Anthropicが10月26日に公開したS-1(米国での新規株式公開に向けた米証券取引委員会(SEC)への登録届出書)によると、2026年4〜6月期は9億7,400万ドルの営業黒字(営業利益率8%)だった。この黒字は、契約済みの計算資源のうち大型の追加分がまだ費用になっていない時点の数字だとみる。S-1自身が、大きな計算資源が稼働する期には営業利益率が圧縮されうると書いている。NVIDIA製GPUの計算資源を提供するSpaceXAIとの契約は、契約上、全面稼働後に月約31億ドル、四半期に直して約93億ドルとなり、4〜6月期の計算・インフラ費用全体の約1.7倍に当たる。判断材料は、S-1が相手先ごとに記した7件の契約の金額、期間、解約条件にある。

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売上115億ドル超の4〜6月期、S-1掲載の6四半期で唯一の営業黒字

S-1の四半期損益表では、売上は2025年1〜3月期の3億7,600万ドルから2026年4〜6月期の115億5,500万ドルまで増えた。4〜6月期は前年同期(7億8,700万ドル)比で1,368%増になる。同期のGAAP(米国会計基準)営業利益は9億7,400万ドルで、S-1が四半期の数字を示す6四半期のうち、営業黒字はこの期だけだ。調整後営業利益は22億3,500万ドル(利益率19%)で、GAAPとの差12億6,100万ドルは株式報酬費用である。

上半期の純損失は807億4,800万ドルに達したが、うち723億8,800万ドルは転換社債などの公正価値の変動で、企業価値の上昇に伴う評価損が主因だ。現金の支出は伴わない。

7〜9月期の売上、10月31日時点の年換算売上(Run-Rate Revenue)、契約の総額は、金額欄を空けたまま提出された。SECのRegulation S-X Rule 3-12は、早期提出会社に当たらない登録者について、財務諸表の日付が効力発生予定日の135日以上前なら、新しい中間財務諸表への更新を求める。6月30日の135日後は11月12日(編集部の計算)で、効力発生がそれ以降になれば9月30日時点の財務諸表を加える必要がある。

日本の読者向けに換算すると、4〜6月期の売上は約1兆8,190億円、営業利益は約1,530億円になる(1ドル=157.45円、ECB参照レート、2026年10月26日)。公募は米国のほか日本でも行うが、日本の取引所には上場しない。引受団にはみずほとMUFGが入っている。

未開始リース3,214億ドルが示す、計算資源が費用になる時期

S-1は自社の財務モデルを次のように説明する。計算資源は前もって調達して契約し、稼働して社内で共用する計算資源の基盤に加わった時点で費用になる。費用はしばしば階段状に大きく増える。長期契約の計算資源の大半は、利用開始の12〜18か月前に調達するという。

投資を約束してから収益が十分に上がるまでに時間差があるため、同社は大きな計算資源が稼働する期について「営業利益率と調整後営業利益率は圧縮されうる」と見込む(原文:"operating margin and Adjusted Operating Margin may compress")。需要が長期契約分を超えれば単価の高い短期の計算資源で補い、その利用が増えることで近い将来の利益率も圧縮されると見込んでいる。

この時間差の大きさは、財務諸表の注記に出ている。まだ開始していないリース(割引前の将来リース債務の見積もり)は、2025年12月末の約502億ドルから2026年6月末には約3,214億ドルへ膨らんだ。開始は2026〜2028年で、期間は1年未満から20年まであり、一部は契約条件が満たされることを前提にしている。4〜6月期の計算・インフラ費用は前年同期の13億9,000万ドルから55億5,800万ドルへ300%増えた。増加はすでに損益に出ているが、未開始のリースはまだこの費用に入っていない。

粗利率を見ても、この負担はつかみにくい。上半期の売上原価は23億8,000万ドルで、売上162億8,600万ドルに対する粗利率は約85.4%になる(編集部の計算)。ところが売上原価の大半は顧客向けの処理にかかる計算・インフラ費用で、一部に人件費や間接費の配賦を含む。この23億8,000万ドルは、上半期の計算・インフラ費用全体89億4,500万ドルの約26.6%(同)にとどまる。計算・インフラ費用の残りは主に学習や研究に使う分として研究開発費に、無料提供分は販売・マーケティング費に計上される。

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相手先別7件の計算資源契約、SpaceXAI分は稼働後に四半期約93億ドル

S-1は契約総額の欄を空けたまま、計算資源の契約を相手先ごとに個別に記載している。金額が示された7件は次のとおりだ。

相手先 金額 期間 主な条件
Microsoft 449億ドル以上 2026年11月〜2033年5月 使用量によらず支払い、原則解約不能
Google 約1,145億ドル以上 2026年4月〜2033年7月 未達分は差額を支払う、原則解約不能
Amazon 1,100億ドル以上 2026年5月〜2036年4月 未達分は差額を支払う、原則解約不能
SpaceXAI 最大1,205億ドル 2029年まで 初期期間後は90日前通知で解約可
Nscale 最大約446億ドル 2033年まで 引き渡し分のみ課金、原則解約不能
Lambda 約413億ドル 2034年まで 引き渡し分のみ課金、原則解約不能
Broadcom(機器リース) 約1,612億ドル(利息除く) 5年 解約不能

