Valveは、Arm搭載機で使うSteam for Linuxが現在、公式サポートの対象に入らないことを改めて示した。日本時間2026年10月5日、Linux版Steamの不具合を受け付けるGitHubで、Valve側アカウントのkisak-valveがArm機での報告に回答し、投稿を閉じた。一方、同社はArmを採用するSteam Frame向けに、既存のPCゲームを動かす仕組みを開発している。Armで実行できるSteamが存在することと、一般のArm Linux機をサポートすることの間には、クライアントの配布形態と機器ごとの機能対応という違いがある。

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発端はゲームの起動ではなく、Remote PlayのAV1

今回閉じられたIssue #13689は、別のPCで実行するゲームの映像を受け取るRemote Playに関する報告だ。報告者は、Qualcomm SM8750を搭載する携帯機AYN Odin 3に、Fedora 44をベースにしたArmadaを導入していた。Linuxカーネルは7.2.6で、SteamにはネイティブArm64版のベータクライアントを使っていたという。

その環境では、HEVC形式の映像をハードウェアでデコードできていた。問題は、受信側の映像処理回路がAV1に対応していると報告されているのに、SteamがAV1を利用可能な形式として送信側へ知らせず、選択肢に出さないことだった。つまり、Steamがまったく起動しないという報告でも、Arm上でゲームを一切実行できないという報告でもない。

これに対してkisak-valveは、「Steam for Linuxは現在、Armベースのハードウェアではサポートされていない」と返信し、過去のArm対応要望である#4061を参照した。報告は重複案件として閉じられている。AV1の処理について具体的な修正方針は示されなかった。

AV1対応の回路があっても、アプリが選べるとは限らない

報告者の説明では、Linuxの映像デバイス用インターフェース「V4L2」が示す対応形式には、H.264とHEVCの後にVP9が並び、その次にAV1を表すAV01があった。しかしSteamの処理を追ったログでは、H.264かHEVCを見つけたところで探索が止まり、AV1の項目に達しなかったという。

Linuxカーネルの公式文書は、対応形式を調べるVIDIOC_ENUM_FMTという呼び出しについて、番号を0から一つずつ増やし、範囲外を示すEINVALが返るまで列挙する仕組みを説明している。ドライバーがAV1を一覧に載せていても、アプリがそこまで問い合わせなければ、選べる形式として認識できない。回路の対応能力と、アプリが実際に使う経路は別々に確かめる必要がある。

ただし、この報告からSteamの内部実装の原因まで確定することはできない。掲載された追跡ログが直接示すのは、先頭のH.264とHEVCへの問い合わせ、そしてHEVCを選んだ処理であり、四つの形式が並ぶという説明は報告者による別の確認に基づく。Odin 3での観測を、すべてのArm機やSteam FrameのAV1対応へ広げる根拠もない。

それでも、クライアントをArm向けにビルドするだけで、機器の全機能を利用できるようになるわけではないことは分かる。映像受信では、対応形式の検出から送信側との調整、実際のデコードまでつながって初めて、ユーザーが機能を選べるようになる。

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三つの「Arm対応」を一次資料で比べる

通常のLinux版Steamについて、Valveの公開READMEは、64ビットのx86_64/AMD64 Linuxカーネルを要件に挙げる。グラフィックドライバーと基本ライブラリのglibcには、64ビット版に加えて32ビット版も必要だ。サポートFAQも、最新Ubuntu LTSと指定のデスクトップ環境を通常クライアントのサポート対象としている。「Linuxで動く」という説明だけで、CPUの異なるArm機まで含まれるとは読めない。

2026年10月時点の資料を比べると、Steam FrameのArm対応と、一般のArm Linux機でSteamを使うための公式サポートは一致しない。

利用形態 資料が扱う機器・構成 対応範囲の記述
通常のSteam for Linux x86_64/AMD64カーネルと、64・32ビットのライブラリ ValveのREADMEに要件を掲載。10月の回答ではArm機を現在非サポートと明記
Steam Frame Snapdragon 8 Gen 3、Arm64版SteamOS。Windows x86ゲームはProtonとFEXを使用 Valveの開発者文書が特定の製品向けに実行方式を説明。一般のArm Linux機や全ゲームを保証する記述ではない
Ubuntu側のArm64向けSteam Snap x86版SteamクライアントとFEXを同梱したパッケージ Ubuntu側のテスト募集は実験版と位置づけ、Valveの公式サポート対象外と明記

