これまでにも多くの信頼性の高い情報をもたらしてきた有名リーカーから、AMDの次世代GPUアーキテクチャ「UDNA」に関する衝撃的な情報がもたらされた。それによれば、PlayStation 6とMicrosoftの次世代Xbox、両陣営の次期主力コンソールがこのUDNAを共通採用し、レイトレーシング(RT)とAI性能を現行世代から2倍に引き上げるというのだ。果たして、このことはコンソール戦争の力学にどのような影響を与えるのだろうか?そして私たちのゲーム体験はどのように変わるのだろうか?
明らかになった次世代の輪郭:ラスタ20%増、RT/AIは2倍へ
今回の情報の震源地は、過去にAMDの未発表製品やアーキテクチャに関する正確な情報を提供してきたことで知られる著名リーカー、Kepler_L2氏だ。同氏がフォーラム上で明らかにした内容は、次世代ゲーム体験の方向性を明確に指し示している。
- 共通アーキテクチャの採用: PlayStation 6と次世代Xbox(仮称:Xbox Series 2)は、共通のGPUアーキテクチャ「UDNA」(あるいはRDNA 5)を採用する。
- 性能向上の予測値:
- ラスタライゼーション性能: コンピュートユニット(CU)あたり約20%の向上。
- レイトレーシング(RT)性能: 2倍の大幅向上。
- AI性能: 2倍の大幅向上。
この数字が、次世代コンソールの性能を占う上で極めて重要な意味を持つ。特に注目すべきは、RT性能とAI性能が「2倍」という、飛躍的な伸びを示している点だ。
「性能2倍」がもたらす質的変化:パストレーシングと知的NPCが現実になる日
「レイトレーシング性能が2倍」と聞いても、多くのユーザーは「グラフィックが綺麗になる」という漠然としたイメージしか持てないかもしれない。しかし、そのインパクトは質的なゲーム体験の変化に直結する。
現在のゲームにおけるレイトレーシングは、影(シャドウ)や反射(リフレクション)など、限定的な効果に使われることが多い。しかし性能が2倍に向上すれば、光の挙動をより忠実にシミュレートする「パストレーシング」の本格的な導入が視野に入る。これは、ゲーム内のあらゆる光源からの光の反射、屈折、拡散をリアルタイムで計算する技術であり、現実と見紛うほどのフォトリアルなグラフィックを実現する。もはや「プリレンダリングされたムービーシーン」と「リアルタイムのゲームプレイ」の境界線は、事実上消滅するだろう。
同様に重要なのが、AI性能の飛躍だ。これは、AMDが次世代の「FSR Redstone」などで推進するAIベースのアップスケーリング技術やフレーム生成技術を、より高次元に進化させることを意味する。少ない描画負荷で高解像度・高フレームレートを実現するこれらの技術は、もはや次世代ゲームに不可欠な要素だ。
さらに、AI性能の向上はグラフィック以外にも革命をもたらす。例えば、ゲーム内のノンプレイヤーキャラクター(NPC)の挙動だ。現在のNPCは事前にプログラムされた行動パターンを繰り返すことが多いが、強力なAIプロセッシング能力があれば、プレイヤーの行動に応じて動的に学習・適応する、真に「生きている」キャラクターを生み出すことが可能になる。Sonyが「Project Amethyst」でAMDとAI強化ハードウェアを共同開発しているという報道も、この文脈で理解すべきだろう。
ラスタライゼーション「20%向上」の裏を読む:成熟技術からの戦略的シフト
一方で、「ラスタライゼーション性能の向上は20%に留まる」という点に物足りなさを感じる向きもあるかもしれない。しかし、これはAMDの極めてクレバーな戦略の表れだと考えられる。
ラスタライゼーションは、3Dグラフィックスの根幹をなす伝統的な描画技術だが、その性能向上は成熟期に入り、投資に対するパフォーマンスの伸び(投資対効果)は鈍化しつつある。AMDは、限られた開発リソースとトランジスタ予算を、もはや伸びしろの少ないラスタ性能に全力投球するのではなく、ゲーム体験を根底から変えるポテンシャルを秘めたレイトレーシングとAIという、新たな成長領域に戦略的に集中投下する判断を下したのだ。
また、この「20%」という数値はあくまで「コンピュートユニット(CU)あたり」の性能向上である点も見逃せない。PS5 Proが60 CU、Xbox Series Xが56 CUを搭載していることを考えれば、次世代機がCU数を増加させることはほぼ確実だ。CU数の増加とCUあたりの性能向上が掛け合わされば、ラスタライゼーションの総合性能も着実な進化を遂げることは間違いない。
UDNAの真の狙い:NVIDIA「CUDA」の牙城を崩すAMDの深謀遠慮
今回のリークで最も注目すべき、そして多くの報道が見過ごしがちな戦略的論点は、この次世代アーキテクチャが「UDNA(Unified DNA)」と呼ばれる可能性である。これは、ゲーミング向けの「RDNA」と、AI・データセンター向けの「CDNA」という、これまで別々に開発されてきた2つのアーキテクチャを「統合(Unify)」することを意味する。
この統合戦略こそ、AMDがグラフィックス市場の絶対王者NVIDIAの牙城、すなわち「CUDA」エコシステムに本気で対抗しようとする野心の現れに他ならない。
NVIDIAの強さは、GPUのハードウェア性能だけでなく、長年にわたり築き上げてきた開発プラットフォーム「CUDA」にある。世界中の研究者や開発者がCUDAを標準として利用しており、この強力なエコシステムがNVIDIAの優位性を不動のものにしてきた。
AMDはUDNAによって、ゲーム開発者からAI研究者までが利用できる統一された開発環境を構築しようとしている。そして、その戦略の要となるのが、PlayStationとXboxという巨大コンソールプラットフォームだ。両プラットフォームでUDNAが標準となれば、世界中のゲーム開発者はUDNAへの最適化を余儀なくされる。コンソールで培われた知見やコードはPCゲームにも波及し、結果としてPC向けRadeon GPUの魅力も高まる。これは、コンソール市場での優位性をテコにして、PCゲーミング、さらにはAI市場におけるエコシステムを構築するという、壮大な戦略なのである。
この動きは、かつてAMDが「Zenアーキテクチャ」でCPU市場の勢力図を劇的に塗り替えた「Zenモーメント」の再来を予感させる。
新たな競争軸へ:共通アーキテクチャが変えるコンソール戦争
PlayStation 6と次世代Xboxが共通のGPUアーキテクチャを採用するという事実は、コンソール戦争の競争軸そのものを変化させるだろう。純粋なハードウェアスペックでの殴り合いから、その性能をいかに活用するかという、ソフトウェア、独自サービス、そしてエコシステム全体の魅力の勝負へと移行が加速する。
- Sony: 独占タイトルの魅力に加え、「Project Amethyst」で培うAI技術を駆使し、どのような革新的なゲーム体験を創造できるか。
- Microsoft: 強力な「Game Pass」サービスとクラウドゲーミング技術を次世代ハードウェアとどう融合させ、シームレスなゲーム体験を提供できるか。
開発者にとっては、両プラットフォームの基本構造が似通うことで、マルチプラットフォームタイトルの開発と最適化が容易になるというメリットも大きい。これはゲーム市場全体の活性化にも繋がるだろう。
今回のリークは、単なる次世代機のスペックを垣間見せただけではない。それは、AMDの野心的な企業戦略、ゲーム体験の質的な進化、そしてコンソール業界の新たな競争の幕開けを告げる、極めて重要なシグナルと見ることが出来そうだ。
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