ウクライナと米国は、天然資源に関する待望の協定に署名した。この協定により、戦争で荒廃した同国の鉱物資源やエネルギー資源の一部が米国に開放されることとなる。
The Conversationは、バーミンガム大学戦略元素・臨界物質センター研究員であるGavin D. J. Harper氏であるに、この協定がワシントンとキーウ双方にとって何を意味するのかについて話を聞いた。
ウクライナにはどのような鉱物資源が存在するのか?
ウクライナと米国の間で締結された協定には、対象となる57種類の鉱物資源のリストが含まれている。ウクライナには、数兆ドル規模とされるリチウムやレアアース(金属)が埋蔵されている。レアアースは、スカンジウムやイットリウムを含む17元素からなり、テクノロジーや重要な産業プロセスに用いられる。
ウクライナはまた、冶金や広く使われているリチウムイオン電池に不可欠なマンガンの生産国でもあり、リチウムイオン電池に使われるグラファイトの主要な埋蔵地でもある。さらに、セラミックス産業に不可欠なケイ酸ジルコニウムの大規模な鉱床も保有している。ただし、ウクライナのグラファイト採掘は限定的であり、リチウム鉱床も戦争の影響や新たな採掘技術・投資の必要性から手付かずのままである。
現在ロシアが占領しているウクライナの地域には、現代技術に不可欠なクリティカルミネラル(重要鉱物資源)が多く埋蔵されている。これにはリチウム、チタン、グラファイト、レアアースが含まれる。
ただし、課題も多い。多くの地質学者は、ウクライナが保有する一部のクリティカルマテリアルは、経済的な観点から見て採掘にそれほど魅力がないと主張している。鉱業界の一部では、石油やガス、採掘インフラへのアクセスといった協定の他の側面の方が、短期的にはより魅力的であると考えられている。
この協定は主に地中から採掘される資源を対象としているが、ウクライナは新車・中古車を問わず電気自動車の大規模な輸入国でもある。これらの車両の部品が寿命を迎えた際には、これらのクリティカルマテリアルを「地上」から回収・リサイクルする大きな機会が生まれる。ウクライナの鉱物資源を活用するために新たに発展する産業と連携して、これらの材料を処理する方法も考えられる。

なぜ米国はウクライナの鉱物資源に関心を持つのか?
経済的に重要でありながら供給不足のリスクがある元素や材料は「クリティカルマテリアル」と呼ばれる。これらが不足する理由はさまざまである。
時には、ある材料の供給を一国または少数の国が独占し、その立場を地政学的な影響力として利用できる場合がある。ある材料については、地中の資源へのアクセスではなく、加工・精製能力(いわゆる「中流加工」)が問題となることもある。
米国は、クリティカルマテリアルが将来の経済を支える技術の鍵であると認識し、その供給確保を目指している。これにより経済的な機会を活かすことができる。
多くのクリティカルマテリアルは、脱炭素化を支える技術の構築に不可欠である。現在、中国は世界のクリティカルマテリアル供給網の約60%、加工能力の85%を支配しているため、米国が他の供給網の構築に戦略的関心を持つのは明らかである。
ロシアのウクライナ侵攻は、すでに一部材料の供給に大きな課題をもたらしており、戦争が続く限り、ウクライナの鉱物資源を活用・開発する上で大きな障害となる。

これらの鉱物はどのような用途に使われるのか?
グラファイトとリチウムは電気自動車用バッテリーの主要材料であり、スマートフォンから電気自動車、グリッド用蓄電池まで、リチウムイオン電池産業の中核をなすため、重要なクリティカルマテリアルとされている。
ベリリウムは、その卓越した軽さ、剛性、熱伝導性から、航空宇宙、防衛、電子機器などの特殊用途で重宝されている。マンガンは鉄鋼生産に不可欠であり、鉄鋼の強度や耐摩耗性を大幅に高める。また、近年では一部のバッテリー材料としても重要性が増している。
ウランは、原子炉の燃料として最もよく知られており、医療や産業にも特殊な用途がある。
これらの資源はどのように採掘されるのか?
米国とウクライナの鉱物資源協定の実現には、ロシアによる戦争が大きな課題となる。主な懸念は、ウクライナのクリティカルミネラル鉱床と、同国東部・南部の戦闘地域が大きく重なっていることである。
ウクライナのインフラが大きく損傷していることも、新産業の発展や採掘した資源の市場への輸送にとって障害となる。
クリティカルマテリアル鉱床の開発には、鉱物資源の正確な把握が不可欠だが、一部資源についてはそのデータの正確性が不明瞭である。
ウクライナに存在する一部の鉱床タイプについては、商業化可能な抽出技術がまだ開発されていない。新しい鉱山や関連産業の開発には長い時間がかかるため、ウクライナの鉱物資源開発のタイムスケールは、政治的な政権のサイクルよりも長期にわたることになる。
協定の交渉には時間がかかり、時には対立もあった。協定は当初の提案から大きく修正され、ウクライナは最終的に改定された条件に合意した。
なお、米国は1994年のブダペスト覚書の署名国の一つであり、同覚書では「ウクライナの独立と主権、現存する国境を尊重し、ウクライナに対する威嚇や武力行使、経済的強制を控える」ことが合意されていた。ウクライナが現在置かれている困難な状況を考えると、交渉が時にこの文言と矛盾しているように感じられることもあった。