テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

Starshipが検査中に大爆発: SpaceXを襲う「2025年の悪夢」と深刻な影響

Y Kobayashi

2025年6月20日

2025年6月18日、テキサス南部の夜空がオレンジ色に染まった。Elon Musk氏率いるSpaceXの次世代巨大ロケット「Starship」が、打ち上げ前の地上試験中に轟音とともに爆発、炎上したのだ。今年に入り3度の飛行試験失敗に続く、4度目の重大な事故。これは単なる「かすり傷」では済まされない、SpaceXの未来、ひいては人類の宇宙開拓計画そのものを揺るがしかねない深刻な事態だ。

成功を重ねた2024年から一転、なぜ2025年のStarshipは失敗の連鎖に見舞われているのか。この地上での爆発は、NASAの月面着陸計画やマスクが夢見る火星移住構想に、どれほど暗い影を落とすのだろうか。

スポンサーリンク

衝撃の映像、地上で起きた「壊滅的失敗」

事故が発生したのは、現地時間6月18日午後11時頃。メキシコ国境に程近いSpaceXの開発拠点「Starbase」にある、通称「Massey’s Test Site」での出来事だった。

第10回飛行試験(Flight 10)に向けて準備が進められていた機体「Ship 36」は、6基のラプターエンジンに点火する「静的燃焼試験(スタティック・ファイア・テスト)」を目前に控えていた。超低温の液体メタンと液体酸素を推進剤としてタンクに充填し終えた、まさにその時だった。

Ship 36 Experiences Anomaly (Loss of Vehicle) - LabPadre Space

複数のメディアが設置したライブカメラの映像は、その瞬間を克明に捉えている。まず機体上部から白煙のようなものが噴出し、次の瞬間、Starship全体が巨大な火球となって爆発。夜空を焦がすほどの閃光と炎が立ち上り、周辺の施設をシルエットとして浮かび上がらせた。この爆発の衝撃は凄まじく、30マイル(約48km)離れた住民でさえ、その振動を感じ、爆発を目撃したと報告している。

SpaceXはX(旧Twitter)で「重大な異常(major anomaly)が発生した」と発表し、作業エリアは事前に避難が完了しており、全人員の無事を確認したと強調した。しかし、地元当局がFacebookで用いた「壊滅的な失敗で爆発した」という言葉は、事態の深刻さをより直接的に物語っている。

Elon Musk氏自身は、この大爆発の数分後に「Just a scratch(ただのかすり傷だ)」とXに投稿したが、この皮肉とも強がりとも取れる一言と、映像が示す現実との間には、あまりにも大きな乖離が存在する。

負の連鎖:なぜ2025年のStarshipは失敗続きなのか?

今回の地上爆発は、孤立した事故ではない。2025年に入ってから、Starshipは悪夢のような「負の連鎖」に陥っているのだ。

  • 1月(Flight 7) & 3月(Flight 8): 打ち上げには成功するも、いずれも離陸から数分後に制御不能に陥り、空中で爆発。カリブ海に破片が降り注ぐ事態となった。
  • 5月(Flight 9): これまでで最も長い飛行に成功し宇宙空間に到達したものの、大気圏再突入の段階で姿勢を崩し、通信が途絶。機体はインド洋の藻屑と消えた。

そして今回、ついに「飛ばずして爆発する」という事態に至った。2024年にはブースター「Super Heavy」を巨大なアームでキャッチするという離れ業を成功させ、着実な進歩を見せていただけに、この暗転ぶりは異常だ。

この失敗の連鎖の背景には、2025年から導入された改良型「Starship Version 2(Block 2)」の技術的課題が存在すると考えられる。この新型機は、再突入時の高熱に耐えるための改良型ヒートシールドや、新たな燃料供給システム、改良された電子機器などを搭載していた。しかし、これらのアップグレードが、皮肉にも新たな問題を引き起こした可能性がある。

