Windows 11のローカルAIをめぐっては、これまで「PCで動く」ことが強調される半面、そのモデルがどこに置かれ、どのくらいの容量を食うのか、そして不要になったとき外せるのか、といった点は見えにくかった。MicrosoftがWindows 11 Insider Experimental Preview Build 26300.8553で投入したとみられる隠しUIは、その状況を少しだけ変えている。AIモデルがOSの中だけで動く見えない部品から、設定画面で確認し、一部なら削除もできるという扱いに近づこうとしているのだ。

ただし、この変更は大々的に発表されたわけではない。2026年5月29日に公開されたBuild 26300.8553の公式リリースノートでは、Startメニューのカスタマイズや検索の部分一致、代替位置に置かれたタスクバーの操作改善などが触れられているが、AIモデルの削除機能については言及がない。見つかったのは、設定アプリ内の「AI Components」付近に用意された非公開の管理画面で、Pureinfotechが手動で有効化した環境で、Phi Silicaに「Uninstall」ボタンが表示されることを確かめたと伝えている。

注目すべきは、ボタンがあるという事実そのものではない。重要なのは、WindowsがローカルAIモデルをどこまでユーザーに見せるつもりなのかという方向性だ。Copilot+ PCでは、画像生成、画像処理、画像変換、言語処理といったAI機能が複数のローカル部品で動いている。クラウドに投げるのではなく、NPUを使ってPC内で推論するためのモデルやランタイム、ハードウェア最適化層が一体になっている。つまりAI機能が増えるということは、ストレージや更新、依存関係、無効化という、普通のアプリ削除とは別の管理問題をユーザーに突きつけるということだ。

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新しい管理ページの中身

Pureinfotechによれば、新しいAIモデル管理ページでは、インストール済みモデルの発行元、バージョン、インストール日、サイズ、総使用量が並ぶ。これまでWindowsのAIコンポーネントは、ユーザーが意識して入れたアプリというより、OSやCopilot+ PCの機能を裏で支える資産という扱いだった。モデル名やサイズ、利用状況が画面に出るだけでも、「このPCに何が入っているのか」を把握する手がかりになる。

削除ボタンが確認されたのは、今のところPhi Silicaだけだ。Phi SilicaはMicrosoftの小型言語モデルで、Copilot+ PCのNPUでの動作を前提に最適化され、要約や書き換え、短文生成といったローカル言語処理に用いられる。Microsoftのサポート文書でもPhi SilicaはWindows 11の対応Copilot+ PCに同梱されるAIコンポーネントとされ、Microsoft LearnでもWindowsインボックス体験で使われるオンデバイスLLMとして紹介されている。

Neowinが紹介したPhantomOfEarthのスクリーンショットでは、Phi Silicaが2.5GBを超えているケースが示されている。すべてのPCで同じ容量になるとは限らないが、ローカルAIモデルが単なる設定値ではなく、無視しづらいディスク消費を伴うことを示す例だ。アンインストールには再起動が求められており、モデルが普通のアプリというよりも、Windowsのサービスを構成する部品に近い性格を持っていることもうかがえる。

アプリではなく、Windows Updateで育つ部品

Microsoft Supportは、Copilot+ PCのAIコンポーネントを「Windowsの一部としてローカルAI体験を支える機械学習モデル、ランタイム、ハードウェア最適化層の集合」と説明している。Image Creation AI component、Image Processing AI component、Image Transform AI component、Phi Silica AI componentが対象で、画像生成や画像解析、オブジェクト除去、背景再構築、言語処理といった機能はそれぞれ別のAI部品に支えられている。

通常のソフトウェア削除と異なるのは、AIコンポーネントがWindows Updateを通じて独立に更新される点にある。MicrosoftはCopilot+ PCのAI機能を「Windows AI updates」として提供し、モデルや最適化、信頼性改善をコアOSの大型更新とは別トラックで進めている。AI機能の改善は速くなるが、ユーザーの側からは「いつ何が入ったのか」「容量が増えた原因は何か」「使わないモデルを外せるのか」といった疑問が増える。

Windows 11 24H2以降、Copilot+ PCは高性能PCであるだけでなく、ローカルAIを前提としたWindowsデバイスとして扱われている。Microsoft Learnの開発者向け文書でもPhi SilicaはCopilot+ PCのNPUを必要とし、Windows AI APIsを通じてアプリから利用できると説明されている。ただしAPIはLimited Access Feature扱いで、中国ではPhi Silica機能そのものが使えないとも明記されている。ローカルAIモデルは、OSの表に出る機能であると同時に、ハードウェアや地域、APIアクセス、更新経路に縛られた管理対象でもあるわけだ。

