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AI旋風が塗り替える半導体勢力図:NVIDIA独走の影で苦境も鮮明に – Omdia2024年総括分析

Y Kobayashi

2025年5月19日10:36AM

2024年の半導体市場は、AI(人工知能)関連チップの爆発的な需要に牽引され、過去最高の6830億ドル規模へと約25%の急成長を遂げた。市場調査会社Omdiaの最新レポートが明らかにしたこの事実は、テクノロジー業界におけるAIの圧倒的な影響力を改めて浮き彫りにしている。しかし、その華々しい成長の裏では、特定分野での苦戦も目立ち、市場の二極化が鮮明になっている。

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記録更新の半導体市場、AIとメモリが牽引役に

Omdiaの報告によると、2024年の半導体市場は前年比約25%増という驚異的な成長を記録し、市場規模は6830億ドルに達した。 この力強い成長の最大の原動力となったのは、言うまでもなくAI関連チップ、特にAI GPUに不可欠なHBM(High Bandwidth Memory)の需要急増だ。 これにより、メモリ市場全体も前年比74%増という大幅な回復を見せ、2023年の困難な状況から一転して市場全体の押し上げに貢献した。

データ処理セグメントがAI需要の恩恵を最大限に享受し、市場を力強く牽引したことは間違いない。 HBMは他のDRAMセグメントを凌駕する成長率を記録し、需給バランスの改善も手伝って、メモリ市場全体の平均販売価格(ASP)上昇と収益増につながったという。 この活況は、AI技術の進化がいかに半導体産業の構造をダイナミックに変化させているかを如実に物語っていると言えるだろう。

NVIDIA、AI時代の絶対王者へ – 半導体企業ランキングも激変

2024年の半導体市場で最も輝かしい成功を収めたのは、やはりNVIDIAだ。同社はAI GPUにおける圧倒的なシェアを背景に売上を急拡大させ、Omdiaの収益ベース企業ランキングでついにトップの座を獲得した。 これまで首位を維持してきたSamsungを追い抜いたことは、半導体業界における勢力図の変化を象徴する出来事と言えるのではないだろうか。

NVIDIAの躍進は、AI技術の社会実装が加速する中で、同社のGPUがいかに重要な役割を担っているかを示している。高性能なAIモデルの学習や推論に不可欠なコンピューティングパワーを提供するNVIDIAの製品群は、今やAIインフラの中核を成す存在だ。

このAIとメモリ市場の活況は、企業ランキングにも大きな変動をもたらした。Samsung、SK Hynix、Micronといった主要メモリメーカーは軒並み順位を上げ、トップ7以内にランクイン。 各社とも2023年のランキングから少なくとも1つ順位を上げており、前年にはトップ11内に分散していた状況から大きく様変わりした。 これは、HBMをはじめとする高性能メモリの戦略的重要性が一層高まっていることを示唆している。

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光と影:自動車・産業セグメントの不振が市場の二極化を露呈

しかし、市場全体がAIの恩恵に沸く一方で、全てのセグメントが順風満帆だったわけではない。Omdiaのレポートは、自動車、コンシューマー、そして産業用半導体といった主要セグメントが2024年に収益減に見舞われたことを指摘しており、市場の二極化が進行している実態を明らかにしている。

産業用半導体:二重苦に喘ぐ厳しい現実

特に深刻なのは産業用半導体セグメントで、2023年から始まった低迷は2024年に入りさらに深刻化し、2年連続のマイナス成長、しかも2024年は二桁減という厳しい結果となった。 Omdiaのアナリスト、Cliff Leimbach氏は、「歴史的に、産業用半導体市場は年間約6%の成長を遂げてきましたが、2021年と2022年に平均を上回る成長を記録した後、2024年には市場収益が二桁の減少を見ました」と述べている。 需要の低迷と在庫調整が重なったことが、このセグメントに大きな打撃を与えたようだ。 この結果、産業用セグメントに大きなプレゼンスを持つ企業は、市場シェアランキングを落とすことになった。

自動車半導体:急成長から一転、失速へ

自動車半導体市場もまた、2024年には収益減を経験した。 2020年から2023年にかけて市場規模がほぼ倍増し、歴史的な平均年間成長率10%を大きく上回る急成長を遂げていたこのセグメントだったが、その勢いは突如として失われた。 需要の弱まりが2024年の市場縮小につながり、近年の安定した上昇軌道にブレーキがかかった形だ。 EV化やADAS(先進運転支援システム)の進化に伴い、半導体搭載量の増加が期待されていた自動車分野でのこの変調は、今後の市場動向を占う上で注意深く見守る必要がありそうだ。

この特定セグメントの不振は、アナログ・パワー半導体などを主力とする企業に影響を与えている。例えば、Infineon TechnologiesやSTMicroelectronicsといった企業は、Omdiaの2024年収益ランキングでトップ10から転落している。 これらの企業は自動車や産業市場へのエクスポージャーが大きく、セグメントの縮小が直接的に響いた格好だ。

AIが描き出す新たな市場秩序と、企業に求められる適応力

Omdiaの最新調査が明らかにした2024年の半導体市場は、AIという巨大な波が既存の秩序を塗り替え、新たな勢力図を形成しつつあることを明確に示している。NVIDIAの圧倒的なリーダーシップとメモリ企業の復活は、AI技術の進化と普及がいかに大きなビジネスチャンスを生み出しているかを物語る。

一方で、自動車や産業用といった分野での苦戦は、市場の成長が一様ではなく、構造的な課題や需要の変動要因が複雑に絡み合っていることを示唆している。これは、企業にとって、特定の技術や市場への依存リスクを再評価し、より多角的で強靭な事業ポートフォリオを構築する必要性を突きつけていると言えるかもしれない。

AI時代における半導体業界は、かつてないほどのダイナミズムに満ちている。この変化の激しい市場で持続的な成長を遂げるためには、技術革新への飽くなき挑戦はもちろんのこと、市場の多面的な動向を的確に捉え、迅速かつ柔軟に適応していく戦略的洞察力が、これまで以上に企業に求められることになるだろう。


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