SpaceXの技術者たちは、1月の失敗原因を機体の自然な周波数と共振した激しい振動による燃料漏れと火災、3月の失敗はエンジン自体のハードウェア故障と分析している。5月の失敗は、エンジン停止後の燃料漏れが原因で機体が宇宙でタンブル(回転)を始めたためと見られている。振動、エンジン信頼性、燃料系統、そして再突入時の空力制御。解決すべき問題は山積しており、今回の地上爆発は、そのリストにまた一つ、深刻な項目を付け加えた形だ。

スポンサーリンク

失われた「唯一の試験場」― 遅延は数ヶ月単位か

今回の爆発がもたらす最も直接的かつ深刻な影響は、機体「Ship 36」の喪失だけではない。爆発が起きた「Massey’s Test Site」へのダメージだ。

この試験場は、Starshipの上段ステージが飛行前に耐圧試験や静的燃焼試験を行える、Starbase内で唯一の施設である。打ち上げを行う射場(Orbital Launch Mount)とは別の、必要不可欠なインフラなのだ。

爆発の規模から見て、このテストスタンドや周辺の燃料タンク設備が甚大な被害を受けたことは想像に難くない。施設の修復には、数週間から数ヶ月単位の時間を要する可能性がある。つまり、たとえ新しい機体が完成したとしても、それを飛行前にテストする場所がない、という袋小路に陥るリスクがあるのだ。

SpaceXは「失敗から学ぶ」をスローガンに、迅速な開発サイクルを繰り返すことで驚異的な成長を遂げてきた。しかし、そのサイクルを支える物理的なインフラが破壊されたとなれば、話は全く違ってくる。今回の事故は、開発のペースそのものを根底から揺るがしかねない。

月と火星への道がさらに遠のく― NASAとMusk氏の野望への打撃

一台のロケットの爆発は、地球周回軌道を越え、月、そして火星にまでその影響を及ぼす。

NASAのArtemis計画への懸念:
Starshipは、NASAが50年以上ぶりの有人月面着陸を目指す「Artemis III」ミッション(2027年目標)において、宇宙飛行士を月面に送り届けるランダー(着陸船)として選定されている。NASAはSpaceXに40億ドル以上を投じており、この計画はStarshipの成功が大前提だ。しかし、これだけ失敗が続けば、NASAが設定した2027年というスケジュールは、もはや楽観的とは言えないだろう。SLSロケットや宇宙服の開発遅延といった既存のリスクに加え、Starshipの信頼性問題は、計画全体に致命的な遅延をもたらす最大の要因となりつつある。

Elon Musk氏の火星移住構想:
Musk氏の最終目標は、言わずもがな火星への人類移住だ。彼は最近、2026年後半には最初の無人Starshipを火星に送り込み、早ければ2028年にも有人の火星飛行を開始したいと語っていた。しかし、地球上での静的燃焼試験すら安全に完了できない現状で、惑星間航行や火星着陸を語るのは、あまりにも現実離れしていると言わざるを得ない。

今回の爆発は、壮大なビジョンと厳しい現実との間に横たわる、深く、そして危険な谷を改めて浮き彫りにした。

スポンサーリンク

試されるSpaceXの開発哲学、正念場はこれから

SpaceXのStarshipプログラムは、間違いなく正念場を迎えている。「迅速に作り、飛ばし、壊し、学ぶ」という開発哲学は、Falcon 9ロケットを世界で最も信頼性の高いロケットの一つに押し上げた。しかし、人類史上最大・最強のロケットであるStarshipは、そのアプローチの限界を試しているのかもしれない。

今回の爆発は、単なる一つの技術的失敗ではない。それはSpaceXの未来、NASAの悲願、そして人類の宇宙進出の次章を左右する、重要な転換点となる可能性がある。Musk氏の言う「かすり傷」で済むのか、それとも回復に長い時間を要する致命傷となるのか。世界中の宇宙関係者とファンが、固唾を飲んでStarbaseの次の一手を見守っている。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする