MicrosoftのAdvanced Shader Delivery(ASD)は、携帯型PC向けの限定的な機能から、Windows PCのゲーム配信基盤に近い位置へ移り始めた。MicrosoftはDirectX Developer BlogのAMD向けASD発表を2026年6月11日に更新し、Xbox Insider向けプレビューを越えて、Xbox PCアプリで一般提供に広げたことを明らかにした。あわせてAMD側の対象も、RDNA 1からRDNA 4までの全RDNA世代に拡大された。
今回の意味は、対応ゲームのロード時間が短くなるという一点にとどまらない。PCゲームで長く残ってきた初回起動時のシェーダーコンパイル問題を、ゲーム本体、GPUドライバ、ストア配信の連携で処理する流れが、Xbox PCアプリ上では一般ユーザーに届く段階へ進んだ。ASDは対応ゲームに対し、事前コンパイル済みのシェーダーをダウンロード時に届け、起動時の待ち時間とプレイ中のシェーダースタッターを抑える。
象徴的な例が『Forza Horizon 6』だ。Microsoftは、ASDを使うことで同作のロードがほぼ1分半から4秒になり、全体で95%の時間短縮になったと説明している。この測定はAMD Radeon RX 7600とAMD Ryzen 7 5800 8コアCPUの組み合わせで行われた。95%という数字はすべてのゲームや環境に広げられる平均値ではないが、シェーダー待ちが体感時間の大部分を占める場面では、配信時点での事前処理がプレイ開始までの印象を大きく変え得ることを示している。
プレビュー参加が前提だったASDは、条件を満たせば使える段階に入った
ASDは2025年にROG Xbox AllyとROG Xbox Ally X向けに導入された。当初は携帯型WindowsゲーミングPCの体験改善として位置づけられ、Microsoftは『Avowed』で起動時間が最大85%短縮された例を示していた。2026年5月にはAMD GPU搭載Windows 11 PCへ対象が広がったが、その時点の案内ではXbox Insiderへの参加が必要だった。
6月11日の更新で、その入口が変わった。MicrosoftはASDがXbox Insiderを越えてXbox PCアプリで一般提供に広がったと説明している。対応ハードと対応ソフトを持つユーザーにとって、テスト参加の手続きが主な入口ではなくなり、機能そのものは対応タイトル、対応GPU、ドライバ、OS、Xbox Gaming Servicesに依存するものの、配信経路としては一般のXbox PCアプリ利用者へ向けられた。
AMD GPUの対象拡大も大きい。Microsoftの更新後の要件は、GPU欄にRDNA 1、RDNA 2、RDNA 3、RDNA 3.5、RDNA 4を並べている。これにより、Radeon RX 5000世代から最新世代までが対象として組み込まれた。最新GPUを軸にした快適化から、Windows 11とXbox PCアプリで遊ぶ既存Radeonユーザーを広く取り込む発表になった。
必要条件は明確だ。OSはWindows 11 24H2以降、Xbox Gaming Servicesは37.113.11003.0以降、ドライバはAMD Software: Adrenalin Edition 26.6.1以降が求められる。AMDの26.6.1リリースノートはRadeon RX 9000、7000、6000、5000シリーズなどへの対応を列挙しており、Microsoft側のRDNA全世代という要件と概ね一致する。ただし、AMDのリリースノートはASDを主な新機能として前面に出していないため、利用条件はMicrosoft側の案内を基準にするのがよい。
シェーダーをダウンロード時に届けることで、PC特有の組み合わせ問題を吸収する

PCゲームでシェーダーコンパイルが問題になりやすいのは、処理の重さだけが理由ではない。コンソールはGPUやドライバの組み合わせが限られるが、Windows PCはGPU世代、ドライバ、OS、ゲーム設定の組み合わせが膨大になる。ゲーム側があらゆる環境向けのシェーダーをあらかじめ用意するのは難しく、初回起動時やゲーム中にその場でコンパイルが走って長い待ち時間や一時的なカクつきが発生する。
ASDはこの問題を、ゲーム配信の工程に寄せて処理する。ゲーム開発者はState Object Database(SODB)をXbox Partner Centerにアップロードする。そこから特定のハードウェアやドライバ構成に合わせたPrecompiled Shader Database(PSDB)が配信され、ユーザーがXbox PCアプリでゲームを入手した時点で対応環境には必要なシェーダーが届く形になる。
この設計は、GPUメーカー側にもゲーム開発者側にも、それぞれ単独では完結しにくい。MicrosoftはGDC 2026の投稿で、ゲーム開発者、IHV、ゲームストアを結びつけてWindows PC上のシェーダーコンパイル問題に対処するとしていた。ASDはDirectXのランタイム機能というより、ストア、開発者提出物、ドライバ対応が組み合わさった配信インフラの変化である。
効果が現れる場面も、フレームレートを一律に引き上げる機能とは性質が違う。ASDが狙うのは、初回起動時の長いコンパイル待ちと、ゲーム中にシェーダーが必要になった瞬間のスタッターである。ゲームの描画性能そのものを引き上げる技術ではなく、プレイ開始前後に発生していた準備作業を、可能な範囲で事前配信に置き換える技術だ。
『Forza Horizon 6』の95%短縮は強い実例だが、対応タイトルと配信経路が前提になる
『Forza Horizon 6』の4秒という例はわかりやすい。ほぼ1分半の待ち時間が4秒になるなら、ユーザー体験は別物になる。Microsoftは同作について、ASDが動作している場合は起動ウィンドウに「Precompiled shaders installed」と表示されることも示している。ドライバやサービスの細部よりも、起動時に待ち時間が消えるかどうかが、最も見えやすい変化になる。
ただし、この数字の扱いには境界がある。Microsoftが示した95%短縮は『Forza Horizon 6』の特定測定であり、ASD対応ゲーム全体の平均ではない。タイトルごとにシェーダーの量、従来のコンパイル時間、保存済みキャッシュの扱い、ゲーム側の実装は異なる。ASDが効く場面では大きな短縮が起き得るが、すべてのゲームで同じ比率を期待する機能ではない。
対象タイトルも効きの境目になる。Microsoftは2025年10月のXbox Wireで、ROG Xbox Ally向けASD対応タイトルとして『Avowed』『Call of Duty: Black Ops 6』『Clair Obscur: Expedition 33』『Final Fantasy XVI』『Forza Horizon 5』『Forza Motorsport』『Microsoft Flight Simulator 2024』『Starfield』『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』『The Outer Worlds 2』『Silent Hill f』『Hogwarts Legacy』などを挙げていた。今回の発表では『Forza Horizon 6』がAMD展開の主な実例になっているが、実際の価値は対応タイトルの増加と、人気作がどれだけ早くASDに乗るかで決まる。
もう一つの条件は、配信経路だ。Microsoftの説明はXbox PCアプリを中心にしている。PCWorldやVideoCardzも、Xbox PCアプリや対応タイトルの条件を強調している。現時点で、Steam、Epic Games Store、GOGなどで購入した同じゲームに自動的に広がる仕組みとして発表されているわけではない。PCゲーム全体のシェーダー問題に対する布石ではあるが、いま使える範囲はXbox PCアプリ側の対応に縛られる。
RDNA 1まで広がったことで、最新GPU向けの実験から既存ユーザー向けの基盤整備に近づいた
AMD RDNA 1までの対象拡大は、数字以上に導入範囲の意味が大きい。RDNA 1はRadeon RX 5000シリーズ世代に相当し、すでに長く使われているPCにも入っている。RDNA 2、RDNA 3、RDNA 3.5、RDNA 4だけでなくRDNA 1を含めることで、ASDは新しいGPUを買った人だけの付加機能から、条件を満たす既存Radeon環境にも届く機能へ性質が変わった。
この方向は、Microsoft側にとっても扱いやすい。ストア側が事前コンパイル済みシェーダーを配信する仕組みは、対象ハードが狭いほど効果を説明しにくい。Radeonの複数世代をまとめて取り込めれば、ゲーム開発者にとってもASD対応の優先度を上げやすくなる。対応タイトルや成功例が積み上がれば、PCゲームの初回起動体験をストア側で改善するという考え方が現実味を持つ。
それでも、残る制約ははっきりしている。Microsoftは今後数カ月で、より多くのWindowsデバイスと他のIHVハードウェアでASDを有効化していくと述べているが、今回の更新で具体的な対象は示していない。NVIDIAやIntelのどの製品が、Xbox PCアプリのASDとしていつ使えるようになるかは、まだ発表の範囲外だ。
ユーザー側の判断軸はそこにある。Radeon RDNA環境でXbox PCアプリの対応ゲームを遊ぶなら、ASDは最初に確認すべき機能になった。Windows 11 24H2、Gaming Services、Adrenalin 26.6.1以降という条件を満たせば、初回起動の長いシェーダー待ちを短縮できる。一方で、別ストア版のゲームや非対応タイトルでは、従来通りゲーム側やドライバ側のシェーダー処理に依存する。
Microsoftの今回の更新は、PCゲームのロード時間をあらゆる環境で一律に短縮する発表ではない。Xbox PCアプリという管理された配信経路で、ゲーム、GPU、ドライバ、ストアが同じ方向を向いたとき、シェーダーコンパイルの待ち時間を実質的に短縮できることを示した発表である。RDNA全世代への拡大で、その仕組みは携帯機ベースの実験から、より広いRadeonユーザーに届く基盤整備の段階へ移った。焦点は、他社GPUや他のストアへの対応が広がり、対応タイトルの例外がどこまで減るかに移っていくだろう。