Sony Music PublishingとWarner Chappell Musicの系列会社を含む音楽出版社35社が2026年8月28日、AnthropicとCEOのDario Amodei、共同創業者Benjamin Mannを米カリフォルニア北部地区連邦地裁へ提訴した。訴状は、Claudeの開発で数万件の楽曲著作物を無断取得・複製し、歌詞を出力したと主張する。出発点は、別の作家訴訟で明らかになったLibGen約500万冊とPiLiMi約200万冊の取得だ。いったん15億ドルで和解した行為が、書籍に収録された歌詞や楽譜の権利を持つ別の原告から再び追及されている。
ただし、提出されたのは原告側の訴状であり、Anthropicの詳細な反論も裁判所の事実認定もまだない。今回の事件を読み解くには、「海賊版を入手したこと」「モデルを学習したこと」「Claudeが歌詞を出力したこと」「著作権表示を除いたこと」を分ける必要がある。4つの行為は、同じ法的評価を受けるとは限らない。
35社が争うのは音源ではなく「楽曲著作物」
今回の原告が権利を主張する対象は、レコード会社が管理する録音済みの音源ではない。米著作権局は、楽曲著作物を音楽と付随する歌詞から成る作品と定義し、歌手の演奏などを固定した音源とは別の著作物として扱っている。したがって、テキストを扱うClaudeでも、歌詞や楽譜を含む本を取得し、歌詞を再現したという主張が成り立ち得る。
48ページの訴状は、Sony系24社とWarner Chappell系11社を列挙した。被告はAnthropic、Dario Amodei、Benjamin Mannの3者である。請求は4つに分かれる。第1は3被告によるBitTorrentでの直接侵害、第2はAmodeiとMannによる寄与侵害だ。第3はAnthropicがスクレイピングから学習、出力までにしたとされる直接侵害、第4は著作権管理情報(CMI)の除去・改変を問う。
CMIには作品名、著作者名、権利者名などが入る。原告は、Anthropicがデータの前処理でこれらを「不要な定型文」として除き、出力でも歌詞を出典情報なしに再現したと主張している。だが、前処理で情報が落ちた事実に加え、侵害を助長または隠すと知っていたことも審理対象になる。名前が出力されなかったという結果だけで、第4請求が確定するわけではない。
700万冊の取得が別の権利者を呼び込んだ
今回の訴状が援用する中心事実は、2025年6月のBartz対Anthropic事件の略式判決にある。判決によると、Mannは2021年6月にLibGenから少なくとも約500万冊をBitTorrentで取得した。2022年7月には、Anthropicの従業員がPiLiMiから少なくとも約200万冊を追加取得した。BitTorrentは受信中のファイル断片を他者へ送るため、出版社側は複製と頒布の両方を侵害したと訴えている。
Bartz判決はAnthropicの行為を二つに分けた。Claudeと先行モデルを学習するために作ったコピーは変容性が高く、同事件の書籍についてフェアユースと判断した。正規購入した紙の本を1冊ずつ裁断・スキャンし、紙を廃棄してデジタル版へ置き換えた行為も、保存と検索のための形式変換として認めた。一方、海賊版サイトから取得した700万冊超を、将来の用途にも使える恒久的な中央ライブラリへ保管する行為はフェアユースで正当化されなかった。
この海賊版取得を巡る集団訴訟では、2026年7月20日に15億ドルの和解が最終承認された。裁判所の命令は対象を482,460作品とし、支払いを1作品あたり推定約3000ドルと記録する。しかし、これは書籍の権利を巡る和解であり、今回の楽曲著作物について責任を認定した判決ではない。同じ本に小説本文と歌詞、楽譜が収録されていれば、1冊の取得が別々の権利者による請求を生む。今回の35社は、そこへ入ってきた。
Bartzのフェアユース判断が届く範囲