このため、AIモデルの管理ページは単なる空き容量確保の手段ではない。ユーザーがAI機能を使うかどうかを決めるよりも前に、WindowsがどのAI資産をPCに置き、どう更新し、どこまで削除を認めるかを、ユーザーに示す場になる。Copilot+ PCの価値がオンデバイスAIに重きを置くほど、その透明性はOSの信頼性そのものに直結していく。

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削除対象はPhi Silicaに限定

Pureinfotechは、AIモデル管理ページに削除オプションが追加されたと報じつつも、実際に削除できると確認できたのはPhi Silicaだけだと伝えている。gHacksも、同じBuild 26300.8553の隠し機能としてAI Componentsページを取り上げ、削除サポートは限定的だと整理している。

Microsoft Supportが挙げているImage Creation、Image Processing、Image TransformといったAIコンポーネントが、同じように削除できるようになるかは確認されていない。画像生成や画像編集系のモデルは、WindowsアプリやCopilot+ PCの体験に強く結びついている可能性がある。削除を認めた場合、関連機能をどう止めるのか、Windows Updateやアプリ起動時にモデルが再取得されないか、企業管理者がポリシーで制御できるかどうかなど、実務上の論点は少なくない。

また、この機能は依然として隠しUIであり、InsiderのExperimentalチャネルで提供されているビルドでだけ確認されたものだ。MicrosoftはExperimentalチャネルの機能について、予告なく変更、削除、置き換えられる可能性があり、Windows Insiderの外に出ずに終わることもあると説明している。「Windows 11がAIモデルを自由に削除できるようになる」とまでは、現時点では言えない。言えるのは、MicrosoftがPhi Silicaについて、モデル情報の表示と削除という管理UIを試しに用意している、ということにとどまる。

それでも、見えてきた意味は小さくない

ローカルAIの利点は、処理がPC内で完結し、データが外に出にくいことだ。MicrosoftもCopilot+ PCのAIコンポーネントについて、NPUでローカルに処理することで応答性を高め、データをデバイス内に保てると説明している。その一方で、ローカルで動かす以上、モデルをPCに置くコストは避けられない。便利な機能の裏に数GB単位のモデルや更新パッケージ、依存関係が積み上がるなら、ユーザーにそれを把握する手段が必要になってくる。

今回の隠しページは、その問題へのひとつの回答だ。サイズとバージョンを表示し、利用状況を示し、不要なら一部を外せるようにする。この流れが正式版に広がれば、WindowsのAI機能は「気づいたら増えているもの」から「必要なら管理するもの」へと性格を変えていく。特にストレージに余裕のないCopilot+ PCや、ローカルAI機能をあまり使わないユーザーにとって、2.5GB級のモデルを外せるかどうかは体感に効く。

開発者側にも影響はある。Phi SilicaはWindows AI APIsを通じてアプリから呼べるが、ユーザーがモデルを削除できるなら、アプリはモデルの存在を前提にはできない。Microsoft Learnのサンプルでも、モデルが「準備済み」「未準備」「非対応システム」のいずれかを確認する流れが示されている。今後、削除と再取得が正式なユーザー操作として残るなら、Windows向けAIアプリは「モデルがあること」を前提にするのではなく、「モデルが今使えるかどうか」を毎回確認する設計を基本にする必要がある。

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Microsoftが説明すべきは、ボタンの先にある挙動

正式版に向けてMicrosoftが詰めるべき点は、ボタンが付くか否かだけではない。どのAIコンポーネントが削除対象になるのか、削除後にその関連機能がどう見えるか、再び使ったときに自動で戻るのか、更新で再インストールされるのか、企業や教育機関がポリシーで制御できるのか。こうした点がはっきりしなければ、削除ボタンはストレージ節約の小手先に終わり、AI時代のWindows管理という本題には届かない。

Build 26300.8553で見つかった隠しUIは、まだ完成形ではない。とはいえ、Copilot+ PCのAIモデルをユーザーの視界に引き出し、Phi Silicaに対して削除という操作を提示した意味は小さくない。WindowsのAI統合が進むほど問われるのは機能の数ではなく、に入っているモデルと、その使われ方と、占有する容量と、外したときの影響を、ユーザーが把握できるかどうかだ。Microsoftがこの方向を正式機能として育てていくなら、Copilot+ PCは「AIが入ったPC」から「AIを管理できるPC」へと一段進むことになる。