの鮮やかさや応答性はSteam Deck OLEDが優れている。タッチパッドの使い勝手に関しては、Steam Deckの方が大型で優れているとの評価だ。
価格戦略と市場への影響
価格面でもSteamOS版は魅力的だ。Windows版のLegion Go Sが700ドル以上するのに対し、SteamOS版はBest Buyで599ドルとされており、約130ドル以上の価格差がある。この価格差の一因は、Windows 11のライセンス費用にあると考えられる。
このコストパフォーマンスの高さは、SteamOS版Legion Go Sの大きな武器となるだろう。IDCのデータによれば、2022年から2024年の推定販売台数でSteam Deckが400万台であるのに対し、ROG Ally、MSI Claw、Legion Go(Windows版)を合計しても200万台と、Windows系携帯ゲーミングPCは苦戦を強いられている。今回のSteamOS版Legion Go Sの登場と、その優れたパフォーマンスは、この市場勢力図に変化をもたらす可能性がある。

Microsoftへの警鐘となるか?Windowsゲーミングの未来
Windows Centralは、このDave2Dの比較結果を「Microsoftにとっての屈辱」と評し、Windows 11のゲーミングパフォーマンスとバッテリー効率、そしてユーザビリティにおける問題を厳しく指摘している。長年にわたり、Windowsは携帯ゲーミングPC市場においてOSの選択肢としてデファクトスタンダードであったが、その座が揺らぎ始めているのかもしれない。
Microsoftは、Windows 11に多くの新機能を搭載してきた一方で、その結果としてOSが肥大化し、パフォーマンスや効率に影響が出ているとの批判は絶えない。カーネルレベルのアンチチートの問題で一部ゲームがProton(SteamOS)で動作しづらい点や、PC Game Passを含むあらゆるゲームランチャーとの互換性は依然としてWindowsの利点ではある。しかし、Dave2Dが指摘するように、OSというソフトウェア一つで、ハードウェアの評価がここまで劇的に変わるという事実は、Microsoftにとって大きな警鐘となるはずだ。
Microsoftがこの状況にどう対応し、将来のWindowsでゲーミング体験をどのように改善していくのか、今後の動向が注目される。
Legion Go S、選ぶべきはSteamOS版か?
Dave2Dの徹底的な比較レビューは、Lenovo Legion Go Sにおいて、SteamOSがWindows 11に対してパフォーマンス、バッテリー寿命、そしてユーザーエクスペリエンスの面で明確な優位性を持つことを示した。価格もSteamOS版の方が安価であり、コストパフォーマンスは非常に高いと言える。
もちろん、Windows版には幅広いソフトウェア互換性や、PC Game PassといったMicrosoftエコシステムとの連携という利点もある。しかし、純粋に携帯ゲーム機としての快適さや性能を追求するのであれば、現時点ではSteamOS版のLegion Go Sがより魅力的な選択肢となる可能性が高い。
最終的にどちらのモデルを選ぶべきかは個々のニーズによるが、今回の比較結果は、携帯ゲーミングPCを選ぶ上でOSがいかに重要な要素であるかを改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。今後の市場の反応と、LenovoおよびValve、そしてMicrosoftの次の一手に注目が集まる。
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