二つの事件を行為ごとに並べると、Anthropicが「学習はフェアユース」と反論しても、それだけで訴状全体への答えにならない理由が見える。
| 行為の層 | Sony・Warner系出版社の主張 | Bartz事件で判断された範囲 |
|---|---|---|
| LibGen・PiLiMiの取得 | 楽曲を含む本をトレントで複製・頒布した | 海賊版の恒久ライブラリはフェアユースで正当化されない |
| モデル学習 | 数万件の楽曲著作物を学習工程で複製した | 同事件の書籍を使う学習用コピーはフェアユース |
| Claudeの出力 | 歌詞の逐語・近似コピーや派生物を生成した | Bartz原告は侵害出力を主張していなかった |
| CMIの除去 | 作品名や著作者名を前処理と出力で除去・改変した | Bartzのフェアユース判断はこの請求に結論を出していない |
この比較から確定するのは、取得と学習を同じ箱へ入れられないことまでだ。今回の原告はさらに出力とCMIを加えた。訴状は、過去の音楽出版社訴訟後に導入されたガードレールも、特定の歌詞を再度求めるプロンプトで回避できると主張し、別訴訟の記録を引用している。Anthropicがどのモデル、どの時点、どの入力で、どの程度の歌詞を出したのかは、これから証拠で詰めなければならない。
Bartz判決がフェアユースとしたのは同事件の学習用コピーであり、海賊版の取得、今回争われる歌詞出力、CMI除去には結論を出していない。
原告は「新しい歌詞」や特定作家の「スタイル」で書かせる出力も市場代替だと訴える。ただし、既存作品と似た雰囲気の文章が生まれたことと、特定作品の保護される表現を複製したことは別の問題である。逐語または近似出力の比較と、どの作品を学習に使ったかという記録が欠かせない。
最大15万ドルを総額請求と読めない理由
訴状が明示する救済は、1作品あたり最大15万ドル、CMI違反1件あたり最大25,000ドル、差止め、会計報告、侵害コピーの廃棄であり、総額と全面再学習は明示していない。数万件という原告の主張に上限額を掛ければ巨額になる。しかし訴状は賠償総額を記していない。各作品が登録され、原告に権利があるのか。どの行為が侵害に当たり、故意性やCMI違反を何件認定するのか。これらが分からない段階で、単純な掛け算を請求額として示すのは早い。
金銭以外の請求は具体的だ。原告は侵害を止める恒久差止めに加え、Anthropicが使った学習データ、収集・処理方法、モデルの既知の能力を報告するよう求めている。さらに、侵害コピーを裁判所の監督下で廃棄し、実施内容を宣誓報告するよう要求した。
ここにも境界がある。訴状は侵害コピーの廃棄を明記したが、Claudeのモデル自体を削除し、すべてを最初から再学習する命令までは明示していない。恒久差止めの内容は今後の審理で変わり得るものの、現時点で「全面再学習を求めた訴訟」と断定する根拠はない。
判決を左右する三つの証拠
今後の審理では三つの証拠群が効く。第一に、別添A・Bの各楽曲がどの取得経路から入り、35社のうち誰がどの権利を持つのか。第二に、Claudeが作品の保護される歌詞をどの入力条件で、どれほど再現したのか。第三に、AnthropicがCMIを除いた処理と、侵害を助長・隠蔽する認識を結び付けられるかである。
AnthropicはAxiosに「出版社側の主張には同意せず、法廷で強く争う」と回答した。詳細な答弁はまだ公表されていない。同社は取得経路と作品収録を争うのか、Bartzの学習フェアユースを広く主張するのか、ガードレールによって現在の出力を抑えていると示すのか。どの防御を選ぶかで、4請求のうち残る範囲が変わる。
700万冊という数字は強烈だが、現在の事件で直ちに35社の勝訴を意味しない。判決を決めるのは、海賊版ライブラリの中に各楽曲があったという対応表と、学習後のClaudeから保護表現が出たという再現記録、CMI除去の意図を示す社内証拠である。その三つがそろえば、書籍で終わったはずの和解は、楽曲著作権を巡る別の責任へつながる。