表は2026年10月6日に確認した資料から、対象機器、実行構成、対応範囲を抜き出して並べたものだ。ゲームの性能や互換性を測定した比較ではない。Steam Frame向けの開発が進む一方で、別のArm機に同じ対応を期待できるとは限らないことが読み取れる。

Steam Snapでは、パッケージがArm64向けであっても、中のSteamクライアントまでArmネイティブとは限らない。Ubuntu側のMitchell Augustin氏は、1月のテスト募集でx86版SteamとFEXを同梱したと説明していた。さらに8月4日の追記では、ネイティブArm64版を試しているものの、通常のSteamダウンロードページで全ユーザーに提供されるまでSnapの移行を待つ方針を示している。これはUbuntu側の移行判断であり、Valveが正式な提供日を約束した発表ではない。

「Arm版Steamがある」という情報を読む際には、クライアント自体がArm向けなのか、x86版を命令変換で動かしているのかを区別したい。そのうえで、誰がどの機器の不具合を受け付けるのかが、日常的に使う際の判断材料になる。

ProtonとFEXが越える二つの違い

Steam Frame向けの開発者文書では、WindowsとLinuxの違いを埋めるProtonと、x86とArm64の違いを埋めるFEXが別の項目として説明されている。既存のWindows x86ゲームをArm機で動かすには、OSとCPU命令という二つの違いを越えなければならない。

Protonは、Wineを改良した実装やグラフィックAPIの変換機能を組み合わせ、WindowsゲームをLinuxで動かす互換レイヤーだ。例えばDXVKは、DirectXの呼び出しをVulkanへ変換する。対するFEXは、x86向けの命令をArm64で実行できる命令へ変換する。SteamクライアントをArmネイティブにしても、既存のゲームまでArm用に作り直されたことにはならない。

FEX開発元の説明によると、FEXは32ビットと64ビットのx86アプリに対応し、WineやProtonと併用できる。また、OpenGLやVulkanの呼び出しをArm側のライブラリへ転送し、エミュレーションの負担を減らす仕組みも備える。ゲームが行う処理をすべて同じ方法で変換するのではなく、ホスト側で処理できる部分を利用する設計である。性能低下がなくなることや、どのArm機でも同じ性能になることを意味するものではない。

ValveはGDC 2026の公式スライドでも、ProtonのArm64対応を広げ、Steam FrameのArmチップ上でx86ゲームを実行する取り組みを説明していた。同社が開発者文書で掲げる狙いは、開発者が多数の別ビルドを維持するより、一つの最良のゲーム版に集中できるようにすることだ。試験や更新が手薄な別版を増やすことは、ユーザーの利益にもつながりにくいという考え方である。

この方針が生かすのは、既存のPCゲーム資産だ。一方、実際に動かす機器では、GPUドライバーや映像処理などの機能もつながる必要がある。今回のAV1報告は、その機器固有の実装と、Valveが現在受け付ける対象の違いを浮かび上がらせた。

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約11年の要望と、進んでいるArm開発

kisak-valveが参照したIssue #4061は、2015年10月12日に開かれ、2026年10月6日の確認時点でも対応要望として残っている。当初の投稿は、Arm機でSteamを導入した際にi386向けライブラリを見つけられないという内容だった。約11年後の今回の報告では、Arm向けクライアントで映像を受信するところまで進み、その中のAV1機能が問題になっている。二つの投稿が扱う技術的な段階は違う。

2026年には、Ubuntu側が1月にArm64向けSteam Snapのテストを呼びかけ、Valveが3月のGDC資料でSteam Frame向けのProtonとFEXを説明した。8月にはUbuntu側がネイティブクライアントへの移行条件を記し、10月にはValve側が一般のArm Linux機を現在非サポートと回答している。開発の進展と、サポート範囲の限定は並行している。

今回の短い返信には、汎用Arm版の提供日も、開発をやめるという説明もない。Arm LinuxでSteamを使う環境が製品として整ったかどうかは、通常の配布経路にクライアントが現れるかに加え、対応機器と機能が明示されるかで判断する必要がある。そこまで整えば、ユーザーは起動したという報告だけに頼らず、自分の機器で何を期待できるかを見極めやすくなる。