台湾の開発者aicodewithme氏が、台北の街を歩いたり、車で走ったりできる無料の3Dブラウザゲームを公開した。9月28日付のThreads投稿で「台北版GTA」と紹介したこの作品には、すでに1万ドルを超えるAIトークン費用を投じたという。多数のAIに作業を分担させながら、本人も約1か月にわたり、毎日5〜6時間を開発に費やしたと説明している。

台北の街を実際に遊べる作品へ仕上げた過程を見ると、AIへ任せられる作業が増えたとき、人間にどのような仕事が残るのかも見えてくる。

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台北の街をブラウザで遊べるゲームにする

ゲームは公開サイトから、専用アプリのインストールやアカウント登録なしで始められる。10月5日に確認した画面では、タイトルは「TAIPEI RUSH/臺北狂飆」と表示されていた。サイトには、aicodewithme氏をこのゲームの唯一のThreads公式アカウントとして案内するリンクもある。投稿時の呼び名と現在のタイトルは異なるものの、同じURLで公開されている作品だ。

ゲームを開始すると、西門町の街並みを背景にした三人称視点のキャラクターが現れ、知人の阿明についていく場面から始まる。操作案内には徒歩での移動に加え、スクーターや自動車の運転も用意されている。地図を開いたり、ゲーム内のスマートフォンからミッションを受けたりする仕組みもある。建物に掲げられた中国語の看板や道路沿いの店舗が、台北らしい雰囲気を作り出している。

4Gamersが9月29日に行った独自試遊では、台北101、龍山寺、士林夜市などのランドマークに加え、当時のゲーム内表示で93のミッションが確認された。物語も台北という場所に根ざしている。主人公が台北へやって来て、祖母が暮らす古い街を都市再開発から守ろうとする筋書きだ。実在する建物を並べるだけでなく、その街で暮らす人々の事情まで物語に取り込んでいる。

ただし、台北の地理を正確に再現したシミュレーターとして捉えると実態とは異なる。4Gamersは、実在する道路名を使用している一方で、道路の配置やランドマーク同士の位置関係には現実との違いがあると指摘している。見覚えのある場所を巡る楽しさと、地理的な正確さは分けて評価する必要がある。

1万ドル超のAI費用と、人間が担った調整

「1万ドル超」という数字は、開発者が原投稿で明かしたAIトークンの利用費だ。トークンはAIが処理するテキストなどの量を数える単位で、ここでは各種AIサービスの利用に支払った費用を指している。

ただし、どのモデルをどれだけ利用したのか、具体的な請求内訳は示されていない。コード生成と画像・素材制作にそれぞれいくら使ったのかも分からない。人件費や公開後のサーバー・配信費用まで含めた総開発費とみなせる数字ではない。

制作期間については、台湾の鏡新聞が9月30日に掲載した独自インタビューでより具体的に説明されている。開発者は本業を終えた後に作業し、開発期間は約1か月、1日あたり5〜6時間を費やしたという。道路情報を集める初期調査から開発まで、「200のAI」に手伝わせたとも語っている。

ただし、この「200」が200種類の異なるAIモデルを指すのか、複数のAIエージェントやセッションを含む実行単位の数なのかは明らかにされていない。200人の開発者に相当すると解釈することも、200体が同時に動いていたと判断することもできない。

一方、本人は複数のAIが出した結果の間に衝突が起きた際、その調整が難しかったとも述べている。具体的にどのような衝突が起きたのかまでは明かされていないが、AIに分担させた作業をまとめ、最終的に整合性を取る役割を人間が担っていたことは読み取れる。

AIによる制作を「指示を出せば自動的にゲームが完成する」と捉えると、この作業量を見落とすことになる。今回の開発者自身の説明には、大量の作業をAIへ任せたことと、人間が継続して多くの時間を投入したことの両方が含まれている。

どの部分をAIが生成し、どこを人間が修正したのかを詳細に記録した資料は公開されていないため、従来のゲーム制作と比べて何倍効率化できたのかを算出することはできない。

それでも、ミッションや移動手段を備えたゲームが無料公開され、誰でも実際にプレイできるところまで完成しているのは具体的な成果だ。制作途中の映像やデモを見せるだけでなく、利用者自身が触れて評価できる段階まで到達している。

AI活用の効果を考える際には、「安く作れた」と先に結論づけるより、完成した作品の規模と、そこに投入された人間の作業量を合わせて見る方が実態に近い。

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ブラウザですぐ遊べても、端末側の処理は必要

開発者は原投稿で、より高い画質で遊ぶためにPCを利用することを勧めている。ブラウザからすぐに開始できることと、どの端末でも軽快に動作することは別だからだ。

4Gamersの試遊では、画面の一部が黒く表示される現象や、高画質設定にした際の場面読み込みの待ち時間、音声の異常なども報告された。これは9月29日時点での体験であり、現在も同じ問題が残っているとは限らない。

