Valveの旧コンテンツ配信基盤「Steam2」に由来するとされる約12TBのアーカイブが、2026年8月29日からゲーム保存コミュニティで調査されている。発端となった投稿は2003~2013年のデータだと説明し、『Portal 2』や『Left 4 Dead』の初期版、『Counter-Strike: Global Offensive』の試作、未発売企画「F-Stop」の素材を挙げた。注目を集めたのは『Half-Life 2: Episode 3』との関連が疑われるWeaponizerの3Dモデルだ。しかし、公開情報から確認できるのは単一資産のつながりまでであり、Episode 3の完全な実行可能ビルドは公開確認されていない。

今回のアーカイブを読むには、三つを分ける必要がある。Steamがゲームを届けるために使った「デポ」、開発途中で別企画へ転用された「資産」、そして起動して遊べる「ビルド」である。この区別を外すと、1万件を超える配信単位が1万本の未発売ゲームに化け、武器モデル一つが幻の続編へ膨らんでしまう。

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1万876デポが物語る、12TBの中身

公開された「Steam2 Depot Manager」の目録は、1万876件のデポIDに名称を対応させている。デポとは、Steamがゲームやアプリのファイルを配る単位だ。作品本体に加えて、言語別データ、OS別の実行ファイル、専用サーバー、複数作品が共用する素材にも別のIDが付く。したがって、1万876という数字は作品数でも、未公開ビルド数でもない。

目録を見ると、この違いはすぐ分かる。『Portal 2』には621~628番など複数のデポが並び、629番はオーサリングツールに割り当てられている。『Half-Life 2』や『Left 4 Dead』にも本体と共有データがあり、言語版やサーバー用の項目が分かれている。さらにValve作品の外へ広がり、当時Steamで配信された多数の第三者作品も含む。約12TBを「Valveの未公開ゲームだけが入った倉庫」とみなすのは正確ではない。

容量と取得経路にも留保が要る。Valve関連情報を追うGabe Followerは、アーカイブが公開アクセス可能なエンドポイントから得られ、不正侵入はなかったと説明した。一方、Valveは8月31日時点で真正性、総容量、公開状態について声明を出していない。12TB13TBの表記も混在するため、現段階で確定しているのは「12TB規模と報告された」という事実である。

社内リポジトリより、配信された時点の地層

Steam2 Depot Managerは、利用者が用意した.blob.dat形式のアーカイブを、展開せずにマウントする。親子関係を示すCRC、対応するDATのサイズ、復号に必要なキーを照合し、欠損や重複があれば準備完了と判定しない。GitHubで公開されているのは、この閲覧ツールと目録である。ゲーム本体は収録も配布もしていない。

配信用デポは、ある時点で顧客や試験担当へ届けるためにまとめたファイル群だ。ソースコード管理システムの全履歴とは役割が違う。誰が何を変更したかというコミット、社内メール、設計会議の記録が必ず入るわけではない。反対に、動く実行ファイルや、最終版では消えた音声とモデルが残りやすい。開発者の意図を文章で追う資料というより、当時のビルドを凍結した断面に近い。

Valveの現行文書によると、後継のSteamPipeはファイルをおおむね1MBのチャンクへ分け、圧縮・暗号化してHTTP経由で配信する。デポの版ごとに64ビットのmanifest IDを生成し、更新時には変更部分を送る。非アクティブ版は利用者から見えないという。旧Steam2由来のデータが2013年前後で途切れるとの説明は世代交代と整合するが、現在の暗号化仕様から旧エンドポイントの状態までは証明できない。

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『Portal 2』とF-Stopに残った別の未来

『Portal 2』は、今回の資料がゲーム史へ変わり得る理由をよく示している。2012年のGame Developers ConferenceでValveの開発者が語った内容によれば、初期案はAperture Scienceの研究施設以外、前作との共通点がほとんどなかった。チームはポータルガンを外し、「F-Stop」と呼ぶ新しい仕組みを中心に続編を組み立てようとしていた。

コミュニティが起動したとする2009年前後の素材には、完成版と異なるGLaDOSの演出や音声、仮置きされた他作品のモデルが見える。F-Stop系の資産も、完成した『Portal 2』とは別方向へ進んだ時期を映す。発売版と開発者インタビューだけでは、どの案がどこまで動き、どの部品が後の企画へ回ったかを細かく確かめにくい。動作する断面が加われば、採用されたアイデアと捨てられた案を同じ条件で比較できる。

ただし、初期資産の量はゲームの完成度を表さない。モデルやテクスチャがそろっていても、マップ、進行、スクリプトがなければ一本の作品としては動かない。起動できる場面があっても、それが当時の完全なビルドか、後から複数デポを重ねて再構成したものかで意味は変わる。デポの親子関係とファイルのハッシュを伴う記録が必要になる。

Weaponizerが示すもの、示さないもの

Weaponizerを巡る公開資料は、証拠の強さを四段階に分けると混乱しにくい。

証拠の段階 公開資料から確認できること そこからは確認できないこと
配信デポの目録 1万876件のIDと、Valve・第三者作品をまたぐ収録範囲 1万876本の作品、全データの完全性
単一の開発資産 『Portal 2』のreslistでPaint Gun用の仮モデルがWeaponizerと結び付く Episode 3のマップ、脚本、キャンペーン
Valve公式の試作 2024年の公式映像にIce Gun、blob型の敵、未特定武器が登場する Episode 3が完成していたこと
完全な実行可能ビルド 現時点で公開確認できる証拠はない 発売直前だったという評価

この比較から分かるのは、モデルの再利用が開発系統を結ぶ一方、作品の完成度までは運ばないということだ。技術資料で確認できるのは、『Portal 2』のPaint GunにWeaponizerのモデルが仮置きされた可能性までである。

Valveは2024年11月15日、『Half-Life 2』の20周年ドキュメンタリーでEpisode 3の試作を自ら公開した。映像には氷の壁や足場を作るIce Gun、分裂・合体するblob型の敵、能力が判別できない別の武器が映る。公式ページも、Episode 3で実現しなかった「アイデアと実験」が存在したと明記している。今回のWeaponizerモデルは、その既知の試作群と『Portal 2』初期開発の間にある資産転用を具体化する。幻の完成版を新たに発見した証拠ではない。

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公開資料をゲーム史へ変える条件

大容量のファイル群は、置かれているだけでは検証可能な史料にならない。最低限必要なのは、デポID、版、取得日時、親子関係、ファイルハッシュを対応させた目録だ。同じビルドを複数の研究者が再構成でき、どのファイルが当時のものかを確かめられて初めて、映像の珍しさを超えた比較が可能になる。

安全面と権利処理も避けて通れない。Steam2 Depot Manager自身、アーカイブのメタデータとビルド定義を信頼できない入力として検査する。古い実行ファイルを起動するなら、隔離した環境で扱うのが妥当だ。また、目録やハッシュを公開することと、著作権で保護されたゲーム本体を再配布することは別の行為だ。研究者が流出物の入手先を広げるほど、保存活動の正当性まで損ないかねない。

評価を動かす次の証拠は明確である。Valveが取得経路と範囲を説明すること、研究者がハッシュ付きmanifestを公開すること、そしてEpisode 3名義の実行ファイルとマップが同じ系譜で確認されることだ。そこまでそろえば今回の発見は幻の一資産から再現可能な開発史へ進む。そろわない限り、Weaponizerは『Portal 2』の地層から見つかった強い手掛かりであり、Episode 3そのものではない。