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AMD、RX 9060 XT 8GB版を「大多数のゲーマーに最適」と擁護:VRAM論争再燃、専門家と市場の厳しい視線

Y Kobayashi

2025年5月25日

AMDが新たに市場に投入したミドルレンジGPU「Radeon RX 9060 XT」。そのラインナップには16GBモデルと8GBモデルが存在するが、特にこの8GBモデルのVRAM(ビデオメモリ)容量を巡って、PCゲーマーや業界関係者の間で再び活発な議論が巻き起こっている。AMDの幹部は「大多数の1080p解像度でプレイするゲーマーや、eSportsタイトルが主戦場のユーザーにとっては8GBで十分」との見解を示しているが、果たしてこの主張は現代のゲーミング環境の実態に即しているのだろうか。

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AMDの主張:「大多数」にとって8GBは合理的選択

今回の議論の発端となったのは、AMDのチーフアーキテクト・オブ・ゲーミングソリューションズ兼ゲーミングマーケティング担当であるFrank Azor)氏のSNS上での発言だ。同氏は、Radeon RX 9060 XTの8GBモデルについて、「大多数のゲーマーは依然として1080pでプレイしており、8GB以上のメモリを必要としない」と述べ、特にeSportsのような比較的VRAM負荷の低いタイトルが主なターゲットであると示唆した。

この主張の裏付けとして、PCゲームプラットフォームSteamが毎月公開している「Steamハードウェア&ソフトウェア 調査」のデータが挙げられるだろう。実際に2025年5月時点のデータでは、最も使用されている画面解像度は1920×1080(フルHD、いわゆる1080p)が55.27%と過半数を占めており、次点の2560×1440(QHD、1440p)の19.90%を大きく引き離している。

また、Steamで人気の高いゲームランキング上位には、「Counter-Strike 2」や「Dota 2」、「Apex Legends」といったeSportsタイトルが常に名を連ねている。これらのタイトルは、競技性を重視し、フレームレートを安定させるためにグラフィック設定を抑えめでプレイされることが多く、一般的に最新のAAA(大作)タイトルほど大量のVRAMを要求しない傾向にある。

AMDとしては、この「大多数」のユーザー層に向けて、より安価な選択肢として8GBモデルを提供することは、製品セグメンテーション戦略上、合理的であると考えているのだろう。

市場と専門家からの懐疑論:「本当に十分なのか?」

しかし、AMDのこの「8GBで十分」論に対して、市場や多くの専門家からは懐疑的な声が上がっている。その主な論点は以下の通りだ。

1. AAAタイトルにおけるVRAM不足の現実

eSportsタイトルや比較的軽量なゲームであれば8GBで問題ないとしても、グラフィック表現が高度化し続ける最新のAAAタイトルでは、1080p解像度であっても8GBのVRAMでは既に不足し始めているという指摘が後を絶たない。

実際にNVIDIAのGeForce RTX 5060 Ti 8GBモデル(RX 9060 XTの競合と目される)のレビューでは、VRAM容量の制約により性能を発揮しきれない事例が報告されている。具体的には、平均フレームレートはそこそこでも、最低フレームレート(1% Low)が極端に落ち込み、結果として画面のカクつきが発生したり、最悪の場合ゲームがクラッシュしたりするケースだ。『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』や『Warhammer 40,000: Space Marine 2』といったタイトルで、8GB VRAMのGPUが高設定で問題を起こす例を挙げている。後者では、高解像度テクスチャの読み込みに失敗し、グラフィック品質が著しく低下する現象も確認されている。

これは、GPUコア自体の演算性能は十分にあっても、テクスチャデータやフレームバッファを一時的に格納するVRAMが不足することでボトルネックとなり、GPUが本来持つポテンシャルを活かせない、いわば「宝の持ち腐れ」状態と言えるだろう。

2. AMD自身の過去の主張との矛盾

AMDは過去に、特にRadeon RX 7000シリーズの発表時などにおいて、競合であるNVIDIA製品のVRAM容量の少なさを批判し、自社製品のVRAMの豊富さをアピールしてきた経緯がある。「VRAMは多ければ多いほど良い」というメッセージを発信してきたAMDが、ここにきてミドルレンジ製品で8GBモデルを擁護する姿勢は、一部のユーザーからはダブルスタンダードと受け取られかねない。

