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中国が世界初の宇宙AIクラウド構築へ:2800基の衛星打ち上げ計画の全貌

Y Kobayashi

2025年5月19日11:13AM

中国が宇宙空間にAI処理能力を持つクラウドコンピューティング基盤を構築するという、壮大な計画を始動させた。国営メディアや関連企業の発表によると、中国の宇宙ベンチャー企業「Ada Space(国星宇航)」が、2025年5月14日、AI技術を搭載した12基の衛星群「太空計算星座021任務」の打ち上げに成功したとのことだ。これは、最終的に2,800基もの衛星で構成される軌道上AIコンピューティングネットワーク「太空計算星座(Space Computing Constellation)」構築に向けた最初の重要な一歩となる。この「宇宙のAIクラウド」は、一体何を目指し、私たちの未来にどのような影響を与えるのだろうか?

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「太空計算星座」計画の衝撃:宇宙に浮かぶAI頭脳群

今回の打ち上げは、国星宇航が主導する「星算(Xingsuan)」計画、そして著名な研究機関である之江実験室(Zhejiang Lab)が推進する「三体計算星座(Three-Body Computing Constellation)」構想の幕開けとなるものだ。現地時間2025年5月14日12時12分、酒泉衛星発射センターから長征二号丁運載ロケットによって打ち上げられた12基の衛星群は、無事所定の軌道に投入された。

この初期コンステレーションは、「021任務」と名付けられた。これは「0から1へ」を意味し、世界初の宇宙コンピューティングコンステレーションの実現という「ゼロからの突破」を象徴しているという。 国星宇航のソーシャルメディアによれば、最終目標は2,800基の衛星による一大ネットワークの完成であり、これは宇宙空間におけるAI処理能力のパラダイムシフトを予感させる。

この計画の核心は、地上ではなく宇宙空間でAIによるデータ処理を完結させる「軌道上エッジコンピューティング」という概念だ。これにより、データ伝送の遅延を大幅に削減し、リアルタイムに近い情報処理・活用が可能になると期待されている。

衛星の驚異的スペック:単体でも強力、連携で超巨大AIへ

打ち上げられた各衛星は、驚くべき性能を秘めている。

「天数天算」を実現する圧倒的な計算能力

各衛星は、単体で744TOPS(Tera Operations Per Second)という高い演算能力を持つAIプロセッサを搭載している。 TOPSは、AIの処理能力を示す指標の一つで、1秒間に1兆回の演算が可能であることを意味する。単純計算でも、初期の12基で約8.9POPS(Peta Operations Per Second)、最終的に2,800基が揃えば2 ExaOPSを超えるという、地上設置型のスーパーコンピュータにも匹敵しうる巨大な計算リソースが宇宙に展開されることになる。

この軌道上での計算能力は、「天数天算」(宇宙のデータを宇宙で計算する)というコンセプトを実現するための鍵となる。従来、衛星が取得した膨大なデータは一度地上に送信され、そこで処理・分析が行われていた。しかし、この方式では通信帯域の制約や伝送遅延がボトルネックとなっていた。国星宇航の衛星群は、AIペイロードと之江実験室が開発した衛星搭載インテリジェントコンピュータ、そして天体ベースモデルを搭載することで、データが発生したその場で高度な分析・処理を行うことが可能になる。

星間レーザー通信が拓く100Gbpsの高速ネットワーク

さらに、これらの衛星は互いに100Gbpsという超高速のレーザーリンクで通信し、安定したネットワークを形成する。 これにより、個々の衛星が収集・処理した情報を瞬時に共有し、連携してより複雑なタスクを実行できるようになる。まさに、宇宙に浮かぶ分散型AIクラウドと言えるだろう。この星間通信技術は、コンステレーション全体の能力を飛躍的に高める上で不可欠な要素だ。

また、各衛星には80億パラメータを持つ天体ベースのAIモデルが搭載されており、まずは天文科学観測などの軌道上タスクを実行する予定だ。 この大規模AIモデルが、宇宙という過酷な環境でどのように運用され、学習・更新されていくのか、技術的な注目点と言える。

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具体的な応用分野と期待される効果:宇宙AIは何をもたらすのか?

この「太空計算星座」は、具体的にどのような分野での活用が期待されているのだろうか。

天文観測から地球規模の課題解決まで

まず挙げられるのが、天文科学分野での応用だ。実際に、今回の衛星には広西大学と中国科学院国家天文台が開発した宇宙X線偏光検出器が搭載されている。 これにより、ガンマ線バーストといった突発的な宇宙現象をAIが軌道上でリアルタイムに検知・識別・分類し、他の衛星と連携して追跡観測を行うといった、従来の観測手法を覆すような迅速かつ高精度な宇宙科学研究が可能になる。 関係者によれば、秒単位での判断と99%の識別精度を目指すという。

地球観測分野においても、その能力は遺憾なく発揮されるだろう。衛星が搭載する地球観測ペイロードとAI処理能力を組み合わせることで、災害状況の即時把握、環境監視、資源探査、農業支援、都市計画など、多岐にわたる分野で、より詳細かつリアルタイムな情報提供が期待できる。 国星宇航は、衛星三次元デジタルツインデータの提供も視野に入れており、これは内江高新区における衛星インテリジェントデータ産業の基盤となる計画だ。

さらに、緊急サービス支援や、地上でのドローンユーザーへの情報提供といった用途も挙げられており、宇宙インフラがより身近な生活や経済活動を支える未来を示唆している。

中国の国家戦略と専門家の視点:「AIを宇宙へ」という強い意志

この野心的な計画の背後には、中国の宇宙開発およびAI技術における国家戦略が見え隠れする。之江実験室のようなトップレベルの研究機関の関与は、このプロジェクトが一企業の取り組みに留まらず、国家的な重要性を持つことを物語っている。

中国工程院院士であり、之江実験室の主任でもある王堅氏は、「AIは計算能力の欠如のために宇宙に不在であってはならない。太空計算星座の構築は、単一の衛星がより大きな価値を発揮できるようにするものであり、これは航空宇宙産業の変革に深遠な意義を持つ」と述べている。 彼の言葉は、AI技術を宇宙空間という新たなフロンティアに展開することの戦略的重要性を明確に示している。

また、中国科学院院士で中国科学院大学杭州高等研究院院長の王建宇氏は、「衛星の地球観測解像度が高まるにつれてデータ量は増大している。データを全て地上に送ってから処理するのでは、伝送量もさることながら、データ活用の即時性が損なわれる。宇宙でAI技術を用いてデータを処理し終えてから地上に送ることで、産業発展を後押しするだろう」と、軌道上処理のメリットを強調している。

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「星算」計画の今後の展望と国際的な影響:宇宙AI開発競争の号砲か

国星宇航は、今回の「021任務」の成功を受け、「星算」計画の02グループ衛星の設計・開発に既に着手しており、さらなる高性能衛星の開発を進めているという。

この動きは、宇宙空間におけるAI利用という新たな競争領域の幕開けを告げるものかもしれない。他国も同様の構想を水面下で進めている可能性は否定できず、宇宙インフラにおけるAI処理能力の優劣が、今後の国際的なパワーバランスにも影響を与える可能性を秘めている。


Sources

  • aaa

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