スペースエコノミーが急拡大する中、衛星運用企業は想定外の壁に直面している。電力制約だ。地球周回軌道では日照時間が約60%に限定され、残りの40%(地球影)では発電が停止する。高精度センサーの常時稼働が難しく、Starlink級の大型コンステレーションでも同じ課題が現れる。

Star Catcher Industriesが開発した光学パワービーミング技術は、この制約を既存衛星への改造なしで解消できる。同社は2026年5月のシリーズA調達で65Mドルを確保し、累積調達額は88Mドルに達した。この資金で、2026年内の初の軌道上実証へと進む。

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衛星運用者が抱える電力制約

日照時間が約60%に限定される地球周回軌道では、残りの40%の時間帯(地球影)で発電が停止し、蓄積されたバッテリー電力のみで運用を続けることになる。通信、観測、コンピューティングのいずれも電力が足りず、任務の継続時間が短くなる。従来の設計では太陽電池面積を増やすしか対策がなく、衛星質量と打ち上げコストが跳ね上がる。衛星数の増加とともに、この電力制約がスペースエコノミー全体の成長を阻む壁となっている。

Star Catcherはフレネルレンズを搭載したパワーノード衛星で太陽光を集光し、レーザー光に変換して他衛星へ送る(光学パワービーミング)。レシーバー側は既存の太陽電池パネルをそのまま利用し、追加機器は不要だ。この設計により、衛星側はハードウェア変更なしで受電できる。地上試験では300フィート(約90メートル)の距離でエネルギー伝送を確認した。

2025年11月、Star CatcherはNASA Kennedy Space Centerで1.1kWの出力を記録し、同年5月にDARPAが達成した800Wを超える現時点の世界記録となった。Mantisなど類似技術を開発する企業も存在するが、Star Catcherの競争優位は2点にある。まず、既存衛星への改造を一切不要にする設計で、導入障壁を低く抑えている。次に、地上試験から記録達成までを短期間で完遂し、2026年内の軌道上実証へのロードマップが具体化している。

B Capital主導の65Mドル調達背景

B Capitalがリードし、Shield CapitalとCerberus Venturesが共同リードした。Cerberus Venturesからは元U.S. Space Force(宇宙軍)初代宇宙作戦司令官のGeneral John W. "Jay" Raymondが取締役に就任した。B CapitalのJeff Johnsonは、軌道上のエネルギー需要が爆発的に増加している一方でインフラが整備されていない点を投資判断の核心として挙げる。Shield CapitalのJohn Serafiniは、Star Catcherが世界記録到達から飛行用ハードウェア開発までを短期間で進めた点を評価した。

Starcloud、Loft Orbital、Astro Digitalを含む7社が電力購入契約を締結した。2026年内に予定される初の軌道上実証では、実際に衛星へパワービーミングを行い、システムの動作を確認する。実証後は段階的に商用展開を拡大し、2020年代末までに商用サービスを本格化する計画だ。政府機関も関心を示しており、民生と防衛の双方での活用が見込まれる。

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軌道上グリッドが衛星通信と観測にもたらす変化

Star Catcherの技術が商用化されれば、衛星経由のインターネット接続が24時間安定提供される。地上ネットワークが届かない地域でも常時通信が可能になり、防災や医療分野での利用が広がる。地球観測衛星では高精度センサーの常時稼働が実現し、気候変動監視や災害早期警戒の精度が向上する。供給電力は既存ハードウェアの最大10倍に達し、衛星の設計自由度とミッション継続時間が大幅に広がる。衛星設計の前提を変えるこの技術が軌道上インフラとして定着すれば、スペースエコノミーは新たな成長段階へ入る。