3. 「鶏が先か、卵が先か」問題

Tom’s Hardwareは、「ユーザーが8GBのGPUを持っているから1080pでプレイするのか、それとも1080pでプレイするから8GBのGPUで十分なのか」という、興味深い問いを投げかけている。メーカーがVRAM容量を抑えた製品を主流市場に投入し続けることで、ユーザーが知らず知らずのうちに高解像度や高画質設定への移行を諦めさせられている可能性も否定できない。

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マーケティング戦略の迷走? 「1440p対応」との食い違い

さらに問題を複雑にしているのが、AMD自身のマーケティングメッセージの不整合だ。Radeon RX 9060 XTの公式プレスリリースでは、同GPUを「最も困難なゲーミングワークロードに対応」「1440p解像度でウルトラスムーズなゲーミング体験を提供するよう設計されている」などと謳っている。

この「1440p対応」というメッセージは、Azor 氏の「1080p/eSports向け」という発言とは明らかに食い違う。どちらがRX 9060 XT(特に8GBモデル)の真のターゲットなのだろうか。こうした情報の齟齬は、消費者に混乱を与え、製品選択を誤らせる可能性がある。

また、8GBモデルと16GBモデルが同じ「Radeon RX 9060 XT」という製品名で販売されることも混乱を助長する。これは過去にNVIDIAが「RTX 4080 12GB」で批判を浴びた(後に「RTX 4070 Ti」として再発売)事例を彷彿とさせ、性能が異なる製品を同じ名称で販売することは誤解を招くだろう。

8GB VRAMの将来性は? 専門家が警鐘を鳴らすミドルレンジGPUの課題

現代のゲーミングGPUにおいて、8GBというVRAM容量は果たして将来性があるのだろうか。

まず、今後登場が噂される次世代ゲームコンソール(PlayStation 6や次期Xbox)では、20GBを超える大容量メモリを搭載するのではないかとの予測もある。PCゲームはコンソールとマルチプラットフォームで開発されることが多いため、コンソールのメモリ仕様がPCゲームの要求スペックに影響を与えることは想像に難くない。そうなれば、8GB VRAMのGPUは急速に陳腐化するリスクを抱えることになる。

NVIDIAがRTX 5060シリーズのレビュー用製品の提供において、DLSS 4のフレーム生成機能(追加のVRAMを消費する)を有効にするなど、自社に有利な条件下でのテストをメディアに求めたとされる事例も、メーカー側がVRAM容量の限界を認識していることの裏返しと見ることもできるかもしれない。

価格設定に関しても疑問の声がある。RX 9060 XT 8GBモデルの299ドルという価格が、今日の8GB GPUとして妥当なのかどうか、慎重な見方を示している。このGPUが実質的に269ドルで登場したRadeon RX 7600 8GBの後継と見なせると分析しており、価格上昇分の価値があるのかどうかが問われることになる。

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RX 9060 XT 8GBは誰のためのGPUなのか? 賢明な選択のために

AMD Radeon RX 9060 XT 8GBモデルは、Frank Azor氏が主張するように、予算を抑えたい1080p環境のeSportsプレイヤーや、比較的軽量なゲームを中心に楽しむユーザーにとっては、確かに魅力的な選択肢の一つとなり得るだろう。Steamの統計が示すように、そうしたユーザー層が「大多数」であることも事実だ。

しかし、その一方で、より多様な最新AAAタイトルを高画質設定で快適にプレイしたいと考えるユーザーや、購入したGPUを少しでも長く使いたいと考える将来性重視のユーザーにとっては、8GBというVRAM容量は既にボトルネックとなり始めており、近い将来さらにその傾向が強まる可能性が高い。特に、AMD自身がプレスリリースで「1440p対応」を謳っているのであれば、8GBモデルではそのポテンシャルを十分に発揮できない場面が増えることも予想される。

結局のところ、消費者は自身のプレイスタイル、プレイしたいゲーム、予算、そして将来どれくらいの期間そのGPUを使用したいのかを総合的に考慮し、VRAM容量を選択する必要がある。今回のAMDの主張は、GPUメーカーの製品戦略と、進化し続けるゲーム市場の現実との間に横たわる複雑な問題を改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。

筆者は、VRAM容量は単なるスペックシート上の一項目ではなく、GPUの性能を最大限に引き出し、ユーザーに快適なゲーミング体験を提供するための極めて重要な要素であると考える。メーカーには、短期的なコスト削減や市場セグメンテーションの都合だけでなく、長期的な視点に立ち、透明性の高い情報開示とともに、消費者の真の期待に応える製品開発を続けてほしいと願うばかりだ。今後の市場の反応と、実際のゲームにおけるRX 9060 XT 8GBモデルのパフォーマンス検証が待たれる。


Sources

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