表の金額は同じ種類の数字ではない。Microsoft、Google、Amazonは使用量にかかわらず払う最低保証額で、SpaceXAIとNscaleは上限額、Broadcomは機器のリース料である。SpaceXAI以外の6件は、相手方の重大な違反など限られた場合を除いて解約できない。S-1が相手先ごとに金額を示した7件の計算資源契約は合計6,370億ドルで、金額が未確定のGoogleなどからの追加TPU調達(1,250億〜1,500億ドル)とAMD(200億ドル超)の見積もりを足すと約7,820億〜8,070億ドルになる。AMD分は「200億ドル超」なので、上端も上限ではない。

この合計はS-1が示した総額ではない。前述の未開始リースなど注記の残高とは集計の範囲が違い、一部が重なる。円にすると6,370億ドルは約100兆円に当たる。

費用になる時期と金額がもっとも具体的に書かれているのが、SpaceXAIとの契約だ。全面稼働は2026年12月の見込みで、それまでの立ち上げ期は別の料金が適用される。SpaceXAIとの契約は全面稼働後に月約31億ドルで、四半期に直すと約93億ドルになり、2026年4〜6月期の計算・インフラ費用全体(55億5,800万ドル)の約1.7倍に当たる。前者は契約上の月額からの換算で、後者は全調達先を合わせた損益計算書の実績だ。4〜6月期の費用に立ち上げ期のSpaceXAI分が一部含まれている可能性もあり、会計上の費用計上は支払額と一致しない場合がある。

こうした留保を踏まえても、調達先1社の契約が、四半期に直すと4〜6月期の計算・インフラ費用全体を上回る水準になる点は変わらない。

表の7件のうち、GoogleとAmazonの契約期間はすでに2026年4月と5月に始まり、Broadcomのリースも一部が2026年に稼働しているため、これらは4〜6月期の費用にすでに一部入っているとみられる。一方、Microsoftの契約は11月に始まり、SpaceXAIは12月に全面稼働する見込みで、Broadcomの追加分は2027年からになる。NscaleとLambdaは、引き渡しに応じて課金される。6月末の未開始リースが約3,214億ドルあることも考えると、4〜6月期の8%は、契約済み計算資源のうち大型の追加分がまだ費用になっていない時点の数字だとみる。

2027年1〜3月期決算で営業利益率8%を保てば、この見立ては外れる

反対の見方にも、S-1自身の記述が根拠を与える。同社は、顧客の需要が使える計算資源を上回る環境で事業を続けてきたと書いており、追加の計算資源はそのまま売上に変わりうる。利益率の圧縮についても、事業の基礎的な経済性が改善を続けていても利益率は期ごとに変動しうる、という書き方だ。2026年1〜9月の営業利益率と調整後営業利益率は前年同期より大きく拡大したとも記している(7〜9月期単独の金額は空欄のままだ)。

S-1の四半期表から計算すると、売上に対する計算・インフラ費用の比は、2025年1〜3月期の251%から2026年4〜6月期の48%まで、6四半期を通じて下がり続けている(編集部の計算)。費用が先行して増える局面でも、売上の伸びがそれを上回ってきたのは事実だ。

需要の側の数字も伸びている。直近12か月の売上が10万ドル以上の顧客は11,900超と、1年前の950超から増えた。7〜9月期の売上は前期比約45%増の168億ドルだったと、投資家向け会合の出席者の話として報じられている(S-1には載っていない)。

費用を止める手段は限られるが、資金の余力はある。SpaceXAIとの契約は、2027年1月と3月に終わる初期の解約不能期間の後なら、90日前の通知で解約できる。ただしこれは上限額1,205億ドルの契約で、7件の合計6,370億ドルの約19%(編集部の計算)にとどまる。ほかの契約は、相手方の重大な違反など限られた場合を除いて解約できない。上半期の営業キャッシュフローは39億ドルのプラスで、6月30日時点で現金・現金同等物1,124億ドルと短期投資193億ドルを持つ。

反対論の要点は、費用が増えても売上がそれ以上に増えうること、そしてSpaceXAI分は解約で費用を止められることの二つだ。見立てはどちらも否定しない。言えるのは、8%が大型の計算資源の費用化を迎える前の数字であり、費用化が進む2027年1〜3月期に保てる保証はない、ということだ。

見立ての成否は、SpaceXAIの全面稼働後を含む2027年1〜3月期の決算で確かめられる。計算・インフラ費用が四半期90億ドルを超えても、GAAP営業利益率が8%以上なら、見立ては外れる。90億ドルは、SpaceXAI分の約93億ドルをやや下回る水準として編集部が設けた目安だ。

先行指標は、全面稼働予定の12月を含む2026年通期の決算になる。2027年1〜3月期の決算発表は、180日ロックアップの最終解除の基準にもなっている。解除は発表の2取引日後か、目論見書の日付から180日後の早い方だ。

S-1自身が示す道筋は、需要が供給を上回る状態が続き、稼働した計算資源がそのまま売上に変わることである。その条件が続けば、契約済み計算資源の費用は売上の伸びで吸収され、4〜6月期の8%は費用化の後も続く数字になる。