一般的なブラウザ3Dゲームの仕組みを考えると、この違いは理解しやすい。MDNのWebGL解説によると、WebGLは追加のプラグインを使わず、ブラウザ上で3Dグラフィックスなどを描画するための技術で、利用者の端末が備えるGPUなどの処理能力を利用する。

そのため、専用アプリをインストールする手間は省けても、建物や人物、車両などを描画する計算まで不要になるわけではない。街をどれだけ滑らかに表示できるかは、利用する端末の性能にも左右される。

配信側にも別の処理が必要になる。ゲームの公開URLにはVercelのドメインが使われている。Vercelの公式説明によると、デプロイしたコンテンツを利用者に近い場所から配信するCDNが標準で利用できる。ゲーム本体のプログラムや画像など、共通するデータを多数の利用者へ届ける用途では、こうした既存の配信基盤を活用できる。個人開発者が配信ネットワークを一から構築する必要はない。

ただし、静的な素材を多数の利用者へ配信することと、複数のプレイヤーの位置や行動をリアルタイムで同期することは別の問題だ。後者では、刻々と変化するゲーム内の状態をサーバー側で管理し、複数の端末へ継続的に共有する必要がある。

Vercel上で公開されているという事実だけでは、このゲームがどのようにマルチプレイを実装しているのか、あるいは何人まで同時接続できるのかは分からない。

実際、公開告知に寄せられた「他のプレイヤーが見えない」という反応に対し、開発者は9月28日の返信で、その機能は開発中だと答えている。また、利用者が多く、サーバーが過負荷になっているとも説明した。

これは当時の状況についての説明であり、現在の実装状況を確定するものではない。ただ、同時にゲームへアクセスできる人数と、同じ仮想空間で互いの姿を確認しながら遊べる人数は区別する必要がある。

「120万人同時プレイ」は、数字の定義を確認する必要がある

台湾のTVBSは10月2日の記事で、公開から3日で120万人が同時にオンラインでプレイしたと報じている。

ただし、記事にはアクセス解析画面や集計方法が示されていない。ある瞬間の同時接続者数なのか、一定期間の利用者数なのか、同一人物による複数回のアクセスをどのように扱ったのかも確認できない。非常に大きな数字ではあるが、測定条件が公開されている一般的なゲームの同時接続記録と、そのまま比較することはできない。

公開日についても資料間で食い違いがある。開発者は9月28日の投稿ですでに無料公開を告知している一方、TVBSの記事では10月1日公開とされている。

資料 日付・記述 比較して分かること
開発者による無料公開の告知 2026年9月28日、日本・台湾時間。「今すぐ無料で遊べる」と説明 少なくともこの時点で開発者本人が無料公開を告知していた
TVBSの独自取材記事 2026年10月2日掲載。「10月1日公開」「3日目に120万人同時オンライン」と記述 9月28日の告知と公開日の説明が一致せず、120万人の測定条件も示されていない

原投稿の日時は9月27日17時21分UTCで、日本時間では9月28日2時21分、台湾時間では同日1時21分となる。時差を考慮しても、10月1日より前に無料公開を知らせていたことに変わりはない。

ただし、Threadsへ投稿した時刻がゲームを最初に公開した瞬間と一致するとは限らず、TVBSが「10月1日公開」とした根拠も明らかではない。

この食い違いだけを理由に、「120万人」という数字が誤りだと断定することはできない。一方で、累計利用者数やSNS投稿の閲覧数を指していると読み替える根拠もない。現時点では、TVBSが報じたものの、測定方法や定義を確認できない利用統計として扱うのが妥当だ。

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地図を広げた先では、繰り返し遊びたくなるかが問われる

開発者は鏡新聞のインタビューで、このゲームを通じて台湾を知ってもらい、台湾で暮らす人にも、離れて暮らす人にも、家族と過ごした時間を思い出してほしいと語っている。なぜ台北という街を題材に選んだのかは、この言葉から読み取れる。

単に大作ゲームのような広大なマップを目指すだけでなく、知っている通りや地域での暮らしの記憶をゲームとして表現しようとしている。

原投稿では、現在もマップを拡張しているとし、利用者に追加してほしい内容をコメントで寄せるよう呼びかけていた。無料で、リンクを開くだけでプレイできる形式であれば、興味を持った人は複雑な導入作業をせずに台北を模した世界を体験できる。題材を選んだ開発者の意図と、試しやすい公開方法が組み合わさっている。

この作品の魅力は、AIをどれだけ大量に使ったかという数字だけでは説明できない。

今後は、マップを拡張するたびにミッション同士をどうつなげるか、徒歩や車両での移動を異なる端末でも安定して動かせるかといった課題が増えていく。利用者から寄せられる不具合の報告に対応し、継続的な配信に必要な費用を負担することも、ゲーム開発の一部である。

AIを活用して短期間で公開まで進められた作品が、一度試されるだけでなく、繰り返し遊びたくなるゲームとして成長できるか。今後はマップの広さだけでなく、遊びやすさやコンテンツの完成度を継続して高められるかが問われる。